作品タイトル不明
16.まだ、無理。
術式を刻んだ魔石に溜めた魔神力を、洞窟内に放出する。
ある程度の魔神力が放出された事を確かめてから、頭上を見る。
「まだ、無理かぁ」
頭上には、青い煙みたいな物がくるくると小さな渦を巻いているが、変化は無い。
この渦までは簡単に出来るのに、これ以上の変化がこの2週間見られない。
オアジュ魔神は、そんなものだと言っていたけど少しぐらい変化が欲しい。
「もう少し近くで見たいな」
そっと体を空中に浮かせると、ゆっくりと渦に近付く。
この2週間、新しい大地に飛んで行く事が増えたので飛行技術があがった。
空中で止まる事も、ゆっくり飛ぶことも、速度を上げて飛ぶことも簡単に出来るようになった。
あとは、空中でぐるぐる回る事も自由自在だ。
ただ、調子に乗ってぐるぐる回り過ぎると、やばい。
まぁ、何事もやり過ぎない事が大切だな。
「うわっ、魔神力が随分濃いな」
下から渦を見ている時は分からなかったけど、渦の中心はかなり魔神力が濃いようだ。
周りの魔神力を取り込んで、どんどん塊になっていくんだろうか?
でも、近くで見ても魔珠宝の欠片が出来ている様子は無い。
近くにある渦を見るも、欠片は無い。
「これはこのまま消滅かな」
出来た渦を観察して分かったが、変化が無かった場合は数日で消滅してしまう。
そして、その近くにまた新しい渦が出来る。
「そろそろ1つぐらい、欠片が生まれてもいいと思うんだけどな。まぁ欠片が出来ても、魔珠宝になる可能性は低いみたいだけど」
やっぱり魔界とは違うから、ここが限界なんだろうか?
オアジュ魔神の子供達の為にも、魔珠宝が欲しいんだけど。
「あと2週間、このまま変化がなかったら対策を考えるか」
地面に下りると、洞窟の出口へと向かう。
「でも、対策と言っても洞窟を魔界の環境に近付けるしかないよな」
それこそどうやってという事になるんだけど。
「「「主」」」
お~、今日も大猟だね。
ここまで護衛をしてくれたフェンリル達は、今日も元気に狩りを楽しんだみたいだ。
「凄いね、ここの魔物は皆で食べていいよ」
俺の言葉に、嬉しそうに食事を始めるフェンリル達。
あ~、ちょっと離れた場所で食べて欲しかったかな。
まぁ、そろそろ俺も慣れてきたけど……いや、無理。
離れよう。
「ゆっくり食事を楽しんでねぇ」
オアジュ魔神達の様子でも見に行こう。
あっ、巨大カラーの花だ。
ははっ、また逃げた。
「いったいどんな教えを説いたら、見ただけで逃げ出すようになるんだろう?」
まぁ、知らない方が良いよな。
「おはよう」
「「「おはようございます」」」
オアジュ魔神達が畑仕事をする姿も、見慣れたな。
「どうだった?」
オアジュ魔神の言葉に首を横に振る。
「まだ駄目だった」
「そうか」
オアジュ魔神は、2週間前から洞窟に行っていない。
ここでの生活に慣れるためらしいけど、本当の事は不明。
いつか本人が見に行きたいと思ったら、見に行くだろう。
「畑の様子はどうだ?」
「凄く順調で驚いている。ウッズの話ではちょっと順調すぎるみたいだ」
確かに2週間前に種を植えたばかりなのに、どうして既に実がついているんだ?
まぁ、食料調達の上では嬉しい事だけど。
「主です~」
この独特の喋り方は一つ目のウッズだな。
「おはよう。少し質問していいか?」
「おはようです~。どうぞです~」
「この畑は、どうしてこんなに育ちが良いんだ?」
「育ちが良いのは~、森に少し力が有り余っているからです~。だから異常な成長をしちゃってます~」
森に力が有り余っている?
