作品タイトル不明
47.えっ、王?
「魔界王を拾いました」
魔界に行っていたサブリーダーが、戻って来た。
今回は前回より少しだけ早い戻りだ。
何かあったのかと思ったけど、問題はないらしい。
「良かった」と安心したのに、何かおかしな言葉を聞いた気がする。
「えっ?」
聞き間違いだよね!
テーブルに置いてあるお茶を取って、一口飲む。
落ち着こう。
「魔界の王を拾いました」
あっ、ちょっと言い方を変えた。
では無くて。
まぁ、聞き間違えるはずないよな。
この世界に来てから、遠くの声も聞こえるようになったから。
しかも今は、聞こうと思えばここから各国の王様の会話が聞けるようにまでなった。
初めてその事に気付いたのは、エスマルイート王から手紙を貰った時。
手紙を読んで「エスマルイート王は今、何をしているのかな」と思った瞬間、声が聞こえた。
正直ビビった。
でも良く聞くと、その声はエスマルイート王のもの。
部屋の中にいるのかと、周りを見てもいない。
いたのは、俺の行動を不審げに見ていた一つ目達だけ。
で、まさかと思ってガンミルゼ王の今を気にしてみたら、聞こえた。
あまりの事に、あの時は声も出なかったよ。
「分かった。魔界の王だな」
魔界の王といえば、力が弱まって王の座から降りた魔神だよな?
えっ、どうして拾ったの?
いや、そもそも落ちているのがおかしくない?
「正確には、ドルハ魔神の城の地下牢に囚われていました」
前に助けたと言った中にいたのか。
どうして今、その報告をしたんだろう?
前の時でもよかったよな?
「昨日、目を覚まし名前を聞き出せましたので、報告が遅くなりました。すみません」
「いや、サブリーダーは悪くないよ。報告、ありがとう」
そういう事情なら、しょうがない。
「目を覚ましたって、弱っているのか?」
魔界を治めるのが難しくなるほど力が弱まったとは聞いたけど、そんなに?
というか、どうしてドルハ魔神に囚われていたんだ?
「魔界の無駄に荒くれている魔神達を抑え込むのは難しいぐらいには弱っているでしょう。ですが、目覚めないほど弱っているのは、ドルハ魔神が地下牢に施した力を奪う魔法のせいです」
あれ?
今ちょっとサブリーダーの言葉が荒れなかった?
ジッとサブリーダーを見る。
「どうかしましたか?」
「いや。つまり魔界王が弱ったのはドルハ魔神のせいなんだな」
「はい。力が強いからと思いあがった屑のせいです」
……サブリーダーは、かなりドルハ魔神が嫌いなんだな。
何かあったのか?
いや、実際に会った可能性は少ないよな?
という事は、ドルハ魔神の行いが気に入らないのか。
「長きにわたり魔界を安定させてきた存在を疎かにするなど、許される事ではありません」
「そうだな。ずっと頑張って来た者から力を奪うなんて、駄目だよな」
「はい。奴は、なるべく長く生殺しの状態にし、これまでの行いを反省させるべきです」
えっ?
今、もの凄く恐ろしい事を言わなかったか?
「サブリーダー。魔界の魔神力に、影響は受けていないか?」
「受けていません」
本当かな?
サブリーダーの思考が、ちょっと荒れているんだけど。
「主。サブリーダーは元々がこんな感じです」
「そうなのか?」
傍にいたリーダーが、当然とばかりに頷く。
えっ、本当にこんな過激な一面があったのか?
「大丈夫です、主。俺はいたって正常です」
どうしてだろう。
そっちの方が不安を覚えるのは。
「そうか。あ~、魔界には魔界のルールがあるから、あまり出しゃばらないように」
魔界のルールを守る事は大事だからな。
「大丈夫です。こちら側の味方を多くしてから、ドルハ魔神には罰を与えますので」
どこが、大丈夫なんだ?
いや、味方を増やすのは良い事だよな。
魔珠宝を使って恩を売るのもいいけど、他の方法で味方を増やすのもいいと思う。
ドルハ魔神か。
たしか、魔界の力を使って神達の世界を滅ぼそうとしているんだったよな。
そのために魔族達を捕まえて、自分の力を強化するための道具にしている。
あれ?
