作品タイトル不明
33.まさか……
「大丈夫そうだな」
ヒビをモルタル魔力で埋めてから20分ぐらい。
濁った魔力が、にじみ出てくる気配は無い。
ただ、もうしばらく様子を見た方がいいだろうな。
「きゅっ」
ん?
巨大ゲンゴロウの鳴き声に視線を向けると、湖から出てくる姿が見えた。
口に黒い丸い物を銜えている。
「それは?」
「きゅっ」
俺の前に来た巨大ゲンゴロウは、口に銜えていた物を俺に向かって転がす。
なんだろう……丸い塊。
あっ、もしかして湖の底の転がっているはずの、濁った魔力を固めた物か?
「湖の底から、取ってきてくれたのか?」
「きゅっ」
嬉しそうに鳴く巨大ゲンゴロウの頭を撫でる。
想像したより、柔らかいんだな。
「ありがとう」
巨大ゲンゴロウが持って来てくれた、濁った魔力を固めた物を手に取る。
手に触れた瞬間、気持ちの悪い物に触ったような不快感を微かに覚えた。
「ん?」
濁った魔力が外に漏れているのかと思ったが、気持ち悪く感じたのは触った一瞬だけ。
手に持っていても、特に不快に感じる事はない。
それに首を傾げながら、直径10㎝ほどの黒い球体を見る。
「なんだ?」
なぜか黒い球体を見ていると、ぞくっとした寒さを感じた。
慌てて球体から視線を逸らす。
先ほど触れた時に感じた気持ち悪さ以上の何か得体のしれないモノを感じた。
深呼吸をして、もう一度黒い球体を見る。
やはり感じる。
何だろう?
じっと黒い球体を見つめていると、どんどんと不安感が増していく気がする。
気分が悪いな。
「ふぅ」
黒い球体を両手で隠すように持つ。
「主。ものすごく不穏なモノを感じるな」
水色が両手で隠した黒い球体に視線を向けながら、嫌そうに言う。
それに頷く。
確かに不穏なモノを感じる。
不安を煽るような、なんというか……。
「じっと見ていると気が滅入りそうになったよ」
俺の言葉に水色が頷く。
「確かに。見ているだけなのに不安に襲われた」
水色も俺と同じような感覚になったという事か。
両手の中の黒い球体を見る。
指の間から見えるそれが、とても怖いモノのように見え体が一瞬びくりと震えた。
こんな事は初めてだ。
何だろう?
目が離せない……。
……全て壊したい。
「主! 大丈夫ですか?」
一つ目の、いつもより少し大きな声にハッとする。
何だ?
あれ?
周りを見渡すと、一つ目たちに水色、巨大ゲンゴロウまでもが心配そうに俺を見ている。
少し離れたところで警護しているフェンリルたちも、こちらの様子を窺っている。
「あぁ、大丈夫だ」
両手で隠した黒い球体を見る。
俺はさっき、これを見ながら「全てを壊したい」と確かに考えた。
だが、それは俺の意見ではない。
まるで、誰かに意識を乗っ取られたような……。
コアが以前、乗っ取られそうになったことがあったな。
あの時は、小さい2㎜程度の異物が原因だったよな。
黒い球体を見る。
「異物キャッチ」
魔法の発動と共に、黒い光が黒い球体を包みこんだ。
「うわっ」
慌てて手を放すと土に落下してしまう。
しまった。
拾おうとするが、黒い光は消えていないのでそのまま様子を見る。
しばらくすると、ゆっくりと黒い光が消えていった。
「黒くない」
黒い光が消えると、淡い青色の丸い球体が転がっていた。
それを手に取ると、黒い球体の時に感じた不快感は無い。
「青い魔力?」
異物を取り除いて残ったという事は、これが魔力なんだろう。
だけど、魔力に色がついている事に首を傾げる。
俺の魔力も、フェンリルたちの魔力も色なんて付いていたっけ?
見やすいように色を付けた事はあるけど……。
でも、異物を除いて残ったんだから……これが魔力なんだよな。
あれ?
「あっ! また濁ってきた!」
淡い青い色の魔力が、見る間に濁り始める。
一番濁りのひどい所を見ると、黒い小さな何かが転がっている。
おかしい。
異物キャッチの魔法でしっかり固めたのに、なんでまた濁り出すんだ?
