軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 ギルドマスターの凱旋

サルバトロス王国の使者一行が現れて5日が経過した。

まだアンのパパさん、もといギルドマスターは帰って来ていない。

「本当に戻って来るのでしょうか」

「恐らくな。アイツは親バカで有名だ。娘に嘘をつくはずがない」

「なるほど」

マリウッツさんと話しながらも、私は勢いをつけて左足を踏み出し、身体を捻って右腕を振り抜いた。放たれた小型ナイフはまっすぐに的を目掛けて飛んでいき、ど真ん中にスコーンと小気味よい音を立てて突き刺さった。

今日は長めのお昼休みをいただいて、ギルドの訓練場でマリウッツさんに投擲の訓練を受けている。ちなみに、ピィちゃんは魔物解体カウンターの定位置でつまみ食いに勤しんでいる。

「よし。どうにか出国前に合格点に辿り着いたようだな」

「やったあ!」

刺さったナイフを確認したマリウッツさんが、満足げに頷いた。

Sランク冒険者のお墨付きをもらうなんて、私ってば、結構頑張ったんじゃない?

クエストから戻ってから数ヶ月。マリウッツさんの厳しい指導に耐えてきた甲斐があった。くぅ。今夜は贅沢に晩酌よ!

「これで一つ武器が増えたな。国を出るんだ、何が起こるか予測がつかん。万一の時のためにいつも身につけておくように」

そう言ってマリウッツさんが取り出したのは、2本の小型ナイフと、ナイフのホルダーがついたベルトだった。

「え、これって……」

「卒業祝いといったところだ」

「し、師匠……!」

「師匠はやめろ」

なんと、わざわざマリウッツさんが用意してくれたの?

これは感動せずにはいられない。

ベルトの革は艶があってしなやかだし、小型ナイフも軽くて使いやすそう。

「早速試してみてもいいですか?」

「好きにしろ」

私はいそいそと訓練用に借りていたベルトを外すと、マリウッツさんにいただいたベルトを装着した。左右の手で掴みやすい位置にホルダーがついているので非常に実戦向きな作りとなっている。

私は位置につくと、素早く右のナイフを抜き取って腕を振り抜いた。

カーンと先ほどより少し高い音がして、ナイフは的の中心に突き刺さった。

「おお、見事見事! 嬢ちゃん、なかなか筋がいい。新人の冒険者かい?」

「ぎゃあっ!」

やったあ! と喜ぶ間も無く背後から声をかけられて思わず飛び上がる。

慌てて振り返るとそこには筋肉の壁が。

ん? と思って見上げると、そこにもこんもり盛り上がった筋肉。

もっと首を曲げてようやくその人の顔を拝むことができた。

お、大きい……所々破れたタンクトップから覗く腕は丸太どころじゃない太さで、まさに筋骨隆々を絵に描いたような人がそこに居た。肌は小麦色に焼けていて、髪は短く空を向いている。髪色は茶色。ちょっと遠くて瞳の色は見えない。多分2メートル近くあるんじゃなかろうか。

私が圧倒されていると、ムキムキマッチョさんはマリウッツさんに声をかけた。

「おう! 元気そうだな。お前が1対1で指導をつけるとは、よほどの逸材か?」

「逸材には違いないが、冒険者ではないぞ」

2人の会話から、気安い関係であることは明らかだ。

私が視線で、「どちら様ですか?」と尋ねると、マリウッツさんは「ああ」と答えてくれた。

「サチは初めて会うだろう。この無駄に筋肉質な巨体の男がドーラン王国のギルドマスターだ」

え! うそ! この人が!?

