軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

君に決めた!

いつだってスパダリな台所にそっと手を合わせる。

そして、サービススプーンを鍋の中へ入れた。

熾火で温められたオイルがふつふつと静かに音を鳴らす。

そのオイルごと、きのこを掬って、食パンの上に載せれば、オイルが染み込んでいった。

「わぁ……そうやってオイルを載せると、パンの切れ目に染み込むんだね」

「うん。きのこの風味がでたオイルだから、とってもおいしいんだよ」

すごい! と声を上げるレリィ君に言葉をかけながら、たっぷりときのこを載せる。

すると、ギャブッシュは待ち切れなかったようで、たき火の向こうからこちらへと移動してきた。

「ギャブッシュ、いっぱい飛んでくれてありがとう。荷物も持っていてすごく重かったよね。そんな中でも私にも気を遣ってくれたから、あまり酔わなかったよ」

「シャー」

「食べてみて」

一番がんばってくれたギャブッシュに。

きのこのたっぷりと載った食パンを差し出せば、ギャブッシュは長い舌を出して、ぺろんと一口で食べた。

そして――

「ンガーァアー!」

ギャブッシュは『おーいしーい!』と声を上げて、うれしそうに金色の目を細める。

その姿がかわいくて、よしよしとすべすべの鱗を撫でた。

「シーナさん! 僕も食べていい?」

「もちろん。だいたい一口分のところに、オイルごときのこを載せてみて」

「うん!」

そんなギャブッシュの姿を見て、レリィ君も早く食べたくなったようだ。

丸太に座り直してから、レリィ君に、はいとサービススプーンを渡した。

レリィ君の食パンはスラスターさんと半分こにしている。

レリィ君はその食パンの二ブロック分に、慎重にきのこを載せた。

そうしてオイルの染み込んだパンを口にいれ――

「とってもおいしい……!」

若葉色の目はきらきらして。

本当においしそうなその声音に私もうれしくなる。

そして、レリィ君はしっかり咀嚼したあと、「不思議……」と目を丸くした。

「僕、きのこってそんなに好きじゃなかったんだ。噛むとむぎゅって変な感じがするし、匂いもそんなに好きじゃなくて……。でも、シーナさんが作ってくれたこれはきのこの味はするのに、嫌な感じがしない」

「きっと、スラスターさんが採ってきてくれたからじゃないかな?」

なんせスキル『嗅覚◎』。

いい状態のものを選んでくれたんだと思う。

「あと、にんにくでレリィ君の苦手な匂いが軽減されてるのかも。食感がいいのは、雫ちゃんのおかげだね。雫ちゃんが火を入れてくれたんだけど、それがちょうどよかったんだと思う」

