作品タイトル不明
96.変わっていく。
―魔界王 オウ視点―
呪界王からある提案がされた。
それは、創造神を含めた王達で話し合いをする機会を持とうというものだった。
「神国か」
正直、俺にとって神国はどうでもいい。
神国から魔界に来たのはかなり昔。
今更、あの世界に思いなど無い。
だが魔界に住む者達にとって、神国は無視できないだろう。
それが憎しみなのか今もまだ帰りたい世界なのか、俺には分からないが。
「しかし、また神と関わる事になるとは」
断る事も出来るだろう。
でも、呪界王からの提案だから、何かあるのかもしれない。
ただ会う事になったとして、魔神達や魔族達はどう感じるだろうか?
「どうしたんだ?」
ゴルア魔神が執務室に入ってくると、書類を机に置いた。
それを見てため息を吐く。
「それは?」
「神国から落ちてきた神族達の、健康状態の報告書だ」
「呪界王の力で徐々に回復していると言っていたが、問題でも起きたのか?」
「いや、大丈夫だ。ただ、神族にも力の差があるようで、少しずつ回復に差が出始めたみたいだ」
力の差で回復に差が出ているという事か。
呪界王が魔界に来てくれると、おそらくその問題も解決出来るのだろうけど来られないからな。
「かなり差が出ているのか?」
「あと少しで神国に帰れる者と、あと数週間は掛かるぐらいの差があるな」
まぁ、それぐらいなら問題ないだろう。
「回復した者は、すぐに神国に帰りたいと言っているのか?」
それなら手配をしておかないとな。
「いや、全く」
全く?
えっ、帰りたいと言っていないのか?
「今回落ちてきた神族は、神に仕えている者達らしい」
「あぁ」
それがどうしたんだ?
「仕えている神に思うところがあるらしく、思いっきり困ればいいと滞在の継続を希望している」
「……はぁ。神は昔から変わっていないようだな」
「そうだなぁ。アイオン神のように真面目な考えを持つ者もいるけどな」
「彼女も呪界王と関わる事で変わったそうだ。前に彼女に仕えているナツリという者に聞いた」
「そうなのか。知らなかった」
ゴルア魔神を見る。
魔神達も呪界王と関わって変わったよな。
「どうした?」
「いや。魔界も随分と変わったと思ってな」
執務室の窓から外を見る。
俺の住処である城から見える場所に、家が建ち始めた。
日々増える建物に、なんとも不思議な思いが湧く。
「これが俺の守って行く世界か」
以前の魔界を見ても「守りたい」とは思わなかったのに、今の魔界は「守ろう」と思える。
なんとも不思議な気持ちだ。
「オウ魔界王。それは?」
んっ?
ゴルア魔神の視線の先には、サブリーダーが持って来た書類があった。
その書類には、神国の創造神の現状について書いてあるそうだ。
「呪界王から届いた物だ」
俺の態度に首を傾げるゴルア魔神。
「何か問題でもあったのか?」
「……創造神と会うかもしれない」
「そうなんだ」
あれ?
