作品タイトル不明
4 活字拾いの少女、図書室で『祝福の儀』の本を読む
今日は早く仕事が終わったので図書室に行く。
ガッテン活字工房の良いところはなんと言ってもこの図書室。
従業員ならば誰でも閲覧可能なのだ。
基本的にガッテン工房で作られた本しか置いてないけど、それでも毎日のように新刊が作られているのだから読む本はたくさんある。
前世を思い出した頃は、正直ひらがなばかりの本が苦手だった。ひらがなばかりだと本当に読みにくい。
でもそんな私もずっとひらがなばかりの本を読んでいれば、ひらがなばかりの本にも慣れてきた。
でもこの図書館にはなんと漢字の本もあるのだ。辞書というのはないみたいで、だからか誰も手を出さないみたい。読めないからね。
私は読んでみたいなとずっと思っていけど、漢字は読めないことになってるから様子見だ。
他に娯楽がないからか、従業員が多いからか、本が好きだからか意外とこの図書室の利用者は多いので、漢字を使った本が置いてある場所には近づくことさえできない。
でも今日は仕事が早く終わったせいか利用者がいない。
キョロキョロと周りを見渡すけど、本当に誰もいない。
「やったね!」
私はずっと読んでみたかった本を手にすると、図書室の中心にあるテーブルは避けて、奥の方にあるテーブルに本を乗せて、椅子に座る。悪いことをしているわけではないけど、ドキドキする。
気になっていた本の題名は『祝福の儀』についての本だ。これは漢字とひらがなで書かれている。
表紙には絵も描かれている。大きな木の絵だ。
中をパラパラとめくると中にも絵が描かれている。今まで読んでいたひらがなばかりの本には絵なんて描かれていなかった。
『祝福の儀』について知らない人はこの世界にはいない。7歳の時に神殿で受ける儀式のことだ。
これを初めて聞いた時、「きたーーー!」って思ったのよ。とうとうチートが来るのかなって。
全然違った。
本当に祝福されるだけの儀式だった。
七歳まで生きれたものだけが、祝福の儀を受けることができる。七歳までに亡くなる子供は結構いる。ちょっとした風邪でも抵抗力のない子供はあっけなく命を落とす。中世レベルの医療しかないこの世界は七歳まで生き残れるだけでも祝福されるほどすごいことなのだった。
「ふむふむ、なるほどね」
祝福の儀については、孤児院でも説明を受けている。儀式の時に私たちが騒がないようにコンコンと説明された。
① 儀式の時は決して声を出してはいけない。(声を上げれば声を失う)
② 儀式の時は決して聞いてはいけない。(聞いたら聞く力を失う)
③ 儀式の時は決して見てはいけない。(見れば見る力を失う)
これを聞いた時、やばい儀式だなと思った。それに無理ではないのかとも思った。声は上げなければ良いし、目も閉じていれば見なくてすむけど、聞くなと言われても聞こえちゃうよって思って、ヴァンに相談したら、
「大丈夫。皆が受けているんだ。危険なことはないよ」
と言われた。ヴァンが大丈夫だというのなら大丈夫だなと安心した。
儀式の部屋に入ると目隠しと口隠しをされ、耳栓のようなものを耳に入れられた。
こういうことだったのかと安心した。これなら見ることも聞くこともないし、声も発せない。
そして誰かが私の手を導き歩かされ、丸い球のようなものに両手で触れさせた。
目を閉じていたのにピカッと光ったような気がした。水晶かもしれない。その時、「やっぱりチート?」って思ったのはただの勘違いだったんだけどね。
その後は、また誰かの手で導かれて部屋から出た。その後耳栓のようなものと目隠しと口隠しを外された。
私を導いていた者は神殿の神官だった。
「祝福の儀は終わりました。神々からの加護が、貴方の未来を照らすでしょう」
確かそんなことを言われたんだ。
この本にも同じようなことが書かれている。
でももっと神聖なことのようだった。
何故か涙が止まらない。
あの儀式には何か隠されていたのかもしれない。
読み終わったあと、涙を拭きながらそんなふうに思った。
誰かが来たら困るので、慌てて本を本棚に返す。
他にも気になる本はあるけど、いつ誰か来るかもしれないからと漢字を使った本棚から離れないとって思った時、扉が開いた。
「あら、活字拾いの子じゃない」
慌てて、
「お疲れ様です」
と頭を下げて挨拶をする。活字活字拾いは上下関係で言えば一番下。さらに社員でない私はその下だ。
「活字拾いで汚れた手で触って、本を汚さないでよ」
「はい、すみません」
謝らなくてはいけないことはしていないけど、ここは謝る一択だ。
「わかればいいのよ」
その女性はいつもここで本を読んでいる方だ。嫌味を言われたからではないけど自然と目が手を追っていた。綺麗な手だった。この人はどこの職なのだろうか。
ここに働いている人の手は少なからず荒れている。平民だからだ。この人の手は洗濯などしない手だ。
「何? 」
「いえ、失礼します」
詮索などしても良いことなどない。
今日は、もう本を読むことはやめて部屋を出た。なんとなく部屋を出るまで彼女の視線を感じた。