軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……来る!

暮らしを改善したことで、俺は充実した心持ちで日々を送っていた。

家の中では快適に過ごしているが、外出ではまず東の魔獣達を掃討したところをもう一度見て周っている。魔石の取りこぼしや、日常生活で使えそうな物品がないかなどを見るためだ。

あの時は魔獣に気を向けてておろそかになっていたから、魔石に関しては結構取りこぼしが見つかる。普通の品はこれまでと同じように、そうそう見つかりはしないけど。

今日も魔石を集めて帰ってきて、リサイクルボックスに投入したら1200MPほどになった。上々の成果か、とにかく早く部屋で涼みたい。

「ここだよー。ここ!」

「わあ、すごいわねえ! 本当にマンションがあるじゃない! 驚きね、成瀬くん」

「うん。すごい」

雪代の声――と、知らない二つの声が突然耳に入ってきた。

どういうことだ?

第三者がこの空間にいる?

俺はエントランスへと早足で向かう。

するとそこにはマンションを指差す雪代の姿と、驚いた表情の見知らぬ二人――60歳くらいの女性と、小学生くらいの男の子がいた。

……なんか、知らない人が来てる。

「あ、ちょうどいいとこに。あの人がマホウでこのマンション作ったって話をした九重さんだよ」

「へえ、まだお若いのにすごいわねえ」

「うん。すごい」

……なんか、雪代がすでに知らない人と普通に馴染んで話している。

「とりあえず、雪代」

「なあに九重さん?」

「この状況を説明して欲しいんだが」

「この人達もマンションに住みたいんだって。だから私が一緒に中に入って見てもらってたの」

雪代は簡潔に説明を始めた。

たしかに、このマンションのある空間は部外者は入れないが、居住者と一緒になら中に入れる。オートロックのようなものだ。

だから雪代が一緒にいれば中に入れる。

「つまり、外でこの人達を見かけて、それでマンションの住民に迎えることになった、っていうこと?」

「そうそう、今日私が外に行ってたら……」

雪代が語ったことによると、先日のスーパーマーケットの1階にまだ何かないか(特にチョコレート)と行ったところ、同じくスーパーマーケットで物資を探している二人を見つけたらしい。

そこで声をかけたら、世界崩壊以降なんとか無事な食べ物を探したりして凌いで来たけど、もっと安心して暮らせる場所があったらいいのに、ということだったのでマンションのことを教えてここまで案内したということだった。

「なるほど。スーパー崩れなかったか?」

「全然大丈夫、一階は今でもなんともないよ。食べ物もちょっと前の見逃しがあったみたい。橘さんと成瀬くんがしっかり食べ物見つけてた。二人とも探索上手」

「それならよかった。ええと、見ての通りのマンションで、空き部屋もまだまだあるので、入居したいなら全然構いません。敷金、礼金ももちろんなし」

橘――60歳くらいの女性と成瀬――小学生高学年くらいの男の子は、息を合わせたように礼をして「お願いします」と言った。

「こちらこそよろしくお願いします」と俺と雪代も頭を下げて、契約完了。これでもう新しい入居者だ。

自分のことながら実際の不動産契約に比べたらとんでもなく簡単だな。書類も保証人もないし。

まあ悪い人には見えないし、入居者はどんどん増やす方がいいし、これでいい。

入居者を増やせば増やすほど、マンションに入る魔石が増えて、マンションがより成長するのだから。一気に二人増えるのは驚いたが、願ったり叶ったりだ。

「ところでお二人は元々知り合いだったんですか?」

橘は首を横に振った。

「いいえぇ、元々は世の中こんな風になっちゃってそれぞれ一人で彷徨ってたんだけど、あれは三日目くらいだったかしら、この子が壊れたコンビニの横でうなだれてるのを見つけてね、それでこんな子供を一人でなんてかわいそうでしょう? それに私も一人じゃ寂しいしねえ。それで、コンビニのガレキに埋まってた缶詰を発掘して、一緒に食べたのよ」

なるほど、世界がこうなってから行動を共にしてたと。

……ん?

