軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14.ザワークラウトジュースとプラリネ、再び

「なるほどヴェネスカ卿のお力なら可能でしょう。我が軍もスロラン軍もリーディア・ヴェネスカを忘れてはおりません。その姿に友軍は歓喜し、スロラン軍は恐怖した」

とキラーニーは当時を懐かしむように言う。

「だが、私は……」

もう戦えないのだ。

アルヴィンはチラリと周囲を見回した後、フィリップ様に向かって小さく頷く。

フィリップ様はそれを受けて、

「キラーニー、君にだけ伝えておきたい内密の話がある」

と人払いを要求した。

「しかし……」

ルミノー側の家臣達はこれに不快感を示したが、

「お前達、下がってくれ」

とキラーニーからも促されると部屋を出た。

彼らが退出した後、

「リーディアは、王太子殿下暗殺未遂事件の際に負った怪我が原因で魔法はほとんど使えなくなりました」

私が言えなかった言葉を、アルヴィンが口にする。

キラーニーは驚きを露わにした。

「なんと! では、もう戦場には立てぬのですか?」

「答えは『はい』であり『いいえ』です。スロラン軍はその姿を目にしただけで、白い悪魔、リーディア・ヴェネスカの伝説を思い出すでしょう。そこに付け込みます。ゴーランで療養し、リーディアの魔力は完全に回復したと噂を流します」

