軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.魔法を覚えよう

魔法や術式に関するものを取り扱っている店を、通称『魔法屋』と呼ぶ。

金物屋を武器屋と呼ぶみたいなものだ。

「いらっしゃいませー」

僕とマリアは酒場から魔法屋まで歩き、二人揃って入店した。

魔法屋という言葉から、僕は御伽噺に出てくる魔女の住んでいるような家を思い浮かべていたが、実際はそんなことなかった。

どちらかと言えば、元の世界の本屋に近い。

客の動きを邪魔しない程度に本棚が並べられ、壁側にはぎっしりと本が並んでいる。

僕はカウンターに座っている女性に話しかける。

背の高い 長(エルフ) 耳の店員だった。

「あのー、魔法を覚えるための魔石を買いにきたんですが……」

「魔石ですねー。わかりました。そうですねー、最近は在庫が少なくなってきているので……えっと、このカタログですね。この中から選んでください」

そう言って店員は、カウンターの下から古びたカタログを取り出した。

軽くめくって確認したところ、大量の魔法が文字で羅列されている。ただ、在庫切れと書かれた付箋がいたるところに張り付けられていた。

「この『在庫切れ』って……?」

「そのままの意味です。最近はどの国も品薄なんですよ。ただでさえ物が少ないのに、大会とかイベントが近いですからね。正直、ろくなものは残っていませんよ。いま予約したとしても、お渡しできるのは大会後になるでしょうね。素材も少なければ、生産も遅い商売ですので」

この世界には闘技場というものがある。

その延長上に、戦闘を生業にした人たちの頂点を決める『舞闘大会』なるものがあったはずだ。どうやら、それに参加する人たちが、大会で使用する魔法を買っていく時期だったようだ。

タイミングの悪さに気落ちしながら、僕はカタログを眺めていく。

ざっと見ただけで数千の魔法があった。

「なるほど。ちょっと、詳しく見させてもらいますね」

攻撃魔法に回復魔法。

属性魔法に補助魔法。

そういった僕にも慣れしたんだ基本的なものから、生活魔法や儀式魔法といったものまで様々だ。

とりあえず、この中からマリアに援護用の魔法を一つ買い与えたいと思う。

しかし、有用そうなものは、どれも在庫切れになってしまっている。

ちなみに当のマリアは僕の後ろのほうで、物珍しそうに店内を見て回っていた。

「マリアも見て。面白そうなの見つけたら、買ってあげるから」

「あ、はい。わかりました」

うろちょろしているマリアを呼び寄せて、魔法を選ぶことを手伝わせようとする。

すると、店員は焦った様子で、僕たちを止める。

「ちょ、ちょっとお待ちください、お客さん。もしかして、その子供に覚えさせる気ですか?」

マリアほどの子供が魔法を買うのは珍しいみたいだ。

僕は背が高いので子ども扱いされずに買い物を続けられたが、マリアの身長ではそういうわけにもいかないようだ。

「えっと、この子だと何か問題あるんですか?」

「いえ、そちらの子だと、ちょっと若すぎるので……。まず魔法を使う素養があるかどうか、調べてからのほうがよろしいかと……」

できるだけ子供には魔法を売りたくないのだろう。遠回しに断る流れに持っていこうとしていることがわかった。

店員はカウンターの下から、水晶玉や呪文の入った紙といったものを色々と取り出す。

「それでわかるんですか?」

「はい。これに手を当ててもらえば、その人の血の質と量がわかります。それによって、覚えられる魔法のジャンルと容量が測定できます」

便利なものがあるなあと、まじまじと僕は魔法道具を観察していく。

魔法の発達した世界ならば、こういった道具が開発されるみたいだ。

そして、先ほどの「覚えられる魔法のジャンルと容量」という言葉を僕は考察する。おそらく、覚えられる魔法に制限があるということだろう。お金さえあればカタログの魔法をコンプリートできるという期待を裏切られてしまった。

