軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.妖精の道3

「こちらですじゃ」

妖精の道の入り口は、我が家から歩いて五分の森の中と、案外近くにあった。

ノームが指し示す方角に、薄暗い森の中でもひときわ暗い道が森の奥へと伸びている。

それが妖精の道の入り口だった。

一見何の変哲もないただの小路のようだが、よくよく見ると光がまったく差し込まない漆黒の暗闇がぽっかりと口を開けている。

アルヴィンの号令で一夜のうちに五千人がかき集められた。

我々はこの妖精の道を辿り、南部に向かう。

「ついてきてください」

ノームが小さい足でとてとてと歩いて、中に入っていく。

「まず私が」

続いて、私が行く。

私はセントラル騎士団の制服を模した白い騎士服を身につけていた。

既に在籍当時の制服は返還してしまったので、これは新たにアルヴィンが作らせたものだ。

隣には愛馬であるオリビアがいる。

足元が暗いところで騎乗するのは危ないので、オリビアは引いてゆく。

賢いオリビアは恐れもせずに妖精の道に向かって歩く。

「うわっ」

その時、緑の丸い小さな虫のようなものが一斉に私めがけて飛んで来た。

モゴモゴと動いてマントの内側に入り込んでくる。

「リーディアさん! うわわわっ」

ノアも同じ目にあったようだ。

「ノア!」

「心配しなくて良いわ、それはプーカよ。彼らもリーディアと一緒に行くって」

とバンシーが教えた。

「あの畑や森にいる緑の玉か」

虫の正体は、森や畑でたまに見かけるふわふわ浮いている小さな緑の玉らしい。

「プーカはとても役に立つ。きっと二人を守ってくれるはずよ」

バンシーが言うと、マントの内側に張り付いたプーカ達は「ピッ」と一斉に鳴いた。

……これに守って貰うのはあまり想像出来ないが時間もないことだし、一緒に行くことにした。

私はカンテラを下げたノームの後を追った。

トンネルを歩いた時間はどのくらいだろう。

明かりは先を行くノームのカンテラ一つ。

ほんの数分だったはずだが、真っ暗な道のせいか、途方もなく長い時間のようにも感じられた。

やがてトンネルの先に光が見えてくる。

「出口ですじゃ」

トンネルの向こうは、南部だった。

「リーディア、ここが南部か?」

無事に妖精の道を通過したらしいフィリップ様が駆け寄ってくる。

「はい、南部、国境近くと思われます」

南部ルミノーには幾度か派遣されたので山の形から何となく地形が分かる。ここは、南部でも南側。国境近くだ。

だが山々は変わりないが、辺りの様子は私が知る景色とどこか違う。

南部は平野が多く一面の小麦畑の向こうに、針葉樹の大きな緑の森が見えていたが、今は荒れ果てた畑に、森からは煤けたような匂いが立ちこめている。

「向こうに南部辺境伯軍の要塞があるはずだ、行こう」

アルヴィンが遠くに見える砦のようなものを指し示した。

先触れを出していたので、要塞の前では南方辺境伯クロフトン・キラーニーが、直々にフィリップ様を出迎えた。

金髪で茶色の瞳。

ガタイが良く、いかにも実直で大らかそうな、武人然とした男だ。アルヴィンと同じく彼も自領の兵を率いて戦う騎士団長だ。歳もアルヴィンや私と同じ二十八歳である。

ただ、アルヴィンの狼に例えられるような抜け目のなさは良くも悪くも持ち合わせていない。真っ正直で裏表のない性格なのだ。

「フィリップ王太子殿下、ようこそお越しで……」

キラーニーの声には、不審の色が見え隠れする。

南部平定のため進軍中の陣内で王太子が騎士一名と忽然と姿を消し、その後何故か西部辺境伯軍を伴いこの南部に現れた。

事実なのだが、にわかには信じがたいというか、非常に怪しいことが起こっている。

「キラーニー、先に出した手紙でも書いたが、西方辺境伯アルヴィン・アストラテートが自ら応援に駆けつけてくれた。彼は五千の軍隊を率いている」

「五千!」

フィリップ様のお言葉に、キラーニーは絶句した。

「まだ到着していないが、中央軍は五千五百。これだけの数が揃えば、スロラン軍を撃退出来るはずだ」

「はあ……」

キラーニーは混乱しているようだ。

その心中は手に取るように分かる。

