軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 駆け出し冒険者 ◆モブ視点

「あっ! レックスさん! お疲れ様です」

「サ、サチさん、えっと、こんにちは」

冒険者の資格を得て一年。

まだまだ駆け出し冒険者である僕は、Dランクの七面鳥を遠慮がちに魔物解体カウンターに差し出した。

「七面鳥ですね! 今手が空いているのでサクッと解体してしまいます」

「お願いします」

ドルドさんが奥のカウンターで作業をしているようで、近くにいたサチさんが直接七面鳥を請け負ってくれた。

幸運だと内心でガッツポーズをしつつ、僕はサチさんの作業の様子を窺う。

「【解体再現】」

サチさんはシュパパパァンと小気味よい音を響かせながら難なく七面鳥を素材別に解体してしまった。いつ見ても惚れ惚れする腕前だ。

「はい。引き取りはお肉だけで大丈夫でしたか?」

「あっ、はい! ありがとうございます」

「いえいえ、頑張ってくださいね」

包んでくれた七面鳥の肉を受け取ると、サチさんはニッコリ微笑んで激励の言葉をくれた。

サチさんは僕が駆け出しの頃から魔物の解体依頼を受けてくれていて、ことあるごとに応援してくれる。

そんな彼女は不条理にも異世界から強引に連れてこられたらしい。

けれど、そんな苦境をものともせず、新しい生活基盤を築き、今や魔物解体カウンターを支える優秀な解体師となっている。

そんな彼女を初めて目にしたのは、Eランク冒険者になって間もない頃だった。

一目惚れだった。

多忙を極める仕事に苦言を呈することもせず、真面目に懸命に魔物と向かい合う姿はとても美しいと思った。

冒険者という生業の大変さを痛感していた時期でもあり、僕は勝手に彼女の存在に励まされ、自分も頑張ろうと自らを鼓舞するようになった。

頑張って魔物を仕留めれば、サチさんがいる魔物解体カウンターに行ける。

運が良ければサチさんに解体を担当してもらえる。

不純な動機かもしれないが、僕は彼女の存在を支えに毎日頑張ってクエストに向き合った。

そのうち顔を覚えてくれたようで、軽い挨拶や会話を交わすようになった。

サチさんはメキメキと頭角を現し、どんどん能力レベルも上げていった。

僕は少しでもサチさんに追いつきたくて、冒険者ランクを上げるために繰り返しクエストを受注した。

ある日、僕は孤軍奮闘してDランクのレッドボアを初めて仕留めることができた。

サチさん、びっくりするかな。なんて思いながら、レッドボアを魔物解体カウンターに持ち込んだ。

「おっ、随分と太刀筋に迷いが少なくなってきたようだな。切断面が前よりも綺麗じゃねえか」

「えっ! 本当ですか!」

今日はカウンターにドルドさんが立っていたので少し残念に思っていたところ、思いがけず褒めてもらって動揺してしまった。

「おう。毎日頑張ってるもんなあ! さて、こいつはサチに回して……っと、タイミングが悪かったか。おい、ナイル! レッドボアだ。急ぎで頼む」

「はいっす!」

カウンター内にサチさんがいるのは確認済みだったので、どうして彼女ではなくナイルさんを? と少し疑問に思う。

ぼんやりとサチさんの姿を目で追いながらカウンターの前で立ち尽くしていると、背後から声をかけられた。

「用が済んだのなら場所を空けてくれると助かるのだが」

「え、あっ! マ、マリウッツさん……!? す、すみません! 今すぐどきます!」

そこにいたのは、この国唯一のSランク冒険者であり、僕が密かに憧れている存在でもあるマリウッツさんだった。

魔物を預けたら次の冒険者にカウンターを譲る。

そんな当たり前のことを疎かにしていた自分を恥じつつ、ススス、と場所を明け渡す。

壁際でナイルさんの作業を待ちつつ、マリウッツさんが収納袋から次々と魔物を取り出す様子をポカンと口を開けて見つめる。

最低でもDランク。Cランクの魔物中心に十頭はいるんじゃないだろうか。え? この量を、たった一人で?

僕も少しは腕を上げたと自負しているけれど、トップレベルの冒険者の背中はとても遠い。

「あっ! マリウッツさん! うげっ、今日も大量ですね」

「サチならこれぐらい造作もないだろう」

呆気に取られていると、マリウッツさんに気づいた様子のサチさんが嬉しそうにカウンターの側まで駆け寄ってきた。

マリウッツさんも口元に微笑を 頌(たた) えてサチさんに話しかけている。

やっぱり、魔物を狩る数が多い分、魔物解体カウンターを利用する頻度も多いのだろう。二人の気さくな関係を目の当たりにし、もやりと未知の感情が胸に宿った。

なんだこの気持ちは、と首を傾げて胸を押さえている間も、二人は楽しそうに会話を重ねている。

「うえええ……買い被りすぎです。まあ、でも……やってやりますよ! 大船に乗ったつもりで任せてください!」

「ふ、頼むぞ」

「はいっ!」

サチさんは大量の魔物を一手に引き受け、ローランさんの手を借りつつ作業台に魔物を運び始めた。

「おう、レックス! 今日も頑張ってるか? って、んんん?」

「わっ! びっくりしたあ」

ポケッとサチさんの働く姿に見惚れていると、先輩冒険者に肩を叩かれた。

今日はよく声をかけられる日だなと思いながら振り返る。

先輩は後ろから僕の肩越しに魔物解体カウンターをジッと観察し、何度か僕とサチさんを見比べていた。なぜか、そわそわと少し居心地が悪い気がする。

「ははーん。なるほどなあ……レックス、悪いことは言わねえ。諦めることだな」

「えっ!? どうしてですか!?」

何をと言われたわけではないが、流石にサチさんのことだと察することができたので咄嗟に理由を問うてしまった。

確かに、僕みたいな駆け出し冒険者にサチさんは高嶺の花だとは思うけど……!

「我らが魔物解体嬢殿は、Sランク冒険者様のお気に入りであり、ギルドのサブマスも気にかけている存在。あの子に懸想するには戦う相手が悪すぎるってもんよ」

「えっ、マリウッツさんと、サブマスターも……!?」

大物の名前ばかりで思わず目を剥いてしまう。

そうだ。サチさんはあんなにも魅力的な女性なのだ。

僕以外にも彼女に想いを寄せる人がいて当たり前だ。

そのことに、どうして今まで気がつかなかったのだろう。

サチさんとマリウッツさんが気の置けない関係であることは先ほど嫌というほど目の当たりにした。

その上、ギルドを実質管理統括しているアルフレッドさんまで彼女を気にかけているなんて……

ただの駆け出し冒険者である僕の敵う相手ではない。

ましてや、Dランクのレッドボアを一人で倒して喜んでいるうちは到底敵うわけがない。

僕はいつの間にか痛いほどにギュッと拳を握りしめていた。

僕の胸に灯る淡い想いが実ることはないだろう。

けれど、せめて、彼女に僕の気持ちを伝えたい。

もっと腕を磨いて、ランクを上げて、自分に自信が持てるようになったら――振られることは分かっていても、この想いを伝えよう。

「お待たせしましたっす〜! 引き取りは肉だけでよかったっすよね?」

「あ、はい! ありがとうございます!」

僕が密かにそんな目標を立てていると、レッドボアの解体を終えたナイルさんが大きく手を振りながら声をかけてくれた。

僕は慌てて頷きながら、素材を受け取るためにカウンターへ駆け寄った。