「さ、サチと言います! 初めまして! よろしくお願いします!」

「お、サチというのか。よろしくな! ギルドマスターのオーウェンだ! ……ん? サチ? その名前どこかで聞いたような……」

慌てて頭を下げると、マッチョ……オーウェンさんはニカッと真っ白な歯を覗かせて挨拶をしてくれた。そして何やら思案げに首を傾げている。

「あー! パパったら、こんなところに居た! 遅いから心配したじゃない」

その時、アンが訓練場にやってきた。受付嬢の服装をしていることから、仕事を抜けてきたようだ。プクッと頬を膨らませている姿はリスみたいで可愛い。

「おおおお……! アン! 久しいな、元気だったか? この数年で、また一段と綺麗になったなあ。俺が不在にしている間、変な虫は寄ってこなかったか? いや、寄ってきたに決まっているな。アンの魅力に引き寄せられないはずがない。どこのどいつだ? 10人は下らんだろう。俺がちょいと折檻を……」

「もう! パパったら!」

息継ぎもせずに機関銃のように捲し立てるオーウェンさんをベシンとアンが叩いている。なるほど、これは相当な親バカだ。

「すまんすまん。そうか、サチはアンがよく手紙で書いていた魔物解体カウンターの大型新人のことか。どうりで聞いた名だと思った」

オーウェンさんは、うんうんと太すぎる腕を組んで頷いている。その様子を呆れたようにアンが見ている。

「もう、サチのことは後でちゃんと紹介させて。それより、早くサブマスターのところに行ってあげなよ。首をながーくして待ってるわよ?」

「おっと、いかんいかん。あんまり待たせるとアルの野郎は小言が多いからな」

ボリボリ頭を掻きながら、オーウェンさんは「すまん、また後でな」と顔の前に片手を上げて謝罪の意を表すと、のっしのっしと建物の中へと消えていった。かがんで横向きに入らないと扉をくぐることができていなかった。デカすぎる。

「はぁ……すごい人だったね。あの人がアンのパパさんで、ギルドのマスターなのね」

「そうよ! 大きいでしょう? あー、本当にママに似て良かったわぁ」

大袈裟に肩をすくめるアンがおかしくて、ついつい笑みを溢してしまう。

「あの男はああ見えて俊敏でな。加えて、大きな得物も軽々と振り回す。Aランク冒険者の肩書きを有しているが、一対一で戦えば俺も勝てるかどうか」

驚いた。完全無欠で何よりも強いマリウッツさんがそんなことを言うなんて。オーウェンさんはマスターを任されるだけあって、かなりの人物みたい。

「そうですねえ。パパってばマリウッツ様が認めるぐらい強いのに、冒険者にならずに研究者をしているのよ?」

アンが何も知らない私に説明してくれる。

「世界中飛び回って魔物の生態や分布、生息地について調べて回っているの。定期的に帰ってくればいいのに、夢中になったら時間を忘れてのめり込んじゃうんだから。今回だって国家レベルの依頼を複数抱えてギルドを飛び出しちゃってさあ。小まめに私からギルドの近況連絡はしておいたけど……3年ぶりかしら? 困ったパパよね」

フフッと笑うアンの表情はとても柔らかい。懐かしい記憶を思い起こしているのか、目元が和んでいる。

アンはオーウェンさんが本当に大好きなのね。仲のいい親子で、見ているこっちが嬉しくなってしまう。

幼くして父を亡くしている私は、父との記憶があまりない。

小さかったから仕方がないと今では割り切っているけれど、おじいちゃんに引き取られた頃は両親のことを度々思い出しては枕を涙で濡らしていた。大人になった今では、当時のことを思って泣くことはないけれど、街ゆく親子連れの仲睦まじい姿を見ていると、どうしても胸が切なくなってしまう。

「とにかく、ギルドマスターが帰ってきたんだ。俺たちは約束通り隣国に発つ準備をしなくてはな」

少ししんみりした気持ちになっていた私を引き上げたのは、マリウッツさんだった。

私の肩に手を置き、安心させるように口元には笑みを携えている。マリウッツさんの微笑は彫刻のように整っていて美しい。

最初はマリウッツさんの造形美に恐れ慄いていたけれど、今では微笑みかけてもらえただけで心がぽかぽか温かくなるんだもの。不思議よね。

「はい! 荷物の最終確認をしてきます!」

私は元気に返事をすると、自室に向かうためギルドの建物の中に飛び込んだ。