軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

撃つと動く

「ああ!? 何ぶつぶつ言ってやがる、早くお前らのアジトに案内しろや! どうせ近くにあんだろ?」

手のひらの上で火を燃やしながら、男ががなり立てる。

俺は答える代わりに魔道師の杖の先制攻撃をお見舞いした。

青く光る魔法の矢が四人組の方に鋭く飛んでいく。

「なっ!?」

火の男はかろうじて身をかわしたが、その後にいた男は反応が遅れて避けきれず、矢が右手に命中した。

「あああっ!? 痛てぇぇぇ!!!」

「大丈夫か一条! てめぇ! いきなり何しやがる!」

スピード重視でしっかり狙いつけられなかったし、威力も溜めなかったから軽傷を負わせた程度か。でも当たりどころはよかった、手を怪我したら戦闘はまともにできないだろう。頭数は一つ減らせれば十分な成果だ。

「何って、攻撃したんだよ。普通に」

「不意打ちとか卑怯な真似しやがって!」

「4対2で脅しといて? まだ3人いるんだからこれでもそっちが卑怯なくらいだ」

答えつつ杖に再び魔力を装填。

魔道師の杖、強力だけど連射できないのがたまに傷だな。まあ一番安い杖に文句言っちゃだめか。

「んだとてめぇ!」火の男はまだ怒鳴り散らしている。「全部寄越せってのが無理なら、せめて手持ちだけで勘弁してくださいとか言葉から入るだろ普通! なに問答無用で攻撃してきてんだ常識ねえのかよ!」

交渉の余地あったんだ。

なら本命は『それくらいなら』って妥協させてある程度の物資を得ることだったか?

だとしても、手持ち分だけでも渡したくないからこれでいい。

それにしても。

「なんで強盗に常識説かれてるんだ俺は」

「うるせえ! もう泣いても頼んでも許さねえからな! ぶっ殺す!」

火の男は手のひらの上の火をさらに大きくし、火球と化して投げつけてきた。

周囲の景色を陽炎のように歪めながら火の玉が飛んでくる。

パァンと音を立てて、しかし火球は跡形もなく霧消した。

それをやったのは楓。

黒くコーティングした腕でたたき落としたのだ。

「お見事」

「このまま一人やります!」

「ああ、動揺がとけないうちに」

石を喰って強化コーティングしてる腕だ、ちょっとくらいの火の玉で石が燃えるわけもない。

楓はそのまま火の男に近付き、黒腕で思い切り殴りつけた。

「へぶっ!?」

クリーンヒットした火の男は軽く吹っ飛び、そのまま地面にのびてしまう。

残りは二人、そいつらはようやく鈍器を取り出して構えたけど、そうこうしているうちに俺の二発目もチャージ完了した。

杖を向けると、それに気付いた女がバールのようなものを顔の前に構えて防御した。

やっぱりな、思った通りこいつらスペシャリストじゃない。

「わかった。もう勝負はついた、そう思わないか?」

「……え?」

「二人怪我人運ぶなら二人残ってないと無理だ。ここでやめて帰った方がいい。俺たちはそっちをぶっ殺してやると思ってるわけじゃないから帰るなら止めない」

楓がうんうんと、俺の作った流れを肯定している。

「二対二の同条件でガチってもお互いリスクしかない。俺達も帰るし、そっちも帰る。そんで今後は関わり合いにならない。それが一番丸いと思わないか?」

相手の残った男女二人は顔を見合わせている。

「………………どう、する?」

「そ、それがいいんじゃないかしら? この辺で手打ちにするのがね?」

「そ、そうだな。じゃあここまでってことで。本当に、……撃つなよ、それ?」

俺はにっこり笑顔を作って、杖の先端を降ろした。

あっさりと四人組は俺たちの前から去って行った。

一人は手を押さえて、健康な二人はグロッキー状態の火の男を抱えながら。

四人の背中が小さくなると、楓がほうっと息をつく。

「ふうー。良かったですね、戦意喪失してくれて」

「リーダー格を倒せば消極的になるものだ。あれだ、桶狭間で今川義元の首を取りにいったのと同じ。楓のパンチがナイスだった」

「貢献できたならよかったです。でもハラハラしましたよ、本当に」

「いきなり俺が攻撃したから?」

楓は何度も頷いた。

まあ、そうだよな。でもちゃんと俺なりに理はある。

「勝算はあったんだ。楓が魔石の力を吸収してマホウを強化する方法を教えてくれるまで、俺たちはそうできること知らなかっただろ?」

「はい」

「それも鉄喰の能力があったから気付いたってところがあるし、知らない人の方が多いと考えられる。となれば能力を強化してる俺たちと強化してない敵だと、俺たちの方がかなり有利なはずだ。なにせコンクリートのガレキを砕くくらいだしな。さらに先制攻撃で頭数一つ減らせば、十分な勝算はあると計算した」

「すごいですね、あの状況で冷静にそこまで考えてたなんて。私はどうしようって頭の中でぐるぐる思ってるだけでした」

「その割にすぐ俺の意図を察してくれたけど」

冗談めかして指摘すると、楓は照れくさそうに頭に手をやる。

「九重さんが落ち着いてたからですよ。雰囲気であ、なんかやりそうって感じがしてましたし。だから何かしたら私も動こうって覚悟できたんです」

俺ってそんな殺気出てるかな……? もっと気配殺す練習しなきゃ。

「でも……少し心配ですね。あの人達が怪我治った後に復讐しようと思ったりしたら」

「ゼロではないけど、まあ大丈夫だと思う。こっちの倍の人数がいて、火の能力も使えるからそれで脅しただけで、自分達と同レベル以上の力ある奴とやりあおうってクレイジーさはなかったから」

