軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第105話 出張からの帰還

「長かった!!! やっと着きやしたね……!」

ロスマン湖へ出張解体に出向いていた私とローランさん、そして湖の魔物調査にやって来ていたマリウッツさんは、丸一日かけて王都サラディンへと帰還した。

馬車がギルド前に停止するや否や、ローランさんがワッと叫んで両手で顔を覆ったのでビックリした。

「え、ローランさん、そんなに馬車旅がしんどかったんですか?」

確かにローランさんは長身だし、行きより一人同乗者が増えた分窮屈だったもんね。

同情の眼差しを向けると、逆に憐れむような眼差しが返ってきた。なんですか、その目は。私もずっと隣に座っているマリウッツさんを意識しすぎて、肩がガチガチに凝っていますけれども!

何か言いたげに目を細めるローランさんだけど、その真意を汲み取ることができずにしばしの沈黙が私たちの間に流れる。

そうこうしている間に、私の隣に座っていたマリウッツさんが立ち上がって颯爽と馬車から降りていった。躊躇がない。

マリウッツさんの膝の上で惰眠を貪っていたピィちゃんも、ピューンと飛び出してギルド内に入っていった。魔物解体カウンターの定位置に向かったんだと思うけど、自由なドラゴンだわ。

「私たちも降りましょうか」

「そうですねい」

ローランさんに「お先にどうぞ」と手で促されたため、ひょっこり馬車の扉から顔を出す。

すると、先に馬車を降りたマリウッツさんが、どういうわけか手を差し出して続いて降りようとした私を見上げている。

「ん」

「ん?」

首を傾げる私に明らかに呆れた顔をするマリウッツさん。

え、何!? なんでしょうか!?

訳が分からずに困惑する私に、助け舟を出してくれたのはローランさんだった。

「あー、サチさん、多分エスコートだと思いやすぜ」

「えっ!?」

後ろからコッソリ教えてくれるローランさんを振り返ると、眉を下げて苦笑している。

え? エスコート? なにそれ。

あっ、段差があるから手を取れってことか!

「えっと、その、だ、大丈夫ですよ! これぐらいの段差!」

マリウッツさんの手を握るのが気恥ずかしくて、目を泳がせながら急いで馬車から降りようと足を伸ばす。

「あっ、馬鹿」

「わわっ! ぎゃあっ!」

慌てて足を踏み出したけれど、長時間座っていたせいで足が思ったように動かなかった。

意外と段差があったこともあり、ガクンと足を踏み外してしまい前のめりにつんのめってしまった。

「ブッ」

これは顔面強打は免れないとぎゅっと目を瞑ったけれど――覚悟した痛みは訪れなかった。

温かな何かに包み込まれている感覚がして、恐る恐る目を開けると、頭上から聞き慣れた深いため息が降ってきた。視界いっぱいに広がる見慣れた服に、今置かれている状況を察して急激に頬に熱が集まってくる。

この状況は……!

と、とにかく離れなきゃ――!

「ご、ごめんなさ……っ」

「っ」

ガバッと顔を上げると、私の様子を窺って少し背を丸めていたマリウッツさんとバチンと目が合った。ヒィッ! 視界がマリウッツさんで埋まってしまうほどの至近距離に息が止まるかと思った。

「まったく、最初から手を取ればいいだろう」

「うう、すみません……」

気まずげに目をフイと逸らしながら、マリウッツさんがそっと私の身体を支えて踏み台の上に立たせてくれた。

足を踏み外した私は、マリウッツさんに抱き止められていたというわけですね。はい。

顔から火が出そうなほどに恥ずかしくて目が回りそうになる。

情けないやら申し訳ないやら恥ずかしいやらで、涙目になりつつ、今度こそマリウッツさんの手を借りて地面へと降り立った。

「……俺は荷物を取ってこよう」

そう言って荷台に向かったマリウッツさんの耳の先が赤く見えた。もしかすると、マリウッツさんも照れたり……してないか。

私はと言うと、緊張の糸がぷつりと切れて、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。

後ろから馬車を降りてきたローランさんが「大丈夫ですかい?」と苦笑しながら覗き込んでくる。

「ローランさん助けて……こ、腰が抜けて立てない……お、おんぶ……」

「えっ、俺に死ねとおっしゃる?」

「なんで?」

顔を寄せ合いコソコソする私たちを冷たい目で見ているマリウッツさんには気付かずに、私は尚もローランさんに縋り付く。

「おんぶがダメなら、肩を貸してくれるだけでも……!」

「立てないなら観念してマリウッツさんに運んでもらうしかないですぜ。それが嫌なら死ぬ気で歩いてください」

「そんなあ……」

ローランさんってば、冷たくないですか!?

じとりと目で不満を訴えるも、ローランさんは素知らぬ顔で私の腕を引いて立ち上がらせてくれた。

私たちは各自荷物を受け取り、御者のおじさんにお礼を言ってからギルド内に足を踏み入れた。

扉を開けると、冒険者やギルド職員の皆さんの賑やかな声に包まれて、帰ってきたなあという気持ちになる。

「じゃ、じゃあ、私たちは業務報告がありますので……」

「ああ、俺も受付カウンターでクエスト完了の報告を入れてくる」

「お疲れ様です」

マリウッツさんとはギルドの入り口で別れ、私はローランさんと共に魔物解体カウンターへと向かう。

「ナイルさん、生きてますかね」

「どうでしょうねい」

私とローランさんは、残してきた同僚の様子が気になり、自然と早足になってしまう。

「オラオラオラ! チンタラしてっと明日に持ち越しだぞ!?」

「ヒィィッ! 鬼ィィ!」

今はちょうど日が傾き始めた時間帯で、魔物解体カウンターが混雑する頃合いとあり、カウンター内ではドルドさんが檄を飛ばしながらナイルさんに仕事を振っている。

ナイルさんはベソをかきつつも懸命に手を動かしている様子。

「……手伝いましょうか」

「そうですねい」

私たちは顔を見合わせて苦笑いをしてから急いでカウンター内へと向かった。

「ただいま戻りました!」

「おう、戻ったか! 早かったな!」

「ああああっ! ローランさんにサチさん! お帰りなさいっす! 二人が恋しくてたまらなかったっす〜!!」

「あはは……まあ、だいたい想像はつきます」

結局その後、定時まで仕事をしてからロスマン湖での仕事内容を報告することになった。

ドルドさんには、「報告は明日でいいから、部屋に戻って休めよ」と気遣ってもらったけれど、げっそりと疲れ切った顔をして助けを求める目をしていたナイルさんを置いてはいけなかったよね。

解体作業の詳細については、追ってロスマン漁業組合から報告書が上がってくる手筈となっているため、私とローランさんは、聖女と勇者に遭遇したことや現地の様子を中心に報告した。

「なるほどなあ、そりゃあ大変だったな。ま、二人ともいい経験を積めたようで何よりだ。この数日でナイルの太刀筋も随分と良くなったんだぜ?」

もはや屍のように魂が抜けていたナイルさんだったけど、ドルドさんの一言で息を吹き返して「ドルドさあああん」と感激の涙を流している。うん、よっぽど大変だったのね。早めに帰ってこられてよかったわ。

「おう、じゃあ今日は酒場で打ち上げといこうか」

「「「やったー!」」」

ドルドさんがニヤリと笑ってジョッキを傾ける仕草をし、私たちは大歓喜で食堂へと向かったのだった。