軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.紫の瞳が告げる罪 sideセリーヌ(コルホネン伯爵夫人)

sideセリーヌ

予定よりも早く生まれた赤子は、力強く泣き声を上げた。産声を聞いた瞬間、私の心には安堵とともに不安が入り混じった。

産まれてきた子は、確かに私の血を引いていた。その証拠に、赤子の髪は私と同じ色に染まっていた。

しかし、その瞳を見たとき……、絶望が訪れた。

私の瞳でも、愛しい夫、アシュトンの瞳でもない、異なる色が宿っていた。

紫色の瞳――その色を見た瞬間、私はすべてを失った。

この子は、アシュトンの子ではない。なぜ、たった一度の過ちで、こんなことに……。

後悔と恐怖が胸を締めつけ、私は思わず赤子を産婆に返した。

この子がアシュトンの愛を失う原因になる。そんなのは、絶対に嫌……私には、アシュトンの愛が必要なの。だから、隠さなければならない。何もかもを、隠し通さなければ――。

「よく頑張ってくれた。息子か、嬉しいな。ああ、君によく似ている。このパープルの瞳は君の家系かい?」

「え、ええ」

私の家系にいるわけがない。あの男の瞳とそっくりな色。いつまで、ごまかせるかしら。

「可愛いな。子供って、なぜこんなに愛しいのだろうな」

アシュトンは赤子を腕に抱きしめ、その小さな手を優しく撫でた。愛する者を見つめるその瞳は、私がいつも求めてやまなかったものだ。

なぜ?

血のつながっていないあなたが、私の愛しい人にそんな目で見つめられるの? 愛される資格などあっていいはずないのに。

アシュトンは、毎日赤子の顔を見に来た。その度に彼は赤子を抱き上げ、慈しむように微笑みかける。

その子の中に流れる私の血を愛しているんだと自分に言い聞かせても駄目だった。

その姿を見ているだけで、私の中に、どす黒い感情が沸き上がり、私の全てを覆い尽くしてしまう――。

闇魔法。偏見が強いこの国では、忌避される魔法。

公爵令嬢が使える魔法としては、あまりにも……。だから隠し通して生きてきた。自分の両親にさえも。

魔法の鑑定は、本人がその力を自覚した時に行われるものだが、私はその自覚を決して口にしなかった。厳しい家庭教師にぶたれて、私の魔法が発動しても。呪いのようなその魔法で、その家庭教師が徐々に体を弱らせていったとしても、決して誰にも言わなかった。

出産後、心労と肥立ちの悪さが重なり、私の感情は次第にコントロールできなくなっていった。魔力が暴走しそうになることもしばしばで、抑えるのも大変だった。食事も喉に通らず、日に日にやつれていく。

そんな私を心配したアシュトンは、毎日傍にいてくれた。

会いたい時に会えなかった日々が嘘みたい。ああ、毎日会えるなんて幸せだわ。

でも、徐々に微笑むことも、言葉を発することも難しくなってきた。それでも、アシュトンの愛を感じることで、私は辛うじて生き延びていた。

高位貴族と結婚させたかった両親の反対を押し切って結婚し、今の生活を手に入れた。でも、アシュトンの両親は、公爵家の令嬢である私の扱いに困惑し、常に距離を置いていた。でも、いいの。誰にも祝福されなくても。愛するあの人の傍にいられれば。

そう思っていたのに……体が弱っていく。

ある日の夜、私が寝ていると思ったのか、アシュトンがベッドの傍で泣きながら私に話しかけた。

「ああ、セリーヌ逝かないでほしい……耐えられそうにない。……いや、私は父親だ。君にもしものことがあったら、この子のことは私が必ず守る。愛情深く育てる。だから、安心してくれ……」

その言葉を聞いた瞬間、私の心は絶望に沈んだ。

私は、アシュトンとこの先一緒にいられないのに、なぜ、この子は傍にいられるの?

これから私はアシュトンと愛を語り合うこともできなくなるのに、なぜこの子は、愛を与えてもらえるの?

愛しいアシュトンに、これから守ってもらえるのは、この子だというの?

いやだ、ずるい、憎い、悔しい

……アシュトンの愛を受け取る者など、許せるはずがない

この子も、これから現れるだれかでさえも――。

幼い女の子が、私を見ている。この子も闇魔法使いだわ。

……なんてこと、私の意識が肖像画に封印されていく。ああ、この子は、アシュトンの愛を奪う者の助けをする。そして、私の愛しい人、アシュトンに大切にされている。

邪魔ね……。

でも、まあいいわ。あの日と同じ日に毎年、私の魔力は強まるのだから。焦る事は無い、徐々に蝕んでやるわ。

邪魔な闇魔法使いが出て行った。

愛を奪う者が、あの人からの愛を失った。

あの人はもう、誰のことも気に留めていない。

ふふ、クロード。貴方はアシュトンの子として産まれてきたらよかったのに。そしたら、私も愛せたわ。

偽物が本物のように愛されてしまったから、いけないのよ。

あの人とは関係ない場所で、好きに生きればいいわ。

ああ、愛しいアシュトンが、私を、私だけをじっと見つめている。優しく何かに包まれる感覚が私を満たす。きっと、あの人の腕の中にいるのね。

今度こそ、領地に一緒に行くのだわ。願いが叶う。ああ、やっと、やっと私を連れて行ってくれる。

これからは、ずっと一緒にいて。決して私を手放さないで――。