軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

410.星空の月が綺麗だから

〝「よーしっ!! 陽滝姉、『約束』だよ!!」

「ええ、『約束』です……」〟

〝――その頁も読み返す。

それは、かつて交わした『約束』。

兄妹ではなく、姉妹の思い出。

その『約束』を思い出したであろう姉は、私の顔を見て驚く。

伸ばした手を戻して、兄を奪われないように――いや、【『永遠』に二人】という結末を奪われないように警戒する。

「ティアラ――?」

あの陽滝姉が、お化けを見た子供のように、息を呑みながら私の名前を口にした。

たったそれだけのことが、私は嬉しい。

『うん、ティアラだよ。ひひっ、やっと読めた……、陽滝姉の心の闇』

兄と姉を真似て、私も作り笑いではなく、本心の笑みを見せた。

私にも、もう演技などない。

その必要はなくなった。

逃げて逃げて逃げて、逃げ続けて、やっと私は読んだからだ。

暴いて、読んで、触れて、噛み締めて、舌で転がしてみたかった『異邦人』二人の核心部分。

人生で最も濃厚で美味しい『心の闇』を味わった。

「……読んだのなら、もうわかっているはずです。私は、あなたが思うような完璧な人間じゃありませんでした。……がっかりしたでしょう?」

『ううん』

そんなはずあるわけないと、陽滝姉を安心させるように即答する

むしろ、逆。

より私はあなたが好きになった。

『嬉しかったよ。だって、陽滝姉は期待通りの、想像以上だったから』

『相川陽滝』は、本当に特別だった。

その上で、私が求めていたものを全て揃えてくれていた。

意味は少し変わるが、私にとっては本当に完璧だった。

『陽滝姉は、ちっとも私の予想を裏切らなかった。私の助けの要らなかった あの子(・・・) と違って、陽滝姉は『 主人公(だれか) 』の助けをずっと必要としてた。私の期待していた通りに――」

「き、期待していた通り……? つまり、最初から、これを読めていたと?」

『ううん、全く読めなかった。――でも、何かあるって思ってた。すごく悲しくて、辛くて、苦しいような何かがあるんだろうなって、ずっと思ってた! だって、陽滝姉は本当に特別だったから! もし、これが本なら、 何かないとおか(・・・・・・・) しいくらいに(・・・・・・) !』

ずっと私は何も分からなくても、「何かあるだろう」と信じていた。

分かり続けて、何も信じられなかった陽滝姉とは、真逆で。

「な、何かって……。そんなあるのかないのかも分からないもののために、あなたはここまで……? 何度も私に、殺されかけて……」

『うん。殺されかけてでも、私は読みたかったんだ。二人の『異邦人』の物語を――』

本当は、このまま、ずっと話していたい。

しかし、そうはいかない。

私は物語を味わった。

大好きな『相川兄妹の物語』を読ませてもらった。

――その御代を、払わなければいけない。

彼女の後ろで倒れている師匠に目を向ける。

未だ魔法《 私の世界の物語(テイルズ・ラストティアラ) 》は維持され続けている。だから、まだ『 私(ティアラ) 』という『魔法』は生きて、存在できている。

その信頼の証に、これから別れを告げないといけない。

『ありがとう……。大好きだったよ。それと、これからもずっと愛してる』

私は陽滝姉と二人だけで行く。

けれど、師匠には私の『愛してる』を――我が娘『ラス ティアラ(・・・・) 』を残していく。

――あの『告白』の日は、嘘ばっかりだったけど、嘘じゃない。

その想いを胸に――いや、 そこに捨てて(・・・・・・) 、私は前だけを見据える。

『だから、この『ティアラ・フーズヤーズ』が、師匠の代わりに『約束』を守る。たとえ死んでも、『約束』は果たす』

陽滝姉(あなた) だけを見た。

その私の所作の一つ一つが、魔法《ティアラ》の人生であり、『詠唱』。

「ティアラ……、あなたは……」

『 彼女(・・) 』 の贔屓で(・・・・) 、 いま(・・) 、 陽滝姉に残された(・・・・・・・・) スキルは(・・・・) 『 読書(・・) 』 だけ(・・) 。

だから、私の遺す一言一言から、陽滝姉は『ティアラ・フーズヤーズの物語』を読み取ったのだろう。

生まれながら病に侵されていて、すぐさま隔離塔に追いやられて、そこでは本だけが救いで、偶然出会った『異邦人』に憧れて、何もかも全て捨てながらも、物語を最後まで生き抜いてきた私の人生を――

