作品タイトル不明
97.怒り
「すまぬ」
「うおっ」
ビックリしたぁ。
後ろを振り返ると、神妙な表情のテフォルテが佇んでいる。
なんで皆、音もなく後ろに立つんだ?
声を掛けてから近付いて欲しいんだが。
「えっと、何が?」
「我が来た事で、オアジュ魔神をこの世界に招いてしまった。まさかこんな事になるとは……」
まぁ、そうだけど。
「「「すまない」」」
あっ、いつも話すテフォルテ以外の声を初めて聞いた。
ずっと中央のテフォルテが話していたからな。
「テフォルテのせいじゃないだろ? あれはオアジュ魔神が勝手にやった事だ」
「しかし」
「テフォルテは我が子に会いに来ただけなんだから」
その思いしかないから、俺の作った守りを素通り出来たみたいだし。
「それよりテフォルテ」
「なんだ?」
3匹のテフォルテが同じ方向に首を傾げる姿に、顔に力を入れる。
そうしなければ、顔が凄く緩む自信がある。
厳つい顔なのに、きょとんとした表情で首を傾げるなんて……可愛すぎる。
真剣なお願いをしようとしているのに、これは駄目だ。
「えっとだな。魔神力を持っている者で、協力してくれそうな魔神はいないかな? 魔神力を見せてもらいたいんだが」
「魔神か。すぐに思い出せる魔神は――」
「この世界は我ら神とは関係ない世界だ! 我々に痛手を負わせたいなら、この世界を巻き込むな!」
アイオン神の叫ぶ声に視線を向ける。
「この世界が神に関係ないだと? ならばお前たちはここで何をしている?」
オアジュ魔神が小馬鹿にした表情でアイオン神を見る。
「……遊びに来ていただけだ。この世界に神は一切手が出せないんだ」
一切手が出せない?
言い間違いか?
だって今の言い方だと、出したくても出せないというニュアンスなんだけど。
「遊びに? 神が?」
「そうだ。この世界は神ではない者達が作った世界だ。だから世界が半分しかなかったんだ」
「はっ。世界が上手く作れなかったから言い訳か? この世界は神力で維持されていた。つまり神が関わっている事は隠しようがない事実だ」
あっ、それは俺の力だ。
似ているが、よく感じ取ると神力とは異なるんだが……分からなかったのか?
それにしても、オアジュ魔神は思い込みの激しい部分があるな。
こうだと思い込むと、それ以外は認めないというか……あの性格の者の説得は時間が掛かるんだよな。
今はかなり興奮しているし。
少し冷静になるまで、話しかけないほうがいいよな。
「主」
「ん?」
テフォルテを見ると、少し困惑した表情をしている。
どうしたんだ?
「我が知っている全ての魔神を思い出してみたのだが」
「うん」
紹介してもらえるかな?
「オアジュ魔神の力は少し特殊なのだ。あの力と似た力を持った魔神は……言いにくいが個性的な者が多い」
個性的?
何だろう、厄介な魔神しかいないと言われているような気がするのは。
テフォルテを見ると、情けない表情をした。
「話が通じそうなのは……」
「「「……」」」
いないの?
えっ、本当に1柱もいないの?
「個性豊かみたいだな」
「そうだな。個性的すぎて魔神たちが2柱以上集まる事は無いからな」
「マジ? でもどうして?」
個性的だとしても、集まって話ぐらいは出来るだろう。
「あんなのが数名集まればどうなるか、分かるだろう?」
あんなのが数名?
テフォルテの視線を追うとオアジュ魔神。
あれが数名。
「テフォルテは大変なところにいるんだな」
「いや、我も似たような……あれ?」
テフォルテが3匹同時に首を傾げる。
やっぱり可愛い!
……駄目だ。
「撫でていいか?」
撫でまわしたい!
「ん? 我をか?」
「そう」
「おかしな事を言うな。まぁいいが」
「ありがとう」
中央にいるテフォルテに手を伸ばす。
おぉ、見た目以上に毛が固いな。
カルトたちの毛はふわふわなのに。
大人になると、毛が硬くなるのか?
「どうした?」
「カルトたちに比べると毛が硬いんだなって思って」
次に右のテフォルテに手を伸ばす。
同じように硬い毛だ。
「あぁ、全体に身体強化を掛けているから、毛が硬くなっているんだろう」
「そうなんだ」
身体強化で?
