作品タイトル不明
12.果実のお菓子
村に入って周りを見回す。
なぜか獣人の姿が全くない。
それに首を傾げる。
「獣人達の姿がないな」
「いや、姿は見えないが離れた所からこちらを見ているようだ。かなりの数の獣人がいるな」
えっ、そうなのか?
気付かなかった。
コアが、俺を守るように前に出ると、威嚇するように唸りだす。
一つ目が、スワを見ると慌てたように首を横に振る。
「違います。あれはっ!」
違う?
何が違うんだ?
スワの顔からどんどん血の気が引いていく。
これでは、話が出来ないな。
「一つ目、落ち着いて。コアも。こらっ! チャイ、駄目!」
気付くとチャイが、スワに飛び掛かれるように構えていた。
守ってくれるのは嬉しいが、少し冷静になってくれ。
「すみません。森の神を一目見ようと獣人達が集まってしまったので、帰るように命令を出したんです。それでも、一目姿が見たいと、遠くからこちらを窺うような状況になってしまって。すみません」
また、森の神か。
「分かった。傍で騒がれるのは苦手だから、話してくれたのは良かった。ありがとう」
賑やかなのは気にならないんだが、森の神として騒がれるのは嫌だ。
想像しただけで、頭が痛くなる。
それにしても、「森の神が見たい」と獣人達が集まるなんてすごいな。
俺が思っているより、森の神という存在はでかいのか?
コアが「かなりの数の獣人がいる」と言って、視線を向けた方を見る。
今の俺からは見えないが、きっと遠視を使えば見えるんだろうな。
小さくため息を吐く。
なんだか森の神と聞くと、言いようのない感情が湧き上がる。
気持ちが悪いな。
「主?」
一つ目が俺を見上げ、首を傾げる。
その姿に、もやもやした感情が少し収まる。
「なんでもないよ」
一つ目の頭を軽くポンと叩くと、スワに視線を向ける。
「休憩場所はどこなんだ?」
急に話を変えたので少し慌てた様子のスワに、悪いと思いながら笑みが浮かぶ。
「こちらです」
スワが案内したのは、木々で壁を作り中の様子が見られないようになっている場所だった。
これなら外からの視線が遮られるので、ゆっくり出来そうだな。
木々で作られた空間は、テーブルと椅子が複数置いていある。
「スワたちの休憩場所なのか?」
「はい、そうです。あの綺麗に拭いてあるので、見た目はちょっと汚れているように見えますが」
確かに、テーブルにも椅子にも長年使ってきた様子が見て取れる。
でもそれが、この空間にはよく合っている気がする。
「落ち着ける雰囲気で、俺は好きだよ」
「そうですか? 良かったです」
ホッとするスワの表情に、苦笑する。
彼には、かなり気を使わせているよな。
でもこれ、俺が「気にするな」と言って楽になるのか?
……無理だな。
下手な事は言わないほうがよさそうだ。
椅子に座ると、それを挟むように左右に座るコアとチャイ。
2匹の雰囲気から、完全には警戒を解いていない事に気付く。
獣人が見える所にいないぐらいしか異変は感じないが、2匹は何かを感じているんだろうか?
「何かあるのか?」
コアに近づき小声で話しかける。
「大丈夫だ。主に害のある視線は無い」
そんな事が分かるのか?
凄いな。
「ありがとう」
コアの頭を撫でると、チャイがそっと頭をこちらに寄せてくる。
それに小さく笑って、2匹の頭を撫でまわす。
「こんな物しか用意できませんでしたが、どうぞ」
スワが持って来てくれた物は、飲み物とお皿に乗ったカラフルな丸い何か。
「これは何だ?」
お皿を指すと、スワが少し迷うような表情を見せた。
「あの、それは果実を固めたお菓子です」
果実を固めたお菓子?
別に言い淀むような、お菓子じゃないよな?
お皿の中を見る。
色は赤やオレンジなど暖色系で、見た目は美味しそうだ。
食べるかちょっと迷ったが、気になったので1個手に取ってみる。
一口サイズで、果物の良い香りがする。
美味しそうなので、ポイっと口に入れる。
噛むと、一気に広がる甘さ。
「んっ?」
甘い……すごい甘ったるい。
果実のいい香りがしたから期待したけど、これは甘すぎる。
甘いものは好きだけど、これは無理!
