軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話 アルフレッドの決意 ◆後半アルフレッド視点

その後、マリウッツさんを襲った夢喰いは、共同墓地で弱っていたところを発見されて無事に討伐された。

あの日、私は目がパンパンに腫れるまで泣き続け、同じようにマリウッツさんにしがみついて泣いていたピィちゃんと共に魔物解体カウンターに戻って驚かれた。

いつの間にか医務室からアルフレッドさんがいなくなっていたけれど、後日会った時に夢喰い討伐の指揮を執っていたと教えてくれた。

マリウッツさんは現在、念の為にと治療院で検査入院をしている。そろそろ元の生活に戻れると聞いているんだけど、あれからマリウッツさんには会えていない。

ある日のお昼過ぎ、魔物解体カウンターには近況確認のためにアルフレッドさんがドルドさんを訪ねに来ていた。

「マリウッツ殿は今日退院ですよ」

「そうなんですか! よかったあ」

アルフレッドさんが教えてくれた情報に、私はホッと胸を撫で下ろした。

「元気そうだな」

「わっ!」

そして噂をすればなんとやら。

いつもの冒険者服ではなく、シンプルな黒の長袖とパンツスタイルのマリウッツさんが魔物解体カウンターに現れた。

「マリウッツさん! もうお身体の調子はいいんですか?」

私は急いでカウンターの外に出て、マリウッツさんの元へ駆け寄った。

「ああ。しばらくはクエストを受けずに療養するつもりだ。ここには顔を出すがな」

もうすっかり元気そうで安心する一方で、ふと疑問を抱く。

魔物の持ち込みがないのなら、魔物解体カウンターに来る用事は無いのでは?

私の考えを見透かしたように、マリウッツさんは微笑を浮かべた。

「サチの顔を見に来るだけだ」

「え」

ストレートすぎる物言いに、私は思わず絶句した。視界の端でローランさんとナイルさんがバッと視線を逸らしてわざとらしく手元の作業に没入し始めた。

「目の腫れは引いたようだな」

「うぐっ、その節はお見苦しい姿を……」

大泣きした時のことを掘り返され、私は赤面して目を逸らす。

マリウッツさん、絶対わざと言ってるよね。

じとりと睨みつけると、マリウッツさんは楽しそうに悪戯っ子のような悪い笑みを浮かべた。なんだか前より表情が豊かになったというか、自然体になったような……

「今日の仕事が終わったら、一緒に食堂で食事をしないか? そこの食いしん坊も連れてな」

「キュ?」

ちょうど、「あー、マリウッツだ〜」とばかりに寝床から出てきたピィちゃんは、まだ寝起きなのでとろんとした目で首を傾げた。

「カウンターが閉まる頃に迎えに来る」

「えっ、あっ、はい!」

マリウッツさんはピィちゃんの頭を撫でてから片手をあげて颯爽と去っていった。

「……よし、残りの仕事もがんばろ!」

話の流れで今晩一緒に食事をすることになったけど、仕事終わりにマリウッツさんと会えると思うといつも以上に頑張れそうな気がした。

◇◇◇

特に異常が無さそうなマリウッツ殿の様子に安心しつつ、以前にも増して親密な様子の二人を目の当たりにして胸が痛んだ。

夢喰いの悪夢から目覚めたマリウッツ殿に縋り付くサチさんの様子を思い出して、思わず二人から目を逸らす。

親しげなマリウッツ殿とサチさんを横目に、ドルドさんが小声で尋ねてきた。

「いいのか? お前ももっと積極的にいかねえと」

「はは……僕は、いいんです」

眉を下げて答えると、ドルドさんは驚いた様子で瞠目した。

「なんでえ。お前さんの気持ち、伝えねえのか?」

やっぱり、ドルドさんには僕の気持ちはバレていますよね。

クイッと丸眼鏡を押し上げてから、僕は息を吐いた。

「……そう、ですね。僕の想いを伝えることは、僕の自己満足に過ぎません。優しい彼女のことです。今、僕の気持ちを伝えれば、きっと混乱するでしょうし、応えられない自分を責めるでしょう。この想いを、彼女の重荷にしたくない」

「……そうか。そういうところも、お前のいいところではあるんだがなあ」

ドルドさんは寂しげに目を眇め、ポンッと僕の肩を叩いた。

こうして深く詮索せずに、理解を示してくれることが何よりもありがたかった。

「ありがとうございます。ですが、もし彼がサチさんを泣かせるようなことがあれば……遠慮なく掻っ攫うつもりですよ」

これぐらいの強がりは、許されるだろうか。

わざと好戦的な笑みを浮かべて見せると、ドルドさんは目を瞬いてから大口を開けて笑った。

「ワハハ! そりゃあいい。その時は応援するぜ」

サチさんを見守り、手助けしたいという気持ちは、彼女がこちらの世界で生きる決心を示してくれたあの時から変わっていない。

特別な関係になれなくてもいい。

僕は僕なりに、彼女を守りたい。

だが、そろそろ自分の気持ちを割り切らなければならない。

僕はある決意を固め、立ち去るマリウッツ殿の背中を見送った。