コアに身体強化を掛けても、毛が硬くなることは無いけどな。
闇の魔力の特徴なのかな?
右のテフォルテの目がちょっと細くなっている事に満足して、最後に左のテフォルテに手を伸ばす。
同じ名前だと分かりにくいな。
そして、左のテフォルテもやっぱり毛が硬いや。
「ありがとう」
大満足。
「気持ちがいいものだな」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
気持ちいいなら次もお願いしやすいからな。
「あぁ、さっきから煩い! 既にこの世界の核は俺の魔力が必要なんだ! それは変わらない。そう言えば、ここは異様に無駄な者が多いな。少し減らすか」
凄く嫌な予感がするな。
無駄な者?
それは誰の事だ?
「やめろ!」
フィオ神の慌てた声が届く。
「はっ、どうせ何も出来ないんだ。そこで指でも咥えて待ってろ」
マジでやばいな。
えっと、
「森全体に結界! 仲間に結界!」
「壊せ!」
俺の言葉に、オアジュ魔神の声が重なる。
それでも少し俺の方が早かったのだろう。
体から光が溢れると、森全体が光に包まれたのが見えた。
同時に仲間達にも結界が施されたのが見えてほっとした。
「間に合った」
パリンッ。
「えっ」
オアジュ魔神の傍にいた、アイとチャイの結界が砕かれたのが見えた。
その瞬間、黒い靄が2匹に襲いかかる。
「ちっ、何だこの結界は! 邪魔だ!」
オアジュ魔神の声が遠くに聞こえる。
アイとチャイの姿は見えない。
ただ、黒い靄が見える。
「…………」
嘘だよな?
「もう一度――」
もう一度?
何をするつもりだ?
「止めぬか。馬鹿が!」
テフォルテの声に、黒い靄から視線を移動させる。
「ぐっ、何をする!」
オアジュ魔神がテフォルテの2匹に噛みつかれているのが見えた。
「離せ!」
「これ以上何もするな!」
「何を馬鹿な。この世界は既に俺の物だ。俺が自由にして何が悪い」
俺の物?
どうして?
あぁ、魔神力が必要だからか。
「落ち着け」
黒い靄に視線を向ける。
まだ、そこにあるなら中にはアイとチャイがいるはずだ。
「チャイ」
コアの叫び声が耳に入った瞬間、目の前がぐらりと揺れた。
「主!」
親玉さんが俺の体を支えたのが分かる。
しっかりしろ。
そうだ、助けないと。
「「鬱陶しい」」
えっ?
今の声は知っている。
さっきも聞いたし、今日の朝は挨拶もした。
「なんだと!」
オアジュ魔神の驚いた声に、視線を向ける。
黒い靄が晴れていく。
そして中から、少し疲れた表情のアイとチャイの無事な姿が見えた。
「よかった」
体から力が抜ける。
本当に良かった。
「大丈夫なのか?」
コアの不安そうな声に、チャイたちのもとへ行く。
「チャイ、アイ。体に異常は無いか?」
チャイの頭を撫でると、少し毛がパサついている。
いつもは柔らかくて気持ちがいいのに。
アイの方も同様に毛並みが悪くなっている。
だが怪我などはしていなかった。
「主、大丈夫だ」
「私も、問題ない」
チャイとアイが体を寄せてきてくれる。
「結界が割れてしまったんだ。ごめんな」
良かった。
「なんでだ? なぜ魔神の力をぶつけたのに生きていられる?」
オアジュ魔神の言葉にふつふつと腹の底から黒い物が浮き上がってくる。
それを表に出しては駄目だと気付くが、どうにも抑えられない。
何度か深呼吸を繰り返す。
だが、ふつふつと俺の内から湧き上がってくるのが分かる。
「主、落ち着け」
飛びトカゲが慌てた様子で俺の前に来る。
「主の本気の力と魔神力がぶつかれば、この世界への影響がデカい」
目を閉じて気持ちを落ち着かせる。
「くそっ。今度こそ消してやる!」
あ゛っ?
「オアジュ魔神!」
「主!」
テフォルテの叫び声と飛びトカゲの慌てた声。
「主、落ち着いて!」
ロープの声も聞こえているのに、内側から溢れる何かを抑えられない。
「あのク――」
「黙れ、この屑が!」
誰かの声と共に、空中にバチバチと火花が散った。
「……えっ?」
目の前の火花に、溢れようとしていた何かがスーッと落ち着いていくのが分かる。
というか、誰の声だ?