軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第138話 誤解だから!

マリウッツさんがギルドまで送ると言ってくれたけれど、その提案は丁重にお断りした。

カフェの前でマリウッツさんと別れた私は、息を潜めながらギルドに戻ってきていた。

なぜなら、すでにギルドは営業中で職員や冒険者で賑わっているから。

二人で朝帰りなんてところを知り合いに、ましてやアンに見られたら……と考えてブルリと身体が震えた。うう、想像もしたくない。マリウッツさんには申し訳ないけど、やっぱり一人で帰ってきて正解だわ。

とりあえず一旦部屋に戻ってシャワーを浴びたい。

ギルドの受付や魔物解体カウンターがある建物内には入らずに、外からぐるりと回って従業員用の建物を目指していたのだけれど――

「ピィー!」

「ぐえっ!」

どこからともなく現れたピィちゃんがものすごい勢いで突進してきた。

ドフッとお腹にクリーンヒットをして、危うく先ほど美味しくいただいたモーニングセットがこんにちはするところだった。

「ピピピピィッ!」

「わわっ、ピィちゃん静かに……! しーっ! しーっ!」

おかえりと歓迎するように翼をバサバサと羽ばたかせて喜ぶピィちゃんを慌てて抱き抱えて静かにするように嘆願する。

誰かに見つかったら面倒なことに――!

「ピィちゃん? 突然飛び出してどうしたの……って、サチじゃない」

「ひっ!」

あわあわ慌てていたところに、無情にも今一番会いたくない人物がやってきた。

キョロキョロ辺りを見回しながらピィちゃんを追いかけてきた様子のアンさん。固まる私を見て、ニマァッと微笑んだ。ひいっ!

ダラダラと冷たい汗が背中を流れていく私に対し、アンは片手を口元に当てながら、「あらあらあらぁ〜?」と楽しそうにしている。

断じて後ろめたいことはしてないんだけど、居た堪れない。ギュッとピィちゃんを抱きしめる手に力が籠ってしまい、ピィちゃんが「ギュフッ」と呻いた。

「まさか本当に朝帰りだなんて、マリウッツ様もやるわねえ。うふっ、大丈夫よお。内緒にしておいてあげるから。そのかわり、今晩一緒に食事に行きましょうねえ。ぜーんぶ包み隠さず話しなさいよお。うふふ、楽しみだわあ。この後の仕事が捗りそう」

「え、いや、違っ! 何もないから! アンさ〜〜〜〜〜ん!?」

アンは、ウフッと不敵な笑みを浮かべながら、そそくさと建物の中へと戻っていってしまった。

私がアンを引き止めるために咄嗟に伸ばした手は虚しく空を切るばかり。

アンの誤解を解くのは骨が折れそうだと、私はその場に 頽(くずお) れたのだった。

その日の夜、私たちは、ピィちゃんを連れて行きつけの酒場に訪れた。女性向けの店なので、遅くまで安心して過ごすことができてとても重宝している。

「さて、詳しく聞かせてもらいましょうか」

「誤解だから!!」

ダンッとジョッキをテーブルに置いて、私は前のめりに弁明する。

アンはそんな私を楽しそうに眺めながら両手で頬杖をついてニマニマしている。くっ!

マリウッツさんの事情については勝手に話すわけにはいかないので、マリウッツさんの家で晩酌をしていてそのままソファで寝落ちしてしまったと説明した。

「それで朝ごはんを食べて帰ってきただけ! 本当に何もないから!」

「ふぅん、つまらないの」

アンは期待が外れたのか少し唇を尖らせている。つまらなくないから! 健全なお付き合いですから!

「まあ、とにかく無事に恋人同士になったのね。おめでとう」

「あ、ありがとう……」

改めて言葉にされるとどうも照れ臭い。私は肩を縮ませながら、照れ隠しにジョッキに口をつけてモゴモゴお礼を言う。

「それにしても、サチがちゃんと好きって言えてよかったわ。友達以上恋人未満のまま進展がなかったらどうしようかと思ったわよ」

アンはふぅーと息を吐き出して伸びをした。

ん? 好きって言えてよかった?

アンの言葉を受けた私は、昨日の夜のことを思い返す。

あれ……? もしかして、私……

「言…………って、ない、かも」

「はあああっ!?」

サアッと顔を青くしながら白状すると、今度はアンがダンッとテーブルに両手をついて顔を突き出してきた。私は慌てて背を仰け反らせながら両手と頭を振る。アンさん、顔が怖いです!

「で、でもマリウッツさんにはちゃんと伝わってるはずだし!」

「あのねえ……伝わっていたとしても、やっぱり言葉にしてほしいものよ? マリウッツ様はちゃーんと伝えてくれたんでしょう?」

「うっ」

マリウッツさんの告白を思い出し、カアッと顔が熱くなる。

「ううう……でも、改めて伝えるのは、ちょっと勇気がいるかも。機会が来れば、伝えます……」

「はぁ〜〜〜〜マリウッツ様に同情するわ」

ヘタレな私を前に、アンは盛大なため息を吐き、椅子に深く腰掛けて天井を仰いだ。

「プピィ……」

「なんでピィちゃんまで呆れた顔をするのよ」

モリモリと骨付き肉を堪能していたピィちゃんまで、小さく首を振りながら呆れ顔をしている。

いいもん、ちゃんと言えそうな時がきたら言うもん。

ちょっぴり拗ねながら、運ばれてきたウインナーに齧り付く。肉汁がジュワッと広がって一気に幸せな気持ちに満たされる。香草が効いていて美味しいわあ〜。食べ物ですぐに気持ちを切り替えられる自分に、我ながら感心してしまう。

たっぷりウインナーを味わって飲み込んでから、そういえば、とアンに聞いてみた。

「アンは、ナイルさんから好きって言われたの?」

「ぶっ」

エールを飲もうとしていたアンが盛大に噴き出したので、慌ててハンカチを差し出した。

アンはお礼を言いつつハンカチで口元を拭った。

「ま、まだよ」

「えっ、そうなの!? てっきりもう付き合っているものだと……」

「付き合ってないわよお。うちは……ほら、パパが、ねえ?」

「あー……」

そうだった。娘を溺愛しているオーウェンさんに認めてもらうのは、なかなか骨が折れそうだ。

そういえば最近筋トレしているってナイルさんが言ってたな。「来るべき時のために、鍛えなきゃっす」って深刻な顔をしていたけれど……まさかオーウェンさんと決闘でもするつもりなのかな。いや、いやいやいや。流石に違うよね。うん、違ってほしい。

っていうか、アンは「まだ」って言ったよね。つまり、アンにもその気はあるってこと、だよね。

そう考えると自然と笑みが漏れてしまった。ナイルさん、頑張って。

「お互い、頑張ろうね」

「……サチに言われるのは何だか悔しいわあ」

「なんでよ」

その後も私たちは笑い合いながら、他愛のない話で盛り上がった。