思っていたのと違う反応だ。
「それだけか?」
「えぇ。なんと言うか……神国の事はもうどうでもいいと言うか」
「どうでもいい?」
まさか、そんな風に思っているとは思わなかったな。
「確かに憎んでいたんだが、今は魔界もそう悪くないなと思っていて。あぁ、そうか。忙しくて、憎んでいる暇がないんだな。たぶん、今が充実しているんだろう。後から後からやる事が増えて行くからな」
確かに、なぜか日々仕事が増えるよな。
魔界王になって少しすれば落ち着くと思ったのに、魔族の戸籍を作るとか、家の配置とか、魔界の未来のイメージまで考えさせられたっけ。
「確かに暇が無いな」
「うん。でも、楽しいな。昔は、意味もなく苛立っていたのに、今では魔神同士で気軽に話が出来るようにもなった」
そう言えば、魔神達が集まる事も無かったな。
集まったら、最悪殺し合いだったから。
「変わったな」
「本当に」
俺の言葉に、頷くゴルア魔神。
「そうだ。サブリーダーが埋めた種なんだけど」
「あぁ、あれか」
ゴルア魔神と2人で、公園にする予定地で育っている木を見る。
「植えてから何日目だっけ?」
「2週間だな」
そうか、2週間か。
「おかしいよな?」
「うん、2週間で種から2mの木に成長するのは異常だな」
ゴルア魔神の言葉に頷く。
2週間前、サブリーダーから魔界で見つかった種を公園予定地の中央に埋めたと聞いた。
発芽するのか、発芽しても育つかは不明だと言われた。
俺としては、魔界の殺風景な風景が少しでも変わるならと期待した。
そして埋めた2日後発芽した。
あの時は、誰もが喜んだものだ。
でも、発芽したあとの異常な成長速度に俺達は慄いた。
あのサブリーダーさえ慌てて、仲間を連れてあの木を調べたほどだ。
でも、今のところ分かった事はあれが「魔力で育つ木」という事だけ。
それ以外は普通の木と同じ結果を出したらしい。
魔界の力で育っている辺り普通の木ではないと思うが、サブリーダー達は問題なしと判断した。
なので、俺達は様子を見る事にしたけど、本当に大丈夫なのかちょっと不安だったりする。
「魔族達は、かなり喜んでいるよ。呪界に行った者達が見た森が出来るかもと期待しているそうだ」
「そうか。その期待に応えられたらいいが。まだ、1本だからな」
「種が出来るといいが。それで、その書類は読まないのか?」
あっ、忘れてた。
呪界王から届いた物を放置する事は出来ないよな。
「興味があるのか?」
「はい」
ゴルア魔神が興味津々という表情で書類を見ている。
これは、読まないと駄目そうだな。
書類をざっと確認する。
創造神の華々しい生活でも書かれているのかと思ったけど、予想外だ。
「創造神は、どの王より孤独だな」
「孤独?」
ゴルア魔神が不思議そうに書類を見る。
「あぁ。創造神は、他の神達とは完全に別格として扱われるため、創造神だけの建物があり、意見を求める時や指示を仰ぐ時以外は、誰も近付かないそうだ。傍にいるのは、周りの事をする者と護衛だけ。彼等も一定以上は、創造神に近付かないように言われていて、気軽に挨拶も出来ないそうだ」
呪界王の言い方だと「軟禁」と書かれているな。
相談できる者がいないのはつらいな。
今回の創造神に至っては、相談出来る者に問題があった、か。
傍にいるゴルア魔神を見る。
俺が行き詰まったりすると、相談に乗ってくれるし他の魔神達も意見を言ってくれる。
正直、彼等がいなかったらこの地位は耐えられないだろう。
自分だけなんて、気が狂うな。
「ゴルア魔神達の存在に感謝だな」
「オウ魔界王?」
「創造神には、信頼出来る仲間も友人もいないみたいだ」
持っていた書類をゴルア魔神に渡す。
ゴルア魔神は、書類を読むと眉間に皺を寄せた。
俺の中では創造神という者は完璧というイメージがあった。
まさかこんな孤独に追い詰められていたなんて。
「会ってみてはどうだ? 魔界にとってプラスになると思う」
ゴルア魔神の言葉に、少し考えて頷く。
「分かった。でも他の魔神達にも一応、相談してみるよ」
「そうだな。やはり今も、複雑な気持ちを抱えている者もいるだろうからな」
「あぁ」
「でも、この最後に書かれた呪界王の言葉が気になるな。思い当たる事はあるのか?」
ゴルア魔神の言葉に首を横に振る。
書類の最後に書かれていた、呪界王の言葉。
「このままでは魔界も呪界もいずれ滅ぶ。そのための話し合いが必要だ」と書かれているが、どうして滅ぶのか分からない。
魔界も呪界も上手く回っていると思うんだが。
「会えば、分かるか」