気にしていなかったが、確かに俺の家がある方の森とは力の濃さが違うな。
「そうなんだ。問題はあるのか?」
「魔物が異様な力をつける可能性があるんです~。だからリーダー達が、魔物の強さを調査しています~」
朝からリーダーの姿が見えなかったのは、そのせいだったのか。
それにしても、魔物が異様に強くなるのは駄目だな。
今はオアジュ魔神達の方が強いが、このまま力をつけ続けるといずれ脅威になるかもしれない。
「力が有り余ってしまった原因は?」
「それは不明です~。ナインがこちらの森を隅から隅まで調べています~」
ナイン?
名前から農業隊の1体か。
「分かった。原因がわかったら俺にも教えてくれ」
「分かりましたです~。では、やる事があるのでまたです~」
「あぁ、呼び止めて悪かったな」
ウッズは、自身の3倍ぐらい大きいカゴを持つと、森の奥へと駆けて行った。
あんな大きなカゴを持って、何をしに行くんだろう?
木の実や果実の収穫か?
でもそれなら、カゴよりどれだけでも収納可能なバッグの方が便利だよな。
……まぁ、良いか。
あっ。
護衛のフェンリル達だ。
「おかえり」
「「「ただいま帰りました」」」
どうやら満足いくまで食べたみたいだな。
皆、満足そうな表情だ。
さてと、こっちの森で俺が出来る事も無いし、家に帰ろうかな。
「オアジュ魔神、俺たちは家に帰るよ。また明日」
「はい。また明日」
オアジュ魔神に声を掛けると、上空に浮かび上がる。
上空から新しい大地を見ると、2週間前より森の木々がかなり成長している。
「成長が早いな」と思っているだけでは、駄目だったんだな。
「行こうか」
家に向かって飛びながら、両手に力を集める。
少し前に気付いたけど、俺が何気なく出す力が変わった。
前までは、気にしなくても別々の力を感じた。
というか、そのほとんどとは光の魔力だった。
それなのに今は、混ざり合った力でどの力とも異なる印象を受けるようになった。
意識して、別々にしようとすれば簡単に出来る。
今手の中にある力から、神力だけを取り出す事も、光の魔力だけを取り出す事も簡単だ。
ただ力を分けた時に気付いたけど、光の魔力が半分以上だったのに、今は違う。
バランスが良くなっている。
「変化は俺だけじゃないんだよな」
俺が流す力が変わったせいか、世界に流れる力のバランスも変わった。
飛びトカゲは問題ないというけど、本当だろうか?
新しい大地に力が有り余っているのは、俺の力のせいでは?
でもそれなら、俺の家の方の森も同じ状態になるはずだ。
「俺の世界か……」
仲間達が言った。
この世界をというか、呪いの世界を管理するのが俺だと。
「これからは、どうすればいいんだろうな」
俺には、荷が重いよ。
でも、俺がして来た事の結果が今なんだ。
だから、逃げる事は許されない。
「俺、普通の人間だったんだよな……遠いな」
数年前のはずなのに、凄く遠い昔のようだ。
「んっ?」
空中に止まり、上を見る。
今、この世界に何かが触れた。
おそらく、何者かがこの世界に入ろうとしたんだろう。
少し前から、感じられるようになった感覚。
最初は驚いたというより、気持ち悪くなった。
身体をザワリと撫でられる感覚だったから。
数回経験すると、なぜか調整が出来るようになった。
今は、チョンと指で肌を押される感覚だ。
「主、どうかしましたか?」
護衛のフェンリル達が、不思議そうに首を傾げる。
「なんでもない。行こうか」
数回感じた感覚も今は無い。
きっと誰かが作った異空間に、誘導されたんだろう。
「怖いよなぁ」
誰が作った異空間なのか。
知りたいと本気で思えば、今すぐ知る事が出来るだろう。
今の俺には出来る。
その事に気付いたのは、混ざり合った力を使った時。
何が出来るのか調べて、すぐに止めた。
あまりに恐ろしい力だったから。
「本当に、どうすればいいんだろうな」