「?」

キラーニーは首をかしげる。

良くも悪くも彼は奇策など用いない実直な性格なのだ。アルヴィンの企みは彼には想像も出来ないものだろう。

「前回前々回はリーディアが参戦したすぐ後で、停戦となった。そうですね?」

アルヴィンの問いにキラーニーとサーマスが同時に頷く。

「はい」

「リーディアは巨大な光属性のゴーレムを三体同時に召喚したとか」

「そのとおりです」

「あんなもの、初めて見た。スロラン軍はたちまち逃げ出しましたよ」

「その光景を再び作り出せば、スロラン軍は震え上がるでしょう」

「それはそうです」

「でしょうね」

キラーニーとサーマスは賛同した。

「でも、アストラテート、どうやって?」

フィリップ様がアルヴィンに好奇心満載で尋ねる。

サーマスも言った。

「そうです。あんな真似が出来るのは、セントラルの騎士でもリーディアだけです。いくら魔法使いをかき集めたって無理だ」

「同行させた鍛冶職人に大きな木偶人形を作らせます。それに油をたっぷりまぶして燃やせば……」

「遠目では光の巨人に見えるかも知れないね」

フィリップ様が目を輝かせる。

アルヴィンは頷いた。

「そういうことです」

「でもリーディアのアレは動きましたよ」

サーマスがアルヴィンに言った。

「一体だけなら、台車に乗せて引くくらいのことは出来るだろう」

「あー、そういう……」

「確かに敵軍からはヴェネスカ卿が見参し、その力を振るったように見えるか……」

キラーニーが呟いた。

「ヴェネスカ卿の背後には大軍が控えている。ヴェネスカ卿を倒したところで、スロラン軍に勝ち目はない。うむ、この作戦ならスロランも降参するでしょう」

それまでしょぼくれていたキラーニーの目に力がこもる。

「このキラーニー、力の限り戦います。ですからどうか、フィリップ王太子殿下、この戦争を終わらせ、和平の道をお示し下さい」

フィリップ様はキラーニーに力強く頷いた。

「必ず、そうしよう。共に戦い、このルミノーに平和を取り戻そう」

話はまとまり、解散となりかけたが、「その前にお尋ねしたいことが」とキラーニーが我々を呼び止めた。

「あの、ヴェネスカ卿とアストラテート辺境伯の関係は?」

問われて私とアルヴィンに視線が集まる。

アルヴィンは堂々と答えた。

「恋人です」

「えっ、そうなの? リーディア」

「そうだったのか? リーディア」

フィリップ様とサーマスはショックを受けていた。そういえば、きちんと話してなかったな。

話そうとしたんだが、時間がなかった。

昨日の今日で進軍という前代未聞のスケジュールで皆大わらわだったのだ。

「そっ、そうですか」

キラーニーも肩を落とした。

どうでもいいがキラーニーは一度中央貴族のご令嬢と結婚したが、夫人が南部に馴染めず、すぐに離婚したそうだ。再婚はまだで独身である。

「私とリーディアは婚約しました。この戦いが終わったら結婚する予定です」

続けてアルヴィンは誰もそこまでは聞いてないことまで言い出した。

「えっ、そうなの? リーディアさん」

ずっと側で控えていたノアまで驚いている。

「急な話だけど、そうすることにしたんだ」

本当は婚約どころか結婚を主張する私をアルヴィンが「婚約でいい」と止めたのだ。

「結婚式もしたいし、リーディアのご両親のところにきちんとご挨拶に伺いたい」と言ってくれた。

「ヴェネスカ卿がセントラル騎士団を退役したと聞き、ずっと行方を捜していたのですが、どうやら私は遅かったようですね……」

キラーニーは落胆した様子である。

優秀な騎士は自領にスカウトしたいものだからな。キラーニーは私が魔術回路を損傷したことも知らなかったようだし、騎士として召し抱えるつもりだったようだ。

***

その後、すぐに解散になった。

アルヴィンとキラーニーは今後の作戦計画を説明するためにそれぞれの陣営に戻っていった。

残った我々は、というと、

「……リーディアがゴーラン辺境伯と婚約……」

何故かサーマスが落ち込んでいる。

「おい、前線にいるんだぞ。しっかりしろ」

発破をかけると、フィリップ様が「リーディア、今日は落ち込ませてあげてくれ」と彼を庇った。

「フィリップ殿下がそうおっしゃるなら……」

「リーディアさん、どうします? 少し休みますか?」

レファにそう問われた私はフィリップ様を誘う。

「殿下さえよろしければ、要塞の中を御案内しましょう」

「リーディアが?」

「はい。ここには何度も来ているので詳しいんです」

ルミノー側の許可を得て、私達は要塞の中を歩いた。

「向こう側はすべて兵の宿舎になってます」

「随分大きな砦だね」

「紛争は既に十年以上続いております。増築を重ねてこの規模になったようです」

二千人ぐらいの兵が寝泊まり出来るかなり大きな要塞だ。

今、常駐している兵は三千人ほどと聞いたが、宿舎の方を見て、フィリップ様が不安げに呟いた。

「でも私が知っている軍とは様子が違う……。ルミノー軍は皆具合が悪そうだ」

「そうですね……」

宿舎から苦しそうな咳が聞こえてくる。

「リーディア様」

とアルヴィンの部下のデニスが駆け寄ってきた。

「リーディア様、ここでしたか、すぐに殿下とお部屋にお戻り下さい」

「どうしました? デニスさん」

デニスは声を潜めて理由を教えてくれた。

「今、要塞でタチの悪い風邪が流行っているみたいなんです。どうもスロランや西国から伝播してきたらしくて……」

私はピンときた。

「それってまさか……」

「多分、あれです」

「デニスさん、ザワークラウトは?」

「万が一に備えて大量に持ってきてます」

「ナッツは?」

「用意してます」

アルヴィンは風邪が今年も流行しないか警戒していたらしい。

回復魔法師も多めに従軍し、薬の用意も万全だ。

デニスと話を終えた私は、フィリップ様を振り返る。

「殿下、すぐにお部屋にお戻りを。サーマス、戻ったら手洗いとうがいだ」

「おい、リーディア、お前は? 一緒に行かないのか?」

「私は厨房に用がある」

「は? 厨房」

「そうだ。デニス卿とやることがある」

***

「滋養があるものなんて作りようがありませんよ。材料がないんですから!」

急いで要塞の厨房に向かい、料理人に備蓄の確認をすると、『これで一体何を作れと?』と言いたくなるような食材しかない。

料理人がキレ気味に叫ぶのも無理はない。

私は彼らに言った。

「皆、今までよく頑張った」

料理人の一人がまじまじと私の顔を見つめた。

「あんた……、いえあなたは、もしかして、リーディア様ですか? セントラル騎士団の……?」

「ああ、リーディア・ヴェネスカだ。今はゴーラン軍に属している。食べ物はゴーランからたっぷり持ってきた。皆で料理を作ろう」

ゴーラン軍には非戦闘員も多数従軍していた。

普段はゴーラン騎士団の食堂で料理を作る料理人はもちろん、フースの町や近郊の町のパン屋や料理屋なども来ている。フースの町は国境に一番近い町なので、こうした有事の際には召集される約束になっているらしい。

さらに冒険者の中で料理が得意な者と、料理が出来そうな人材が片っ端から集められ、要塞の厨房や仮設に作られたキッチンで腕を振るった。

なんせルミノー軍、ゴーラン軍合わせて八千人の食事を作るのだ。

メニューは具だくさんのシチューに焼きたてのパン。それとザワークラウトとその絞り汁、デザートはナッツに砂糖を絡めたプラリネだ。

フィリップ様と南と西の辺境伯は共に食事を取るが、その席に私も同席させて貰った。

フィリップ様もキラーニーもザワークラウトジュースを見て怪訝そうだった。

ちなみにサーマスは「まさかあれか……」とおののいている。何を隠そう、ザワークラウトジュースを私に教えたのはサーマスだ。

もっとも「じいさんの健康法」であり、本人の好物ではないそうだ。

「これ、何?」

「美味しくはないんですが、風邪に効きますよ」

フィリップ様はえいやと覚悟を決めて、ザワークラウトジュースを飲み干した。

「うぇえ、美味しくない」

「よく頑張りましたね、プラリネをどうぞ。こちらも体にいいそうですよ」

「これは甘くて美味しいよ」

フィリップ様はいくら豪勢な料理を食べても誰からも文句は言われないご身分だが、「リーディアが作った食事が食べたい」と兵と同じ食事を望まれた。

そうした心意気は通じるものだ。

ルミノー軍は、ゴーラン軍を友軍として受け入れた。