軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 それは唐突に

マリウッツさんが仕留めたシーサーペントをサクッと解体し、私とローランさんは予定通り王都に向かう馬車に乗り込んだ。広大な湖の調査をたった一日で終えたマリウッツさんも、王都に戻ると言うので同じ馬車で帰ることになった。

私とローランさんは行きと同じく向かい合って座り、なぜかマリウッツさんは私の隣を陣取っている。その膝の上にはピィちゃんが乗っている。解せぬ。

「それじゃあ、またね」

「うん、ありがと」

私は馬車の小窓から顔を出して、見送りに来てくれた梨里杏に挨拶をしていた。

ブライアン王子も来ると言うところを、梨里杏がどうにか説得して止めてくれた。

宿が同じだから、何度か食事を一緒にすることになったんだけど、やけに懐かれちゃったのよね……なんでなの。

「あ、ねえ」

「ん? どうかした?」

「これ、あたしが貰っちゃって本当によかったの?」

そう言ってシャララと梨里杏が取り出したのは、通信機能付きのペンダントだった。

「うん、いいの。私が梨里杏に持っていてほしいと思ったから」

「ふーん? 好きな人にあげなくてもよかったの?」

水晶玉を触りながら、私にだけ聴こえる声量で囁く梨里杏。口角がニヤリと上がっている。

「えっ!?」

好きな人!?

そんなの居るわけ――

そう否定しようとしたのに、どうしてか頭の中に鮮明に浮かび上がる人がいた。

湖に負けないぐらい美しく澄んだ剣をしなやかに動かして、魔物を一刀両断する広く頼もしい背中。

風に靡く濃紺のサラリとした髪。

私を見て、柔らかく細められた切れ長のアメジストの瞳。

いつも、不器用ながらも私を気にかけてくれる強くて優しい人。

「…………………………え?」

「えっ、て……サチさん、あなた顔真っ赤よ?」

梨里杏に指摘されて慌てて両頬を手で包み込む。あっつい。すごくあっつい。

いや、だって、ええっ? なんで頭に思い浮かぶわけ?

私がパニックに陥っていると、梨里杏は「嘘でしょ」と盛大なため息をついた。

「サチさん、自覚なかったの」

「えっ、自覚!? なんの!?」

梨里杏に縋るように問いかけるも、涼しい顔をして教えてくれない。

「うふふ、こういうことは自分で気づくことが大事なの。ま、相談したいことがあったらいつでも呼んでよね。恋バナ大歓迎だし!」

そう言ってペンダントの水晶玉をトントンと叩いて、梨里杏は笑った。

「そろそろ出発しますよ」

梨里杏のペースに翻弄されていると、御者のおじさんが待ちくたびれたと言わんばかりに顔を覗かせた。

「あ、すみません!」

結局最後は慌ただしく挨拶を済ませて、私たちは握手を交わした。

きっとまた会える。そう信じて。

御者のおじさんの掛け声で、馬車がゆっくりと動き出した。

「またねー!」

ブンブンと手を振る梨里杏の姿が小さくなっていく。

まさかこんなところで再会するとは思わなかったけど、会えてよかった。

私は笑みを深めてそっと窓を閉めた。

◇◇◇

ガタゴト。

馬車が大きく揺れるたびに、隣に座るマリウッツさんと肩が触れ合う。

元々ローランさんと二人で乗る用に準備された馬車なので、困ったことにそこまで広くないのよ。

「なんだ」

「……なんでもないです」

「……だから、なんだ」

「…………なんでもないです」

気が付けば、視線は自ずとマリウッツさんに向いていて、私の視線に気付くたびにマリウッツさんが目を細める。

何度も同じやり取りを繰り返し、怪訝な顔で首を傾げるマリウッツさん。

その仕草ひとつにもドキリと胸が高鳴る。

マリウッツさんは腕組みをして、長すぎる足も組んでいる。馬車が狭いから窮屈そう。

サラリと揺れる濃紺の髪や、伏せられた瞳につい見入ってしまう。

…………………………えっ? なにこれ。

これからどんな顔してマリウッツさんと接すればいいの!?

助けて! アン!

「……え? 俺、丸一日この甘酸っぱい空気に耐えなきゃならないんで?」

内心大パニックに陥っている私の対面では、ぼそりと何か呟いたローランさんの頬がヒクヒクしていた。

― 第三部完 ―