軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126.第三十の試練『錬獄』

『武器落とし』はローウェンの勝利に終わり、『 真剣勝負(デスマッチ) 』は僕の勝利で終わった。

――そして、とうとう『第三十の試練』の戦いが始まる。

水晶花を踏み砕き、僕たちは駆け出す。

モンスター化したローウェンを圧倒すべく、僕は剣と魔法を振るう。

ローウェンの姿は、もはや見る影もなくなっていた。

ギリギリのところで人としての形を保ってはいる。しかし、水晶の腕が増え、八本腕となった姿は、まるで蜘蛛のようだ。全身から水晶の柱が生え、皮膚は特殊な鉱石で覆われている。両足を覆う鉱石は特に厚く、鎧そのものだ。

剣と剣が交差する。

しかし、モンスターとなったローウェンにとって、剣だけが攻撃手段ではない。

残りの六本の腕を僕の身体に伸ばす。

僕を押し潰そうと、乱雑に腕が振るわれる。

単純計算で四倍には増えたはずの手数。だが、それを僕は悠々とかわしていく。

その腕の動きには、全くと言っていいほど技術がなかった。ただ、目の前にいる外敵を壊そうと振り回しているだけ。

いままでローウェンが振るってきた剣と比べれば、 温(ぬる) い。

天と地ほどの技術差だ。

僕は八本の腕全てを掻い潜り、ローウェンの胴に剣を叩き込む。

鉱石と鉱石がぶつかり合う独特な音が鳴り響いた。

僕の『クレセントペクトラズリの直剣』が弾かれる。

ローウェンの服を斬ったものの、その下にある水晶には傷一つついていなかった。

『クレセントペクトラズリの直剣』は迷宮のクリスタルを斬り裂いた。しかし、『地の理を盗むもの』の身体は、それよりも数段硬いことがわかる。

僕は弾かれるがままに後退する。

その後退に対して、ローウェンが取った行動は、剣でも前進でもなく――魔法だった。腕の一つがかざされ、魔力が地面を這う。

雪の下にローウェンの魔力が浸透し、初めて見る魔法が構築される。

《 次元の冬(ディ・ウィンター) 》で干渉はできない。

アルティのときと同じだ。 守護者(ガーディアン) の魔法には隙がない。

「――カッ、ァ、魔法、――ォーツ、――フォニア》ァ!!」

ローウェンの喉から、打楽器の音と人の声を混ぜ合わせたかのような音声が漏れる。

もはや、人間の耳で聞き取るのは難しい域にあった。喉が硬質化したことで、声帯としての機能が失われかけているのかもしれない。

そして、足元から様々な鉱物が剣山のように生えてくる。

アメジスト、サファイア、パール、トパーズ、エメラルド――色彩豊かに輝く、歪な形状の宝石の剣の群れが、僕の身体を串刺しにしようとする。

横に跳び避ける。

見たことのない魔法に驚いたものの、その構築速度は遅い。

発動を確認してから動いても、余裕をもってかわせる。

あのローウェンの閃光のような剣と比べるのもおこがましいくらいに、鈍い。

「くっ、うぅ……、ローウェンが……、アタシも攻撃してる……!」

その魔法に困惑していたのは、近くで巻き込まれたリーパーだった。

次元魔法《ディメンション》を使えるリーパーの回避能力は高い。僕と同じく悠々と魔法をかわし切っている。

だが、リーパーは魔法が自分にも向けられて使用されたことに、ショックを隠し切れない様子だ。

「も、もう……、ローウェンじゃ、ないんだね……」

僕にはリーパーを守る義務がある。

もしも、彼女がローウェンの魔法攻撃に耐え切れないようならば、僕が守らないといけない。

リーパーは苦悶の表情のまま、僕とローウェンから遠ざかっていく。

「アタシは、アタシは……――」

まだリーパーは嘆きの中にいた。

自分のすべきことがわからず、追いやられるかのように魔法の届かないところまで逃げていく。

安全圏へ移動するリーパーを見て、僕は一安心する。そして、彼女にかけていた氷結魔法の全てを解除する。

ローウェンの言葉によって、彼女が完全に戦意を失っていたからだ。それと単純に、もう余計な魔力を割いている余裕がない。

ローウェンの生んだ宝石剣の群れは数を増し、天高くまで伸びていく。