急いで、飲み物に手を伸ばす。
飲もうとした時に、こちらも果実の香りがして一瞬迷う。
こっちも甘いのか?
少し迷ったが、口の中の異様な甘さをどうにかしたくて、一口飲んでみる。
良かった。
これは普通の果実水だ。
しかも柑橘系のさっぱりした味だ。
あっ、バッグの中に飲み物を持って来てたな。
忘れてた。
「あのっ」
ん?
スワを見ると、申し訳なさそうな表情をしている。
「そのお菓子は数名の部下の好物なんです。『絶対に気にいってくれる』と断言したので、用意したのですが、駄目でしたか?」
「用意してくれたのに、悪い。俺にはちょっと甘すぎるみたいだ」
「そうでしたか」
ちょっと残念そうなスワの表情。
もしかして獣人達は、この甘さが好きなのか?
それなら、教師になってくれる者達に用意する食事やお菓子は別の物を用意する必要があるな。
「獣人達は、甘いものが好きなのか?」
「甘い物が好きな者は多いですが、辛い物が好きな者もいます」
獣人全員が、甘党という訳ではないのか。
でも、甘い物が好きな者は多いと。
「スワは、このお菓子は好きなのか?」
まぁ、さっきのあの残念な表情を見たから訊くまでもないか。
「いえ、苦手です。私は辛党なので」
「……そうか」
あの残念そうな表情は、なんだったんだ?
「主、ダダビスが来たぞ」
チャイの視線の先を見ると、馬に乗って駆けてくるダダビス達の姿が見えた。
前の時も一緒にいたキミールも一緒のようだ。
スワが手を挙げると、ダダビスの乗っている馬の速度が落ち少し離れたところで完全に止まった。
「すみません。遅くなりました」
馬を下りたダダビスが、こちらに向かって走ってくる。
別にそこまで急がなくてもいいんだけどな。
「俺が急に来たせいだから、気にしないでくれ。久しぶり、キミールも」
「はい! あっ、お久しぶりです」
キミールが驚いたような表情になる。
俺が急に名前を呼んだからか?
「今日はどんな用事でいらっしゃったのでしょうか?」
「頼んでいた教師について聞きたい事があって」
「教師なら、最後の精査に入っています」
精査中か。
「という事は、既に教師は決まってるんだな?」
「すみません。1人だけまだです」
1人だけ?
何人の教師が来てくれるんだろう?
「準備があるから、教師の数と性別を聞きたかったんだけど……。2人は決まっているんだよな?」
「はい。男女1人ずつです。最後の1人も男性になると思います」
良かった。
性別は分かっているのか。
これで一つ目達の準備が捗るな。
あれ?
その一つ目はどこに行ったんだ?
さっと、周りを見回すが……いない。
「すみません。最後の1人もすぐに決まりますので」
えっ?
あれ?
ダダビスがちょっと焦っている?
「そうなんだ。悪いな、なんか面倒な事を押し付けて」
大丈夫と言ったから全て任せてしまったが、かなり面倒だっただろうな。
これはお礼が必要だな。
俺の魔力を詰めた魔石が気に入っていたみたいだから、10個ぐらいプレゼントするか。
「あっ、戻ってきた」
木々で出来た壁を飛び越えて、休憩場所に入ってきた一つ目を見つけた。
休憩場所から外に行っていたのか。
本当に、何をしてたんだろう?
「えっ? ひっ!」
ん?
ダダビスを見ると、一つ目を見て表情が引きつっている。
キミールに至っては、尻尾が足の間に挟まっている。
「一つ目は優しいから、大丈夫だ」
どうしてそこまで怖がるんだろう?
もしかして、俺の知らない所で一つ目達が悪さをしているとか?
「どこに行っていたんだ?」
「周りを確認してきました。少し離れた所に大量の魔石が置かれている建物がありました」
「魔石が? そうなんだ」
まぁ魔石なんて、魔物を狩ったらどんどん増えていく物だからな。
俺の家でも一部屋が魔石に占領されてしまっている。
一つ目達が使ってくれているが、使う以上に増えるからな。