軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.懐かしい顔ぶれ

「お嬢様……お嬢様ぁぁぁぁ」

馬車から降りた私の姿を見た途端、アビーとドニがほとんど同時に駆け寄ってきた。二人とも息を切らしながら、信じられないものを見るような顔で私を見つめている。

「アビー!! それに、ドニも」

思わず声を上げた瞬間、自分の声が少し震えていることに気づいた。再び顔を見ることができた安心と、変わらず迎えてくれる二人の様子に、涙が出そうだった。

「ああ、私のお嬢様。こんなに痩せて……。この質素な服はいったいなんなのでしょう。……着替えましょう、今すぐ着替えましょう。お嬢様に似合う服は、このアビーがたくさん準備いたしております」

アビーは目を潤ませながら、私の肩や袖を確かめるように見つめた。服の布地に触れかけては、心配そうに顔を曇らせる。

「いや、待てアビー。お嬢様は、俺の料理が食いたいに決まっている。好物は、すぐにでも作れる」

すかさずドニが割って入り、腕を組んで言い返す。

「何を言ってるの、まずは着替えです!」

「腹が減ってるに決まってるだろ!」

二人は顔を突き合わせ、昔とまったく同じ調子で言い合いを始めた。私は思わず小さく笑ってしまう。

相変わらず仲のいい夫婦だわ。

「……リアの着替えは大賛成だが、アビーは、磨きまくるだろ? 時間がかかるから、先にみんなで話をしよう」

少し離れたところから、ヴィルお兄様の落ち着いた声が静かに響いた。

その一言で、言い争っていた二人の動きがぴたりと止まる。

「移動中、概要は聞いたが……まあ、思った通り一番の原因はクロードだ」

ヴィルお兄様は腕を組み、静かな声でそう言った。その言葉にははっきりとした怒りが滲んでいる。

婚約が無くなりそうなこと、体調のことや屋敷や学院で起きていたこと。

包み隠さず話すのは、やはり苦しかった。

それでも、ヴィルお兄様は馬車の中で私の話を途中で遮ることなく、最後まで耳を傾けてくださった。

時折、短く相槌を打つだけで、急かすことも、問い詰めることもない。ただ静かに聞いてくれていた。

そして今、ヴィルお兄様は皆に、私が話した内容を要点だけ掻い摘んで伝えてくれている。全部をそのまま話せば、アビーたちが余計に心配するからだ。

「な、なんですって! そんな馬鹿な話がありますか!」

話を聞き終えた瞬間、アビーが叫んだ。怒りで声が震えている。

「あの野郎、散々お嬢様に世話になっておきながら、……殺りますか……」

ドニったら……。低く呟いたドニの言葉に、私は少し驚いた。

「殺すのはいつでもできるから、ドニは少し落ち着きなさい」

静かにそう言ったのはセバスだ。声は穏やかなのに、内容が全く穏やかではない。

「ああ、今すぐやらなくてはいけないのは、エミリアの婚約解消だ。あの伯爵が素直に頷くとは思えないが、こちらにはすでに、エミリアがいる。取り戻したのだから、もう渡す気はない! 侯爵家当主として、今すぐ手続きを進める」

ヴィルお兄様は、はっきりと言い切った。その言葉に、部屋の空気が一気に引き締まる。

「……あちら有責ですから、慰謝料ぶんどってやりましょう」

続けて、アビーが鋭い声で言った。

私のために、本気で怒り、本気で動こうとしてくれている。こんなにも、私の味方でいてくれる人たちがいる。

……けれど。一つだけ、気になっていることがある。私は指先を軽く握りしめた。早めに、確認しておかなければならない。

「あのー、私は、ヴィルお兄様の屋敷に居ていいのでしょうか?」

思い切って口にしたものの、言い終えた途端に胸が少しだけ落ち着かなくなる。できれば、落ち着くまではここに居たい。そう思ってはいるけれど——。

「「「「は?」」」」

皆の声が見事に揃った。部屋の空気が一瞬止まったようになり、私は思わず肩を落とす。やっぱり、ずうずうしかったかしら。

「え? あ、ごめんなさい、許可がいただけるのでしたら、ヴィルお兄様の領地のどこでもいいので、その、置いてくださるだけでも……」

慌てて言葉を足したその時だった。

隣に座っていたヴィルお兄様が、そっと私の手を握った。

「……リア? ここは、私たちの屋敷だし、私たちの領地だよ? 死ぬまで居てくれていいんだ。いや、居るだろう?」

ヴィルお兄様は、当たり前のことを言うような顔でそう言った。

「そうですよ、お嬢様。ヴィルフリード様は、お嬢様がこの屋敷を気に入っていたことを知っていましたから、新しく建て直すこともなかったのですよ。王都の屋敷もなくなったのだから、本当は、もっと大きな屋敷でもいいのに」

アビーが少し誇らしげに言う。

ヴィルお兄様……

「そうですよ。手狭なので、住んでいる使用人はここに居る3人。あとは通いで数名なのです。私たちのことだって、お嬢様がいつかこの地に来た時に知っている使用人がいた方が安らげるだろうと、ヴィルフリード様が侯爵になった時に声をかけてくださったのです。もちろん、私たちはお嬢様に会いたかったから大喜びでしたが」

ドニが照れたように頭をかきながら説明する。私が、いつかここに来た時に少しでも安心できるようにヴィルお兄様が用意してくださった環境。

……私のため?

「お金の心配もいりません。今、侯爵領は潤沢なのですよ」

セバスが、にっこりと穏やかな笑みを浮かべて言った。私は思わずヴィルお兄様を見る。ヴィルお兄様は静かに微笑んでいた。

その表情は変わらず穏やかで、ただ優しい。

「ヴィルお兄様……ありがとうございます。ふふ、みんな、お世話になるわ、よろしくね」

そう言うと、皆が一斉に頷いた。強く、何度も。

「あー、腹減った。なあ、もう終わりか? 飯にしようぜ」

不意に、セシル殿下が飾り気のない声が響く。皆の視線が一斉に殿下へ向く。とても冷たい目だった。

それでも、当の本人は気にする様子もないから、すごいわ。さすが皇子。

軽い調子が、この場ではどこか場違いで、私は思わず、くすりと笑いそうになった。