完全に自業自得だ。
「何か事を起こす前に教えてくれ」
「もちろんです」
サブリーダーの言葉に、頷く。
今すぐに何かが起こるわけでは無い。
だから、もうしばらくサブリーダー達が自由に動き回っても問題ないだろう。
「そうでした、主。新しい魔珠宝はありませんか? ボルナック魔神とシルシファリアが試したいと言っているので、あればもって行きたいのですが」
そういえば、魔界の王の事で忘れてたけど、ボルナック魔神達に魔珠宝が欲しいと言っていたな。
これに関してはちょうど良かった。
「昨日、3個目と4個目が出来たんだ。だから問題ない」
魔神力を溜めていた1番目の洞窟で3個目、新しく準備した洞窟で4個目が出来た。
オアジュ魔神が言うには、出来る確率がかなり高いらしい。
それでも、欠片が出来て魔珠宝になるのは1割程度なんだけどな。
「そうなんですね。2個もあるんですね?」
「うん」
俺の言葉に少し考えるサブリーダー。
「主。ドルハ魔神が、魔界の王を探させるために配下の魔神を集めているという情報が、この世界に戻ってくる少し前に入って来ました。おそらく魔界の王が起した力の暴走で、勘づかれたのだと思います。今は、力が安定したので暴走はおきません。ですがまだ少し、魔神力が不意に溢れる事があり、その力に感づかれる可能性があります。彼を主の世界に、連れて来ては駄目でしょうか?」
ドルハ魔神に魔界の王の居場所を気付かれるのは、仲間を危険にさらす事に繋がる。
それなら、魔界の王を俺の世界で匿った方がいいだろうな。
「いいぞ。すぐに連れて来るのか?」
「目が覚めて、彼の意志を確かめてからになります。おそらく2、3日中に決まると思います」
「分かった。弱っているんだったな。どんな環境を準備しておけばいい?」
俺の言葉にサブリーダーが首を傾げる。
「力が安定したばかりなので、魔神力と闇の魔力以外の力に触れるのは危険かもしれません」
「そうか」
魔神力と闇の魔力以外の力に触れない場所か。
この世界にそんな場所は無いから、作るしかないな。
魔珠宝を作る洞窟みたいな結界で対応できるだろう。
あとは、匿う場所を決める必要があるな
魔界の王が弱っているなら、面倒を見る者達が必要だよな。
どんな魔神なのか分からないが、面倒を見るのは魔神や魔族の方がいいだろうな。
「オアジュ魔神達に協力を頼もうかな」
彼等だったら、どんな場所が療養に向いているか分かるかもしれない。
それに面倒も頼める。
「そうですね。元は魔界の住人ですからね」
「うん」
「それなら今すぐ、こちらにお呼びしますね」
えっ、今すぐ?
リーダーの言葉に視線を向けるが、既に隣にいたリーダーがいない。
「はやっ」
いや、行動が早過ぎないか?
「すぐにオアジュ魔神を連れて戻って来るでしょうから、ゆっくり待っていましょう」
サブリーダーが、新しくお茶を淹れて俺の前に置く。
「そうだな。ありがとう」
行ってしまったものは、もう止める事は出来ないからな。
待つしかないか。
リビングから庭に視線を向ける。
今日は、かなり寒くなった。
それでも元気に庭で訓練をしている、獣人達に子アリ達に子蜘蛛達。
「この穏やかな時が続くようにしないとな」
「我々が守ります」
サブリーダーを見る。
「ありがとう」
そうだよな。
俺が何かする事は無いのかもしれない。
これまで通り、仲間をそしてこの世界に住む者達を守る。
それだけで。
なぜなら俺の周りには、俺の 意(い) を 汲(く) んで動き回る仲間達がいるから。
呪国の王になるという事で、いろいろ複雑に考え過ぎたのかもしれない。
「俺は、俺が間違った方へ行かないように注意するだけでいいのかもな」
俺が間違わなければ、仲間達はけっして間違わないだろうから。