喜ぶより数が多すぎる。噂に聞くゴーラン騎士団なら、南部そのものを乗っ取れる数だ。

「キラーニー辺境伯、お久しぶりです」

「……アストラテート辺境伯、わざわざのお越し、痛み入ります」

アルヴィンとキラーニーは挨拶を交わす。

多少、よそよそしいのは仕方あるまい。南部としては、手放しで歓迎出来ない相手である。

「キラーニー辺境伯、お久しぶりでございます」

「おおっ、ヴェネスカ卿、サーマス卿」

続いて挨拶した私とサーマスを見て、キラーニーはパッと顔色を明るくした。

この時私はアルヴィンが私を従軍させた理由を察した。

南方辺境伯キラーニーは無論王太子であるフィリップ様の顔は分かっている。

だが、フィリップ様が偽物か否か判別出来るほど親しくはないのだ。

誰かが悪意を持ってフィリップ様に似せた誰かを王太子に仕立てたら、キラーニーにそれを見破るすべはない。

その点、私とサーマスは幾度も従軍し、キラーニーとは同じ窯で焼いたパンを食べた仲なので、はっきり本人であると言い切れる。

ちなみにアルヴィンも辺境伯同士、知己の間柄ではあるが、この役には適さない。実は南部ルミノーと西部ゴーランは領地の一部が隣り合っている領なのだが間に深い山や谷を挟んでいることもあり、あまり親交を温める機会はなかったそうだ。

「ヴェネスカ卿とサーマス卿がお揃いということは、この方は……」

「フィリップ王太子殿下です。我らが保証します」

きっぱりと言い切るサーマスに、

「そうでしたか」

キラーニーは心底ホッとした様子だった。

「私はこの戦いで南部からスロラン軍を確実に追い出したい。そのために西部ゴーランのアストラテート伯爵を頼った。皆で手を取り合い、この南部に平和を取り戻そう」

フィリップ様が高らかに宣言する。

それまでどこか懐疑的だったキラーニーだが、フィリップ様に向かって礼を執った。

「このキラーニー、長く南部の民に苦難を強いてしまいました。もう南部は限界です。戦いを一刻も早く終わらせねばなりません。どうかフィリップ王太子殿下、アストラテート伯、このルミノーをお救い下さい」

***

すぐにキラーニーを交え、作戦会議が行われた。

内容としてはアルヴィンが昨日話したことばかりだ。

中央に戦争を止めさせまいとする勢力があること。王太子派で構成されているはずの中央軍に王妃派が潜んでいること。

「既に伝達兵を遣わせているので、追って中央軍も到着するだろうが、信頼出来るのは、南部軍と西部軍だけだ」

とフィリップ様は言い切った。

「ゴーランは友軍であるルミノー軍とルミノーの民を支援します」

アルヴィンは気前よく金と物資の調達を約束した。

「ゴーランの見返りは?」

キラーニーが、問う。

「南部が無事に平定したあかつきには、ダンジョンの共同経営権を」

「分かりました。お受けいたします」

とキラーニーは即座にこれを了承した。

「お館様、それは……」

これにはキラーニーの側近達も驚いている。

「よろしいのですか?」

あっさり決まりすぎて私が思わず口を挟んでしまったくらいだ。

キラーニーはここ数年でかなりの辛酸をなめてきたようだ。疲れきった様子で頷く。

「戦続きのルミノーではダンジョン経営など夢のまた夢。ダンジョンから湧いて出てくる魔物退治にも苦慮している状況です。ゴーランと共同経営は、我々にとっても利が大きいと考えます。それに物資が枯渇する中、補給が受けられるのは何よりありがたい。これで兵に少しは楽をさせてやれる」

南部は噂以上に困窮した状態だった。

しかしキラーニーは続けてフィリップ様とアルヴィンをどんよりと暗い眼差しで見つめた。

「ただ、すべてはこのルミノーに平和が訪れた後のこと。フィリップ王太子殿下、アストラテート伯はどうやって十五年以上の長きに渡り続いた諍いを収めるおつもりか、お聞かせ願いたい」

この問いにアルヴィンが答える。

「スロランも一枚岩ではない。戦争を推し進めるスロラン王に対し、息子の王太子は和平を望んでいます。彼に繋ぎを取ります。その上でスロランが敗北を納得するほどの圧倒的な兵力を見せつけます」

「それがゴーラン軍ですか……?」

「それは仕掛けの一つ、作戦の主役はリーディア・ヴェネスカです」

「ヴェネスカ卿?」