軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第42話 マスターとサブマスター ◆アルフレッド視点

「おう、アルフレッド! 俺が留守にしている間に変わったことはなかったか? はっはっ、そうだよな、ないに決まってるよな」

3年ぶりに顔を合わせるというのに、第一声がこれだった。

目の前で腕組みをしてドカリと椅子に座る男を前に、今日何度目かも分からないため息を溢してしまう。

「色々あったに決まっているでしょう! 3年ですよ! さ・ん・ね・ん!」

猿でも分かるように指を3本立てて突きつける。けれど、マスターは「そうか、そりゃそうか!」とまた豪胆に笑っている。

ところが、はぁ、と息をひとつ吐いた後、急に雰囲気が変わった。

「それで、俺がいない間のことを聞こうか」

両膝に肘をついて手を組み、ギラギラと鋭い眼でこちらを見据えてくる。

威圧された僕は、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。

この人は何も変わっていない。

自由奔放で、掴みどころがなくて、大雑把で豪快で。

だけど、どうしてこうも人を惹きつけるのだろう。

マスターがマスターたる所以なのだろうな、と納得せずにはいられない。

「はぁ……そうですね、最近ですと例年通り収穫祭があり、その後Bランク相当のダークサーペントが出現し、スタンピードが起こりました」

「ほう、それは大変だったな。で、俺を呼び戻さなかったところを見ると、無事に危機は乗り越えたようだな。ふん、ちょっとは精悍な顔つきになったじゃねえか。3年前とは大違いだ」

マスターは何が面白いのか、顎を撫でながら満足げに口角を上げている。

「はは……まあ、マリウッツ殿も帰還しておりましたし、それに……」

「ん? なんだ」

言い淀む僕に続きを促すマスター。

どちらにしろ、マスターにはサチさんがこちらに呼ばれた経緯から現在に至るまで、全て説明しなくてはならない。

「サチさんという女性が魔物解体カウンターで勤務することになりまして、彼女のおかげで円滑にスタンピードを終えることができたのです」

「ふむ、またサチか。今日はよく聞く名前だな。それで、詳しく聞こうか」

僕は、包み隠さず彼女の境遇について説明した。

王家主導の聖女召喚に巻き込まれて、不運にも僕たちの世界に召喚されたこと。

【解体】の【 天恵(ギフト) 】を有していること。

召喚した魔道士及び聖女に放置され、元の世界にも戻れずに途方に暮れていたところをスカウトしたこと。

そして、とんでもない【解体】の能力の詳細について。

「ふーむ、そりゃあとんでもねえ嬢ちゃんだ」

「ええ、彼女には驚かされてばかりです。彼女の噂を聞きつけて、隣国のサルバトロス王国から協力要請が届いているほどですから」

話の流れで、今最も報告すべき事項に触れた。懐からネッドさんより預かっている書簡を取り出して差し出す。

マスターは無言で書簡を受け取ってバサリと開くと、素早く目を通した。

「なるほど。隣国に名を轟かすほどの腕というわけか」

「ええ。その、それで……」

気を引き締めろアルフレッド。ここからが真の本題だ。

サチさんに着いて隣国に渡るためには、マスターの許可と協力が必要だ。

ごくりと生唾を飲み込んで、覚悟を決めて口を開いた僕より早く、マスターが発言した。

「ついていきたいんだな」

「え、あ! は、はい!」

ニッとイタズラな笑みを浮かべるマスターには全てお見通しだったらしい。変に身構えるだけ無駄だったようだ。強張っていた肩の力が一気に抜けた。

緊張して乾いた喉を潤そうと、すっかり冷えた茶を啜る。

「がはは、いいぞ。しばらくギルドを任せていたんだ、少しぐらい留守にしても問題ない。その間は俺が取り仕切る。たまにはマスターらしいところを見せておかねえと、冒険者どもに面目も立たねえしな」

「本当ですよ」

「で、お前はそのサチって女に惚れたわけか」

「げぇっほ!」

気を抜いていたので、思い切り不意打ちを喰らってしまった。

飲んでいたお茶が変なところに入って盛大に咽せ返る。

はぁはぁ、と息を整えて顔を上げると、随分と楽しそうなマスターと目が合った。

「わはは! 随分と分かりやすい。どうせ相手にもバレバレなんだろう?」

「う、いえ……それが、さっぱり」

「んおう? お前ほど分かりやすい男もいないだろうに。そりゃあ何というか……鈍感な嬢ちゃんなんだな」

そんな不憫なものを見る目でこっちを見ないでください。痛いほど分かっていますので。

「まあ、サルバトロスの状況も芳しくないようだし、サチを派遣する許可を出そう。それと、お前が同行することも許可する。幸い、帰りにグルッと見て回ったが、ドーラン王国の魔物発生量は落ち着いているようだしな。で、俺が戻り次第すぐの出立だったか。さて、通信機で使者とやらを呼ぶ前に」

マスターは膝に手を当てて勢いよく立ち上がる。勢いが良すぎてちょっとした突風が起きてぶわりと僕の前髪が吹き上がった。

「俺もこの目で【解体】とやらの力を見ておこう」

楽しそうに鼻歌を歌いながら、マスターは魔物解体カウンターへと向かうべく部屋から出ていった。

「……え、あ! ま、待ってください!」

一瞬呆けていた僕は我に帰ると、慌てていつも唐突なマスターの背中を追いかけた。