作品タイトル不明
55.オルサガス国 デルオウス王2
―オルサガス国 デルオウス王視点―
宰相の魔力に震えあがるアルアを見て、小さく息を吐く。
まさか彼が、我々を裏切っていたとは。
ははっ、私は見る目が無いな。
アルアより、宰相を務めるグルアの方を怪しく思っていたのだから。
「アルアを捕まえろ。何をしてもいい、全てを吐かせろ」
「ひっ!」
グルアの怒りの籠った声が謁見の間に響くと、アルアが腰を抜かして座り込む。
騎士団長がアルアを縄で縛ると、連れて行くよう指示を出す。
「待て」
私が止めた事が意外だったのか、怪しげに見てくる宰相。
「なぜ止めるのですか?」
「少し落ち着け」
私もアルアや捕まえた者達を尋問することに異論は無い。
だがリーダーはさっき、アルアが「騎士団に、自分の命令に従う手駒が欲しい」とバチュテという者にお願いしたと言った。
「既に、騎士の中にオップル一族と通じている者がいる可能性がある。オップル達をここから出したら、裏切者はすぐに動き出すだろう」
この中での出来事は、今はまだ外に漏れていない。
この謁見の間での出来事は、外に漏れないようになっているからな。
だが、オップルの正体が我々にバレたとなったら、オップル一族が動く。
「確かに、そうですね」
宰相がアルアを見ると、彼はすっと視線を逸らした。
ある程度の事を知っているな。
「オップル一族に従っている騎士達を知りたいなら、オップル総隊長に聞くといいですよ」
えっ?
「彼は今の地位になって、オップル一族の末端になりましたが、それまでは騎士達の人事を自由に動かしていた……えっと、グル……似たような名前が3つあるのですが、どれなのかちょっと記憶が曖昧ですね。えっと……」
森の神は、いったいどこまでこの国を調べ上げているのか、考えると恐ろしいな。
「あっ、思い出しました。騎士の人事を自由にしていたのはグルタラです。オップル総隊長は、そのグルタラ一族当主の上司だったので、デルオウス王が知りたい事はほとんど知っていると思います」
グルタラ一族か。
怪しいと思っている2つの内の1つだな。
「私は――」
「あっ、オップル総隊長にはきっと会えなくなるよね。今のうちに、ちょっと聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
オップルの言葉を遮り、彼に近付くゴーレム。
確かあんちゃんと呼ばれていたな。
「オップル総隊長の指示で動いていた、アプリス一族を反逆罪で潰す計画はどうなったの?」
えっ?
アプリス一族と言えば、騎士団長を何人も出している一族だ。
私も彼らを信頼している。
そんな彼らを、反逆罪で潰す?
謁見の間にいる、アプリス一族の者に視線を向けると、険しい表情でオップルを睨んでいる。
「君が、総隊長の地位についてしまったから、あの計画には関われなくなったよね? 君の後を継いだ、ミルジスが引き継いだの? でもあの計画さ、ちょっと雑だったんだよね。だから成功するのか、結果が気になっちゃって。いつ実行するの?」
いや、実行されては困るんだが。
「…………」
「あれ? オップル総隊長、聞こえてる? ねぇ?」
オップル総隊長を見ると、膝を床に着けて下を向いてしまっている。
表情が全く見えないが、全身が小刻みに震えているのが分かる。
「私たちが見たあの計画は、随分前に作られたようでした。今頃は、もっと詳細な物になっているのではないですか?」
「やっぱりそうかな? で、いつ実行するの?」
リーダーとあんちゃんのやり取りを聞きながら、オップルを見る。
追い詰められた者は、時に無謀な事をする。
何もしなければいいが。
「はははっ、終わった。だが、これで終われるかっ!」
急に笑い出したオップルが立ち上がると、騎士によってきつく巻かれていたはずの縄が簡単に外れる。
「奴を押さえろ!」
騎士団長が指示を出すが、抑え込む前に懐から何かを取り出し、それをあんちゃんに向かって投げた。
「私だけ死んでたまるかぁ」
何を投げつけた?
もしもゴーレム達に何かあったら、森の神の怒りがこの国に降り注ぐかもしれない。
パシリッ
「えっ?」
「これ、知っていますよ。衝撃で、爆発する道具ですよね。この大きさだと、この部屋ぐらいだったら
吹き飛ばせますね」
あんちゃんの前に出たリーダーが、オップルが投げつけた物を両手でキャッチする。
それを見たオップルは笑いを止め、唖然とリーダーを見る。
「どうして? どうして割れない! なぜだ!」
「衝撃で割れるのだから、衝撃を与えなければ割れません。当たり前の事ではないですか」
そうかもしれないが、普通は受け止めたらその衝撃で爆発するのではないだろうか?
