作品タイトル不明
03.穏やかな日常
食後のお茶をゆっくり飲みながら、リビングを見回す。
朝の食事風景にも随分となれた。
子供たちが急に増えた時は慌てたが、さすがは一つ目たち。
数日もすれば、一つ目が上手に回してくれるようになった。
今も、子供たちは一つ目たちの言う事を聞いて、ゆっくりと食事を楽しんでいる。
まぁ、時々は隣同士に座った子供たちで小競り合いはあるが、賑やかだが穏やかな食事風景だ。
来た当初は自由に飛び回っていた子天使たちも、今は落ち着いたのかいい子だ。
ただ、なぜか来た当初より子供っぽい行動が増えた気がする。
それは、アイオン神が連れてきた子供たちも同様の事が言える。
年齢は8歳だと聞いたのだが、行動がもっと幼い気がする。
ただ、小さい子供と関わってこなかったため、ただの気のせいの可能性もあるが。
まぁ、なんにせよ元気なのであまり気にしない事にしている。
子天使たちも子供たちも、大人だったのに神様や見習いたちの被害にあって今の姿になっている。
何か後遺症が出たっておかしくないのだから。
元気であればそれでいい。
「太陽、月、紅葉。自分の分以外に手を出さない」
クウヒの、ちょっと咎めるような声に視線を向ける。
「え~、駄目?」
「駄目。もしもっと食べたいとしても人の物を取ったら駄目。欲しい時は一つ目たちに言って!」
クウヒの言葉に紅葉が近くにいる一つ目を見る。
が、見られた一つ目が首を横に振る。
その様子を見て首を傾げる。
別に、食べさせてもいいと思うんだけど。
「駄目なの?」
紅葉が悲しそうな表情で一つ目を見つめている。
「駄目です。昨日の夜にお菓子を食べ過ぎています。なので絶対に駄目です」
夜にお菓子?
「む~……」
「紅葉、諦めた方がいい。俺たち3人が盗み食いしたのばれているみたいだ」
太陽の言葉に、紅葉と月がちょっと視線を彷徨わせる。
盗み食いしたのか。
そうだよな。
夜はお菓子ではなく、果物を食べるように言ってある。
一つ目たちも、そうしてくれている。
たまに、夕飯の後にお菓子が出てくるときもあるが、昨日はそれは無かった。
「太陽、月、紅葉」
「「「はい」」」
俺の言葉に、3人の背がぴんと伸びる。
なんでかな?
怒鳴りつけた事も無いのに、注意をしようとするとやたら怖がられる。
いつからだっけ?
気が付いたら、こうなっていたんだよな。
無意識に何かしたとか?
いや、それは無いよな。
3人を見る。
椅子の上で背を伸ばし、恐々と俺の様子を窺っている。
ん~、注意がしづらいが、駄目な事をしたんだから言っておかないと駄目だよな。
「盗み食いをしたのか?」
「「「はい。ごめんなさい」」」
3人の頭が下がる。
いじめている気分だ。
「頭を上げて良いよ。どうしてそんな事をしたんだ?」
とりあえず、これ以上怖がらせないようにしないとな。
「えっと、お腹が空いて……ね」
月の言葉に太陽と紅葉が何度も頷く。
「お腹が空いた時、誰かに相談したか?」
3人の首が横に振られる。
勢いよく振っているので、ちょっと怖い。
「今度から一つ目たちに相談してみるといいよ。一つ目たちもいいかな?」
話を聞いていた一つ目がいたので、話を振ってみる。
「もちろんです。小腹が空いた時のお菓子がちゃんとあります」
あるんだ。
それにびっくりなんだけど。
「そうなの?」
3人が一つ目を見ると、一つ目はしっかりと頷く。
「主がいつお腹を空かせるか分かりませんから、しっかり準備はしております。相談していただければそちらを融通いたしますので大丈夫です」
俺のため!