その内の数本が空の結界を突き、亀裂が入った。

そして、ローウェンはその場を動かず、さらなる大魔法を発動するべく詠唱を始める。

まるで戦法が変わっていた。これでは、剣士でなく魔法使いの戦い方だ。

僕は亀裂の入った結界を見て、長い時間は戦えないと判断し、すぐに決着をつけるべく駆け出そうとする。しかし、それは横からの言葉に止められてしまう。

「――カ、カナミ選手! 待ってください! 大会運営側はローウェン選手の理性がなくなり、完全にモンスター化したと判断しました! もうこれは試合と別物です! あなただけで戦う必要はありません! ここから先は、連合国の総力をもって対応します!!」

結界の外側まで避難していた司会が、 魔法道具(マイク) を使って戦闘の中止を僕に求める。

その声の大きさに負けぬように、僕は叫ぶ。

司会だけなく、この場にいる全員へ向かって。

「まだです!! まだ僕たちの決勝戦は終わってません!! 入ってこないでください!!」

よく見ると、結界の外には多くの警備兵と騎士たちが並んでいた。

指示さえあれば、すぐにでも結界の中へ突入しそうだ。

「いえ、もう……。ローウェン選手を大会参加選手として扱うのは無理ですよ! その姿はレヴァン教の定めた『人型』から遠く離れています! 彼はモンスターとして、この連合国から排除すると決定されました!!」

「ちょっと姿形が変わったくらいで、ガタガタ抜かさないでください! あなたたちは観客を守ることだけ考えてればいい!!」

僕は荒々しい言葉で、第三者の介入を拒否する。

「しかし、そういうわけにもいきません! もう人が――!」

一つの入場門から、数人の兵たちが入ろうとしていた。

仕事のためか、名を上げようと先走ったのか、先行の理由はわからない。けれど、ローウェンを倒そうと、戦意を燃やしているのは遠目でもわかった。

僕は舌打ちと共に、彼らの元へ向かう。

駆ける途中、背後から鋭い殺意を感じ取る。『感応』ではなく《ディメンション》で、その正体を正確に把握する。

ローウェンの八本の腕全てに、魔法で作られた宝石剣が握られていた。

大魔法の詠唱を行いながら、その内の数本をローウェンは乱暴に投げつけてきた。

その対象は僕でなく、結界内に入ってきた新たな敵――ヴアルフウラの兵たちだった。

「――魔法《 次元の冬(ディ・ウィンター) ・ 終霜(フロスト) 》!」

幸い、地面には多くの水溜りがあった。

僕は水に魔力を通し、氷の壁を作成する。その表面は丸みを帯びており、正面から飛来してくる宝石剣を上手く逸らしていく。

しかし、ローウェンはさらなる宝石剣を地面から生成し、投げる数を増やす。

その全てを氷の壁だけでそらすことはできない。

僕は全速力で射線に飛び込み、宝石剣を剣で弾いていく。

そして、最後の一本を素手で掴んで止めた。

背後の兵たちは青ざめていた。結界内に入った瞬間、視認も難しい速度で何本もの刃が迫ってきたのだから、それも当然だろう。

ただ、血の気は引いているが、傷は一つも負ってない。

ほっと一息つく。

誰か一人、傷一つでも負えば、ローウェンとの約束が反故になる。

それでは『第三十の試練』を乗り越えたことにはならない。

「迂闊に入らないでください!! 死にますよ!?」

僕は掴んだ宝石剣を捨て、血の滴る手を振って、闖入者たちを威圧した。

《 次元の冬(ディ・ウィンター) 》の冷気が吹き荒れ、彼らは硬直する。

「失礼します!」

その隙をついて、僕は乱暴に彼らの身体を掴んで、入ってきた入場門の奥に投げ返す。

僕の異常な腕力で追い出された闖入者たちは、回廊の中を転がる。擦り傷の一つでも負ってそうだが、ローウェンではなく僕がやったことだからセーフとしておく。

そして、これ以上の面倒を増やさないために、僕は再度叫ぶ。

「これは僕たちの戦いだ!! いまっ、ここで『舞闘大会』の決勝戦をしてるんだ! 乱入なんてマナー違反にもほどがある! いいから、外野は座って見ててくれ!! 司会さんっ、僕の言っていること、どこか間違ってますか!?」

