軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学校編「よく学び、よく鍛えよ」17

王立学園の球技大会には、保護者や親族が見学に来ても良いことになっていた。

剣術大会や芸術祭などのような正式な招待ではなく、「よろしければ見学も可能です」程度のもので「おもてなしはできかねますが」と前置きがついていた。

剣術大会や芸術祭では、王立学園の総力をあげての準備が行われる。防犯のための人員も十分に当てられるし、正門から会場までの案内も念入りに設けられる。

けれど、球技大会は「陣取りゲームの好きな方は見に来ても良いですよ」みたいな軽い催しなので見学者は多くなかった。

中等部では2年と3年は球技大会ではなく小型魔獣の討伐訓練の公開で日にちは1週間ずれている。

ゆえに、球技大会に王族が皆で来るなんて、学園長は考えていなかった。

王室管理室から「国王ご夫妻と王弟ご夫妻とロベール殿下参られます」と通達がきた時、学園長は頭を抱えた。

「……学園始まって以来の事態だ」

学園長が現実逃避気味にそう言うと、副学園長が呆れ顔になった。

「何を仰る。過去にもわりとあったことですよ。

それに、こうなると予想できたではありませんか」

「まさか全員来られると思うわけがない」

学園長は警備計画書を眺めながら首を振った。

「ロベール殿下はコンドロア共和国の学会から帰国されていましたし陣取りゲームはお好きですからたまに見学される年はありました。王妃様は気軽な方ですから王子殿下がおられるし、来られる可能性は高いと思っていました。

そうなると、親しい王弟妃も来られますよ、それに愛妻家の陛下とジュール殿下も。

ルシアン・ヴィオネは、先日までのあの事件の被害者です。ヴィオネ伯爵は学園での様子をごらんになりたいでしょう。

もう勢揃いされるのはわかりそうなものです」

「ヴィオネ伯爵も来られるのか」

学園長が見ていた計画書から顔をあげた。

「一応、確認しました」

「そうか」

ヴィオネ家には学園長と副学園長は事件のことで詫びに行っていた。

サリエル・ヴィオネ伯爵は「希な事件と聞いています。迅速に対処して貰えたことを感謝しています」と冷静に応対していた。

――もう、失態は許されない。

そう王立学園側は考えていた。

王族方は近衛を引き連れて来られると言う。学園に防犯の負担を増やさせないためだろう。学園側でも例年よりも防犯に力を入れる予定だ。

国王と王弟夫妻が来られることは極秘となった。万が一、狙う者が現れては困る。他の見学者たちは例年通り程度の人数か、あるいは、第一王子がおられるので増えることも予想される。

学園側での準備がなんとか整った頃、球技大会の開催日となった。

予想通り、他の保護者たちは例年以上の人出だった。

国王夫妻、王弟夫妻、ロベール殿下、サリエル伯爵がずらりと勢揃いだった。

陛下たちにはお付きの者や護衛とともに学園が用意した席に着いていただいた。

近衛らが警護にあたり、学園の警備も遠巻きにしている。

若干物々しい中で、まず科ごとの試合が行われた。

女子に関しては、貴族令嬢の家から「当家の娘の運動着姿を晒されるのは困る」と苦情が来るので昨日のうちに終わらせている。毎年そうなっている。多数派ではないが、無視できないほどの家から文句の声が上がるとわかっている。ゆえに、男子だけだ。

広いグラウンドにて、一般教養学科、騎士科、魔導科、治癒術科と4つのコートに分かれてゲームをしていく。生徒数の少ない治癒術科から優勝チームが決まり、次いで、魔導科、騎士科、一般教養科の順に決勝戦が終わっていった。

魔導科は下馬評通りユーシスのチームが優勝した。

ユーシスは騎士科の連中を油断させるために、ルシアンに「普段の6割くらいのスピードで」と指示しておいた。ルシアンとしては6割という中途半場なスピードってどんくらいか難しかったが、ぎりぎり勝てるくらいの力加減で試合に臨んでおいた。

騎士科の連中を油断させる、と言うことはユーシスは総合優勝を狙っているらしい。

ルシアンはいくら何でも騎士科に勝てるか? と疑問だった。魔導科で優勝して、一般教養科と治癒術科を制圧し、騎士科とも良い試合が出来れば十分だろうと考えていた。

ルシアンはけっこう負けず嫌いではあったが、こういうチームプレイのときはその負けず嫌いはだいぶ抑えられ、ユーシスの指示に従うことに注意を向けていた。

それに、球技大会の晴れの舞台ではチームメンバーは皆、活躍したいだろうと思う。だから、他のメンバーを差し置いて自分だけ活躍するのは何となく違う気がするのだ。

それでなくとも、虐め嫌がらせ事件で人付き合いの自信が消えていた。

結局、精神操作された生徒たちの犯行だったわけで、ルシアン自身に対する忌避感はそうひどくなかったことはわかった。

ルシアンが被害者であることは学園に知られ、同情されたりもした。

とは言え、それは、さんざんな目に遭ったあとだ。

頭では理解できても、心に受けたものはそう簡単には消えない。

チームプレイと言うものがわからなくなっていたし、おかげで少し面倒だった。

自分が目立って良いのだろうか、という疑問も強かった。

言うなれば、人と接することに臆病になっていた。

そんな気持ちのままでユーシスチームは魔導科で優勝した。次いで治癒術科の優勝チームとの試合でも勝った。ルシアンは大して動く必要もなかった。治癒術科チームはかなり弱かった。

騎士科チームが一般教養科チームを破ると、騎士科と魔導科の試合となった。

騎士科チームはきっとルシアンが強いことを知っているだろう、と思っていた。この球技大会ではルシアンは秘密兵器扱いだったが、魔導科の他のチームメンバーとは授業で試合をしているから知っている。

