作品タイトル不明
37.別物?
オアジュ魔神とオアイスに椅子を勧める。
「魔珠宝について、話を聞かせてくれないか?」
「話?」
オアジュ魔神が不思議そうに俺を見る。
「あぁ、魔界で作られる魔珠宝と俺の作った魔珠宝の違いが知りたいんだ」
必要だと思って作ったけど、自分の作った物がどんな影響を及ぼすのか知らないのは駄目だよな。
作り出した以上は、責任を持たないと。
「分かった」
オアジュ魔神が椅子に座るとオアイスに合図を送る。
彼がオアジュ魔神の隣に座ると、テーブルの上で寝ていたスミレとモモが起き出した。
その姿にホッとする。
眠らせるような影響は無いと聞いたが、ちょっと心配だったから。
「おはよう。スミレ、モモ」
「「おはよう」」
この子天使たちは、一度言葉を忘れてしまったけれど、再度ゆっくりと言葉を覚え直している。
前の時のように急に言葉を忘れてしまわないか心配だけど、会話が出来るのは楽しい。
そして、遅かった成長も問題ないようだ。
2人は、ここ最近ぐっと背が伸びた。
まだまだ小さいが、これからどんどん大きくなってくれるだろう。
「これ~、いい匂い」
最近はっきりと言葉を口にし始めたんだが、いい匂い?
スミレが俺達の方を見て、嬉しそうに笑うとパッと飛びついた。
「「えっ?」」
俺とオアジュ魔神の目の前には、スミレに飛びつかれて慌てているオアイス。
「えっ! あの? えっ?」
オアイスは急な事にびっくりしたのだろう、椅子から腰が浮いている。
スミレは気にする事なく、オアイスの顔にギュッと抱き付いた。
「えっと?」
あまりの展開に、スミレの様子を見ているとモモもオアイスの顔に抱き付いた。
2人の子天使に抱き付かれているオアイス。
どうしていいのか分からないのだろう。
両手が無意味に、空中を彷徨っている。
「スミレ、モモ。オアイスが困っているから、顔からは離れてあげようか」
いい匂いと言っていたので、2人の気に入る匂いがオアイスからしているのだろう。
きっと無理に引き離す事は出来ないので、せめて顔からは離れさせよう。
「「んっ?」」
スミレとモモが、抱き付く力を弱めてオアイスを見る。
「……だれ?」
スミレ、今更か?
モモも不審げな表情でオアイスを見ない。
「こら2人とも失礼だろう。彼はオアジュ魔神の子供でオアイスだ。オアイス、この子達は、子天使でスミレとモモだ」
「あぁ、初めまして。えっと、よろしく?」
戸惑いながら、子天使たちに挨拶をするオアイス。
彼が怒っている様子はないので、ホッとする。
「オアイス! よろしく」
「よろしく」
スミレとモモは、挨拶をすると彼の体にギュッと抱き付いた。
やっぱり離れないか。
「悪いな。何か匂いを付けているのか?」
傍にいるけど、ほのかな匂いなのか。
全く分からない。
「いや、香料と言う物は一切使用していないんだけど」
オアイスが腕の匂いを確かめて、首を傾げている。
何もつけていないという事は、彼本来の匂いなのか?
……スミレとモモは、匂いフェチ?
あっ、それは知りたくなかったかも。
ちょっと顔を引きつらせながら、スミレとモモを見る。
2人は、オアイスに抱き付いたまま寝ていた。
「また、寝ている」
「本当ですね。えっと、ベッドに寝かせましょうか?」
オアイスの言葉に、少し考える。
気に入った匂いが遠ざかったら、また起きて探すんじゃないかな?
「そのままだと邪魔か?」
まぁ胸に、人間だったら5歳児ぐらいの子供が2人抱き付いているんだ、邪魔だよな。
「いえ、大丈夫です」
オアイスを見る。
嫌がっている雰囲気は見られないな。
「話をしている間はそのままで頼む」
起きたら、また邪魔をされそうだからな。
「はい」
予定外の事があったが、魔珠宝についてオアジュ魔神とオアイスに聞く。
「魔界で作られる魔珠宝を使用すると、どんな影響が出るんだ?」
全身を苛む苦痛が数年続く事もあるとは聞いたけど、他にも影響が出るんだろうか?
「魔神や魔族によって出る症状は様々なんだが、共通なのは全身に駆け抜ける苦痛だ。この苦痛で命を落とす者もいる」
えっ?
そんなに酷い痛みだったのか?