「じゃあ、お嬢ちゃん。これを触ってくれるかな」

店員がマリアに魔法道具を差し出す。

「あ、はい」

そう言ってマリアは手をかざす。

そうすると水晶玉の中に、赤い靄が生まれ始める。

「え? おぉ、す、すごい。……中堅クラスの魔力です。それに、火と無の二重属性」

マリアで中堅らしい。

なら、僕やディアはどうなるのだろう。

途端に、そこにある水晶玉を触るのが怖くなってしまう。

逸材を見つけたことに興奮したのか、店員はマリアを矢継ぎ早に褒めだす。

「お嬢ちゃん、すごいねっ! お姉さん、この仕事長いけど、君ほどの若さでここまでの魔力はなかなかいないよ!」

「ど、どうも……」

褒められることに慣れていないのか、マリアは恥ずかしそうにカタログで顔を隠した。

「それじゃあ、次はお兄さんもどうぞ」

そう言って店員は、水晶玉を僕に差し出す。

僕は少し迷ったが、意を決して水晶玉に手をかざした。

すぐに変化は出た。

水晶玉全体が、より透明になる。元より水晶玉は透明だったのだが、僅かにあった汚れや淀みが消えうせ、完全なる透明となったのだ。

「――あ、あれ? なんでしょうこれ。見たことがない現象に、見たことがない色。というかこれ、色なのかな?」

そう言って店員は近くにあった分厚い本を取り出す。それを使って、この現象について調べているようだ。

僕は大体の見当がついているので止める。

「いえ、いいですよ。調べなくても――」

「いえいえ、すぐにわかりますよ。この透明色、『次元属性』って言うみたいらしいですね。すごくマイナーで古い属性です。色が透明だから、これだと容量のほうはわからないですね……。すみません……」

店員は申し訳なさそうに頭を下げた。

けれど、僕には十分だ。

僕のステータスからして、容量が足りないということはないだろう。むしろ、水晶玉では計りきれないほど容量があるというのが妥当なところだろう。

僕のステータスの魔力は、中堅と呼ばれるマリアの魔力の数倍あるのだから間違いないと思う。

「構いませんよ。自分の属性がわかっただけでも、よしとします」

「うーん。水晶玉以外の測定道具があればいいんですが、うちにはないんですよ。すみません。一応、次元属性のカタログも出しておきますね。確か、ここにマイナーな魔法カタログがあったはずで……」

