作品タイトル不明
69.敵対する魔神たち4。
―ドルハ魔神視点―
ギュア魔神に会った瞬間、彼の魔神力が荒れ狂っている事に唖然としてしまった。
まさか、ここまで怒りに囚われているとは考えていなかった。
これでは、周りの声など届かないだろう。
「久しぶりだな」
ギュア魔神の言葉に、意識てきに笑みを向ける。
「そうだな」
マギファ魔神にも軽く声を掛けてから、ギュア魔神の前に座る。
困ったな。
今のギュア魔神に、俺の気持ちはきっと届かない。
「あの結界を壊すために、手を組みたい」
直球だな。
まぁ、元々ギュア魔神はこういう性格だったな。
「無理だろう」
届かないとしても、言うしかない。
「なんだと!」
目を吊り上げるギュア魔神を見ながら、肩を竦める。
そんな態度の俺に、ギュア魔神が魔神力をぶつけて来る。
手を組もうと言っている相手に、力をぶつけるのはどうなんだろうな?
「あの結界を壊すのは、無理だと言ったんだ」
ギュア魔神に会うまでに、色々と考えた。
正直、あの結界の威力を間近で見て思ったのは、敗北だった。
認めたくはなかったが、傍で感じれば感じるほど、あの結界を張った者の凄さに 慄(おのの) いた。
そして凄さを認めてしまえば、決して俺ではその存在に勝つ事が出来ないという事実だけが残った。
まぁ、それを認めるまでに少し時間が必要だったけどな。
不思議な事に、事実を認めてしまうと今まで見えてこなかった現実が見えてきた。
魔神力には、負の感情を煽る力がある。
それこそ、小さな怒りがなぜか許せないほどの怒りに変わったり、周りにいる全てに対して不信感を覚えたりするのも、魔神力が影響している。
魔神達は、魔神力が持つ力に抵抗する力を持っている。
というか、抵抗する力が無ければ、暴走して他の魔神に殺される。
魔神が生き残るためには、魔神力を制御する事が大切なのだ。
俺は、ずっと出来ていると思っていた。
でも、どうやらその考えは間違っていたようだ。
おそらく、かなり影響を受けていた。
その事を理由に、今までしてきた事から逃げる気はないが。
「それをどうにかするために手を組もうと言っているんだ!」
ギュア魔神の言葉に首を横に振る。
「あの結界を間近で感じたら、その力の凄さに恐怖で震えたよ」
「えっ?」
俺の言葉に信じられないという表情をするギュア魔神。
今までの俺からは、絶対に出ない言葉だろうな。
「協力するつもりだったんだが、ここ数日で気持ちが変わってしまった。悪いな。ギュア魔神も結界を見てくるといい。そうすれば――」
「煩い! そんな言葉を聞きたいわけではない! いつから腑抜けになった!」
腑抜けか。
目の前に、自分よりはるかに強い力にあたったら、そうなるよな。
「生まれたての魔神が 百戦錬磨(ひゃくせんれんま) の魔神を目の前にすれば、誰だって腑抜けるさ」
そうだ、あの結界の前では、俺がまるで無抵抗な赤子みたいだ。
それに昨日も結界を見に行ったが、どんどん威力が増している。
あり得ない事だが、あの結界を張った存在は現在もその強さを増している。
「魔界の新たな――」
ガッシャーン。
俺の隣を何かが通り過ぎると、後ろの壁にぶつかり粉々になった音が部屋に響いた。
振り返ると、キラキラ光る物が床に散っていた。
視線を、椅子から立ち上がり睨みつけてくるギュア魔神に戻す。
「結界を張った存在には完敗だろうが、ギュア魔神には負けないと思うが」
俺とギュア魔神の力に差が少なかったために、魔界王の座をめぐる争いが起きた。
俺達の間に歴然とした力の差があったら、もっと早くこの問題は解決していただろう。
そうすれば、結界を張った存在が表に出てくる事は無かったかもしれないな。
ガタガタ、ガタガタ。
俺とギュア魔神の力が、部屋の中でぶつかり合う。
力と力が衝突しているせいで、空気中に小さな火柱がいくつも出来る。
バチバチ、バチバチ。
「「ぐっ」」
部屋の中にいた俺の護衛であるピーリー魔神と、ギュア魔神の護衛であるマギファ魔神が苦しそうに声を洩らした。
チラリと2人を見る。
どちらもかなり顔色が悪いし、息が上がっている。
このままでは、最悪な事になる可能性があるな。
「マギファ魔神が苦しんでいるぞ」
俺の言葉を無視して、魔神力の放出を上げるギュア魔神。
それに、小さくため息を吐く。
もう、ギュア魔神は駄目だな。
勢いよく椅子から立ち上がると、ピーリー魔神の手首を掴んで部屋から急いで出る。
「逃げるのか!」
扉を開けて、先にピーリー魔神を出すとギュア魔神に視線を向ける。
「協力すると言ったのに、急に態度を変えて悪かった。ギュア魔神も、今の自分が置かれている現状に気付けることを祈っているよ。手遅れになる前に、おっと」
ギュア魔神が、拳ほどの大きさにした魔神力を飛ばして来る。
それを力で抑え込むと、部屋を出て扉を閉めた。
「残念だよ」
ギュア魔神とは、50年ほど俺の方が先に産まれたが、年が近かったので幼い時は仲が良かった。
それがいつしか今のような関係になってしまった。
まぁ、過去の話だ。
「大丈夫か?」
「はい。すみません」
ピーリー魔神の顔色は、少しマシになっているみたいだな。
ここから離れてしまえば、大丈夫そうだ。
んっ?