「ま、間違ってはいませんが、カナミさん――!」

このまま闖入者が増えれば、僕一人では賄いきれなくなる。

それほどまでに 守護者(ガーディアン) は強い。

だから、僕は訴える。

この場にいる全員に協力を求める。

「僕たちはこの闘技場で――いや、劇場でっ、まだ戦ってる! そして、『 ヴアルフウラ(ここ) 』はそれを観るところだ! みんなは『 決勝戦(これ) 』を観に来たんだろ!? 『ヴアルフウラ』は犯罪者だろうが何だろうが、参加を歓迎しているんじゃなかったのか!? なのに、当人たちの許可なく、戦いを終わらせるなんておかしいだろ! せっかくの決勝戦を興醒めで終わらせないでくれ! 決着は当人たちでつけさせてくれ! いや、つけるべきなんだ! なあっ、みんなはそう思わないか!?」

動揺している観客たちに訴える。

僕の主張を聞いた人たちはざわつく。

このまま、押し切ろうとさらに叫ぼうとしたところで、会場全体に通る司会の声――ではなく、聞き覚えのある芝居がかった男の声が、会場全体に響き渡る。

その声は僕に同調する。

「――ああっ、 その通り(・・・・) !! 戦いは戦っている者たちのものだ! なにより、これを終わらせるなんてもったいない! 僕に勝ったカナミが『剣聖』も『最強』も『英雄』も超えると宣言したのだ。それを見逃すなんて僕には死んでもできないな! 相手のローウェン選手がモンスターとなったようだが何も問題ない。きっと物語の『英雄』がごとく、いやそれ以上の力で、カナミが打ち倒してくれるに決まっている!」

「エ、エルミラード・シッダルク様……!?」

エルミラードが司会から 魔法道具(マイク) を奪い、観客全員に語りかけていた。

その内容は、いま僕が最も望んでいたものだった。彼は誰よりも早く僕の気持ちを察し、決勝戦続行のために動いてくれたようだ。

そして、エルミラードは荒々しい言葉から一転し、次は礼儀正しく会場全体に囁いていく。

「観客の皆様方、何一つ心配いりません。たとえ、どのような戦いの余波が観客席を襲おうとも、我らがギルド『スプリーム』が責任を持ってお守り致ししましょう。かすり傷一つ負わさないと、私がここに誓います。――ゆえに、まだ決勝戦は終わりません。この僕が終わらせません」

大貴族の嫡男であり、連合国での知名度が高いエルミラードが発言したことで、試合会場の空気が変わる。

前から思っていたことだが、エルミラードは戦闘よりも、こうやって人々を鼓舞するのに向いている。

立場に負けない誇りと意思。そして、その美丈夫ぶりと涼やかな声が、人々の心を揺るがす。

会場のざわつきに熱が灯り始める。

エルミラードの言うとおり、この試合を見逃すのはもったいないという空気が広がっていく。

そこへさらに 魔法道具(マイク) と同じくらい大きな声が足される。

「――み、みなさん! カナミとローウェン・アレイスを最後まで戦わせてあげてください……!! 私たちギルド『エピックシーカー』もギルド『スプリーム』と同じ考えです! ……で、ですよね?」

スノウの振動魔法だ。

スノウがエルミラードに負けまいと叫ぶ。

「スノウ! もちろんよ!」

まず一番に、会場のテイリさんが叫び返した。

そして、『エピックシーカー』のみんなも立ち上がり、協力の意思を見せていく。

「ああ、うちのギルドを忘れてもらったら困るぜ。我らがマスターが奮闘しているんだ。ならば、ギルド『エピックシーカー』が、それを助けなくてどうする?」

観客たちへ聞こえるように、口々に頼もしい言葉を謳っていく。

『エピックシーカー』のみんなにとって、この場、このとき、この試合は念願とも言える。なぜなら彼らは、いまの僕のような『英雄』役をずっと探していたからだ。

だからこそ、誰よりも熱い気持ちを言葉に代えて、決勝戦が終わっていないことを訴える。各々の武器を持ち、観客たちを守ると叫ぶ。

『エピックシーカー』のみんなの熱が火種となり、会場に火が灯っていった。その熱風に乗って僕は、司会に――いや、その奥にいる大会の続行を判断している人たちに、声をかける。

