作品タイトル不明
60.まだ、強くなってるのか?
「死ぬはずだった?」
アイオン神から驚きの言葉が飛び出したので、スミレとモモを凝視してしまった。
2人は、俺の視線に気付いたのかパタパタとこちらに飛んでくる。
そう言えば、いつの間にか視線が合うと傍に飛んでくるようになったな。
手を伸ばしてくるので、手を上げて見るとぱちんと小さい手を順番に当ててきた。
それに満足したのか、「きゃっ」「きゃっ」と笑うと元の場所に戻って行く。
なにこれ、可愛い。
「可愛いな」
「だろ?」
アイオン神の言葉に、満足して頷く。
始めの頃は光をぶつける遊びを繰り返していたが、それもいつの間にかしなくなってたな。
何気に、上でくるくる回る魔石とぶつかってきらきらと綺麗だったんだよな。
もう、あれは見られないのかな?
「この2人がいたのは、 白帰箱(はくきばこ) だったんだよな」
白帰箱?
「なんだそれ?」
「えっ?」
アイオン神が驚いた表情で俺を見る。
そんな表情をされても分からない。
2人がいた……棺桶の事か?
「棺桶の事か?」
「か、棺桶! 確かに形は似ているが違うぞ。ふわふわが、天使たちが入っていたのは白帰箱だと言っていたから間違いなく白帰箱だ」
「へ~。まぁ、棺桶にしては透明で綺麗すぎるか」
俺の言葉に唖然とした表情をするアイオン神。
もしかして、重要な箱なのか?
「そんなすごい箱なのか?」
「あぁ。天使にとっては、とても重要な役割がある」
どうやら白帰箱は特別な箱らしい。
「どんな力があるんだ?」
「天使の記憶を白紙に戻したり、消滅させる時に使用する特別な物なんだ」
思ったより重要だったな。
それにしても、記憶を消す?
何か罰的な感じか?
それに消滅って……何をしたらそんな罰が下るんだ?
「罰が厳しくないか?」
俺の言葉に首を傾げるアイオン神。
「罰?」
「何かをやらかしたから、罰で記憶を消したりするんじゃないのか?」
「違う! 罰ではない!」
アイオン神の言葉に少し驚く。
罰ではないのに、記憶を消したり消滅させたり?
「白帰箱は、天使たちの最後の救いだ」
「救い?」
えっ?
白帰箱が救い?
どこが救いなんだ?
「天使たちは、人と多くの時間関わる事になる」
「そうなのか?」
前の世界で天使なんて見た事ないが。
何処かにいたのかな?
あっ、姿が見えないとか?
「そのせいで、心の疲弊がすごいんだ。そのため、耐えられなくなった場合に白帰箱を使用してリセットするんだ」
リセットね~。
どうも命のある者に使う言葉ではない気がするが。
アイオン神を見る限り、それには何も感じていないな。
これが神の感覚なのだろうな。
「白帰箱に、天使を子供にする力はない」
予想外みたいだったから、それは何となくわかっていた事だ。
部屋の中をくるくると飛び回っているモモとスミレを見る。
でも、子供になっちゃったんだよな。
「見習いたちは失敗した時には、白帰箱の力を使って天使を消滅させようとしたんだと思う。もしかしたら、彼らを利用した神に助言されたのかもしれないが」
アイオン神を見ると嫌悪感が窺えた。
見習いたちを利用した神が、嫌いみたいだな。
「天使たちを平気で消滅させるような神なのか?」
「あぁ。あれは迷いなく実行する。自分が不利にならないためには、なんでもする奴だ」
……神の話だよな?
「翔、白帰箱に何かしなかったか?」
アイオン神の言葉に、スミレとモモを見つけた時の事を思い出す。
俺が何か……蓋を落下させて壊した事以外に、思い当たる事は一切ない。
あの蓋だって、チョンと押しただけで落下したんだから……でも、あれのせいなのかな?
もっと慎重に開けるべきだった。
「何かないか?」
アイオン神が俺をじっと見つめてくる。
白帰箱を壊した俺としては、ちょっと居心地が悪い。
もしかしたら、それが原因かもしれないんだし……。
「蓋が勝手に落ちたぐらいしか思いつかない」
「ん? なんて?」
「だから! 蓋を開けようと思ってチョンと触れたら、勝手に落ちたんだよ」
やはりこれが原因か?
でも、2回目の時はかなり慎重に開けたのに落ちたんだよな。
あれ以上は無理だ。
「触れたら勝手に落ちた?」
アイオン神が、唖然とした表情をしている。
あ~、この顔の時は俺にとってあまり良くない時だ。
何かやらかしているな。
次は何だ?