そう言って店員は薄いカタログを取り出して、僕に手渡した。

薄いカタログを軽く見たところ、『星』『太陽』『月』『光』『闇』といったものがある。このマイナー用カタログの中でも、次元属性の魔法は特に少なかった。

たったの二種類だけだった。両方買ってもお金は余る。

「次元魔法《コネクション》。次元魔法《フォーム》。二つだけみたいですね……」

「す、少ないですねえ……。あ、でも、在庫はあるみたいですね。というか次元属性の人が少なすぎるから、残ってる感じですね」

「じゃあ、二つともください」

「へ? いいんですか? ご自分の容量もよくわからないのに?」

「まあ、いまは駄目だったとしても、いつか覚えられるでしょう」

「軽いですねぇ、お兄さん。もしかして、お金持ちさんです?」

「この魔法を買うのは軽いですね」

「羨ましいなぁ、もう……。それじゃあ、ぱぱっと取って来ますから待っててください」

店員は席を立って、店の奥に引っ込む。

その間に、僕はマリアの魔法を決めることにした。

「マリアは、どう? おもしろそうなのはあった?」

「ろくなものがありません。実用的な火属性攻撃魔法は全部売り切れです。ただ、無属性は人口が少ないのか、そこそこいいものが残ってます」

「へえ」

僕はマリアの見ていたカタログを見る。

確かに、火属性は在庫切ればかりだ。基本の《フレイムアロー》さえない。

ついでに、氷属性も見たが同じ状態だ。ただ、僕は次元魔法を中心に考えているから、氷属性がなくても問題はない。

「この《ファイアフライ》ってやつにすれば?」

「え、それですか?」

ざっと見て、僕は適当なものを指差した。

蛍の名を冠する魔法で、火による目くらましができるらしい。熱が弱いので攻撃力はありませんと注意書きがある。

「僕はマリアに攻撃力を望んでいないよ。補助をして欲しいんだ」

「はあ、そういうものですか……。あ、無属性の方は《インパルス》が一押しですね。まともな攻撃魔法です」

そう言ってマリアは無属性の欄から《インパルス》を指差した。

リーチの短い振動魔法と書かれている。それを近距離で浴びた敵は、その衝撃で数メートルほど吹っ飛ぶらしい。

「じゃあ、その二つ買おう。値段も手ごろだ。あと自分用に、適当な氷結魔法も一つ買っておこうかな」

「…………」

「どうした?」

「はあ。本当にポンと大金を出しますね」

マリアは呆れたように僕を睨む。

「命がけで手に入れたお金だ。使っておかないと損だろ?」

「普通に貯蓄すればいいのに……」

僕の意見にマリアは真っ向から反対する。

だが僕は、この世界に長居しないため動いているのだから、貯蓄という発想はない。

「はい、お待たせしました。お兄さん、魔石ですよ」

マリアと言い争っているうちに、店の奥から店員が出てきた。

「ありがとうございます。あと、この子の魔法も決めました。火魔法《ファイアフライ》、無魔法《インパルス》でお願いします。あと、ついでに氷魔法《リトルスノウ》もお願いします」

「《ファイアフライ》《インパルス》《リトルスノウ》ですね。メジャーな魔法なので、すぐにお持ちできます。けど、《リトルスノウ》はお二人の属性に合ってませんから、覚えられませんよ?」

「ああ、気にしないでください。金持ちの道楽です」

先ほどの結果に氷結属性の適性は現われなかった。

けれど、僕が氷結魔法を使えるのは確かなのだから、試す必要がある。

「はあ、道楽ですか。こちらとしては売れるに越したことはないんですけどね」

「代金を先に払いますね」

「ああ、はい」

代金は金貨二枚にも満たなかった。《インパルス》が少し割高だったが、他は用途が限られているので安いものだ。

僕はいつものように、後ろに下げた袋から出す振りをして『持ち物』から金貨二枚を取り出す。

「本当にぽんと出しやがりました」

マリアは信じられないものを見る目で僕を見る。

お金の話になる度、その目をするのはやめてほしい。

「まいどありー。いや、本当にお金持ちですねー。じゃあ、すぐにお嬢ちゃんの魔石も取ってきますね」

僕はお金と引き換えに、お釣りの銀貨と次元魔法の魔石を受け取る。

次元魔法の魔石は不思議な色彩を放っていた。

物は迷宮で手に入る魔石そのものだが、施されている細工が段違いだ。石の内部にまでびっしりと刻まれた魔術式とやらが、異様な美しさを完成させている。

「綺麗だな。飲むのが勿体無い」

「身につけている方もいますよ。そういうアクセサリーもあるらしいです」

マリアは僕のために知識を披露する。息災を祈って神聖魔法の魔法石を結婚指輪にする人もいるらしい。

そんな話を聞いているうちに、店員はマリアの魔石を持ってくる。

「はい、これがお嬢ちゃんの分です。あと、国の証明書も添えときますね。何かあったら、もう一度来てください。お金持ちさんなのでアフターサービスもしっかりしますよ」

「どうも。ところで、これ。この場で飲んでもいいんですか?」

「構いませんよ。水、もって来ましょうか?」

「お願いします。初めて飲むので、専門の人が近くにいて欲しいんです」

「はーい」

手馴れた様子で店員は奥から水を持ってくる。

そして、僕とマリアは貰った水で魔石を飲みくだす。

僕は氷結魔法を入れて三つ、マリアは二つだ。

石を飲み込むという行為に抵抗があったものの、年下のマリアが文句一つ言わずに飲み込んでいるのを見て、僕も負けずと飲み込んでいく。

「お嬢ちゃん、おめでとー。これで魔法が使えると思うよー。けど、店内ではやめてねー。あ、お兄さんが使えるかどうかはわかりませんから」

「わかってます。……どうだ、マリア。いけそうか?」

「わかるわけがありません。初めてですよ」

マリアは自分の手のひらを見つめているが、何が変わったのかわからないようだ。

「店員さん。ちょっと、外で試し撃ちさせてもらいますね」

「他にお客様も居ないし、外までついていって見てあげますよ」

親切にも店員は僕たちの魔法を見てくれるようだ。

僕たちは外に出て、店の庭に案内される。わら人形の的も設置されているので、お客が試し撃ちするのはよくあることみたいだ。

「お嬢ちゃん、イメージしてください……。身体中を巡る魔力が手のひらに集まり、その魔力の熱が急上昇し、溢れるように手から炎が零れるのです。そして、唱えてください。《ファイアフライ》と!」

