軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パイロマンシー

水中には体長1m近い魚影が見える。

しかしそれはこれまでに見たことのない異形の魚影だ。

尻尾が左右二つに分かれていて、右だけが異様に長く、エイの棘のように鋭い針がびっしりと右尾びれを覆っている。

「おそらく、その長い尾で獲物を突き刺し殴るものと思われます。有毒かもしれませんね、何卒お気を付けを、九重様」

「そこからでも見えてるのか、さすが視力6。でもそうはいっても、ここじゃ避けようがないけどな!」

俺は初級魔道師の杖から魔力の矢を水中に向かって射出した。

狭い杖の船の上じゃ身をかわすなんてできない、それなら攻撃される前に倒すのが最善だろう。

しかし魚の魔獣は身をひねって矢を避ける。水中に突入する際に矢の速度が大きく減衰してしまったせいだ。

そういえば、銃弾も水中だと1mで止まってしまうくらい水の抵抗は大きいって話を聞いたことがある。

こうなると矢で倒すのはなかなか難しいな。

水面に出てきたところを狙うしかないか。

そうなると攻撃されるリスクがあるが、魔道師の杖の盾で防いで……って、今盾に乗船してるからそれはできないじゃないか。

まずいなそうなると、ガードができないから気合いで避けるしかないのか?

考えていると、突然、熱気とともに空気が歪む感触が岸辺から伝わって来た。

異変を感じそちらに振り向いた俺の瞳に映ったのは、火。

アンドラスの左手に、橙色の炎が燃え上がっていた。

「それは……」

「自分にもマホウが備わっています。パイロマンシー――炎を操る術です」

炎を出すマホウ――俺の脳裏によぎったのは以前出会った食料を要求してきた男の姿。あいつも炎のマホウを使っていた。

同じマホウを使える人は何人もいるんだな。アンドラスが特殊な可能性もあるが、生き残った人間の数だけでもそれなりにはいるはずで、全員が異なる能力を持っているというのも無理がある。ならばこれまで偶然かぶりがなかっただけで、むしろ同じマホウを使える人は複数いるのが基本なんだろう。

「少々熱いですが、お気をつけを!」

そう言うとアンドラスは火の玉をこっちに向かって投げつけてくる。

同じタイミングで水面が揺れた。

魚の魔獣が今にも水から飛び出そうとしている。

まさに魚の魔獣が水から跳ね出ようとするその直前、火の玉が俺の脇を通り過ぎ着水した。瞬間的に高温になった水が沸騰し、ボコンと大きな泡を弾けさせる。

「あっつっ!」

沸騰した飛沫が手のひらに当たるが、お気をつけをと言われてもこの状況で気をつけようがないだろう。

でも、ちょっと飛沫が当たっただけでこれなら、そこにいた魚は――。

水中に目をやると、魚の魔獣が狂ったように体をくねらせていた。

のたうちまわるようにじたばしながら、水の冷たい遠くへ向かって逃げていく。

「離れた、チャンスだ。今のうちに引っ張ってくれ!」

「承知いたしました」

そしてアンドラスはロープを引っ張り、俺を岸へと引き寄せる。

さらに驚いたことには、火の玉を杖の舟の後ろにやって水温をあげ、対流による水の流れの変化を利用して加速させた。

そのおかげで俺は素早く岸にたどりつくことができ、体を冷やして戻ってきた魚の魔獣は間に合わず、悔しそうに水面を尻尾でばしゃばしゃと打っていた。

「ふう、ぎりぎり間に合ったか。だいぶ名残惜しそうだなあの魚」

「左様ですね、こちらに水しぶきを飛ばして嫌がらせのつもりのようです」

「アンドラスの炎、コントロールいいな。野球選手になれるぞ」

「光栄です、ヤキュウというこの地域特有の漁法があるのですね」

勘違いしているが、まあいいだろう。

それよりも、これだ。

俺は腰のロープを外し、魔石を河川敷にそっと置く。

水中にある根元はとってこれていないが、それでもなお十分に大きく、深い輝きを湛えている。

「とりわけ美しい石ですね。皆様がマンションに魔石を持ち帰って来るのを何度も見ましたが、ここまでの色あいのものは初めてです」

「ああ、ずっと見ていると吸い込まれるようだ。さあ、帰ろうかマンションに。いくらMPが手に入るか楽しみだ」

【10200MP】

リサイクルボックスにはそう表示された。

一個の魔石の塊でこの値は最高級だ。

二人で分けても5000MP以上。並の魔石を一日中歩き回って探すよりもずっと多くをこれ一個で手に入れてしまった。

「これは……多いのでしょうか?」

「ああ、そうか。買い物したことないから相場がわからないかアンドラスは。かなり多い、滅多にない高収入だ。美味いものいくらでも買えるぞ……いくらでもは言いすぎか」

美味いものという言葉に反応し、アンドラスの整った口元がにやりと歪んだ。

よっぽど楽しみにしていたらしい。川に行く間も食べ物のことばっかり考えてたんじゃないか。

「それは楽しみです、それでは早速――」

「通販端末の使い方わからないだろ、最初だけでも教えるよ」

二人で管理人室に行き、端末の使い方をレクチャーする。

アンドラスはスマホもパソコンも使ったことないのに飲み込みがよくすぐに使い方を理解した。

そして理解したアンドラスが見ているのは、もちろん『食品』ページ。

海苔弁、サラダ、サンドイッチ、寿司、ピザ、メロン、ブドウ、ポテトチップス、チョコレート、さらに肉じゃが、ピーマンの肉詰め、ハンバーグ(和風おろしポン酢)。

食材、主食、おかず、弁当、あらゆるタイプの飲食物が写真付きでリスト化されている。

アンドラスの瞳が忙しなく上下左右に動き回り、獲物を狙う鷹の目になっている。

一番下まで見るとすぐさま次のページへ。

さらにそれも一気に見て次のページへ。

凄いスピードだ。本当に見えているのか疑わしいほどだ。

リストをしばらく見ていたが、次はリストの中で気になった食べ物の個別のページを見始めた。

今度は一転して、商品説明やカロリーや原材料までねっとりと見ている。

そうしてじっくりといくつもの食品を調べた後。

「決めました」

アンドラスはカートにいくつもの食べ物を追加していき、迷わず注文していく。

と思うやいなや、すかさず宅配ボックスから箱を持ってくる。

「結構頼んだな」

管理人室にはところせましと箱が置かれた。

これ全部食べ物って結構すごいな。

アンドラスは次々と箱を開け、管理人室の机の上に取り出したものを並べていく。

焼売弁当、幕の内弁当、カツサンド、ツナサンド、巨峰、林檎、餃子、ミックスピザ、オムライス、シーザーサラダ…………。

「……コレクションでもするのか?」

「まさか。食べ物ですよ、九重様。食べる以外にないじゃないですか」

「食べるといっても……」

この量だぞ?

焼売弁当、幕の内弁当、カツサンド、ツナサンド、巨峰、林檎、餃子、ミックスピザ、オムライス、シーザーサラダ、春巻き、冷や奴、タンドリーチキン、ホットドッグ…………。