「ガレキに埋まってたのを発掘? よくできましたね、もしかしてそれって……」

「そうそう、あの日以来不思議な力が身についてね、私もとんでもない、もう相撲取りもびっくりな怪力が出せるようになったのよ」

やっぱりマホウか。

筋力が大幅アップする、みたいなマホウなのかな。

「すごいよね、全然スリムでそんな風に見えないのに本気を出すとマッチョになるなんて! 格好いい!」

「もういやねー、雪代ちゃん! マッチョだなんて言わないでよ、見た目はそこまで変わらないのよ」

おほほと笑う橘は小柄で世話好きそうな年配の女性という感じで、全然パワータイプのようには見えないけれど、ガレキから食品を掘り出すくらいだから相当パワフルなんだろうな。これはサバイバル力高そうだ。

「ねえ」

と成瀬が小さな声で誰にともなく言った。

成瀬は、線が細く色素が薄い雰囲気があるけれど、実際物静かなタイプだな。橘とは反対って感じの性格だ。

「本当にここに住んでいいの?」

成瀬が聞くと雪代が身をかがめて目線を合わせる。

「もちろんだよ、いつでも誰でも歓迎してるから。お隣さん増えたら嬉しいし! ね、九重さん?」

「そうだな。住民が増えれば俺たちも助かる。だから遠慮せず住んでいい。自分の家だと思って……というか自分の家だな、マンションの一室だし」

「うん、ありが」「皆さん親切で嬉しいわあ、あ! 早速で申し訳ないんだけど、お部屋見てもいいかしら? もうずっと気になってしかたがないのよ!」

橘が成瀬に割って入り早口でまくし立てた。

俺が成瀬に目線をちらりと向けると、成瀬はいつもこうなんだと言いたげに目で頷いた。

わかってきた気がする、二人のことを。

というわけで、二人にこのマンションの独特の施設や仕組みなど説明しつつ、開いている301号室に連れてきた。

「こんな立派なところがあるなんて、お兄さんすごいマホウねえ。本当ありがとうねえ」と橘に言われ、成瀬は「こんなところにいていいの? すごい……」と言葉を失っていた。

