軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学校編「よく学び、よく鍛えよ」18

試合が始まる前のこと。

球技大会当日、ユーシスは魔導科の生徒に頼んで敵の情報を集めた。

騎士科の優勝候補チームで要注意メンバーがおおよそわかったので情報を共有した。

その中に、ペイジという侯爵令息がいた。

プライドがやたら高く直情型で性格に難があるらしい。ユーシスだったらチームには入れないお人柄だ。

力が強いので戦力としては良いが、チームプレーは出来ない。

――暴走したらかえってチームの力を削ぎそうなやつだな。

煽ってやろうか、と計画が浮かんだが、止めておいた。

ユーシスは、母に「正々堂々と戦うのよ」と言われている。言われても、それじゃ面白くはないが。

すでにルシアンを隠し球にする工作はしっかりやってしまった。

王子として、あまり評判を落とすようなことは止めておこう。

――それに彼は、侮っていた魔導科チームに手こずったり、ルシアンにボールを苦も無くキャッチされただけで暴走しそうだしな。

きっと簡単に自滅する。

そんな面白そうな予感がした。

ゲーム開始前にクジで先攻後攻を決めた。騎士科のリーダーはセブルス、魔導科はユーシスだ。

騎士科チームが先攻に決まり、セブルスは幹部のひとりにボールを投げた。

ゲーム開始だ。

二人の動向を凝視していたルシアンは、セブルスがチラリと目配せをしたのを見逃さなかった。

――何か企んでる?

チームの打合せを盗み聞きした時にはゲーム最初の作戦は何もなかったはずだ。

おそらく、リーダーと、最初にボールを渡された幹部だけの企み。

すると、ボールを持った幹部は速攻でユーシスに狙いを定めた。

予め決めていたのだろう、彼は躊躇無くジャンプすると高い位置からユーシス目がけてボールを投げ下ろすように投擲した。

すごい剛速球だった。

王立学園の陣取りゲームのボールは魔導具だ。

速度はそのままに当たったときの衝撃が吸収され、怪我がない仕様になっている。

痛みがないわけではないが傷つくほどではない。

不思議な感覚だ。なにしろ、球筋を見るのも難しいほどのボールを受け止めても、そこまで重くはないのだから。

とは言え、剛速球が向かってくるのはなかなかのスリルだ。

ルシアンは、幹部エリアの後方でユーシスを守る位置に付かされていた。

ユーシスにはこの攻撃も予想の範囲だろう。

ルシアンは球筋を見て取るとジャンプして受け止め、そのまま空中で剛速球の勢いを生かして、ぶんっと振りかぶると敵チームの側近を狙った。

敵のリーダーは大柄な側近に囲われているし、狙いやすい体の部位は見えなかった。だから、とりあえず側近を潰す。

大柄な生徒の足下を狙う。

ビュンっ。

ルシアンの手を離れたボールがほぼ見えないほどの速さで側近の足下へと飛ぶ。

見事当たったボールが大きく跳ねた。

審判が笛を吹く。

一瞬、グラウンドが静寂した後、歓声に包まれた。

――……側近ひとりでこの歓声?

潰されたのは王ではなく側近だ。

でも、騎士科チームにとってはかなりのショックだったらしい。

転がったボールを先ほどの幹部が真っ赤に興奮した顔で掴んだ。しかも、他の仲間を押しのけるようにして。

騎士科のリーダー、セブルスが咎めるように「おい! ペイジ!」と名を呼ぶ。

ペイジと呼ばれた生徒は再度、ユーシスを狙ってくる。

――しつこいな。

よほど初っ端でゲームを決めたいのか。

でも、リーダーのセブルスは止めてるみたいなのに。

ルシアンは再度、ボールを高い地点で受け止めて、また側近を狙う……と見せかけて幹部狙いに切り替える。

ゲームがもしも時間切れで終わったときに、側近や幹部を潰しておけばこちらの得点が高くなる。

油断してそうな幹部の足下をまた狙った。

敵に負けない球速で正確に、避け難そうな左足にぶつけてやる。

――当たった!