というか、いつお腹を空かせるかってそんなに食い意地張ってないよな。
自分の行動に不安がこみあげるんだけど。
「主?」
一つ目の声に視線を前へ戻す。
「どうした?」
「主の物を利用しますが、問題ないですか?」
「もちろん、大丈夫」
この一つ目、一番丁寧に対応してくれる子だ。
「それは、良かった。次からは声を掛けてください」
一つ目の言葉に太陽たち3人はうなずく。
そしてそっと俺に視線を向ける。
やっぱり怖がられているよな。
「分かってくれたらいいよ」
ずっと見ていると、可哀そうだな。
椅子から立ち上がると、朝の見回りに行く準備をする。
「主。見回りですか?」
「あぁ」
この見回りが必要なのかどうかは不明なんだけど、まぁ皆喜んでくれるので続けている。
エコのように根を張って動けない子もいるし、エコの周りにいるナナフシたちは、問題が無い限りはここまで来ないしな。
「お気をつけて」
「行ってくる」
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
手を振ってリビングを出ると、玄関へ向かう。
いつの間にか改装された廊下と玄関。
元々広かった廊下はもっと広くなり、玄関は高さ2m以上ある大きな扉を持つ引き戸になっていた。
扉1枚1枚が大きく、初めて見た時はかなり驚いた。
重さを心配したが、大きな扉は重さを感じさせないほど滑らかにレールの上を滑った。
「畑の様子からだな」
外に出ると、広大な庭を通りすぎて畑に向かう。
「広すぎ」
既に何度も言った言葉が今日もこぼれる。
誰とも意思の疎通ができなかった名残なのか、独り言がやめられない。
気が付いたら口から言葉が出ている。
注意はしているが……。
「ほぼ2年。言葉が通じなかったからな~」
腕を上に伸ばして、背筋を伸ばす。
空を見ると、綺麗な青空。
今日もいい日になりそうだな。
「おはよう」
「「「「「おはようございます」」」」」
朝から畑で作業をしている農業隊。
畑は緑で覆われて、青々したその様子に順調に野菜たちが育っているのが分かる。
俺は、畑から少し離れた場所に立ち、農業隊たちと畑にいる土のアメーバたちを見る。
アメーバたちが精霊だと聞いた時は驚いたものだ。
だって、どう見たって顕微鏡の中で見たアメーバにそっくりだったから。
そして日本では精霊と言えば、もっと可愛らしいイメージだったから。
アメーバはアメーバで可愛いが、ちょっと違うと思う。
「あっ、孫蜘蛛たちや孫アリ達もいるのか」
葉っぱの陰に隠れていたが、孫蜘蛛たちと孫アリ達も畑仕事を手伝っているようだ。
孫蜘蛛たちの視線が俺に向いたので、手を振ると作業を止めて前足を振ってくれる。
「可愛いよな」
孫蜘蛛たちの様子に気付いた孫アリ達が視線を俺に向けると、孫蜘蛛たちのように前足を両手で振る。
放っておくといつまでも続くので、場所を移動することにする。
「いつもありがとうな」
畑に向かってお礼を言うと、エコのいる池に向かう事にする。
家を囲う川の様子を見ながら歩くと、水のアメーバが次々と顔を出す。
それに声を掛けながら歩くと、大きな池に出た。
最初の頃の池に比べると、かなり大きくなった池。
ただ最初から変わらず、川も池も水はとてもきれいだ。
アメーバ以外の不思議な生き物を、池の上からでも十分に見る事が出来るほど。
「……巨大なナマコがいる。あっ、歩くイソギンチャク?」
まぁ、色々な生き物がいるようだ。
池を覗き込んでいると、かさかさと音が聞こえた。
視線を向けると、大木の上にナナフシたちの姿がある。
「おはよう」
ナナフシたちは嬉しそうに俺を見ると踊りだす。
交渉のすえ、約5分弱。
これぐらいなら、毎日でも楽しめる。
「今日も可愛かったね。ありがとう」
ナナフシがいる大木に手を当てると、ゆっくりと魔力を流す。
さわさわと木々が揺れ、風がふわっと通り抜ける。
エコが喜んでいるのが伝わってくる。
手を離し、大木を見上げる。
葉っぱの間に見える白い蕾。
「まだ、咲かないな」
蕾をつけた時、飛びトカゲたちがかなり焦っていた。
聞くと、エコが花をつけるのは初めての事らしい。
「いつ咲くのか楽しみだな」
みんなは慌てていたが、俺は花が咲くのが楽しみになっている。
「さて、毎日の日課の終了。皆、また明日」
今日は何をして過ごそうかな。
そう言えば、アイオン神がまた来るとか言っていたのはいつだったかな?