「さっき話してたマンション通販っていうので、ここに家具とか色々置けるようになるのね?」

「ええ、そうですよ」

「もう皆さんは家具とかベッドとかキッチンとかもバッチリしてるのかしら?」

「まだ揃えてる途中ですけど、そこそこ生活できるくらいにはなってきました」

「は~、そうなのね~」

何度も頷く橘を見た雪代は、何事か思いついたように手を叩くと、玄関の方に踵を返していく。

何をするつもりなんだろうか。

「もしよければ私の部屋見る? どういう感じにできるか見たいかなと思って。どう? 成瀬くん、橘さん」

「ええ悪いわあ、家にあげてもらうなんて」

「全然、気にしないで! 世界も崩壊したんだし、お互い気を使う世の中じゃないしね」

「それじゃあ見せてもらおうかしら。良かったわねえ、成瀬くん」

橘は軽やかな足取りで玄関を出て行った。

成瀬はそれにゆっくりついていきつつ、雪代に、

「お姉さんって、気配り上手だね」

といって301号室から出て行った。

「住むなら、今の住民がどうなのかが知りたいでしょ? 一番参考になるし。ってことで、ちょっくら片付けてくるね!」

なるほど、たしかに俺より気がついてる。

それから雪代がささっと部屋を片付けるのを少し待ち、雪代の102号室に入った俺たちに、雪代はリビングを開放してくれた。

「あらあらきれいなお部屋ねえ。ちゃんとしてて偉いわあ」

「ありがと、橘さん」

「私なんて片付け苦手でいっつも散らかっててねえ、本当いやだわあ。ここでは恥ずかしい部屋にしないようにしなきゃね」

橘は部屋の中を見てテンション高くなっているようだ。

こんな風に暮らせるならここに是非住みたい、と思っているのだろう。

せっかくなので俺も雪代の部屋を観察しよう。

考えてみれば、他の人の部屋がどうなってるかこれまで知る機会がなかった。俺が気付いていない、役に立つものを通販しているかもしれないから参考にするいい機会だ。

ええと、リビングにあるのはエアコン、テーブル、椅子、カーテン。キッチンにはこの前スーパーで見つけた鍋とかがあるな、料理できるんだな雪代。

あとは俺の家にはないものとしてはクッションに観葉植物にいい感じの間接照明。

居心地いい空間を目指している感じか。

やはりそういうことも人生では大事か。

俺の部屋は冷蔵庫とかエアコンとか洗濯機とか絶対いるものは揃ってきたし、そろそろ快適さも追及していいころかもな。

必要なものだけでなく、好きなものを購入していくフェーズに入って来たと、そういうことだ。

今後は通販するときにそこも視野に入れるようにしよう。

そう考えながら見ている間に、雪代はスーパーで手に入れたお菓子や買ってあった飲み物を出してくれて、俺たちはそれを食べつつ、しばし部屋を見たり雑談したり、まったり過ごすタイムがなぜか始まっていた。

そしてしばらくご歓談タイムをした後、

「こんな素敵なお部屋にできるなら、私も楽しみになってきちゃうわ。頑張って魔石っていうのを集めていい部屋にするわね。見せてくれてありがとうね雪代ちゃん」

「私も部屋に誰か呼んで見たかったからちょうどよかったよ。部屋で他の人と一緒にお菓子食べるなんて、いつぶりかなって感じで楽しかったし。それで橘さんと成瀬くんがこのマンションにもっと住みたくなったら最高!」

「うん、なった。よろしく、雪代さん」

「よろしくね、成瀬くん」

こうしてお開きになり、二人はマンションの301号室と302号室を使う住民となり、両方の部屋に二人で代わる代わる入っていった。

二人を見送ったその後、俺と雪代はいったん雪代の部屋に戻り。

「成瀬くん大丈夫かな? 10歳で一人暮らしはさすがに早くない?」

「橘さんとお互いの鍵持って、いつでも出入りできるようにするってさ。ご飯も一緒に食べるって言ってたし。まあ、あれだ。子供部屋がマンションの別室になってるようなもん」

「ふーん。そんな風にするなら一緒に住めばいいのに」

「一緒にいたけりゃずっと橘さんの家にいてもいいわけだし、成瀬くんがそうしたければそうするだろう。これまでは緊急事態だから一緒に行動してたとはいえ、ずっとこの先同じ家で絶対一緒に暮らすよりは、これくらいの距離感の方がいいんじゃないかな」

「ふーん、そんなもんか。ま、大丈夫か、橘さんならちゃんとあの子のこと気にかけてくれるだろうし。私もたまに成瀬くんと遊んであげよーっと。あ、そうそう、九重さんも今度家見せてね? 私も見せたんだから」

「………………」

「秘密主義者か!?」

まあ、気が向いたら呼んでもいいけど。

見られて困るものもないし、お返しはしなきゃならないからな。

少し話して俺は雪代の家をあとにして自分の部屋に戻った。

帰っていの一番に向かうのは通信端末、そして注文するのは【クッション】だ。

雪代の家にあったクッションの感触、あれを知ったら……ね。

これまで無駄遣いしないためにフローリングの床に直座りしてたけど、あまりにも尻への負担が違いすぎた。

雪代は座る用と抱える用の両方のクッションを持ってたけど、俺は座る用だけでいい。はい、注文と。

すぐに宅配ボックスに行き、品物をとってくる。

そして早速腰をおろすと。

ふかっ……。

ふわっ……。

「やっぱり、快適さも大事だ。俺は目覚めた。これからはこういうのも強化していこう」

尻の下が柔らかいのは大事なこと、そんな当たり前のことにようやく気付けた。

ともあれ、これで住民がさらに増えた。

マンションを成長させるために住民を増やしたいという狙いは順調に進んでいる。

しかも二人も。雪代、ナイス。

あの二人も悪い人じゃなさそうだし、新たな住人が増えてこれからマンションがどうなるか楽しみだな。

柔らかなクッションの感触を楽しみながら、俺は次に起きることを想像していた。