ギュア魔神が結界の方へ移動しているみたいだけど……怒り狂っているな。
魔神力がかなり大きく揺れている。
そのまま攻撃でも、しそうだな。
「ドルハ魔神、急に変わりましたね」
「んっ?」
ピーリー魔神が不思議そうに俺を見ているので、笑ってしまう。
それは俺自身も思っている事だ。
「そうだな」
「なぜですか?」
「ん~、心にあった不愉快な物が消えたような気がするんだ。そうだ、俺の傍から離れたかったら、離れていいぞ。もう、神国を打倒しようとも思わないからな」
あれほど神国に対して抱いていた、不快感がなくなった。
それより、どうしてあれほど憎く思っていたのか疑問だ。
そういえば昔の俺は、魔神や魔族から神国に対する不満をよく聞いていたな。
どうしてあんな事をしていたんだっけ?
……昔過ぎて思い出せない。
まぁ、どうでもいいか。
「これからも俺は、ドルハ魔神の護衛です。残っている者達は同じ気持ちです」
ピーリー魔神だけではないのか。
「そうなんだ。あっ、もう魔界王になろうとは、思っていないぞ?」
「そんな事はどうでもいいです」
彼にとって、魔界王という地位はどうでもいいのか?
それはつまり、俺自身を見て護衛をしてくれているという事か?
「……そうか。ありがとう」
「えっ!」
おい、そこまで驚く事も……いや、驚く事だな。
「「あっ」」
結界の傍で、巨大な力が解放されたみたいだ。
もしかして結界を張った者が、あそこにいるのか?
「んっ? オウ魔神か?」
巨大な力の傍に、知っている力がある。
これは、オウ魔神の力だと思うが……前に見た時より、はるかに強くなっている。
「あっ。ギュア魔神とマギファ魔神が……」
魔界の空に白い光が広がり、消えた。
「「……」」
マギファ魔神は、最後までギュア魔神と共にいたのだな。
今日見た彼は、覚悟をした者の目をしていた。
きっとこうなる事を予想していたんだろう。
俺はこれからどうするべきか。
「……降参だと、言いに行くか」
「………………えぇ?!」
今までより驚くピーリー魔神に視線を向ける。
「あっ、失礼しました」
ははっ。
まぁ、これからの事は他の魔神達も交えて話し合うか。
まだまだ、時間はあるからな。
―オウ魔神視点―
朝から、何か不穏な気配を感じる。
最近は、ギュア魔神もドルハ魔神も大人しいが、何かしてくる気か?
「あれは……ゴーレム達だな」
結界の傍に、サブリーダーとあと2体。
たぶん……シックスティーンと……セブンティーンか? ナインティーンか?
どっちだ?
同じだから見分けがつかないんだよな。
何かをしている3体に近付く。
「何を……それは何だ?」
サブリーダーの前にある物を見て、顔が引きつる。
「道具です」
「それは見ればわかる。何をする道具だ?」
「攻撃するための道具ですね」
やっぱり。
「そうか。それを何に使うつもりだ?」
凄く嫌な予感がする。
不穏な気配は、サブリーダー達の行動を察知していたのか?
「今からこちらに来る敵に実験……攻撃をしてくる可能性がある為、試し打ち……ではなく防ぐために使用する予定です」
実験に試し打ちか。
それにしても、今からギュア魔神かドルハ魔神の仲間が来るんだな。
「その道具の使用は却下だからな」
「「えぇ~」」
道具を準備していた2体のゴーレムが不満そうに声を上げる。
でも、駄目。
「却下」
結界の反撃だけで十分だから、余計な攻撃はしない方がいい。
その道具の攻撃を見て、魔族達が呪いの世界を怖がってしまうかもしれない。
「どうしても?」
「あぁ。絶対だ」
「しかたないですね。オウ魔神が言うのなら従いましょう」
サブリーダーの言葉に、周りから少しざわめきが起こる。
それを不思議に思い周りに視線を向けると、魔族達が様子を見に来ていた。
「ほら、道具を仕舞って」
俺の言葉に、2体のゴーレムは肩を竦めると、すぐに仕舞ってくれた。
それにホッとして、結界の外に視線を向けた。
だから、サブリーダー達が密かに成功と喜んでいた事を知らなかった。
後から気付いた。
周りから見ると、俺が呪いの世界から来たゴーレム達に指示を出しているように見えた事に……。
気を付けていたんだけどな。