軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

住○

マンションでの暮らしは便利になっていくが、ずっと部屋にいるわけにもいかない。日課の外部探索も行う必要はもちろん引き続きある。

しかしモチベーションはむしろ以前より高まっている。住民が増えたということは、マンションがより成長し、設備や製品が整いやすくなる未来がより近くなったことを意味しているからだ。

そして橘と鳴瀬が来てから数日が経ったのだが、一つ気づいたことがあった。

「近場の魔石、結構枯渇してきたかもしれない」

今まさにマンションのからそう遠くないところで魔石を探しているのだが、それに気付いた。

これまで魔石を集めたことと、それに加えて人数も最初の俺1人から今や6人まで増えている。それでは魔石がどんどん掘り尽くされるのも無理はないだろう。

このままでは廃坑になった鉱山町と同じ末路をたどってしまう。

もちろん遠くにはまだ魔石があるが、移動に時間がかかるし、取った魔石の重みを背負って帰るのも遠くなるほど辛くなる。

移動と運搬、これについてなんとかすることを考え始めなきゃいけない時期が来ている。

移動は……この状況じゃ難しいか。

地面のアスファルトはひび割れ、瓦礫がそこかしこにある状況。まともな乗り物を動かせるような状況じゃない。

悪路に強い乗り物でも限界があるだろう。何か手はあるかもしれないが、当面は運搬を楽にすることで対処していくべきか。新しく解放された通販にあったマジックポーチで負担を減らせるから、早めに手に入れたいところだ。

「しかし、本当に滅んでるな。人間以外の動物もほとんど見当たらないし」

たまに虫を見かけはするが、昔はそこら中を飛んでいた鳥ですらめったに目にすることがない。この環境じゃ人間だけじゃなく動物も厳しいようだ。

…………ん?