オップルは座り込むと、ぶつぶつと何かを口の中で呟き出す。
「大丈夫?」
あんちゃんがオップルを覗き込んで、首を傾げる。
「まだ、答えてもらってないんだけど」
気にするところはそこなのか?
それより、あんな状態のオップルから話は聞き出せるのだろうか?
最悪、今は禁止されているクスリを使うか。
そういえば、奴を捕まえていた縄が、あんなに簡単にほどけるのはおかしい。
ここにいる騎士の中にも、裏切り者がいる。
「デルオウス王。非常に危険な状態かもしれません」
宰相の言葉に頷く。
「あぁ、分かっている」
誰が敵なのか分からない以上、身動きが取れない。
下手に動くと、殺される可能性がある。
「あっ、デルオウス王。私は聞きたい事があって、ここに来たのでした」
「えっ? はい。何でしょうか?」
リーダーが私に質問?
少し、時間稼ぎが出来るな。
その間に、この状態を打破する方法を見つけなければ。
「エルフと他の種の間に生まれた子を『半端者』といって差別したり騎士団にいる全てのハーフを『ティナス』という名前で呼んで本当の名を捨てさせたり、殴ったり、暴言を吐いたりするのは王の指示ですか?」
「えっ、半端者? ティナス? ティナスは確か、王の娘を殺した犯罪者の名前で、今は誰もその名を使わないはず」
それを私が指示?
「違います。そんな事は一切指示していません。そうだ、今日ここに集めたのも、ハーフの親たちがある村に閉じ込められていると情報を掴んだので、それを確かめるためなんです」
色々あって、当初の目的を忘れてしまっていた。
ここに集めたのは、それを確認するためだったんだ。
「そうでしたか。ナピスラの家族もそこにいるのですか?」
「はい。そのはずです。ここ数ヵ月は会ってないですが」
ナピスラ?
そう言えば、リーダー達と一緒に数名のエルフ達がここに運ばれてきたが、1人だけ扱いが丁寧だったな。
あっ、あの耳の形はハーフか。
という事は、リーダーが今言った情報源は彼か?
まぁ、それはどうでもいい事だな。
「王は関係ないみたいですね。良かったです」
「はい」
騎士達の動きを観察したが、分からないな。
「どうしたの? 何か悩み?」
えっ?
近くで聞こえた声に下を向くと、あんちゃんが傍に来ていた。
「そう言えば、オップル総隊長の縄は随分簡単にほどけたね。きっと彼の仲間が紛れ込んでいるんだね。誰なのか、教えてあげようか?」
「知っているんですか?」
まさか、知っていたのか?
いや、それならなぜオップルに聞けと?
「俺は知らないけど、オップル一族側の騎士達には、見張りを付けたって聞いたから」
見張り?
ん?
何人かの騎士が微かに反応したな。
「我が仲間が、髪の中に潜り込んでいるんだよ」
「「えっ!」」
「「「ひっ」」」
アルメアレニエの言葉に、5名の騎士達が頭を振って慌てだした。
「お前らが裏切り者か」
私の言葉に、動きが止まる5人。
まさか、こんな嘘で裏切者が分かるとはな。
「ありがとうございます」
「いえいえ。あぁ、そこの5人さん。それぐらいでは孫蜘蛛さん達は離れませんよ」
……本当に見張りが髪の中にいるのか?
そっと髪に触る。
「えっ、いないですよ? 親蜘蛛さん、デルオウス王にはいないよね」
「うん、デルオウス王の髪の中にはいないね」
良かった。
「そうだ。親蜘蛛さん、手伝ってあげたら? オップル一族についている騎士を見つけるの」
あんちゃんの言葉に、アルメアレニエを見る。
「お願いできますか?」
まずは騎士の中から、裏切者を排除しなければ。
「分かった。一ヶ所に集めてくれたら、糸で吊り上げるよ」
糸で吊り上げる?
「確かに、それが簡単だね。一ヶ所に集めるのはどれくらいかかる?」
まぁ、方法は任せよう。
「すぐに出来ます。騎士団長。騎士全員に集合を。今日が休みの騎士も全てだ」
「はい」
騎士団長が謁見の間から出ていくのを、少し緊張しながら見送る。
扉が閉まる音に、ホッと息を吐き出した。
良かった、彼は裏切者では無かった。
それにしても、親の代から続く悩みに光が差すとは。
全てが終ったら、国を挙げて森に感謝を捧げよう。
きっと森の神に伝わるはずだ。
…………
アルメアレニエの糸によって、空中に吊り上げられる騎士達を見る。
まさか、そのままの意味だったとは。
手の上を見ると、そこには小さいアルメアレニエがいる。
「まだまだ、知らないことがあるんだな」
そっと髪に触れる。
……本当にいないよな?