「そんな……私は椎奈さんに言われた通りにやってるだけで……」

雫ちゃんが首を横に振る。

レリィ君はそんな雫ちゃんに「わかる!」と頷いた。

「僕もこの前シーナさんと一緒に料理を作ったんだけど、言われた通りにやっただけなのに、とってもおいしいのができたんだ。椎奈さんってすごいよね!」

「うん。椎奈さんはすごい」

レリィ君の言葉に雫ちゃんがうれしそうに微笑む。

ああ……私の左右がかわいい……右腕と左腕、どっちもかわいい……。

「それにエルジャさんやヴォルさんが言ってたように、パンもとってもおいしい! カリッとしてもちっとしてる!」

「良かった。レリィ君も食パンを好きになってくれて」

「僕、食パン大好き!」

レリィ君の言葉に、私も笑顔になってしまう。

アヒージョにはバゲットが合うとは思うけれど、みんなが食パンを好きになってくれたなら、本当にうれしい。

「シーナ! 俺も早く食べたい」

レリィ君の様子ににこにこしていると、ゼズグラッドさんが焦れたように声を上げる。

ゼズグラッドさんはたき火まで近づいてくると、ギャブッシュと半分こにした食パンを私に渡した。

「ギャブッシュのやつみたいに、きのこを載せてくれ」

「パン全体に載せろってことですか? 一口ずつじゃないとオイルが染み込みすぎてしまうかもしれません」

「これぐらいのパンなら二口で食えるから、大丈夫だ」

「なるほど」

ゼズグラッドさんの言葉にそれもそうか、と頷く。

なので、受け取ったパンにたっぷりのきのこを載せ、ゼズグラッドさんに返した。

ゼズグラッドさんは大きな口を開けて、がぶりとパンをかじり――

「うまい! さすがだなシーナ!」

ゼズグラッドさんが金色の目を細めてニカッと笑う。

勢いよくガツガツと食べてくれるゼズグラッドさんは、言葉通りに二口でぺろりと平らげた。

「言ってた通り、パンがうまいな! こっちのきのこもピリッとしててうまい!」

「あ、そういえば……」

きのこのアヒージョに唐辛子を入れていたんだった。

そんなに辛くはないはずだし、大人なら大丈夫だとは思う。

でも、レリィ君は大丈夫だったかな?

「レリィ君、ちょっと辛かったかもしれないけど、大丈夫だった?」

特務隊のメンバーの中で最年少のレリィ君。

そんなレリィ君を気遣っての言葉だったんだけど、レリィ君はぎゅっと右腕に抱き付いて――

「シーナさん。僕は前は辛いのが苦手だったんだ。でも、シーナさんの出会ってからの日々で辛いのも平気になったんだ。それは――」

あ、あ、いけない……。

美少年がうっとりとした目に……。

心の……心のやわらかいところが…あ、あ……。

「シーナさんに大人にされちゃった」

語弊。

「そっか……」

成長したんだよね……。

「アッシュさん。アッシュさんはどうですか……食べますか……?」

すりおろされた心のやわらかいところ。

それを守るために、右腕から意識を逸らし、正面に座るアッシュさんを見つめる。

私の言葉に興味深げに食パンと鍋の中を見ていたアッシュさんが、ちょっと考えるような仕草をした。

そして、持っていたパンをほら! と私に差し出す。

「そうだな……! 私も早く食べてみたい。お前が載せてくれるのか?」

「はい。アッシュさんがいやじゃなければ」

「いやなわけがない!」

なぜか頬を赤くするアッシュさん。

どうやらギャブッシュやゼズグラッドさんにしたように、私がパンにきのこを載せていいらしい。

「一口分でいいですか?」

「あ、ああ!!」

アッシュさんの差し出した食パン。

それを受け取ろうと手を伸ばす。

けれど、パンは私の手に渡る前に、スッと抜き取られて――

「シーナ様の手を煩わせることはありません。私が載せましょう」

「な!?」

「一口分だな」

ハストさんはそう言うと、私からサービススプーンを受け取り、アッシュさんの食パンに載せた。

私がレリィ君に説明した通り、きのこをオイルごとすくって、食パン二ブロック分にきっちり載せている。

うん。食べやすそうだし、おいしそう。

さすがハストさん。

言うことなし!