「ギルドのみんなが安全を守ってくれます! だから、もう少しだけ、僕に時間をください!!」

「しかし、カナミさん! 結界がもうもたないようです! このままだと――」

司会は折れることなく、大会運営側の意見を代弁していく。

そのとき、中央で大魔法を編んでいたローウェンの詠唱が終わった。

「――アモンド、――フォニア》!!」

金属音のような声で魔法が詠まれ、ローウェンの魔力が結界内で膨らむ。

先ほどと同じように宝石剣が地面から生えてくる。しかし、その数は先ほど比べようもないほどに多い。無数の宝石剣が天を突き、その間を縫うように僕は避け続ける。

宝石剣の側面から、新たな宝石剣が伸びて襲い掛かってくる。

僕は紙一重のところで、四方八方からの剣を避けていく。

ただ、僕は避けられても、会場を包む結界は避けられない。

大魔法が直撃し、結界がガラスのように割れてしまう。司会の危惧していたことが現実となった瞬間だった。

物質化していた結界の魔力が、破片となって空を舞い、観客たちに降り注ごうとする。

それを僕は――何の不安もなく見送る。

突如として、炎の嵐が発生した。

そして、空中で全ての破片を飲み込み、蒸発させていく。

マリアの魔法だ。

ずっと静かだったマリアは、この事態を見越して火炎魔法を編んでいた。そのおかげで、破片のほとんどが空中で消えた。

僅かに燃やし損なった破片はある。しかし、待ち構えていた決勝戦続行を望む勇士たちによって、それは弾かれていく。その中には『 天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ) 』たちもいた。

被害はゼロだが、結界は消えてしまった。

しかし、まるで結界の崩壊なんてなかったかのように、すぐに新たな結界が張られる。

「――神聖魔法《インビラブル・フィールド》!!」

「――神聖魔法《インビラブル・フィールド》!!」

ディアとラスティアラが最前列で白い魔力光を放っていた。

崩壊前よりもぶ厚い結界が張り直され、宝石剣の全てを抑えつける。

大会運営側の用意した結界を上回る魔法を、たった二人で展開したのだ。

そして、その隣ではマリアが僕にだけ聞こえる小さな声で呟く。

「もし、何か破片が観客席に飛んだとしても、私が全て燃やします。だから、カナミさんは遠慮なく、戦ってください」

『舞闘大会』の出場者の上位陣の助力により、会場の安全が実証される。

その大魔法の数々に、観客は沸いた。

決勝の続行を望む声が、連鎖的に増していく。

それを確認したエルミラードは笑い、問いかける。

「おお!! どうやら、この戦いの続きを見たいのは我らがギルド『スプリーム』だけでないようだ! 『舞闘大会』を勝ち進んだ精鋭たち、そしてフーズヤーズの姫と使徒、騎士たちも決勝戦の続行に協力してくれると見える! これだけの精鋭が揃いながら、それでも不安が残ると言うのならば、それは我らに対する侮辱と捉える他ないのだが……。さて、『舞闘大会』を運営している方々の返答はいかなものだろうか!!」

厭らしいが、効果的な言葉だった。

司会の奥に控えていた大会運営者たちは、苦心の末、それを受け入れるしかない。

司会は闘技場の全員へ聞こえるように宣言する。

「――ぞ、続行です! 続行すればいいんでしょう!? もうするしかないじゃないですか! 私だって、決勝戦して欲しいです! 誰も邪魔はさせません! だから、カナミさん、やっちゃってください! 『舞闘大会』決勝戦は、まだ終わってません!!」

司会は今日一番の馴れ馴れしさで、僕を激励する。

ただ、いまだけはその馴れ馴れしさが心地良かった。

エルミラードは司会に負けぬ声で叫ぶ。

「さあ、正式に決勝戦の続行権利は得られた!! ならば、カナミ! あとは君が『英雄』然として、『英雄』よりも勇ましく、『英雄』をも超えて勝利するだけだ! 戦え! 戦って、僕に『本当の英雄』を見せてくれ!!」

