作品タイトル不明
118.穏やかの日々。
オアジュ魔神が管理している畑は、少し見ないうちに拡大していた。
農業隊が手伝いに来ている事は知っていたけど、いつの間に大きくしたんだろう?
あっ、孫アリ達と孫蜘蛛達。
それに子アリ達に子蜘蛛達までいる。
「おはよう」
手を振ると、一斉に前脚で反応してくれる。
良い子達だ。
昨日、フィオ神に話があると伝えたら、アイオン神も一緒に来た。
彼女がいても特に問題が無いので、呪いが詰まった黒い塊について話をした。
黒い塊について神達は、まだ何も情報を掴んでいなかったので、かなり驚かれた。
まぁ、持っている神達がそれなりの地位にいるので、探るのは大変だろうな。
ロープは流石だ。
話が逸れたが、黒い塊を持っている神達の名前を教えると2柱とも顔が引きつっていた。
そして持っている神達のうち2柱は処分方法に困り、1柱は迷い中。
2柱は使い方を検討中と知らせると、フィオ神の額に青筋が浮かんだ。
なぜなら2柱のうち1柱が、フィオ神と仲の良い神だった。
すぐにその神の元に行こうとしたが今は静観するように言い、処分に迷っている2柱から対応するようにお願いした。
すぐに動くように創造神に提案すると言っていたので、今日か明日には何か報告が来るだろう。
あと黒い塊も届くはずだ。
「悪い。待たせた」
「良いよ。おはよう」
オアジュ魔神が慌てた様子で駆けてきたので、落ち着くように肩を軽く叩く。
「おはよう。洞窟に魔珠宝を取りに行っていたんだ。この頃、出来る量が増えたんだけど今日は特に多くてビックリしたよ」
魔神達や魔族達がパートナー達と共に過ごすために必要な魔珠宝。
魔界が落ち着いたので、そろそろ魔界でも魔珠宝が出来ると思った。
でも、いまだに魔珠宝は出来ず。
オウ魔神達が調査すると、洞窟に濃度の濃い魔神力は確認できたらしい。
それなのに、なぜか出来ない。
原因究明に、今も調査は継続されているそうだ。
「全て任せてしまって悪いな」
洞窟の管理や、魔神力の補給を全てオアジュ魔神に任せたんだよな。
俺がする事は、魔石に魔神力を溜めて農業隊に託すだけ。
うん、ほぼ丸投げだな。
「楽しんでやっているので大丈夫だ」
「そうか?」
俺の言葉に頷くオアジュ魔神。
それなら、良かった。
チラッと畑を見る。
白髪の…… 作務衣(さむえ) を着た男性が気になる。
どう見ても、元魔界王のボルチャスリ魔神だ。
かなり弱っていたが、ここでの生活で少しずつ体力は付いたと聞いた。
でも年齢から来る関節の痛みは、何度ヒールを掛けても完全には無くならなかった。
でも、見た感じは元気そうだ。
「んっ? あぁ、ボル魔神ですか?」
「うん。あんなに動けるようになったんだな」
「農業隊が毎日ヒールを掛けて、痛みを軽減してくれているからですよ」
オアジュ魔神の言葉に、農業隊を見る。
そうか、ボルについてもフォローしてくれていたのか。
農業隊には、しっかりとお礼を言わないとな。
「ただ、やはり……」
何か見つかったのか?
