軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第107話 自覚した想い

「あっ」

「サチか」

アンとナイルさんと別れてから、夕飯を無事に手に入れた。ブラブラと市場を 彷徨(うろつ) いていると、マリウッツさんとバッタリ遭遇した。

マリウッツさんはいつもの冒険者スタイルなので、クエスト帰りなのかな?

なんて考えながら、思わずマジマジと見つめてしまう。

改めて見ると、マリウッツさんってスラッと背が高くて、手足も長くって、骨太なアルフレッドさんと比べると華奢に見えるけど、この間抱き止めてもらった時の胸板はとても厚かったなあ――

「どうした? ぼーっとして」

「ぴぎゃぁっ!?」

自分の世界に浸っていると、怪訝な顔をしたマリウッツさんに顔を覗き込まれた。

突然のイケメンのドアップは心臓に悪いから!!!

ただでさえマリウッツさんに対して抱く生まれて初めての感情を持て余しているのだから、少しは手加減してほしい。なんて、自分勝手なお願いなんだけど。

勝手に不貞腐れていると、マリウッツさんは私の手元の荷物を見て、買い物帰りと判断したらしい。

「ギルドまで送る」

そう言って私の隣に並んだ。

「え、でも、すぐそこだし……」

「俺が送りたいだけだ」

「へあ」

「なんだその情けない声は」

マリウッツさんはヒョイッと私の腕から買い物袋を奪い取ると、スタスタと歩き始めた。

え、待って、ちょっと!

慌てて追いかけて隣に並び、買い物袋を取り返そうとするも、頭上に掲げられては届かない。くそう! 長身ずるい!

「重たくないですし、自分で持てますよ」

「重くないのなら、俺が持っても問題はあるまい」

「ぐう」

どうやら買い物袋を返す気はないらしいので、諦めて甘えることにする。

時刻は夕方に差し掛かっているが、王都の街にはまだまだ人が溢れている。

あちこちで賑やかな笑い声が聞こえてくるけれど、そんな声を掻き消すほどにうるさく鳴り響いている私の心臓。お願いだから、マリウッツさんに聞こえませんように。

背中に夕陽を浴びて、私たちの足元には長く伸びた影が並んでいる。

何を話すわけではないけれど、流れる沈黙は不思議と嫌ではない。

チラリと盗み見たマリウッツさんの横顔は、夕陽によってオレンジ色に縁取られていて息を呑むほどに美しく、慌てて再び前を向く。

間も無くギルド前に到着し、マリウッツさんは満足げな様子で買い物袋を私に返してくれた。

「ありがとうございます」

荷物を持ってくれたことと、ここまで送ってくれたことに感謝の気持ちを伝える。

「いや、俺が少しでも長くサチと共にいたかっただけだ。気にするな」

「へあ!?」

「だからなんだその情けない声は」

マリウッツさんが口元を拳で隠しながら小さく笑った。

ククッとくぐもった声にどきりとする。

「明日は仕事か?」

「え、あ、はい」

「そうか。明日もクエストに出る。解体は任せるぞ」

「お、お任せあれ!」

肩に力が入っているためか、少し前のめりに答えてしまった。

フッと再び笑みを漏らしたマリウッツさんに、ぎゅうぎゅうと胸が締め付けられて苦しい。なんだか無性に泣きたくなってきた。

「で、では、また明日……」

「ああ。また明日」

結局最後にはマリウッツさんの顔を見れずに、紙袋を胸に抱え込んで俯きながら真っ直ぐ自室に向かった。

「キュッ! キュキュ?」

部屋に戻ると、いい子でお留守番をしてくれていたピィちゃんが頭に飛び乗ってきた。

「わっ、ただいま。お腹空いたよね。ご飯買ってきたよ」

「キューッ!」

机の上に露店で買ってきた料理を並べ、ピィちゃんがガツガツと食べ始めたことを確認してから、椅子を引いてドカリと腰を下ろした。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

そのまま机に突っ伏して目を閉じる。

目を閉じると頭に浮かんでくるのは、夕陽に照らされた美しい濃紺の髪と、優しく細められたアメジストの瞳。

マリウッツさんと初めて出会ったのは、ギルドの受付カウンターの前だったっけ。

あの時は射殺されるかと思うほど冷たい目をしていたマリウッツさん。めちゃくちゃ怖くて、できれば関わり合いになりたくないと思っていたんだよね。

それが、マリウッツさんが持ち込む魔物の解体をするようになって、スタンピードで彼の身を案じて、慰労会でダンスとは言い難い何かを踊って、一緒に初めてのクエストに出て、私専用のナイフの素材を採って、隣国に行った時だって共に窮地を乗り越えた。

思い返せば、大変な時はいつだって側にいてくれた、不器用だけど面倒見が良くて優しい人。

――ああ、そうか。

もう、きっと、ずっと。

少しずつ、少しずつ。私の中に降り積もっていたんだ。

「……はぁぁ。これはもう、誤魔化せないな」

さっき隣を歩いている時に、不意にすとんと腑に落ちてしまった。

……ああ、この人のことが好きだなあ、と。

「私、マリウッツさんのことが好きなのか……」

口から溢れた言葉は、誰の耳に届くこともなく空気に溶けて消えていく。

私は机に顎を乗せて窓の外に視線を投げた。

言葉に出してしまったら、もう後戻りはできない。遅れて実感が湧いてきて、ジワジワと身体が熱を帯びていく。

次々と浮かんでくる色んな表情のマリウッツさん――いや、そこまで表情豊かじゃないわ。

出会った頃と比べると、随分と表情が柔らかくなって、笑顔を見せてくれることも増えてきたとは思う。でもやっぱり、マリウッツさんの表情筋は固いし分かりにくい人だと思う。それこそ、私のことをどう思っているのか分からない。

仲が良い方だと自負しているけれど……マリウッツさんにとっての私は、希少な友人であり、優秀な魔物解体師でしかないんだろうなあ。

はあ、明日からどんな顔して会えばいいの。

胸がいっぱいであまりお腹が空いていないけど、食べないと元気が出ないのも確かなので机の上に視線を戻す。

「ピュィ……ジュル」

お腹が空いていたのか、先に食べ始めていたピィちゃんはあっという間に自分の取り分を平らげたようで、私の夕飯を涎を垂らしながらジーッと見つめていた。狙っている。

「だーめ」

「プゥ」

私の分がなくなってしまうので、容器を取り上げて高く掲げる。ピィちゃんは不服そうに頬を膨らませている。食いしん坊だよね、ほんと。

次はもう少し買う量を増やすべきかな。

そう思いながらケバブサンドに似た料理にかぶりつく。

結局この日の晩は、色々と考え込んでしまい少し寝つきが悪かった。