「エルミラードっ、おまえは『英雄』『英雄』うるさい! 言われなくても! 戦う!!」

熱の入り直った観客席は、熱狂に呑まれていく。この異常事態に興奮を覚え始めているようにも見える。

その声に押されるかのように、僕は駆ける。

中央でさらなる魔法を構築しようとしていたローウェンに斬りかかる。

「――ッシュ、――リスタル》」

ローウェンは構築を途中で断念し、魔法を暴発させる。

キラキラと輝く水晶の種子が拡散し、地面と柱に付着した。

すぐに種子は芽吹き、水晶の植物が生き物のようにうねり伸びる。それは柱と柱の間に絡みつき、闘技場内は蜘蛛の巣が張られたかのように様変わりする。

襲い掛かる水晶の 蔦(ツタ) をかわしながら、僕はローウェンに肉薄する。

狙いは、まだ水晶化していない皮膚だ。

僕はローウェンの身体をバラバラにするつもりで、剣を振るう。

しかし、水晶の八本腕が、それを防ぐ。

数にものを言わせて僕の攻撃を、乱雑に弾く。

そして、手に握った八本の剣を使って、僕を斬り刻もうと反撃してくる。

反撃してくるが、余りにも手緩い。

いや、モンスター化したローウェンの攻撃は凶悪だ。その速さと硬さのともなった八方からの攻撃は、脅威的と表現する他ない。おそらく、30層までのどんなボスモンスターでも一瞬も持たないだろう。

だが、どうしても人間だったときのローウェンと比べると……手緩く感じてしまう。脅威はあれど、絶対に手の届かない領域からの攻撃とは感じない。

つまり、ローウェンの剣八本を使った剣術は稚拙なのだ。

かつてのティーダと同じだ。速さと膂力に頼った乱暴な攻撃。そこに観客全員を魅了した剣技は、欠片も残っていなかった。

明らかに弱体化している。

ローウェンとしての――いや、人間としての強みが消え失せている。

モンスター化する前は、僕がどんな手を使おうと、すぐにローウェンは対応してきた。その場で新たな『剣術』を編み出し、僕を攻略しようとしてきた。

その脅威が、いまのローウェンにはない。ただ僕に攻略されるがままだ。

何の対応策もなく、膨大な魔力と膂力に任せて暴れるだけ。

掻い潜るのは容易だった。

そして、水晶の鎧の隙間に剣を突き刺す。

「――ァア、ガァッ、アアァアァアアア!!」

硬貨と硬貨を擦ったかのような叫び声をあげる。

突き刺した傷口から血が溢れ、その血が水晶化していくのが見える。

このままでは『クレセントペクトラズリの直剣』ごと硬化してしまうと思い、慌てて僕は剣を引き抜く。

傷口は水晶で覆われ、出血が止まる。

僕は仕方がなく、他の隙間に攻撃を繰り返す。

水晶化していない皮膚を剣で斬りつけていく。その度に、傷口は硬化していき、水晶でないところがなくなっていく。

出血の度に、動きが鈍くなっていっているのは確かだ。

ゆえに、僕は何度も何度も繰り返す。

僕がローウェンを圧倒することで、観客たちの熱狂が増していく。

しかし、これは圧倒しているのは違うと、戦っている僕だけがわかっていた。

そして、とうとうローウェンの身体の全てが水晶で硬質化し、剣を入れるところがなくなる。

全ての傷を水晶で覆い隠し、ローウェンは僕に襲い掛かってくる。

そこには技も戦術もない。

理性なく暴れるモンスターそのものだ。

しかし、全てが水晶の鎧で覆われたことで、その突貫は効果的なものとなっていた。

八本腕の乱雑な動きに合わせて、僕は剣を全力で水晶の身体に叩き込む。しかし、甲高い音が鳴り響くだけで、何のダメージも与えられない。

どれだけ隙のある大振りを繰り返されようと、もう僕にはその隙を突いて行う有効手段がなかった。

そのとき、この絶対的防御力が、『地の理を盗むもの』の真価であると僕は理解する。

何の根拠もないが、『地の理を盗むもの』は『世界のどの鉱物を使っても傷つけられない』。

それがこの世の『理』。

そう感じた。

すぐに僕は、いままで見てきた魔法の中で最も破壊力のあるものを思い浮かべ、魔力を構築する。

「――魔法《 氷結剣(アイスフランベルジュ) ・ 衝撃(インパルス) 》!!」

僕が『レイクリスタル』を破壊できなかったとき、スノウは振動魔法を掛け合わせることで破壊していた。

その振動魔法を真似る。

剣に冷気を纏わせ、斬撃が当たる瞬間だけ、その冷気を反転させる。

振動を抑えるのではなく、解放するイメージ。

スノウの魔法のように、鉱石の内部から振動させる。

――しかし、効果はない。

そもそも、僕は魔力で振動を抑えるのは得意だが、震えさせるのは壊滅的に下手だった。

ローウェンは《 氷結剣(アイスフランベルジュ) ・ 衝撃(インパルス) 》を腹に食らいながら、反撃の刃を振るう。仕方なく、僕は正直に冷気を増大させ、ローウェンの身体を凍らせようとする。

