軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第60話 星祭りの足音と、輝く地下迷宮

古代遺跡リニューアル計画――通称『オルステッド・アンダー迷宮』の工事は、驚くべきスピードで進んでいた。

それもそのはず。働くのは、並外れた筋力を持つガイルさんやポチ、そして「もっとみんなと遊びたい!」とやる気満々の遺跡さん本人なのだ。

私が現場を訪れると、入り口付近ではガーゴイルたちが熱心に驚かしの自主トレに励んでいた。

『ガオォォォ! ……あ、ちょっと角度が甘いッスかね?』

『もっとこう、影からヌバッと出る感じの方が怖いッスよ、アニキ!』

石の体をぶつけ合いながら議論する彼らの姿は、もはやモンスターというより、学園祭の準備に燃える学生たちのよう。

『奥様、見てて! 私、壁の苔をわざと不気味な光り方にする練習してるの!』

遺跡さんが、地響きのような小さな震えと共に嬉しそうに伝えてくる。

かつては侵入者を排除するための冷たい罠だった魔力回路が、今はお客様をワクワクさせる演出へと書き換えられ、遺跡全体が活気に満ちていた。

「これなら、お披露目の日が楽しみですね」

私が満足げに頷いていると、隣で資材のチェックをしていたセバスチャンさんが、ふと思い出したように顔を上げた。

「そういえば奥方様。遺跡の公開も重要ですが、もうすぐ夏の星祭りの時期でございます。領民たちも、今年は一段と盛り上がると期待しておりますよ」

「星祭り……。この領地で行われる、一番大きなお祭りですね」

私は、以前読んだ資料を思い出した。

オルステッド領の星祭りは、夏の夜空に一番星が輝く頃、一年の無事を感謝し、これからの繁栄を祈る伝統行事だ。

城に戻ると、執務室ではジークハルト様が山のような書類を前に、珍しく眉間にシワを寄せていた。

「ジークハルト様、お疲れ様です。……星祭りの準備、大変なのですか?」

私が淹れたてのお茶を差し出すと、彼はふっと表情を和らげ、ペンを置いた。

「……ああ。例年なら、広場に屋台を出す程度の小規模なものだった。だが、今年は温泉街の成功で、王都からの観光客も例年の十倍以上が予想されている。警備と宿泊施設の調整が追いつかない」

彼は困ったように息を吐いたが、その瞳にはどこか楽しげな色もあった。

領地が活気づくことを、彼は何より喜んでいるのだ。

「それなら、今回の遺跡迷宮の先行公開を、星祭りの目玉にしませんか? 入り口に温泉の源泉を使った足湯を作って、夜には光る魔鉱石で周囲を飾れば……」

「……お前は、休むということを知らないのか?」

ジークハルト様が呆れたように、けれど慈しむような眼差しで私を見た。

「だって、せっかくの初めての星祭りですもの。領民の皆さんも、観光客の方も、そしてジークハルト様も、一生忘れられないような素敵な思い出にしていただきたいんです」

私が熱を込めて語ると、壁に立てかけられたグラムが、これ見よがしにカタカタと鳴り出した。

『ヒュー! 奥様、天然の口説き文句だぜ! ご主人様、「こんなに俺たちのことを考えてくれるなんて……俺は世界一の幸せ者だ」って、脳内で感動の涙を流してるぜ!』

ジークハルト様は少し耳を赤くして、私の手を取った。

「……無理はするな。お前の体調が一番大事だ。……だが、お前が描くその景色を、俺も一緒に見たいと思う」

「はい! 最高の星祭りにしましょう!」

それからの数日は、まさに怒涛の勢いだった。

ジャンさんは星降る夜の特製パイの試作に没頭し、リリィさんは「城内とお祭りの会場を、史上最高にピカピカにしてみせます!」と鼻息を荒くしている。

私は、ラムール領とのドレス事業で余った光る糸を使い、お祭りにぴったりの特別な衣装を仕立てることを思いついた。

夜、自室でデザイン画を描いていると、ノックの音がした。

「コーデリア、まだ起きているか」

「ジークハルト様! はい、ちょうどお祭りの衣装を考えていたところなんです」

扉を開けると、そこには少し疲れた様子の、けれど柔らかな表情をした夫が立っていた。

彼は私の手元の紙を覗き込み、目を細める。

「……これが、光る糸のドレスか。星祭りの夜空に、よく映えそうだな」

「ええ! ジークハルト様のマントにも、少しだけこの糸を織り込もうと思っているんです。二人で歩いた時、まるで星空を纏っているように見えたら素敵じゃないですか?」

私が興奮気味に語ると、彼は私の髪を愛おしそうに撫でた。

「お前が隣にいてくれるなら、俺に飾りは必要ない。……だが、お前が仕立ててくれるなら喜んで着よう」

その言葉に、私は胸が高鳴るのを感じた。

「ジークハルト様。星祭りの夜、少しだけでいいので二人で抜け出せませんか?」

私のささやかなおねだりに、彼は一瞬驚いたように目を丸くした。

「……抜け出す?」

「ええ。領主様としての仕事がお忙しいのは分かっていますが……。一番星の下で、あなたと静かにお祈りをしたいんです。誰もいない、二人だけの場所で」

私が少しだけ甘えるように言うと、ジークハルト様は観念したようにふっと笑った。

「……ああ。セバスチャンに何と言われようと、必ず時間を作ろう。約束だ」

指切りを交わすような、温かな約束。

部屋の隅に置かれた鏡台が、『きゃー! ご馳走様! お祭りの夜が楽しみね!』と嬉しそうに輝いた気がした。

夜の帳が下りる領地では、星祭りに向けた祭囃子の練習の音が、遠くから心地よく響いていた。

波乱含みの夏が、今、最高の輝きを放とうとしている。