「――《ファイアフライ》!」

マリアの手から火があがる。

店員も慣れたものだ。おそらくは、色々な人の魔法を指導してきたのだろう。マリアはあの人に任せて大丈夫なようだ。

僕は僕の魔法を試さないといけない。

「お嬢ちゃん、すごい! いやぁ、センスの塊ですね。それじゃあ、次いってみましょう。次は、無色の魔力をかき集めるイメージです。無色の魔力が集まり、いまにも手のひらから飛び出そうと震えています。その震えを抑えて抑えて、そして叫ぶのです。《インパルス》と!」

「――《インパルス》!」

わら人形が吹っ飛んでいくのを視界の端で捉えつつ、僕は僕の作業を進めていく。

【魔法】

氷結魔法:フリーズ1.04 アイス1.06

次元魔法:ディメンション1.42 コネクション1.00 フォーム1.00

固有魔法:ディメンション・ 多重展開(マルチプル) 1.02

ディメンション・ 決戦演算(グラディエイト) 1.04

『表示』を使って、自らの所有する魔法を確認する。

《コネクション》《フォーム》が増えているにもかかわらず、《リトルスノウ》は増えていない。

店内で行った適性診断では、確かに氷結属性の要素はなかった。僕は次元魔法だけしか覚えることができないのだろうか? なら、いま覚えている《フリーズ》と《アイス》の存在理由がわからない。

他の理由として、容量とやらが足りなかったというのも考えられるが、確信は持てない。魔法屋の適性診断があやふやだった以上、自分で色々と試していくしかない。

不明点は後々解明していくとして、とりあえず手に入れた魔法の詳細を把握しようと思う。

【コネクション】

消費MP100

上級の次元魔法 術者の力量に応じて、次元を繋げる

【フォーム】

消費MP1

次元魔法の基礎 次元・時空といった概念を付与する

先ほどのカタログに書かれていた紹介文と大きく変わりない詳細だ。

自然と《コネクション》に期待がかかる。

言葉通りならば、このまま元の世界に帰れそうだ。

僕が自分の魔法を調べていると、魔法の練習を終えたマリアが近づいてくる。

「ご主人様! 私にも魔法が使えました!」

「……外でその呼び方はやめて。あと、ちょっと黙ってて。僕も魔法を試すから」

マリアは本当に嬉しそうに、はしゃいでいた。

しかし、もし《コネクション》で元の世界に帰れるなら、僕のほうが嬉しくてはしゃぎたいところなのだ。僕はマリアを放置して、魔法を唱える。

イメージ。

それはたった一つの願い。

元の世界に帰る願い。

「――魔法《コネクション》!」

片手をかざし、全魔力を注ぐつもりでイメージを構築する。

手のひらから次元に干渉する魔力が迸る。あたりの空気を呑み込み、手の平に凝縮されていく。凝縮された空気が構築したのは、薄紫色の魔力で構成された壁。

ゆらめく水面に映ったような、不定形な魔法の扉だった。

その扉に僕は手をかける。

イメージ通りならば、これは僕の元の世界に続いている。

扉を押して、開こうとして――

「――開かない」

開かなかった。

僕が魔法の扉を押したり引いたりしていると、店員が物珍しそうに近寄ってくる。

「ほー、初めて見ました。これが次元魔法《コネクション》ですか。本でしか見たことない魔法を、この目で見れるなんて感無量ですねー。けどそれ、そのままじゃ開きませんよ。それはもう一回唱えて、『 対(つい) 』にしないと機能しなかったはずです」