「くっ、――魔法《 氷結剣(アイスフランベルジュ) 》!!」

しかし、振動解放も振動抑圧も、ローウェンの鉱石の身体を前には効果がなかった。

防御の体勢を取ることすらなく、全く怯むこともなく、ローウェンは捨て身で腕を払い続ける。

剣の腹で反撃を受け止めるものの、その異常な膂力によって弾き飛ばされる。

僕は弾き飛ばされながら、地面に手を向け、水溜まりに干渉する。ローウェンは僕を追撃しようとして、雪も水溜りも関係なく、真っ直ぐと走っている。

「――魔法《ミドガルズフリーズ》!」

水溜まりが蛇の形をした氷に変化する。

ローウェンの足元から、蛇の大口が襲い掛かる。胴体に食らいつき、その身体を持ち上げる。すぐにローウェンは硬く強靭な腕で、《ミドガルズフリーズ》を掴み砕く。

だが、ローウェンの身体が宙に浮いた。

すぐに僕は体勢を立て直し、跳躍する。そして、空に張った水晶の枝を足場にして、ローウェンの真上を取る。無防備となったローウェンの身体目掛けて、僕は全力で『クレセントペクトラズリの直剣』を振り下ろす。

もちろん、ローウェンも腕を動かし、反撃を行っている。しかし、多少の反撃なんて気にしている場合ではない。最大の破壊力を叩き込むことだけを考える。

「く、だけろぉおおおオオォオオ――!!」

僕は身体の八ヵ所を裂かれながら、筋力の全てを使って、ローウェンを地面へ叩きつける。

《ミドガルズフリーズ》が砕け散り、雪が舞い、水晶が煌く。

神秘的な煙に包まれながら、下方でローウェンが起き上がる。

傷一つついていなかった。

斬撃によるダメージもなければ、衝撃によるダメージも全く見受けられない。

ローウェンは万全の体勢で、宙で無防備になった僕に剣を振りかぶる。

「――ま、『魔力氷結化』!!」

咄嗟に剣の長さを足し、地面を突いて着地地点を変更する。

八本の剣によって、穴だらけとなるのを寸でのところで回避する。身を包む外套を斬り裂かれながら、僕は歯噛みと共に遠ざかる。

会心の一撃を叩き込んだ。

魔力を利用しての攻撃力の上乗せも、考えられる限りは試した。

しかし、ローウェンにダメージはない。

ゲームの戦闘画面で、ずっと「0」の表示を見ているような気分だ。

その高すぎる防御力が、全ての攻撃を無効化している。

僕は迫りくる八本腕をいなしつつ、どうすればローウェンにダメージを与えられるかを考える。

『レイクリスタル』さえも斬り裂く『クレセントペクトラズリ』。それでもローウェンを斬ることはできない。

ティーダの身体を凍らせた『氷結魔法』。迷宮の壁よりも密度の高いローウェンの身体には浸透しない。

剣と魔法を掛け合わせ、さらには重力を利用して無防備な身体に《 氷結剣(アイスフランベルジュ) 》を叩き込んだ。それでもまだ、「0」は「1」にならない。

ならば、どうすればいい。

僕は悩む……ことなく、すぐに答えを見つけ出す。

いや、見つけるのとは少し違う。すでに答えは手に入れていたのだ。

リーパーと戦ったときと同じだ。

答えはもうローウェンに教えてもらっている。

あとは再現するだけ。

おそらく、『第三十の試練』はそれを僕に教えるための試練なのだ。

それを学ぶまで、『試練』は終わらない。

ローウェンが安心できない――

だから、僕は『 詠唱(・・) 』 する(・・) 。

「――『私は』! 『あなたを置いていく』!!」

僕の『詠唱』ではなく、ローウェンの『詠唱』を――