軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第156話 ドラグア王国上陸

クラーケンに襲われて以降、時たま海の魔物に襲撃されたけれど、私が出る幕なく勇者パーティのみんなが難なく撃退してくれた。

「勇者パーティとして頼れるところを示さないとね」

ブライアン王子はそう言って張り切っていたけど、確かにとても統率の取れた動きで頼もしかった。あ、でも、ダイオウグソクムシみたいな足がいっぱい生えた魔物が襲ってきた時は、「ヒィィッ」と悲鳴をあげていて梨里杏に飛び蹴りを入れられていたわね。

そういえば、あの日のクラーケンはしっかり美味しいイカリングにしていただきましたよ。

ピィちゃんが大喜びでたくさん食べていたから、クラーケンに出会えて幸運だったわ。

そう梨里杏に言ったら、可哀想なものを見る目で見られてしまった。

「クラーケンに襲われて喜ぶなんて、サチさんぐらいじゃない」

「そう? ピィちゃんが一番嬉しそうだったよ?」

「ピピィッ!」

「……飼い主に似るのかしら」

そんなこんなありながら航海は順調に進み、予定通りの日程でドラグア王国に到着した。

夕暮れ時とあり、地平線に沈む夕日が海を赤く染めている。

随分と簡素な港に船を寄せ、勇者パーティのみんなと一緒に船を降りる。出迎えてくれたのは国民と思しき年嵩の女性が一人。無表情で感情が読み取れない。

「出迎え感謝する。今夜は世話になる」

「いえ……」

ブライアン王子に対しても一瞥するだけで、必要以上に会話をする気はないらしい。

ブライアン王子は仮にも王子なんだけど、ドラグア王国の王族はこの場にはいないようだ。というか、出迎えは女性たった一人である。

まあ、ある程度は想定内なので、私たちは顔を見合わせて案内されるがままに宿泊場所へと向かった。

船員は用意されていた燃料や食料、水を積み込んでから宿にやってくるらしい。

久しぶりに踏む土の感触にホッと安堵の気持ちが広がるけれど、同時に肌をピリピリ刺すような嫌な感じが付き纏って眉を顰めてしまう。

ピィちゃんは竜信仰が厚いという国民の目に触れさせない方がいいと判断し、いつものカバンの中で丸くなっている。船を降りる前から全身の毛を逆立てていて、どこか興奮状態にあるので、やはりこの国は異様な雰囲気に包まれているのだろう。

案内の女性が手に持ったランプが、暗くなり始めた道を照らしてくれる。ジジ……と点滅を繰り返し、なんとも心許ない。

女性に連れられたのは、港町の外れにある建物だった。町や公道は荒れた様子はなく、パッと見た限りだとよく整備されている。けれど、町に人の姿は少なく、特に女性や子供が随分と少ないように見受けられた。

建物の中に入り、入り口の扉がバタンと固く閉じられた。

「今宵はこの建物でお休みください。食事はこちらにご用意しておりますので、不用意に外出はされないようお願いいたします。明朝、出港の時刻にお迎えにあがります」

女性は胡乱な目でそれだけ言い残し、建物から出ていった。

女性の足音が遠ざかり、私たちはようやく深く息を吐き出した。

「概ね予想通りの反応だね。町の外れとはいえ、周囲に障害物はない。外出しようものならすぐに町の民の目に触れるだろうね。きっと、全員で僕たちのことを監視しているはずだ」

確かに、案内してくれた女性や、数人見かけた町の人たちの目は、明らかに余所者を見る目だった。排他的な風潮があることは想像に容易い。

「サチ、結び石はどう?」

ルウシェに問われ、私は服の中に忍ばせていた結び石を引っ張り出した。ギュッと握りしめると、わずかに石が熱を帯びていることが分かる。

「うん、やっぱりマリウッツさんはこの国にいると思う」

私は力強く頷き、そう断言した。結び石を通じて、少しだけどマリウッツさんの存在を感じる。

「よし、時間も限られているし、まずは情報収集かな」

ブライアン王子はそう言うけど、建物が見張られているなら、簡単に外に出ることはできない。どうするつもりなんだろう?

様子を窺っていると、ブライアン王子に目配せされたルウシェが前に出た。

「【隠遁】」

「えっ!? ルウシェ!?」

ルウシェが杖を掲げてスキル名を唱えると、背景に溶け込むようにしてルウシェの姿が消えてしまった。そしてすぐに、トンッと杖で床を叩く音がして、ルウシェが現れた。

「ルウシェは希少な【 魔導図書館(ライブラリー) 】の【 天恵(ギフト) 】を授かるこの国トップクラスの魔法使いなんだよ。扱える魔法は多岐に渡り、どんな属性の魔法も自在に操ることができる。ちなみに、【隠遁】は風魔法の応用だっけ? 姿が見えなくなるだけでなく、音も消せる優れものだ」

「そう」

「すご……!」

表情を変えずにこくりと頷くルウシェだけど、小さな鼻の穴がぷっくりと広がっている。多分クールに装っているけど、得意げな顔を隠しきれていない。背中に背負ったクマさんの足がプラプラ揺れている。可愛い。

いや、それにしてもすごくない? 勇者パーティに選抜されるだけのことはある。

「ルウシェの魔法があれば、姿を隠して町を探索することができる。だが、全員で行くのは危険だ。僕と――そうだな、結び石の反応を見るためにもサチさんに来てもらおう」

「わ、わかりました!」

ブライアン王子に指名され、私はごくりと生唾を飲み込んだ。

「扉が開けば不審がられるわ。出入りは窓からにしたほうがいい。換気をしていたって言い訳が効くでしょう。三人が出ている間、部屋の明かりは最小限に落としましょう。なるべく外から様子を窺われないように」

冷静に言葉を紡ぐのはノエル。建物の一階には大きな窓が二つある。一人ずつなら十分出られる大きさだ。

「そうと決まれば早速出よう。時間が惜しい」

「はい。梨里杏、ピィちゃんをお願い」

「任せて。ピィちゃん、よろしくね」

「ピッ」

私は依然としてカバンに入ったままのピィちゃんを梨里杏に託した。どこに人の目があるか分からないから、ピィちゃんには申し訳ないけど、しばらくはカバンの中でじっとしていてもらう。

ピィちゃんは物分かりがいいから、カバンを覗き込むと、力強く頷きを返してくれる。耳がずっとピクピクしているから、ピィちゃんも引き続き警戒モードなのだろう。

「じゃあ、魔法をかける。集まって」

私とブライアン王子はルウシェの前に立った。

「【隠遁】」

周囲の空気が揺らぐ感覚に包まれ、私たち三人の姿は景色に溶け込んだ。