作品タイトル不明
59.強いからこそ。
「主。ボルチャスリ魔神殿の体力が少し戻ってきたので、もう一度ヒールを掛けてみていただけませんか?」
リーダーの言葉に頷いて、ボルの傍に移動する。
この世界に来てすぐに、ヒールを掛けてみたが全く効果が出なかったのでちょっと緊張する。
ヒールの効果が出なかった原因は、体力が落ち過ぎていたせいらしい。
それは、オウ魔神に後から聞いた。
「ヒール」
闇の魔力を意識してヒールを掛ける。
何も考えずにヒールを掛けると、光の魔力を使ってしまうので、この洞窟内では注意が必要だ。
ボルの体を淡い光が包み込み、スーッと消えていく。
ボルはそれを不思議そうに見つめると、少し驚いた表情をした。
「効いたようだ。関節に痛みがあったのだが無くなっている。それに、体が少し軽い」
良かった。
だが、他の者に掛けるヒールより掛かりが悪い。
体力がまだ元に戻っていないからだろうか?
「年齢が年齢なので、ヒールでも癒せない状態のところが多いですね」
オウ魔神の言葉にボルが笑う。
「それは当然だ。年齢によるものは、痛みの軽減は出来ても根本を治す事は出来ないようだからな」
そうなのか。
それだと、ヒールで出来る事は痛みの改善だけという事か。
「翔、ありがとう。痛みがなくなると、とても楽だ」
「そうか、良かったよ」
ボルの表情を見ていると、既に全てを受け入れているのが分かる。
それなら俺が言えることはない。
せめて最期まで痛みが無い状態をキープするだけだ。
「ボルチャスリ魔界王」
「俺は既に魔界王ではない。この世界に来た時に、王ではなくなった。分かっているだろう?」
ボルの言葉に悲しそうな表情を見せるゴルア魔神達。
「分かりました。ボルチャスリ魔神はこれからどうするおつもりですか?」
ゴルア魔神の言葉に、ボルが俺を見る。
それに首を傾げる。
「魔界には、俺の力を欲しがっている者達がいる。かなり弱ったが、俺にはそれなりの力を生む核がある。奴らはこれが欲しいのだろう。だが、渡すわけにはいかない」
核を欲しがっている者がいるのか?
「まだ、その方法は見つかっていません」
ゴルア魔神の言葉に、リーダーを見る。
何か知っているだろうか?
「ドルハ魔神は、ボルチャスリ魔神の中から核を取り出す研究をしているのです。今のところ、核を取り出すことは出来ますが、すぐに力を失い消滅します」
そんな研究をしているのか。
というか、その研究では誰かが被害にあっているのでは?
「魔族達が、かなり被害にあっています」
俺の様子から聞きたい事が分かったのか、リーダーが教えてくれる。
「それは、駄目だろう」
魔神は力が強いのだから、弱い者を守る役目があると俺は思う。
なのに、自分のために殺す?
ドルハ魔神ねぇ。
「屑だな。魔族達は魔界を維持するために必要な者達だ。そんな彼らに被害をもたらすなんて。ドルハ魔神は魔界には不要な存在だな」
俺の言葉に、リーダーとサブリーダーが少し驚いた気配を見せた。
それを不思議に感じ、視線を向ける。
「主から、不要だという言葉が出るとは思いませんでした」
……そういえば、そうだな。
でも、神になって思った事がある。
力を持つ者には、それなりの役目があると。
それを理解しない者は、上に立つべきではない。
絶対に。
「翔、魔族達のために怒ってくれてありがとう」
ボルの悲しそうな表情に、ぐっと手を握る。
これまでは彼が、魔族達を守ってきた。
でも今は、自分のせいで魔族達が被害にあっている。
かなりつらいはずだ。
俺に、何ができるだろう?
俺の力が影響を持つのは、呪界だけだ。
魔界では、おそらく無力だ。
あれ?
本当にそうだろうか?
魔界に出入りしているサブリーダーを見る。
彼の周りには、俺の張った結界を感じる。
「それで悪いのだが」
ボルに視線を向けると、彼が頭を下げるような仕草を見せた。
「どうした?」
「最期を、この呪界で迎えさせては貰えないだろうか?」
「いいけど」
「えっ?」
俺の返事に驚いた表情を見せるボル。
えっ、まさか反対すると思ったのか?
