軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 久方ぶりの再会

はぁ、はぁ、と肩で息を整えながら、真っ直ぐにマリウッツ様を見つめる。

マリウッツ様は訝しげに眉間に皺を寄せ、どこか冬の空気を思わせる澄んだアメジストの瞳をゆっくりと細めた。

「………………ああ、お前か」

「え、そうですけど……って、この短期間でもう私のこと忘れたんですか!?」

それはちょっと酷くない!?

私がどれだけ心配したと思っているのよ!

ふんすふんすと私が憤慨していると、マリウッツ様はばつが悪そうに視線を逸らした。

おいこら、こっちを向きなさい。

「いや、いつもと装いが違うのでな……分からなかった」

「え? ……ああ」

私は自分の服装に視線を落とす。

照明の光を浴びてキラキラと控えめに光を放つ上品なドレスワンピース。

髪型だって、いつもは乱雑にポニーテールに縛り上げているけれど、今日はサイドだけ編み込んで髪は下ろしている(アンがやってくれた)。

そう言われてみれば、マリウッツ様と会うのは基本的に魔物解体カウンターだから、よれよれの私しか知らないのか。思い返せば汗や返り血に塗れてばかりいた気がする。え、やだ! 今更すぎるけど恥ずかしい!

ヒェェと羞恥心が込み上げて両手で頬を押さえていた私は、どうもマリウッツ様の様子がおかしいことに気がついた。

「あれ、マリウッツ様。耳が赤いですよ? お酒、弱いんですか? お水もらってきましょうか?」

そう、いつもの雪のように透き通った美白のお肌にほんのりと朱が差している。

んん? と近くで確かめようとすると、マリウッツ様が舌打ちをして腕で顔を覆ってしまう。

「……不意打ちなんだ。仕方がないだろう。お前が悪い」

「ええっ!? 何がですか!?」

解せぬ。さっぱり分からない。

とにかく私を認識してくれたらしいので、マリウッツ様に 倣(なら) って背中を壁に預ける。チラッと横目で見られたけど、何も言われないのでこの場に残っても大丈夫みたい。

この位置からは楽しそうに談笑する冒険者の皆さんの様子がよく見える。マリウッツ様はスタンピード終結の立役者なんだから、輪に入ればいいのに。相変わらず馴れ合いを好まないらしい。

ギルド内はいつの間にか陽気な音楽が流れていて、冒険者やギルドのスタッフが楽しそうにフォークダンスを踊り始めている。楽しそう。私も後で混じろう。

2人並んでフォークダンスを見つめながら、しばしの沈黙が場を包む。

「ダークサーペントを討伐したと聞きました。よかったです。マリウッツ様が無事で」

不思議と居心地のいい沈黙だったけど、私はずっと伝えたかったことを口にした。

「俺があの程度の魔物に後れを取るわけがないだろう」

「あー、すっごい自信」

くすくすと笑って返すと、フン、とマリウッツ様は鼻を鳴らす。尊大な態度は相変わらずだけど、なんだか以前より柔らかい雰囲気を纏っている気がする。

マリウッツ様はSランクの冒険者だから、Bランクの魔物は敵ではないんだろうな。

でも、『イレギュラー』と呼ばれる程なので、何が起こるかはその時にならないと分からない。

私は冒険者じゃないから、マリウッツ様の仕留めた魔物を見たことはあるけれど、その戦いを見たことがない。いくら王国最強の冒険者だと謳われていても、どうしても不安になってしまう。

「信じてましたけど、心配しました。大きな被害が出なくて本当によかったです」

「……ああ、そうだな」

その後、マリウッツ様は珍しく私の問答に簡潔にではあるけれど答えてくれた。

「討伐したダークサーペントはどうなったんですか? 魔物解体カウンターに運ばれてこなかったから、気になって」

「ああ、ダークサーペントは毒と瘴気に覆われて、とてもじゃないが触れることはできなかった。そのままにしておいても次の魔物を生みかねんからな。【焼却】の【 天恵(ギフト) 】持ちが同行していたから欠片も残さず燃やし尽くした」

なるほど、だから解体の依頼がなかったのね。

うんうん、と納得していると、鋭い視線を感じて顔を上げた。

マリウッツ様が、何か聞きたげに口を開けては閉じてを繰り返している。

「どうぞ?」

質問を促すと、マリウッツ様は苦々しい顔でため息と共に言葉を紡いだ。

「俺が不在にしている間、その……危なかったと聞いた。お前も、怪我がなくてよかった。様子を見に行きたかったのだが、報告事項が多くて時間が取れなかった」

「あ、ありがとう、ございます……」

サラマンダーの件のことかしら。

もしかして、心配してくれていた……?

――あれ、なんでだろう。顔が熱い。

私は尻すぼみに感謝の言葉を述べつつも、俯いてしまう。

だって、本当に安心したように、柔らかく目を細めるんだもの。

いつもは射殺すぞと言わんばかりに冷たい目をしているのに……と考えて、あることに思い至った。

そういえば、いつからか氷のように冷たい目で見られなくなっていた。

マリウッツ様は言葉は不足しているし、態度は不遜だけれど、私の解体を観察しては不器用ながらも褒めてくれた。

魔物をたくさん持ち込んで、私の対応可能なランクを上げようとしたのも、これからも私に魔物解体を依頼しようとしてのこと……?

マリウッツ様が買っているのは、私の【解体】の腕、だよね……?

マリウッツ様の真意を探るように、ジッとアメジストの瞳を見つめる。深く吸い込まれるような瞳が僅かに揺れた。

「……踊りたいのか?」

「はい……えっ!?」

考え事をしていて、ついつい肯定してしまったけど、なんて言いました?

「そうか……あまり自信はないが、仕方ない」

何やら誤解しているマリウッツ様は少し唇を尖らせながら、私に手を差し出した。

もしかしなくても、これはダンスのお誘いでは? とパチパチ目を瞬く私。

遅れてカッと身体が熱くなり、内心大混乱に陥ったけど、「ん、早くしろ」と居心地の悪そうなマリウッツ様に促されて慌てて手を取った。

「えっと、その……ダンスの心得がなくて……足を踏んだらすみません」

ごく普通の日本人にはダンスの機会はありませんので……

「善処しろ」

「わっ」

予防線を張る私の腕を、マリウッツ様はフッと笑って引き寄せた。

ひぇえっ!

ダンスを踊るのだから、密着するのは仕方ないけど……仕方ないけどお!!

急な至近距離に心臓がけたたましく鳴り響いている。こんなに近いと、マリウッツ様に聞こえちゃう……

どこか上機嫌に見えるマリウッツ様にリードされつつ、私はギルドの一角でしばしダンスに興じた。