軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナカヌキ

『中級』魔道士の杖。

俺が魔獣退治で使っていた初級魔道士の杖の上位版。

初級は一般的な通販の品物の枠にあったのに他の杖がなくて妙だと思っていたけど、後から出てきた【強い魔法の品物】の方のラインナップにあったというわけだ。

この崩壊世界が動き始めているとしたら、そしてまた、この周囲の魔石が減ってきて、未知の遠方に行かなければいけないとしたら、想定外の危険に見舞われるかもしれない。否、これまで以上の危険は必ずあると思って対策するべきだ。

そう考えた時に思いついたのが、魔道士の杖だ。

使い慣れているこれの上位版があれば、間違いなく役に立つ。

10000MPは結構な出費で、普段の探索だと食費など必要経費を抜いたら一週間は稼ぐのにかかる額だったが、しかし今ならいける。

なぜなら、住民が増えて家賃収入も増えたからだ。

それを考慮に入れれば新たな武器を購入する余裕はあるし、費用対効果もプラスになるだろう。

……まあ、住民が納めた家賃のMPがまるごと俺のMPに加算されるわけではないのだが。

住民に聞いて家賃のMPは知っているが、俺の手元に増えるMPはその半分以下しかない。

マンションに中抜きされてるんだ。

世界が崩壊しても中抜きシステムは崩壊しないのか。

と文句を言いたいところだが、めちゃくちゃ便利な通販システムやリサイクルボックスなどの維持にもエネルギーが必要という理屈はわかるから我慢するしかない。

普通のマホウは、雪代や楓に聞いたところによると、使いすぎると疲労が溜まって限界が来るみたいだけど、マンションは24時間稼働してるからな。

家賃中抜きはそのエネルギーをまかなうための必要経費……なのだろう、きっと、多分。

ともあれ、MPはなんとか捻出できるので、俺は中級魔道士の杖を通販することにした。憧れのマジックポーチは遠のくがしかたない。まずは安全に探索するための術だ。

注文すると、早速通販ボックスに箱が届いていた。

101号室に持ち帰って中身を確認――しようとしたら、部屋のドアを開いたところで102号室のドアも開いた。

「あ! ちょうどよかった!」

雪代が俺を見て言った。

鍋を抱えて。

「どういう鍋?」

「カレー食べない? たくさん作ったから」

「こ、これは……うまい!」

「でしょー? まあ、カレーなんておいしくなく作る方が難しいんだけどね」

ジャガイモ、タマネギなど収穫した野菜を使ったカレーを雪代は作っていた。カレーだけに作った量が多かったので、俺にもおすそわけしてくれたのだが……。

「いや、本当にうまい。カレー食べられるなんて思ってなかったからラッキーだ! 本当にありがとう雪代」

「ええー、なんかめちゃくちゃ褒めるね。ビックリマーク3つついてるようなテンションだよ。キャラ変した九重さん?」

「そんないつも仏頂面キャラみたいな扱いを」

まあ今はどんなキャラ付けでもいい。カレーが美味しいのだから。

時間もMPもかかったけれど、うまいカレーをもらえるならマンション菜園を作ったかいがあったな。

「あはは、まあいいじゃん。……あれ? なんか杖格好良くなってない?」

俺の部屋の隅に立てかけてある中級魔道士の杖に雪代が気付いた。

「前のは初級、これは中級。レベルアップバージョンだ」

見た目としては前と同じく木の杖の先に宝石がついているデザインの杖だが、装飾が豪華で宝石が真紅になっている。

「ふぅーん、そんないい道具通販したんだ」

「これから必要になる場面がありそうだからね」

「危険地帯に行くってこと?」

「それもあるし、場が危険になるかもしれない。そろそろ北の方の――」

「自然公園だね! いい加減たどり着けって私思ってたんだよねー」

そんなこと思ってたのか、雪代。

だがまあその通りだな。前々から北を開拓して自然公園を目指そうと言っていた。

色々あって停滞していたけど、近場の魔石が枯渇してきた今こそ本当に目指すときが来たんだと思う。

「よーし、いざ公園へ! だね! カレー食べたら行こう九重さん! 崩壊世界に自然豊かな憩いの場を見つけるのじゃよ」

「ああ。……憩いの場のままならいいけど」

カレーを食べているのは夜ご飯なので、俺たちが北へと出発したのは普通に翌日だった。