審判が笛を吹く。

またも大歓声。

ペイジのユーシス狙いは、ルシアンにはやりやすかった。

ユーシスの指示でルシアンはユーシスの側からは離れられないが、ペイジは王様目がけてボールを投げてくるので必ずキャッチできる。

おまけに、すんごい剛速球で高い地点からジャンプして投げるので、こちらもジャンプして受け取る。

ルシアンはキャッチすると速攻で油断してそうな幹部や側近を狙う。

パトリスたちの偵察情報で、誰が手強いか聞いていたのでそいつは避ける。

ただ、さすがにもう狙えそうな幹部や側近はいなくなってしまったので、歩兵を減らし始めた。

このままぼっこぼこにしたいところだ。

ペイジは、仲間を押しのけてボールを確保し、ユーシスを狙う……という愚行を繰り返し、リーダーや他のメンバーに「いい加減にしろ!」「おい!」と怒鳴られている。

ユーシスチームはこのままペイジのスタンドプレイが続いてくれるのは大歓迎だった。

ユーシスから風魔法で「ペイジは潰さないように」と命令されているので、もっぱら歩兵狙いだ。

ところが、ペイジのやつが、ルシアンが歩兵を狙って投げたボールを取ろうとしてつかみに行き、自分からボールにぶち当たった。

「あぁ、当たっちゃった……」

ルシアンは思わず無念の声をあげる。

「くっそぉ、覚えてろ!」

ペイジがボールを地面に打ち付ける。

周りのブーイングが凄い。

気持ちわかる。チームをかき回して勝手に潰れてるんだから。

ペイジが脱落するとユーシス狙いは無くなった。

ルシアンが観察したところ、ユーシス狙いはペイジのみだった。おそらく、他のメンバーはユーシスは狙ってない。いや、普通には狙っているが、ペイジは周りが見えてなかった。