「いや、ボルはこの世界の方がゆっくり過ごせるんだろう?」
最期まで命を狙われるなんて、そんなのは駄目だ。
頑張って来たボルなのだから、最期ぐらいはのんびり過ごして欲しい。
「それはそうだが。俺は魔神のトップだった者だ。いいのか?」
魔神のトップだからなんなんだろう?
問題は……無い。
「あぁ、この世界でゆっくり過ごしてくれ。ゴルア魔神達も、この世界に害を及ぼそうとしないかぎり出入りは自由だ」
「「「えっ!」」」
あれ?
なんだか、凄く驚かれたな。
別に、悪い事をしないんだったら、ボルの顔を見に来るぐらい自由にしたらいい。
「なんというか、さすがだな」
ボルの言葉に首を傾げる。
何が「さすが」なんだろう?
ゴルア魔神達もなぜか頷いているし。
そうだ、サブリーダーに確かめないと。
「サブリーダー」
「はい。なんですか?」
「魔界によくお邪魔しているみたいだけど、俺の結界は魔界でも問題ないのか? それとも、魔界に行ったら、サブリーダーが自分で結界を張り直しているのか?」
もし、俺の結界が魔界で通用するなら魔族達を守れる物を作ればいい。
俺が魔界に行って結界を張れればいいが、呪界の王になったのでそれは無理。
ちょっと自由が制限されるからな。
だから道具が必要になる。
というか、セブンティーンとナインティーンが結界を作る道具を作っていた。
あれを利用すれば、全ての魔族は守れないだろうけど守れる者達もいるはずだ。
ただ少し前に見た道具は、まだ調整が必要だと言っていた。
後で確認しないとな。
「主の結界は、魔界でも問題なく俺を守ってくれてます」
サブリーダーの言葉に、笑みが浮かぶ。
「というか、主の結界が魔神如きに破られる訳がありません」
んっ?
「サブリーダー、悪い。声が小さくて聞こえなかった。なんて言ったんだ?」
「主の結界は完璧ですと言いました」
あれっ?
ちょっと違ったような気がしたけど。
……まぁ、いいか。
「ボル。魔族達を守れるかもしれない」
「はっ?」
ボルが唖然とした表情をする。
そのちょっと間の抜けた表情に笑ってしまう。
「だから、俺の結界を使えば魔族達を守る事が出来るかもしれない」
ボルだけでなくゴルア魔神達も唖然と俺を見る。
そんなにおかしな事を言っただろうか?
「守ってくれるのか? いや、なぜ魔族達を守るのだ? 呪界にとってメリットは無いだろう?」
マルアキス魔神が、戸惑った表情で俺を見る。
メリット?
「隣の世界が落ち着いてくれた方が、俺としては安心して生きられる」
魔界にお邪魔している仲間達の安全も気になるからな。
「それは、そうだが。だが……」
「と言っても、本当に守れるのか分からない。喜ばせておいて悪いけど、失敗する可能性もあるから」
俺の言葉に、まだ少し唖然とした魔神達は首を横に振る。
ボルまで同じ反応だな。
呪界の王が魔界の事に首を突っ込むのがそんなに……あっ。
「俺が魔界の事に首を突っ込むのは、問題にならないか?」
ボルとゴルア魔神を見る。
「大丈夫です。その、本当に……いえ。宜しくお願いします」
「分かった。まぁ、セブンティーンとナインティーンが作った道具を利用するから、俺が何かするわけでは無いけどな」
カッコよく言ってみたけど、セブンティーンとナインティーンの道具が頼りなんだよな。
しかも、セブンティーンとナインティーンに許可を取ってないし。
……駄目だ。
まずは、2体に道具を使っていいのか許可を取らないと。
「主。セブンティーンとナインティーンから『主の好きに使って構わない』と返事を頂きました」
えっ?
リーダーを見ると、肩に子蜘蛛の姿があった。
なるほど、孫蜘蛛がセブンティーンとナインティーンのところにお使いに行ったんだな。
さすが、リーダー。
やる事が早い。
「ありがとう」