「白帰箱は何重にも魔法が掛かっていて、天使が目を覚ますか消滅しないと蓋は開かない」
「へ~」
開いたけど。
それは見事に、止める間も無くあっさりと。
「それが触れたら勝手に落ちた?」
何だかアイオン神の顔色が悪いな。
すごく嫌な予感しかしない。
頼むから、これ以上の不安要素は要らないからな。
頼むぞ!
「白帰箱の力が翔の力に屈服した?」
ん?
屈服?
「アイオン神? 白帰箱には意思があるのか?」
「無いが、力には反応する。おそらく翔には力負けすると考えて、希望を叶えたんだろう」
だから、あんな簡単に蓋が開いたんだ。
希望を叶えてくれたのは嬉しいが、壊れる事はなかったような気がする。
「しかし、そうなると翔の力が気になるな」
俺の力か。
そろそろ俺も自分の力について、しっかり知っておくべきなんだろうな。
今までは、何とかなってきたが。
いや、なっていないな。
俺の力のせいで、皆が強くなってこの世界に悪影響を及ぼしているんだった。
「飛びトカゲたちの復活した力を見て、何か感じた事はあるか?」
飛びトカゲの復活した力?
魔力が満ちたって事かな?
それは良かった。
……あれ?
目の前で、魔法を使っている姿を見ているよな?
訓練で、色々魔法を使っているんだし。
どうして何も思い出さないんだ?
「まさか、何も感じていないのか?」
そうなるのか?
「いや、思い出せないだけだ」
「それは、自分の脅威にならないからだ」
脅威?
「仲間の力に脅威は感じないだろう」
「いや、力と言うのは本能で感じ取るものだから……少し待て」
アイオン神が少し下を向くと、すっと俺を見た。
何だろう?
彼女の周りが薄っすら光っているように見える。
初めて見るな。
まるでアイオン神が光っているみたいで綺麗だな。
ガタガタ。
「えっ?」
何かが倒れる音に、慌てて発生源へと視線を向ける。
そこには、飛びトカゲやコアがこちらをじっと見ている姿があった。
「どうしたんだ?」
警戒をしている様子に首を傾げる。
何かあったのか?
「マジか……」
アイオン神の声に、彼女へと視線を戻すとなぜかテーブルに項垂れていた。
飛びトカゲを見る。
アイオン神を見る。
何があったんだ?
「脅威を感じなかったのか?」
「うわっ」
アイオン神はテーブルをバンと叩きつけると、俺に向かって顔をぐっと近付ける。
急な行動に驚きつつ、何とか頷く。
その結果を見たアイオン神が、不服そうな表情を見せる。
誰でもいいから、説明してくれ。
「主、アイオン神の力に怖さを感じなかったのか?」
飛びトカゲが、アイオン神を睨みつけながら言う。
「えっ?」
アイオン神の力を怖いと?
「……いや。全く」
体を包むように現れた光は綺麗だったが、怖くはなかったな。
「……全く? 本当に、全然?」
アイオン神が、なんだか懇願するように訊いてくる。
「全然怖くなかった。それより何なんだ?」
俺の言葉に、頭を抱えてしまうアイオン神。
駄目だなこれは。
飛びトカゲを見ると、呆れた表情で彼女を見ていた。
「飛びトカゲ。悪い、簡単に説明を」
「あぁ。簡単にか……本能が自分より相手の方が強い力を持っていると感じると、自然と警戒をしてしまうんだ。勝手に体が反応する感じだな」
なるほど。
「つまり俺は、アイオン神より強い力を持っているという事か?」
そういう事だよな。
ん?
全く嬉しくない情報だな。
アイオン神って上級神だよな?
「いつの間に、私より強くなったんだ?」
いつの間に?
それはどう言う意味だ?
「前は俺の方が力が弱かったのか?」
「あっ……」
俺の言葉にアイオン神の視線が泳ぐ。
「アイオン神、無断で力を調べるのは駄目だったと思うが?」
飛びトカゲが、アイオン神に顔を近付ける。
「あ~、その~……悪い」
飛びトカゲの尻尾が、アイオン神の頭に落とされる。
バチンと言う音がリビングに響く。
「相変わらず、石頭だよな」
飛びトカゲの尻尾の攻撃を受けて、平然としてるんだから。
「違う! これは防御魔法で防いでいるからだ! さすがに龍の攻撃は、私でもただでは済まないからな!」