翌日の朝から、俺は雪代と一緒に北を目指して出発した。

これまでも結構北へ足を伸ばしてきたが、途中で東の魔獣狩りをしたりで気がそれていた。だが今度こそ、本当に自然公園まで行くつもりだ。

しかしマンションから離れたところに何があるかはわからない。

危険があるかもしれないし、まずはそこに向かいながら新たな武器、中級魔道士の杖を試してみる。

「商品説明をメモ帳に書き写して来た。中級魔道士の杖で使える力は、これだ」

俺は杖を掲げて、初級魔道士の杖を使うときと同じく尖端にある宝玉に精神を集中する。

すると赤い宝玉が一際輝き、桃色の光が杖の先端を中心に、円盤状に広がった。

その様子を見た雪代が、ハンディファン片手に首をかしげる。

「あれ? 飛んでいかないの? 前の杖みたいに」

「これがいいんだ。魔力を留めることでシールドする、それが中級魔道士の杖の魔法。ただ魔力を飛ばすより高度な技術ってことみたいだ。ためしにその辺の瓦礫をこっちに放ってみてくれない?」

「いいよー、サイコキネーシス!」

なんだそのかけ声、と思っていると瓦礫が一つ浮かび、俺に向かって飛んできた。

桃色の魔力場を展開している杖の先を瓦礫の方に向け、その魔力のシールドで瓦礫を受け止める。

ビュイン、というSF感のある音とともに、桃色の魔力シールドに当たった瓦礫は弾き飛ばされ跳ね返った。

俺の手にはその反動すらほとんどなく、完全に衝撃を消し去った格好だ。

「わお、きれいに跳ね返したね! これが中級の力ってこと?」

「そう。前の杖が攻撃魔法なら、この杖は防御魔法なんだ」

危険が倒せるものばかりとは限らない。

生物の敵ではなく自然現象だって時には牙を剥く。

そうであれば、防御魔法というのも大事になってくる。

もちろん、生物相手でも、武器だけじゃなく防具もある方がずっと安全に戦える。

だからこそ、この中級魔道士の盾が欲しかったんだ。

「すご。光もきれいだしいいねー、その杖」

雪代がハンディファンで涼みながらそう言った。

いつの間にかいいもの通販してるなこいつ。

「ん? あ、これ? いいでしょほーら」

雪代はこちらにハンディファンを向けてくる。

ああ、涼し……?

「結構ぬるいな」

「贅沢! 無よりは涼しいでしょ。うん、涼しい」

ハンディファンを自分に向ける雪代。

空気が熱すぎて効果半減だけど、たしかにないよりはいい。俺も買うか……いやでも効果半減で買うのはMPもったいない気もするしどうするかな……。

「見せつけてくれるじゃないのお二人さん」

その時、不意に昭和のチンピラみたいな台詞が聞こえてきた。

しかし聞き覚えがあるぞこの声には。

俺と雪代が声のした方に顔を向けると、そこには眼光の鋭いゆるふわウェーブな髪型の女がいた。

「天音?」

「お知り合い?」

雪代に先日のことをさっと説明すると、へー、といいながら天音に近づいていった。

「遠慮しないでうちのマンションに来ればいいのに」

「遠慮じゃないわ、警戒よ。そう、警戒」

「警戒しないでうちのマンションに来ればいいのに」

「え、bot? ……ともかく、何回も私にいいものを見せつけて懐柔しようという 魂胆(ハラ) 、こりないわね」

いいものってなんだ?

この魔道士の杖だろうか。

いや、天音の視線を追うと……。

「ハンディファン……暑いもんなあ」

天音は汗を額ににじませながら、目には羨ましさをにじませながら、涼しげな雪代を見つめている。

気持ちはわかる。

「天音、うちに来ればエアコンも冷蔵庫もアイスクリームもあるぞ」

「うっ……」

おお、揺れてる揺れてる。

「…………悪魔の囁きには屈しない……! 食べ物だけならまだしも、このご時世にエアコンや冷蔵庫があるわけないじゃない常識的に考えて! 天音は生き延びるために忙しいの、行くところがあるのよ! じゃあね!」

誘惑から逃れるように、天音は走って立ち去っていった。

「悪魔じゃないのにもったいないねえ。というか、先に近づいて来たのあの子の方からじゃなかったっけ」

「ああ。こっちが誘惑するというか、勝手に誘惑されてるな」

「あは、あの子もすぐにお隣さんになりそうだね。じゃ、私たちも行こっか」

俺たちも杖の試し打ちを終えて、今日こそ自然公園に到着するため北へと再び足を進める。

……ん? そういえば。

天音も北に向かっていったな。