「病気か?」
「病気ではないんだが、その、年齢が年齢だから少しずつ内臓が弱っていくだろうって。今のところは生活に支障は無いけど、急に悪化する事もあるそうだから気を付けるように言われたよ」
魔界から、魔神の体に詳しい者が来て様子を見てくれているんだったな。
一つ目達も、その様子を見学していると聞いている。
「そうか。ボルは知っているのか?」
今は元気に見えるけど、先は分からないという事か。
「あぁ、知っている。でもボルは、不安があるけどここでの生活は楽しいと言っているよ」
「それは良かった。俺達が出来る事は、見守るだけだな」
「うん。もっと何かできればいいけど。何も無いんだよな」
魔界王として大変だったから、出来るだけ穏やかに。
魔界にいる魔神達の望みでもある。
でも、俺達が出来る事は少ない。
「あっ、気付いたみたいだな」
こちらにゆっくり歩いてくるボルに手を上げる。
「おはよう。楽しそうだな」
「あぁ、こんなに穏やかな日々は、初めてだ」
「それは良かった」
ボルがそう思ってくれているなら、今を守る事が重要だな。
「翔」
「どうした?」
少し思案する様子のボル。
一度頷くと、まっすぐに俺を見た。
「少し話がしたいんだが、時間は大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
畑仕事を手伝いに来たのに、農業隊に止められたからな。
ここでも俺は、畑に入る事は出来ないらしい。
しっかり力を制御できるようになったのに!
「そろそろ昼だから、お昼を食べながらでどうだ?」
そういえば、お昼か。
ボルを見ると、それでいいのか頷いた。
「俺もそれで問題ない」
「分かった。ウッドデッキで食おう」
オアジュ魔神の案内で、彼の家のウッドデッキにお邪魔した。
「座って待っていてくれ。すぐにお昼を持って来るよ」
オアジュ魔神が家の中に入ると、ウッドデッキにある椅子に座る。
ボルは俺の正面に座ると、畑に視線を向けた。
「ここで過ごしていると、昔を思い出した」
昔?
「俺は、周りの魔神達よりはるかに力があった。だからいつか魔界の王になり、魔界を良くしたいと思っていたんだ」
「そうか」
ボルは、凄いよな。
若い頃からの夢を叶えて、魔神や魔族達を守って来たんだから。
「俺は、大人になり魔界王になるために、前魔界王に戦いを挑んだ。そして勝ち、その地位を手に入れた」
魔界はそうやって魔界王を決めてきたのか。
血生臭い気がするけど、強い事が重要な魔界では一番分かりやすい決め方なのだろう。
「魔界王になり、色々と挑戦を始めた事を覚えている」
んっ?
なんだかボルの表情が、懐かしむというより苦しんでいる様に見える。
思い出したくない事だったのか?
「いつの間にか、忘れていたんだ」
「えっ? 何を?」
「魔界王になった時の気持ちを」
それは、長くその地位にいたからなのでは?
「なぜ、魔界の王になりたかったのか。忘れるはずが無いのに」
ボルの言葉に首を傾げる。
忘れるはずが無いというのはおかしいよな。
長く生きれば、色々と変わっていくのが当たり前だ。
初心が大事な時もあれば、変わっていく中で変化をする事が重要な時もある。
「忘れる事もあるだろう?」
「魔界は昔のまま、何も変わっていないのに?」
それは、変える事が出来ない辛さから……忘れたとか?
ん~ボルなら逃げないような気がするな。
「ここで過ごすうちに、声を思い出した」
「声?」
「あぁ、魔界王になってから、聞こえたんだ。俺にしか聞こえていない声。周りに聞いても、誰も聞いていなかった」
魔界王にしか聞こえない声。
夢が叶ったわけでもないのに、忘れてしまったボル。
「その声は、魔界の変化を望んでいなかった。いつしかその声を、周りの魔神達や魔族達の声だと思うようになってしまったんだ」
「……洗脳?」
自分で言ったけど、魔界王を洗脳なんて出来るのか?
「いや、状態異常があれば気付く」
そうだよな。
自分の身に何かあれば、絶対に分かる。
「声か」
この世界を壊さないようにしている者の声か?
それだとおかしいか。
魔界を良くしようとしているのを止めるなんて。
「頼みがあるんだ。オウ魔界王に異変が無いか調べてくれないか?」
「分かった。心配なんだな」
「あぁ、俺のように歪んでほしくないからな」
魔界王から離れても、やはり魔界を守る者なんだな。
夜にでも連絡を取ってみようかな。