ところが、どうも試合前の言動を見ていると知られていないような気がしてきた。

騎士科の連中は「バルトとグレンを抑えろ」とか「側近をまずは倒すか」などとこそこそと話している。簡単に聞こえるように話しているのは大らかなんだろうか。馬鹿にしているのだろうか。

「なんであんなわかるように打ち合わせしてるんだろ」

パトリスにこっそり尋ねると、

「脳筋なんですよ」

とパトリスがなんてことないように答えた。

ちなみに魔導科チームはちゃんと防音結界を張った。

「思った通り、ルシアンのことを知らないな」

ユーシスがご機嫌だ。

「だな」

バルトとグレンがにんまりと頷く。

「どうして知らない? 騎士科に友人がいる魔導科生徒もいるはずだよね」

ルシアンが疑問を呈する。

「そりゃ、魔導科は騎士科を1度くらい潰してやりたいんだから、話さないよ」

パトリスが苦笑する。

「そうなのか」

「まだ1年だから魔力の高い魔導科の生徒に幾人かでも身体強化できる者がいれば騎士科に勝てる可能性があるんだよ。でも、今まで、魔導科が騎士科に勝ったことはなかった。

やっぱり、騎士科の生徒は身体能力高いからな。惜しいときもあったんだけど、どうしても破れなかった。

でも、ルシアンがいるからいけるかもしれないだろ。

魔導科で騎士科にわざわざ教えるやつなんていないよ」

グレンが朗らかにルシアンに教えた。

これから騎士の鍛錬をすれば騎士科の生徒たちはめきめきと身体能力をあげていく。魔導科の生徒と差が出てくる。けれど1年の今の段階ならさほどでもない。

「そ、そうか・・」

なんだか雲行きが怪しい。ルシアンが想像していたのとは違う感じだ。

ルシアンが戸惑っていると、他の魔導科クラスの生徒からも声をかけられた。

「ルシアン、騎士科を潰してやろうぜ」

「あいつら、魔導科をいつも楽勝で破ってるって。すごい、感じ悪いんだよ」

「そうそう。『魔導士隊より、騎士団の方が強いし』みたいに言ってさ」

「なるほど・・」

実際の騎士団と魔導士隊は、決して不仲ではない。ちゃんと連携をしている。

けれど、若造の騎士の卵たちは違うらしい。

ルシアンはしばし考えた。

身体強化魔法は、当たり前だが、魔法だ。魔法の技術に関しては魔導科の生徒の方が有利だ。

騎士科でも騎士のサラブレッドみたいな生徒は小さいころから身体強化魔法を叩き込まれている。

けれど、他の生徒はそうはいかない。

その点、魔導科には、魔力の高いものばかりがいる。

魔力が高いから、幼いころから魔力の操作くらいは家庭教師に習っている。

魔法の技術は、魔導科の生徒の方がずっと上手い。

ゆえに、運動の授業で身体強化魔法のやり方とコツを習った生徒たちは、少しずつ身につけている。だいぶ上手い者も出てきている。

――そうか。今の時点では、勝てる可能性は十分にあったんだ。

騎士科の筋肉マッチョに勝てるとしたら、身体強化魔法を操る魔導科の生徒だろう。

「ルシアン、頼むぞ」

「勝ってやろうぜ」

「初の勝利だ」

なぜかユーシスではなく、ルシアンに期待されている。

「ルシアン。全力だぞ」

ユーシスにも良い笑顔で言われた。

他のチームメイトを見ると眩いばかりの期待の笑顔を向けられている。

「・・目立つのは、あまり気が進まないような・・」

とルシアンが気弱発言をちらりと漏らすと、「お、おまえ、何言ってんだよ、期待の星が!」とグレンが焦った声をあげる。

「た、頼むよ、目立ちたく無いって! なんだよそれ!」

バルトや他のメンバーからも腕を掴まれた。

「ルシアン、後で飯おごってやるから」

なぜかよく知らない富豪の侯爵家子息からも泣きが入る。

――ホント、なんで?

「騎士科の方が格好いいとか、女子どもが言ってるんだぞ!

ぼっこぼこに圧勝してやろうぜ!」

皆が一斉に頷く。

「そ、そうか」

ルシアンはわかったような気がした。

――そういう欲望まみれの理由?

ちょっと脱力したが、とりあえず、心置きなく頑張ることにした。

「集まってくれ。

総合優勝を決める決勝戦を始める」

審判から声がかかった。

「さぁ、魔導科初の快挙となる試合にしてやろう!」

ユーシスが声をかけると皆が「おぉ」と気合いを入れた。

試合が始まり、すぐに所定の位置についた。歩兵が一列に並び、その背後には幹部が並ぶ。

さらに背後に側近が王を守るように立つ。最奥は当然、ユーシスだ。

敵側も同様だが、若干、ラフに並んでいる。騎士の隊列っぽくはない。おそらく、狙撃手を前に、後衛を背後にしているのだろう。

学園でのコートは幅が狭くなっていて、腕の良い投擲の力のある歩兵なら王を狙える。とは言え、よほど防御力がお粗末な場合だが。治癒術科などは弱かったので、最初の段階で騎士科だったら勝利を決めていたかもしれない。

ルシアンは治癒術科との試合のとき、やろうと思えばものの数分で敵の王を撃沈できたが、しなかった。それじゃ面白くないと思ったし、流石に6割の力じゃ無理がある。

――でも、騎士科の連中は狙ってくるかもな。

と思っていたら、試合開始とともに本当に狙ってきた。

こちらの歩兵や幹部はまるで無視で、ユーシス目掛けて全力でボールをぶつけに来ている。

笑いが出た。

ずいぶんコケにしてくれる。

血が騒ぐ。

――本気でぼっこぼこにしてやる!