「苦痛が数年も続けば、体も心も疲弊する。終わりが見えないと絶望し、死を選ぶ者もいるんだ」
なるほど。
俺が想像していたより、かなり酷い痛みみたいだな。
しかもそれがいつ終わるのか分からない。
確かに、絶望するだろうな。
「オアイス、魔珠宝の力を受けたらすぐに症状が出るんだが、どうだったんだ?」
「目の前で魔珠宝が2つに分かれて、俺とマイスの体にスッと溶け込んだのが分かった」
「溶け込んだ?」
オアジュ魔神が首を傾げる。
「あぁ、溶け込むように体に入って来た。父さんは、ギュッと押し込むような感じだったと言ったけど違った」
もうそこから、違うんだ。
「そうか」
「自分以外の力が体内にある事は分かった。だから痛みが襲ってくると覚悟したんだけど、一向に痛みは来なかった。誰に聞いても、全身を駆けまわる苦痛に苦しむと言っていたから、魔珠宝に問題があったのかもしれないと思った」
まぁ、そうなるよな。
「残念に思ってマイスを見たら彼女も俺を見ていて、それで気が付いたんだ。彼女の力と俺の力が反発していない事に」
「えっ? もう?」
オアイスの説明に、オアジュ魔神が唖然と呟く。
「そうなんだ。時間を掛けてゆっくり2人の力が合わさると聞いていたけど、すぐに合わさった」
えっと、たぶん途中経過をすっ飛ばして、力の問題が解決したという事かな。
そう言う事だよな?
「マジか。全く別物じゃないか」
オアジュ魔神にとってはあり得ない話みたいだな。
そして本当に、結果だけが同じの別物だな。
「他には?」
「それが……マイスには背中に剣で刺された傷があったんだ。その傷のせいで力が安定せずに、最下位の存在になっていたんだが、魔珠宝が馴染んでくるとその傷から黒い煙が出て、それが消えると傷も消えていた」
黒い煙?
「マイスは呪われていたのか?」
「えっ?」
「オアイス、黒い煙は恐らく呪いだ。魔珠宝は魔神力で出来ているから浄化の力があるわけがないんだが……」
オアジュ魔神が俺を見る。
俺は、彼に視線を向けて首を横に振る。
「魔珠宝は魔神力だけで作った。それは間違いない」
たぶん。
いや、魔石に力を溜める時は、魔神力だけを使った。
だから、間違いない……はず。
「呪い。マイスは父親に呪いを掛けられていたと言う事ですか?」
えっ?
剣で刺された傷から、黒い煙が出たんだよな?
おそらく刺した時に呪いを掛けたはず。
つまり、父親が娘を剣で刺した?
えっ、本当に?
魔界に充満する魔神力は、負の感情を煽る力がある。
でも娘だぞ?
あぁでも、力が弱いと自分の子供でも平気で殺す場所だと言っていたな。
「……それは、分からない」
呪いを掛けた場面を見たわけではないからな。
刺した時に呪った可能性が高いけど、他の方法があるかもしれないし。
「そうですか」
オアイスの表情が少し険しくなる。
きっと彼は、マイスの父親が娘を呪ったと思っているんだろうな。
「マイスの力は安定したのか?」
オアジュ魔神の言葉に、オアイスは頷く。
「はい。マイスも『もう大丈夫』と言っていました」
「そうか」
オアジュ魔神は安心した様子で、笑みを見せた。
「それは良かった」
呪った相手は問題だろうけど、マイスが大丈夫な事が重要だからな。
でも、呪いか。
少し、心配だな。
「オアイス。問題ないとは思うけど、マイスの力の流れや呪いの有無を見てもいいか?」
「えっ、良いのですか?」
「もちろん。マイスは俺の世界の大切な住人だからな」
俺の言葉に、少し目を見開いたオアイスは嬉しそうに笑って頷いた。
それにしても、俺が作った魔珠宝にはいったいどんな力があるんだ?
全身を駆けまわる痛みは、元々の力と魔珠宝の力が反発しているからだろう。
その反発を起こさせない力が、俺の作った魔珠宝にはあるという事だ。
まぁ、魔神力を守る力だと思っている俺だからな。
そういう事もある……と言えるはず。
ただ、浄化の力?
魔神力にそんな力はない。
でも、実際に浄化している。
……もしかしてちょっと、そうちょっとだけ他の力が混ざったのかもしれないな。
いや、それだと魔珠宝が出来るわけがない。
「……考えても答えは出ないか」
これは、多機能な魔珠宝を作る事に成功したと思っておこう。
まぁ、2個目の魔珠宝が1個目と同じ効果があるのか、今は不明だ。
これからどんどん試して、どんな魔珠宝なのか検証する必要があるな。