瞬間、『ティアラ・フーズヤーズの物語』を読んだ二人の感想が――『物語に感じる想い』が、いま『行間』で重なっていく。

あの始まりの場所が、 蜃気楼(まぼろし) のように周囲に映し出された。

千年前の滅ぶ寸前だったフーズヤーズ国。

その象徴といえる朽ちた城。

敷地内には塔が建ち並び。

その合間に、大きな庭が広がっている。

丈の低い草が自生し、『体術』と『呪術』の鍛錬には最適だった。

そこで二人は、かつて何度も『答え合わせ』をした。

その思い出の場所が、足元から――地平線まで、一瞬にして広がった。

果ての果てまで続くフーズヤーズの庭は、二人にとって「『世界』など、私たちの庭も同然だった」ということ。

これは過去の再現でなく、物語の感想。

ゆえに、その庭は不可思議な夜を構築していき、陽滝姉の瞳に映し出されていった。

「こ、これは……」

黒瑪瑙の瞳の中で、たくさんの星が煌く。

『世界』は夜だった。

しかし、全く暗くはない。

それは、倒れている師匠から光が滲んでいるからではなく――下ではなく、上で――満天の星のおかげで、庭は淡く明るかった。

『魔の毒』の暗雲は皆無で、夜空は澄み渡り切っている。

その空を見上げて、初めて陽滝姉は星を見たかのように見惚れていた。

そして、その星の一つ一つの意味を悟っていく。

「もしや……、魂の光、なのですか?」

『……うん、正解』

頷く。

過去の戦いの中に、一つだけ類似例がある。

それは迷宮六十六層の『裏側』で、相川渦波と『風の理を盗むもの』ティティーが戦ったときだ。

あのときも、『 魔石(たましい) 』という星々が空に浮かんでいた。

あれと原理は全く同じ。

ただ、今度は一つの『国』ではなく、一つの『世界』の規模。

一世代ではなく、千年間の祈りの煌き。

――みんなの祈りが光となって、星空から降り注ぐ。

星の斜光が黒キャンバスの夜空に、流れ星のような線を刷毛のように引いた。

その線の束が天幕のように揺らめいては、垂れて、大地に立つ私たち二人に触れる。

光から『繋がり』を感じる。

それは赤でも白でもない『糸』。

《 本物の糸(ライン) 》を通して、いま、《 神聖なる祈り(レヴァン) 》が届いていた。

『――ロマンチックって思わない? 星って、綺麗だよね』

この光景をフィナーレにすると、私は最初から決めていた。

私の人生は『星空の物語』。

だから、最後の頁には、ちゃんと私が見つけた宝物も記したかった。

それを陽滝姉と一緒に見て、同じ想いを感じたかったから――

『じゃあ、行くよ……』

長年の願いが叶った私は、最後の舞台を歩き出す。

「行く? ティアラ、あなた――」

陽滝姉は私が現れてから目まぐるしく変化する状況に、疑問ばかりが頭に浮かんでいるようだった。

行くとは、どこへ?

その疑問の『答え』を陽滝姉は、必死に自分で考えて――この『約束』の場所から、すぐに思い至った。

「――――ッ!」

これより、私と陽滝姉の『決闘』が始まる。

いや、千年前から、ずっと『決闘』は続いている。

一度も終わってないし、止まってもいない。

その『決闘』は、私と陽滝姉の殺し合いであり、同時に『世界』の防衛戦。

かつては、その力の差に絶望したが、いまや私たち二人は――

とある『世界』を食らい尽くしてさらに奪いに来た『異世界の侵略者』、相川陽滝。

この『世界』の全てを食らい尽くしてでも止めに来た『異世界の防衛者』、ティアラ・フーズヤーズ。

――『対等』。

もう戦いは、どちらに転ぶかわからない。

戦ってみないと『答え』はわからない。

その初めての勝負に、陽滝姉は吐きかけた息を――

「――――ァ、ハアッ」

呑んだ。

もう陽滝姉は溜息を出すことはない。

頬を紅潮させて、息を止めて、彼女は私を見る。

目が合った。

そのふわりと浮き始めた黒い前髪の下にある黒い瞳に、私の姿が映っている。

もう私と陽滝姉の間で遮っていた黒いカーテンはない。

いま陽滝姉は人並みに慌てて、緊張して、混乱しているようだ。

ずっと読めなかった陽滝姉の心の内が、いまなら簡単に、すらすらと読めた。

それが、本当に嬉しい……。

陽滝姉の読んでいる本の一文字一文字が、私でもわかる……。

一緒に同じ文章を追いかけて、重ねて、読むことができる……。

ずっと私は陽滝姉の気持ちが知りたかった。

ずっと私は陽滝姉と同じ気持ちになりたかった。

ずっと陽滝姉と同じになるために教えを守ってきた。

ずっと陽滝姉の真似をして親和できるような人生を歩んだ。

全ては、この最後の頁の為。

このとき、この頁を、陽滝姉と一緒に読みたかったから――

だから、いま、あなたに 合わせる(・・・・) 。

陽滝姉が合わせてくれたように、私も。

『理を盗むもの』の最後の戦いは、いつだって。

互いが互いに向かっていくものだから――〟