軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第157話 住民たちの話

「魔法がかかっている人同士は見えるんだね」

両手を伸ばして半透明になった自分の身体をしげしげと見つめる。ブライアン王子とルウシェも半透明に見える。

「そう設定して魔法をかけている」

「すご」

思わず賞賛すると、またぷくりとルウシェの鼻の穴が膨らんだ。

「さて、急ごうか」

「はい」

ブライアン王子の合図で、順番に窓から外に出る。音も周囲には聞こえないとはいえ、自然と口数は少なくなってしまう。

とにかく今は情報が足りない。一人でも多くの国民の様子を確認しなくては。

それと同時に、私は結び石を握りしめて、少しでも反応が強くなる場所や方角がないか探ることも忘れない。

ブライアン王子を先頭に、ルウシェが殿を務め、私は間に挟まれた並びでゆっくりと港町を歩く。日はすっかり沈んで、街灯がぼんやりと町を照らしている。

私たちが案内の女性に連れられていた時は、ほとんど外に出てこなかった住民たちが、様子を窺うようにパラパラと出てきて私たちが案内された建物を訝しげに眺めている。

「こんな時に余所者を入れるなんて……国王陛下はどういうおつもりなのじゃ」

「しっ。声が大きい。何かお考えがあってのことだろう」

「ただでさえ竜神様が荒ぶっていらっしゃるのだ。刺激するようなことをさせぬよう、しかと見張っておかねば」

住民たちは顔を突き合わせてヒソヒソとこんなことを話してから再び家の中へと引っ込んでいった。

ブライアン王子と顔を見合わせ、さらに町中へと入り込んでいく。

住宅ばかりが並ぶ町の中心部には、集会場のような建物があった。開いた窓から中を覗き込むと、パラパラと住民が集まっていた。室内を照らすのは部屋の四隅に置かれた蝋燭だけで、時折風に揺られて人影が不気味にゆらりゆらりと蠢いている。

ブルリと身震いをしながら、どうにか話を聞き取ろうと耳を澄ませる。

「今宵已む無く宿を貸した者たちだが……どのような様子だった?」

「大人しく案内に従っておりましたよ。外出せぬようキツく言い渡して参りました」

この淡々とした声は、私たちを案内してくれた女性のものだ。

「町を出歩かれるのも目障りだが、誤って森に入られでもしたら……」

「それだけは決して許されぬ」

「――いっそ、あの者たちも贄にしてしまえば良いのでは?」

森? と思っていると、不意に不穏な内容が聞こえて、サッと血の気が引く。

思わず隣にいたルウシェの手を握ると、ルウシェもギュッと握り返してくれた。その手は僅かに震えている。

「……ダメじゃ。魔王討伐の大義名分を抱えた一行じゃ。この国で消息を絶ったとなれば、忌々しい大陸の連中が大勢詰めかけてくるぞ」

「それは嫌だわ」

ヒソヒソ、コソコソ。人影は身を寄せ合うようにして話を続ける。

「なあに、王族の方が人柱とおなりになるまでの辛抱さ」

懸命に耳を澄ませていると、突然確信に迫る話が飛び出した。びくりと私の心臓も飛び出しそうになったところをグッと堪える。

「そうじゃ。尊き王家の血を捧げればきっと、竜神様もお鎮まりになる。母国の危機に我が身を投じんとする心意気たるや。おお、ありがたや、ありがたや」

「おお! これで病に冒された者も回復するかもしれん」

「作物もよく実るようになるだろう」

「ああ、ありがたや、ありがたや」

みんな両手を擦り合わせ、何度も拝むように頭を下げている。ゆらりゆらりと人影が波のように大きくなったり小さくなったりを繰り返している。

異様な光景に思わず後退りしてしまう。ブライアン王子とルウシェも同じ様子で、眉間に深い皺が刻まれている。

「戻ろう」

ブライアン王子の囁きに、私とルウシェは深く頷いた。

宿泊先の建物に戻るまでに遭遇した住民たちも、だいたい同じような話題で持ちきりだった。とにかく、かなり警戒されているし歓迎されていないようなので、慎重に行動しなくてはならない。

「……はぁ〜、気疲れしちゃった」

「お帰りなさい」

外に出た時と同じ窓から順番に室内に入り、私はようやく肺に溜まった空気を吐き出すことができた。

戻る時に周囲を確認して誰もいないとは分かっているけれど、念の為話の内容を聞かれないようにルウシェが建物全体に【隠遁】で音声だけ遮断してくれている。

「で、どうだった?」

留守番組だった梨里杏が待ちくたびれたとばかりに、何か収穫はなかったのかと尋ねてくる。ゆっくりと椅子に腰掛けたブライアン王子が代表して私たちが見聞きしてきたことを二人に共有してくれた。

「――ということで、核心に迫る情報は得られなかった」

悔しげなブライアン王子とは対照的に、ノエルは何やら顎に手を当てて考え込んでいる。

「いえ、あなたたちの話からいくつか推測することはできるわ」

「何?」

「まずは、近いうちに王家に連なる者の中から贄が捧げられるということ。時期的にマリウッツさんが攫われたことが関係しているんじゃないかしら? もしかしたら彼が王族の遠縁にあたるとか。それなら遠路はるばるマリウッツさんを連れ戻しにきたのも納得できるわ」

ノエルの推理に、私の心臓はドキッと跳ねた。マリウッツさんが王子ってことは誰にも言っていないのに、当たらずも遠からず。ノエル、恐るべし。

「それから、森っていうのがとても気になるわ。本当にこの国にドラゴンがいるのなら、一体どこに身を隠しているんだろうってずっと考えていたの。岩場か、森の奥深くか……住民たちの話だと、森には立ち入ってはいけない様子だったのよね? ということは、彼らが崇める竜神様、つまりドラゴンが住まう場所なんじゃない? 神域として立ち入りを制限されてもおかしくはないわ」

ノエルさんすごいです。私は心の中で拍手喝采する。

「私たちが事前に入手したこの国の地図だと、島の中心に王城があって、その東側を囲むように森が広がっていたわね。私たちが今いる港町は島の南に位置するから、北を目指せば森の端に行き当たるんじゃないかしら」

ノエルの話を受けて、梨里杏がテーブルの上に荷物から取り出した古い地図を広げる。北の海岸付近には切り立った岩場が広がっているようなので、その辺りか、森が怪しいと事前に話していたのだ。

「それで、結び石の反応はどうだった?」

ブライアン王子に問われ、私は手の中の結び石を見せながら答える。

「はい。北に向いた時、僅かに石から感じる気配が揺れたと思う。マリウッツさんは王城に囚われているのかも」

「ふむ……王城には流石に忍び込めないな。見つかったらそれこそ国際問題になる。限られた時間で、俺たちにできることは……」

うーん、とみんなが黙り込んでしまう。もちろん私もどうにか救出する手立てはないかと頭を捻らせる。

しばらくの沈黙ののち、ルウシェが「そうだ」と口を開いた。

「竜の贄として捕えられているのであれば、捧げる対象がいなくなればいい」

「ん? それって……」

もしかして、とんでもないことをおっしゃろうとしている?

続きを聞くのが怖くて、ちょっと頬がピクピクしてしまう。

「ん。ドラゴンを討伐してしまえばいい」

そんな私の嫌な予感はバッチリ的中してしまった。