「あっ!」
濁り始めると、手に持った球体から先ほど感じた不快感にまた襲われた。
「さっきの魔法で一度は固まったんだから、魔力からしたら異物が混ざっているという事だよな? 集めて固めたのに、固まらず再度広がった。コアの時の異物は神力だった。魔力に混ざっているのは神力ではないという事か」
どんどん黒くなっていく球体を見て、ため息を吐く。
どうしたらいいんだ?
じっと球体を見ていると、まだ真っ黒ではないためか不快感が先ほどより軽めだと気付く。
まぁ、こんな事に気付いても意味はないが。
ん?
でも、この不快感……以前も経験しているような気がする。
そう言えば、濁った魔力を初めて感じた時も、似たような事を思ったな。
以前に知っていると。
「どこでだ?」
こんな体の芯を冷やすような不快感は日本では感じたことは無い。
つまりこの世界に来てからだ。
……色々あったからな、この世界に落ちた時から。
ん? ……落ちた時?
そうだ、森に落とされた時に感じたあの不快感に似ていないか?
あれはたしか、森を覆っていた黒い影に感じたんだよな。
あの時はあれが何か分からなかったけど、今は分かる。
あの黒い影は、魔眼による呪いだ。
「呪い?」
そう言えば、湖から大量に濁った魔力が溢れた時、まるで人の叫び声のような音がしたよな。
もしあれが本当に叫び声だったら?
湖に視線を向ける。
ヒビを綺麗に修繕できたのか、気泡は上がってこない。
手の中の黒くなってしまった球体を見る。
「浄化?」
疑問形になってしまった。
「あっ」
白く淡い光が黒い球体を包み込むと、空中にふわっと浮く。
「浮いた!」
手を伸ばして取ろうとしたが、浄化中かもしれないと手を引っ込める。
水色と一つ目たちが、浮かんだ球体を不思議そうに見つめている。
「主、何をしているんだ?」
「浄化だよ」
「浄化……」
水色が少し嫌そうな声を出す。
どうしたんだ?
「浄化とは綺麗にすること。 清浄にすることですよ。他にも心身の罪やけがれを取り除くことでもあります」
水色に一つ目の1体が自信をもって答える。
まぁ、正解といえば正解なんだけど。
この場合は少し違うかな。
「それは知っている。そうではなくて……濁っていたのは汚れていたからだよな?」
水色が「そうであってほしい」という感じで俺に訊く。
それに首を傾げる。
本当に、どうしたんだ?
「いや、呪いだと思う。魔力に呪いが混ざっていたから、濁っていた可能性が高いと思うんだ。だから浄化で呪いを解いてみたんだよ。これで魔力が綺麗になるかもしれないから」
「……呪い……」
水色が俺の説明に肩を落とす。
そう言えば、水色たちは魔眼の呪いにずっと苦しんでいたんだった。
ふっと浮かんでいた球体から、淡い白い光が消える。
視線を戻すと、球体はゆっくりと落下して地面に落ちた。
慌てて近づき、球体を拾う。
「あっ! 透明だ」
異物キャッチでは淡い青色の丸い球体になったが、今手の中にあるのは透明な球体。
目の高さまで持ってくると、じっと中を覗き込む。
何処にも濁りがない。
しばらく様子を見るが、濁りが戻ってくる事はないみたいだな。
つまり、魔力に混ざっているのは呪いで間違いないという事になる。
「まさか、本当に呪いだったとは」
魔眼の呪いでさんざん苦労……してないな。
知らない間に呪いは完全に消えてたし。
それにしても、なんで気付かなかったんだ?
あれだけ魔眼の呪いに関わって来たのに。
「主? 本当に呪いか?」
「あぁ。核の周辺にある魔力を濁らせている原因は、呪いで間違いないだろうな」
俺が「呪い」と断定すると、水色の体がびくりと震える。
「そうか。呪いなのか」
水色が嫌そうに、球体から体を離す。
きっと触れたくもないんだろう。
しかし、また呪いか。
でも、浄化魔法は慣れている魔法の1つだ。
思ったより早く核の周辺の濁りを解決できるかもしれないな。