「え?」

「ほらほら。もう一回唱えてください」

この魔法の詳細を店員は僕以上に知っているようだ。ここは専門家である彼女に従ったほうがよさそうだと判断して、もう一度魔法を唱える。

「――魔法《コネクション》」

言われるがままに扉を、もう一つ近くに作った。

「はい。これで、そことそこが通じているはずです。文献通りなら、ですが」

つまり、自前で設置するどこでもドアのようだ。

この魔法の使い方を僕は理解する。

「なるほど。……よし、行け。マリア」

「え、嫌です。胡散臭いです。怖いです」

僕もだ。

自分が作った扉とはいえ、明らかに物質的でない薄紫色の扉をくぐるのには勇気がいる。

僕は仕方がなく、警戒をしながら右手で扉を押す。

今度は抵抗なく、扉が開かれた。

すると、もう一つの扉が開き、中から僕の右腕が出てきた。

怖っ……。

「文献通りですね。おめでとうございます、お兄さん」

「ど、どうも」

「けど、消してくださいね。邪魔ですから」

「あ、はい」

僕は手を戻して、扉を消すイメージを頭に思い浮かべる。

問題なく扉は消えた。

どうやら、『帰還』する手段ではないようだ。

ゲームでいうところのワープゾーンの設置にあたる魔法だろう。『帰還』できるとすれば、この扉を元の世界に設置した場合だ。もちろん、それができていたら苦労はしていない。

僕は気を取り直して、もう一つの魔法も店員に見てもらおうと考える。

「すみません。もう一つの魔法についても教えてもらえませんか?」

「もう一つ……《フォーム》のことですね。うーん、《コネクション》は挿絵があってわかりやすい魔法なのですが、《フォーム》は資料が少ないんですよ。次元属性を『付加』するとしかわかりませんねぇ」

残念ながら、もう一つのほうは完全に手探り状態のようだ。

僕は仕方なく、試し撃ちする。

「とりあえず、使ってみますね。――魔法《フォーム》」

魔法構築のイメージもそこそこに、宙へ向けて魔力を放つ。

そこに出現したのは薄紫色のシャボン玉だった。

「泡、ですか?」

店員は不思議そうに、その泡を指先でつつく。

シャボン玉のように弾けはしないが、簡単に掻き消える。

「泡、ですね」

僕も同じ感想を抱く。

ただ、それだけではないことを僕だけがわかっている。

泡を支配している僕だけが直感的に理解できる。

この泡は、 ずれ(・・) ている。

この泡の輪郭は、水分でできているわけがない。水属性でないのだから当然だ。

丸い輪郭を作りだしているのは 次元のずれ(・・・・・) 。

次元属性ならではの泡だ。

『次元属性の付加』という言葉の真意はわからないが、この泡が次元属性を持ち、僕の支配下にあることは確かだった。

「どうです、お兄さん。何かわかりましたか?」

「いえ、あまり……。ただの泡だとしかわかりません……」

ここで専門家である店員に魔法の感触を説明すれば、有効な利用方法がわかるかもしれない。けれど、せっかくこの世界でも使用者の少ない魔法を手に入れたのだ。できるだけ秘匿しておきたいという気持ちが勝り、僕は店員に嘘をつく。

「そうですか。残念です」

「《フォーム》は使いようがないですね……。けど、助かりました。僕もこの子も初心者だったもので」

「いえいえ、これが仕事ですから」

首を振る店員に僕は礼をする。

そして、僕の泡を 突(つつ) いて遊んでいるマリアに声をかける。

「マリア、そっちはもういいか?」

「構いません。コツは掴みました」

マリアは自信ありげである。

店員から才能があると褒められて、浮かれているような気がする。

「それじゃあ、失礼します。ありがとうございました。また来ると思います」

「ええ、さようなら、お兄さん。お嬢ちゃんもね」

「お世話になりました。失礼します」

お互いに別れを告げて、僕とマリアは魔法屋をあとにする。

去っていく僕たちが見えなくなるまで、店員は手を振っていた。

こうして、僕とマリアは新しい魔法を習得したのだった。