今、何かの視線を感じたような気が。

俺は周囲に視線を走らせる。

すると、俺を見ていたのは。

「……なんだネズミか。瓦礫の隙間をちょろちょろ走ってらっしゃる。人間を睨んでくるとは生意気な……でもまだ生命がいると思うと少し安らぐ。まあネズミだが」

夕方になり、帰って魔石をリサイクルボックに入れようとすると、ちょうど鳴瀬と橘も探索から帰ってきたところだった。

「そろそろ慣れました? 魔石集めるの」

「あら九重くん、ありがとうねえ気にかけてくれて嬉しいわ。おかげさまで、うまく集められたのよお。ほらあ」

そういって肩掛けバッグを開くと、きらきらと光る魔石の結晶が顔をのぞかせる。

「しっかり集まってますね」

「ええ、九重くんがガイドしてくれたおかげよお。最初の頃、一緒に魔石の取り方とか教えてくれたでしょう? 教え方お上手で、私でもすぐ覚えられちゃったわ」

最初だけはまずこの辺りの土地を案内しつつ一緒に魔石を集めた。

そのかいあって、二人でも魔石をしっかり集められているようだ。

これなら家賃も安心そうだな、教えてよかった。

「少しずつだけど家具とかそろえられてるし、本当マンションに来てよかったわねえ。ねえ、鳴瀬くん」

「うん……でも、心配」

「心配? 何かあるのか?」

鳴瀬は探索成功したのにうかない顔だ、何か気がかりがありそうだが。

「ココア、今日も見つからなかった」

「ココア?」

「僕と橘おばさんと一緒にいた犬の名前。崩壊した世界で歩いてたら、僕らを見つけて近づいてきたんだ。それで、一緒にいたんだけど……」

鳴瀬は目を伏せて黙りこくってしまう。

言葉を引き継いだのは橘だった。

「魔獣に襲われた時にね、ココアちゃんが立ち向かっていったのよ。魔獣を追い払ってくれたんだけど、追いかけていってそのまま遠くに行っちゃってねえ」

「探したんだけど、どうしても見つからなかった……」

「大丈夫よ鳴瀬くん、ココアちゃんならたくましく元気にやってるわ、賢い子だもの」

「うん……」

驚いた、犬の生き残りもいたんだな。

人間の生存者がなかなかいないように動物も数は少ないんだろうけど、しかし人間よりも動物の方がたくましいし、ココアという犬もどこかで生きてると俺も思――

「ワン! ワン!」

「ここが私達のおうちですよ、驚きました?」

「ワン! ワン!」

――まさか。

俺が動くより早く、鳴瀬が鳴き声と楓の声が聞こえてきた門の方に走っていく。

俺が追いついた時には、門の前で愛くるしいポメラニアンが鳴瀬に頭をこすりつけて喜びを爆発させていた。

「ココアー! よかった……」

「ワン! ワン!」

楓が微笑ましい表情でその様子を見ていて……しかし首をかしげた。

「どうしてあのワンちゃんを名前で呼んでるんでしょう?」

「その前に、どうしたのあのポメは」

俺が聞くと楓は「この近くを鼻をすんすん言わせながらうろうろしてたので、思わず連れてきてしまいました」と答えた。

そして鳴瀬とココアを見て「何か探してるみたいだなと思ったのですけど、もしかして鳴瀬くんの匂いを探してたんでしょうか?」と微笑ましい表情で言った。

「それっぽい。さすが犬の鼻、こんな世界でもよく探せたもんだ」

「逆に、余計なものがないから匂いが嗅ぎやすかったのかもしれませんよ」

「なるほどたしかに。だったら滅んで逆に良かったな……いや良くはないか。ともかく再会できて良かった」

鳴瀬だけじゃなく橘も加わり、ポメラニアンのココアとスキンシップをとっている。

あ、マンションの庭を走り出した。

「これって犬も飼う流れだと思う? 楓?」

「明らかにそうですね」

「うちってペット可だっけ」

「大家さんは九重さんでは」

「もっともだ」

ペットがいて困ることもたいしてないし、ペット可でいいか。

それに、一つ期待してることもある。

魔獣を追いかけていって、それで生き残ってるということは、ココアはマホウの使えるポメラニアンの可能性がある。

となれば、ココアとも助け合う方がメリットがあるはずだ。

「あの、飼っていい? ここって、犬」

ひとしきりココアと遊んだあと、鳴瀬が俺に上目遣いで聞いてきた。

当然答えはイエス。

「もちろん。鳴瀬くんが飼うのか?」

「うん! ありがとう九重さん!」

「よかったわねえ、鳴瀬くん」と橘がすっと気づかないスピードで会話に加わった。「私も安心だわあ、ココアちゃんが鳴瀬くんと一緒に住んでたら。お利口さんだものねえ、ココアちゃん」

「ワン!」

ココアが鼻先を俺に近づけて尻尾を振っている。

首を撫でつつ、これでまた住民いや住犬が一匹増えたなと俺は考えていた。

そういえば、通販にペットフードってあったっけ。

鳴瀬の話によると、通販端末から買えるものにはしっかりペットフードやペットのトイレなどもあったそうで、それでココアのお世話はできるということだった。

これで一安心、と思ったが同時に懸念も持ち上がる。

「ワンちゃんの餌代とかかかったら鳴瀬くん大変じゃないかなあ?」

ココアを鳴瀬が面倒見ると決まったときに雪代がそう言っていたように、一人暮らしより余分にMPの出費が増えるわけだ。

ただでさえ揃える必要のあるものが多くあるのに、鳴瀬は大丈夫なのか、という懸念が。

しかし鳴瀬は「ココアも手伝ってくれるから大丈夫」とけろっとしている。

しかし他の住民達は、大丈夫と口で言われてもと心配している。

そこで結局、ココアも含めて住民総出で一度マンションの外に出ることになった。

ココアが本当に手伝ってくれるのか、それを見極めるために。

俺としても、犬がマホウを使えるのか、興味津々だったから。

「ワン!」

しばらく歩いていると、ココアが地面に鼻を近づけ、前足で掘り掘りし始めた。

俺たちも手伝って、割れたアスファルトを除けて露出した地面を掘っていく。

すると、見慣れた青紫色の輝きが焦げ茶色の土の中に尖端をのぞかせた。

俺たちは顔を見合わせる。

誰ともなく「ここほれワンワン?」とつぶやいた。

埋もれた魔石を掘り出した俺たちは、さらにしばらく歩いていく。

だが先ほどとは異なり、皆の目線がてくてく歩くココアに向いている。

その時だった。

またココアが鼻をひくひくさせて駆け出し、地面を掘り掘りし始めた。

俺たちはすかさずそこを掘り進む!

「まただよ!」

「完全にわかってらっしゃるじゃないですか!」

そこにはまた、魔石が土の中に埋もれていた。

魔石が土中に生成されているということにも驚きだし、何より、

「ココア、魔石の匂いがわかるのか?」

「ワン!」

ウン!と多分言っている。

魔石を探索する異能、人間があの大異変でマホウに目覚めたように、犬も特殊能力を身につけたのだ。

賢いし魔石の場所もわかるとか、そんじょそこらの人間より優秀ドッグだなココアは。

これなら安心だ。これならココアがいるからって鳴瀬のMPが苦しいなんてことにはならない。

自分のご飯代もトイレ代もその他諸々稼いでさらにプラスαするくらいの働きをしてくれるだろう。苦しいどころかむしろココアが大いに助けになるね。

鳴瀬もココアも大丈夫、ということで俺たちは安心してその日の探索を終えた。

こうしてマンションには頼りになる住犬が増えたのだった。

……………………ん?

探索を終えマンションに戻っている途中。

俺は昨日と同じような、何かの視線を感じて足を止めた。

首を左右に振って周囲をうかがうが、なんの姿も見えない。

「またネズミか? それともただの気のせい?」

今度は体ごと回転してもう一度周囲をうかがうが、やはりなんの姿も見あたらない。

やっぱり気のせいか。

「どうしたの九重さん、ぐるぐる回って」

「……いや、なんでもない。気のせいだ」

気のせい……のはずだ。

だって、何も見えていないのだから。