そんなに騎士の力を見せつけたかったのだろうか。

とりあえず、それは失敗した。

敵はこちらの歩兵を潰し始めた。まぁ、それが普通のゲームの流れだ。

けれど、ルシアンはすでに敵の幹部と側近を3人潰している。

側近と幹部はひとり20点だ。合計で60点、敵は失点をしている。

60点のマイナスを取り返すには歩兵を20人、つまり全滅させないと取り返せない。歩兵はひとりにつき3点なのだから。

もうゲームはほとんど終わり、と思われた。

が、そうはいかなかった。

敵は魔導科チームの最後の歩兵を潰してしまった。

筋肉マッチョたちがなだれ込んでくる。

ユーシスは奥に引っ込み、魔導科チームの幹部と側近はがっちりと囲んで守る。

こちらは幹部と側近と、王様と併せて9人。

あちらの生き残りは、歩兵は6人、側近はひとり、幹部は5人の合計12人。騎士科の王様は玉座でこちらを見ている。

このまま時間切れなら魔導科チームの勝ちだ。

歩兵を潰せば敵チームに走っていけたのに、残念だった。敵チームに走って行くのは楽しいのだ。歩兵は半分も潰せなかった、さすが騎士科だ。

仕方が無い。あとはこのまま時間切れまで仲間と共にユーシスを守り抜こう。

パトリスの情報から「身体強化が凄い」と聞いていたメンバーはまだ残ってる。

魔獣なみの俊敏さでひらりと避けてしまう。

チームとしての力は拮抗しているようだ。

そうしているうちに味方の幹部がやられた。これで、点差はわずか2点だ。跳ねたボールが敵陣地に転がるところをグレンが掴んだ。

敵幹部の肩を狙う。足下狙いは警戒されているので肩だ。

良いコースに投げられたと思ったが、敵の動体視力と反射神経が凄かった。ボールを取られた。

敵の幹部は踏み込みながらフェイントで攻撃を仕掛けてきた。

ルシアンはダッシュで防御に走る。

幹部がジャンプしながらボールを振りかぶる。

背は敵の方が高いがジャンプ力はルシアンの方があった。

ボールをキャッチし、歩兵狙いと見せかけて、敵の玉座にいる王に視線を走らせる。

全身をしならせて体全部で振りかぶる。

見えないほどの速さの剛速球が敵の王目がけて投擲された。

王は避けようとするも、左足にボールが掠るように当たった。

審判が笛を吹く。

「嘘だ、避けた!」

騎士科チームのメンバーが抗議したが、敵の王様は正直だった。

「わりぃ、避け損ねちまった」

と頭をかいている。騎士科の皆が項垂れてゲームは終了した。

ルシアンはゲームの終わった後、騎士科の連中に取り囲まれた。

「すげぇな、お前。騎士団に入れよ」

「身体強化バリバリじゃん」

「魔導士隊に入るのか」

口々に尋ねられ、「一応、嫡男なんだよ」と断りを入れる。

「すぐに継ぐわけじゃないだろ」

「そうだよ、騎士になって働いてからでもいいだろ」

「騎士科に移れよ」

「剣術はどんくらい出来んだよ」

と相変わらず詰め寄られていると、ユーシスが助けに入ってくれた。

「騎士になるとしても、ルシアンは私の近衛にするから騎士団の話はボツだ」

堂々と跳ね除けるところが王族らしい。

「魔導科の連中、隠し事してると思ったら、こういうことだったのな」

騎士科のリーダー、セブルスがユーシスに嫌味ったらしく言った。

ルシアンは、初っ端のユーシス狙いは隠し球を探るためだったのか、とわかった気がした。

「うまく隠しただろ」

ユーシスが笑顔だ。

「ったく、良い王様になるよ」

「だよなぁ」

騎士の卵たちが笑った。

嬉しそうだ。

そりゃそうだよな、とルシアンは思う。騎士たちにとってはこういう王様の方が頼りになるだろう。

審判に呼ばれてグラウンドに集まると、優勝チームが発表され、また歓声が上がった。

ユーシスとルシアンは、王族たちの席に挨拶に向かう。

「父上!」

「母上!」

家族のもとに走った。

オディーヌも少し先に来ていた。

ユーシスは国王夫妻のところに行き、ルシアンは父に抱きとめられた。

「見事な勝利だった」

父に褒められた。

ハイネもニコニコだ。

「よくやったな!」

ロベール叔父がルシアンの髪をぐしゃぐしゃに撫でる。

「叔父上、私の作戦勝ちですよ」

ユーシスが言うと、「もっと腹黒くていいぞ」とロベールが宣い、シリウスが「はっきり言うんじゃない!」と肩を叩いて笑った。

そんな王族たちの様子は周囲の注目を集めていた。

特にほとんど社交界に出てこない美男と有名なサリエル・ヴィオネ伯爵と、ヴィオネ家に引き取られたと噂されている子息のルシアン。

ふたりは一目で親子だろうと思えるほどに似ていた。

――養子ではないのか?

と、誰もが疑問を持った。

国王夫妻と王弟たちは、見るからに伯爵令息のルシアンを可愛がっている様子だ。

本当の甥のように。

ルシアンのクルミ色の髪と琥珀の瞳は、国王陛下とまったく同じ色だ。

髪と瞳の色だけ見れば血の繋がりを思わせる。

それから、試合で見せたルシアンの身体強化魔法の才覚は素晴らしかった……まるで王族のように。

ルシアンの出自は謎に包まれている。

だが、居合わせた貴族たちは思った。

――ヴィオネ家には、王族の血筋が加わった。

と。

その時、

「ルシアン!」

鈴の転がるような澄んだ声が響いた。

あまりに可憐なよく通る声に思わず聞き惚れ、辺りの喧噪が静まる。

天使の声だった。

「ヴァレリー!」

見ると、オディーヌの妹ヴァレリーと、ユーシスの弟エカルトが従者に連れられてこちらに向かっているところだった。二人とも5歳だ。ヴァレリーは5歳児並の背丈だが、エカルトは8歳くらいと言われても通用するくらいに背が高く成長していた。

ルシアンの方へ駆け寄ろうとするヴァレリーをジュールが抱き上げた。

「ルシアン」

ヴァレリーが手を伸ばす。

3歳まで言葉を話さず周囲を心配させたヴァレリーが一番最初に喋ったのはその時紹介された従兄弟の名「ルシアン」だったのは身内では知られた逸話だ。最初の言葉が「お父様」ではなかった、と嘆き悲しむジュールの親馬鹿ぶりとともに。

「ふたり、来てたの?」

オディーヌが嫌そうな顔をする。

オディーヌが嫌がるのもわかる。エカルトは野ザル並みにワンパクだし、ヴァレリーは父ジュールがうるさいのだ。

「……学園に迷惑をかけるといけないので、連れて来たくはなかったんだがね」

シリウスが気のせいか力がない。

「あまり長時間は良い子にしていられないだろうから、途中からなら良いってことにしたのよ。

ちょろちょろするから……、ゲームの最後の方はあちらの席にいたの」

ノエル王妃が、試合場に近い席を示す。

近衛たちがずらりと並んでいる。

「エカルト、大人しくしてたか」

ユーシスがかなり不審そうに尋ねた。

大人しくなどできる訳ないだろうという言い方だ。

「してたっ!」

と言ったそばから「広い! ここ!」と走り出し、従者と近衛が追いかける。

エカルトの従者を選ぶ基準は身体強化ができて足が速いことだった。

「ルシアン」

父親に抱かれたヴァレリーがルシアンに手を差し伸べ、ルシアンは「久しぶり」とヴァレリーの髪を撫でた。

「もっと撫でて」

ヴァレリーが甘えた声を出し、ジュールがあからさまに嫌そうな顔をする。

「叔父上が嫌そうにしてるよ。

俺の手、洗ってないから、今、汚いし」

ルシアンが手を引っ込めようとすると、ヴァレリーの白い花のような指がその手を掴んだ。

「汚くてもいいの!

父様、嫌い!」

ジュールがこの世の終わりのような悲惨な顔になり、周りの大人が残らず呆れた。

「……ルシアン、ヴァルを撫でてあげなさい、私が許す」

「……はい」

ルシアンは、控え目にヴァレリーのさらさらとした白金の髪を撫でた。

3人の将来にわたる関係性が伺えるような光景だった。