「できたぞ」

ハストさんができあがったものをアッシュさんに渡す。

アッシュさんは呆然としながらも、きのこの載ったパンを受け取った。

手の空いたハストさんは自分のパンにもきのこを載せていく。

そして、サービススプーンを私へと返した。

「シーナ様、そしてミズナミ様も」

「はい」

水色の目が私を優しくみつめる。

すると、アッシュさんはうぐぐ、と呻いて「そうだな」と呟いた。

「私たちのを載せていては、イサライ・シーナは食べることができない。私たちは自分で載せるから、お前も食べろ」

「はい。一緒に食べましょう」

ハストさんの優しさと。

わかりにくいけれどこちらを考えてくれるアッシュさんの心遣いがうれしい。

「ボクも自分で載せるヨ!」

王太子様であるエルジャさんもそう言うと、自分でパンの上にきのこを載せる。

レリィ君も新しく一口分のきのこを載せて、私と雫ちゃんも同じく。

そうして、みんなでパンを口に入れれば――

「……うまい」

「おいしい……」

「イサライ・シーナ! このパンもきのこもすごいな!」

「これもうまいじゃないカ!」

――みんなのおいしいのしるし。

ハストさんも雫ちゃんもアッシュさんもエルジャさんも。

みんなの目がきらきらしている。

「にんにくの香りとピリッとした辛さがとてもおいしい。きのこの香りも活かされていて、これならパンが何枚でも食べられそうです」

ハストさんはおいしさの秘密を探るように、ゆっくりと咀嚼して味わって。

「ははは! やはりイサライ・シーナは料理が上手いな! パンが一枚しかないのがもったいない!」

アッシュさんは高笑いしながら喜んでくれている。

「スラスターがきのこを採ればもっと作れるなら、パンがもっとあってもいいネ」

「そうだな。俺とギャブッシュで半分にしたが、一枚でも全然余裕だったな」

「僕も兄さんと半分こせず、一人で食べればよかった!」

みんなのパンが足りないコール。

「夕食に響くかと思ってたんですが、みなさんが喜んでくれるなら、もうちょっと食パンがあっても良かったですね」

台所で雫ちゃんが言っていた通りだった。

男性はよく食べるんだなぁと感心していると、雫ちゃんが私を見上げた。

「あの、私は……椎奈さんと半分こできたので、これで良かったです」

はにかむ雫ちゃん。

……かわいい。

ぽわっと胸があたたかくなって、雫ちゃんに「そうだね」と耳打ちする。

なぜかゼズグラッドさんが胸を押さえているけれど、それは見なかったことにして。

レリィ君と半分こしたパンに頬ずりをしながら、「レリィが私のきのこを食べて……」とハァハァとするスラスターさんも見なかった事にして。

「もう一口!」

私は残った食パンにもう一度ときのこを載せた。

切れ目を入れた食パンに染み込むオイルを見れば、それだけでごくりと喉が鳴った。

「いただきます」

ぱくっと口に入れて、パンを噛みちぎれば、まずはサクッとした食感。

そこにきのこの風味と絶妙な塩気、そしてオイルの染み込んだパンの中はしっとりと柔らかく、小麦の風味もして――

「おいしい!」

幸せ……! 森の幸せがここに……!

「雫ちゃん、おいしいね!」

「はい!」

気づけば、半分こにしたパンはすぐになくなってしまった。

丸ごと一枚だったみんなもすぐに食べ終わる。

すると、私以外のみんなの体がきらきらと輝いて――

「……なるほど、これが『食べるとつよくなる』と『食べると元気になる』だネ」

……改めて王太子様であるエルジャさんにそう言われると、意味不明度が高い。が、そういうことですね。

みんなが食べ終わると、パンかごもサービススプーンも消え、王宮から持ってきた鍋だけがたき火の上に残っていた。

「うん。今のボクならこの国だけじゃなく、世界を治められる気がするヨ」

エルジャさんは紫の目が真剣な色をしている。

でも、それはすぐにまたいつも通りの色っぽい目に変わり――

「シーナ君、ボクは感動しているんダ」

「はぁ」

「ああ。君はまず、ボクの身を案じ、衣服を整えてくれたダロ?」

「ふむ」

露出が多くて目に毒なので、毛皮を巻いただけですね。

「そして、こんなにおいしい料理を作ってくれた。――ボクは決めたヨ!」

布からこぼれた金色の巻き毛がきらきらと輝き、紫色の目が色っぽく輝く。

エルジャさんは私の手をぎゅっと握って、パチンとウィンクをした。

「シーナ君をボクの乳母にするヨ!」

「うば」

それ一回聞いたやつ。

でも、今度はたとえじゃない。

乳母「みたい」じゃない。

本格的な乳母。

乳母スカウト。

おいしい食パンときのこのアヒージョの味もどこかへ飛んでいった……。

「うーん、ちょっと厳しいですね……」

おことわり します