「燃える炎ってビジュアル的に危機感煽りますもんね。自分達より大人数で来た相手がそれを見せてきたら、素直に引き下がる人が多そうです」

「ああ。俺も楓の存在がなかったら、魔獣を倒した成功体験がなかったら、全部は無理でもいくらかなら物資を大人しく渡すから許してくれと言ってたと思う。出会った時期が良かった……あ」

次の魔石を採る場所へと向かう足が止まった。

さっきの戦闘、ミスをおかしてたかもしれない。

「どうしたんですか?」

「戦利品もらえばよかった。あいつらボロボロだったし逆に押せたよな」

「何言ってるんですか、泥棒ですよそれじゃあ!」

「いや、冗談だよ冗談」

半分は本気だが……あいつらから先に奪おうとしてきたんだしバチは当たらない。

まあ、やりすぎてヤケになられたら思わぬ怪我をしかねないし、引き際も大事か。

ハプニングはあったが、結局俺たちは二人とも無傷だったので、何事もなかったように魔石採取を再開し、夜まで近辺のガレキの上も下も調べ続けた。

「ええええ!? 人間が!? やっぱり一番怖いのは人間っていうのは本当なんですね」

マンションに戻り雪代に情報共有したら開口一番そう言った。

「そんなにぼこぼこいるわけじゃないが、気をつけた方がいいかもな」

「実は雪代も人間に一杯食わされたことあるの」

「それは崩壊前? 後?」

「後の話!」

雪代は俺の部屋のフローリングでぺちんといい音を立てる。

タオルで真面目に拭き掃除した成果が出たな。

「後の話! この流れで『この前大学でやばそうなサークルに声かけられてさー』とか話し始めたら意味不明でしょうが! 崩壊後ね、ちょっと年上の女の子と出会って、一緒に生き抜いていこうって頑張ってたの。で、運良く、多分お店だったのかな、食料の棚が一部だけ無事なのを見つけて、これでしばらく生き残れると喜んでたんだよね」

初耳だ、雪代が以前にも誰かと行動していたなんて。俺が眠ってた一ヶ月の間に外ではそんなことがあったんだな。

「あれ? その割に俺と会った時には餓死寸前脱水症状寸前だったよな」

「それよそれ! 実は夜寝てる間に、その子が全部持ち逃げしていったの! 食料以外にもバッグとか金蔵棒とかも全部! 一緒に頑張ろうねって励まし合った仲なのにさあ! おかげで私は素寒貧で彷徨い瀕死に……」

「雪代にも悲しい過去があったんだな」

「うん、人間は怖いってこと。思い知らされたねあの時は。だからマンションに住めてよかった、本当に。夜安心して眠れるのは人間にとっていっちゃん大事よ」

こんな状況だもんな、そんな奴らが出てくるのも必然か。

俺は今日までまともな人間とばかり会えてて運がよかったんだな。

だけど、今後はわからない。今日会ったような奴らと違って、本格的に武装した盗賊団みたいなのがいたらさすがに相手取るのは厳しいだろうから人間にも注意が必要だ。

ある意味魔獣より厄介な上に、魔獣と違って倒して魔石を稼げるわけでもない。リスクに見合ったうまみがない。

できれば出会わず、まったり魔石集めて、まったり生活水準を高めていきたいところだ。

「でも、明日からどうしましょう。探索する場所は」

フローリングの上で正座している楓が聞いているのは、また今日と同じ北方面に行って危険な人間に遭わないかってことだろう。

「逆に北方面のままでいいんじゃないか?」

「ええ!? 襲われそうになったって言ってたのに?」

「もし俺が危惧してる本格的な盗賊団みたいなのがあの辺にいたら、奴らとっくにやられてると思うんだよ。楓に聞いても同じこと言うと思うけど、奴ら強さは全然たいしたことなかったから。強くないけど喧嘩っ早いやつが生き残れてるってことは、そこに危険な相手がいないってことになる、だろう?」

おー、と雪代が手を合わせている。

「だから逆にあの辺は安全な可能性が高い。少なくとも奴らを倒せる俺たちにとっては。だから公園を目標にして、引き続き地道に開拓していけばいいんじゃないかと思う」

俺の意見に二人も同調して、明日からはまた北方面に行くことにした。

これは本当にifの話だけど、奴らが別の場所から逃げて北方面にいたとしたら……たとえば南に何かやばいものがあったとしたら、その場合も北にいく方が安全だからな。

まあ、そんな悪い想像が的中するほど世の中うまく(悪く?)できてないだろうけど。

「自然公園かあ……行ってみたいなあ。今の世の中ガレキばっかりだし、緑と花に癒やされたいよ楓ちゃん」

「わかります雪代さん、花があったことも忘れてしまいそうですよね」

花か……たしかに花って全然目にすることないな。

このマンションの周囲に芝生はあるけど、花や木はないし。

………………。

「悪くないかもな。木花を育てるのも」

「おっ、マンションの管理人がやる気出してんねー。九重さんも花好きなんだ?」

「特別好きってわけじゃないけど、マンションには植え込みはよくあるし。あった方が景観はよくなるよな。それに、実のなる植物を育てたら食料にもなる」

「それ! サクランボ美味しかったもんね」

そう、俺もサクランボのことがあって思いついた。

食料はMPで買うこともできるが、この状況が長期化することも考えたら、栽培できた方が節約になる。

それに景色も大事だ。マンションのある空間はのどかでいいけど、芝生と空だけっていうのは少々物寂しさもあるし。窓から見える景色は、案外メンタルに大きく影響する。

「植えるなら早い方がいいな。育つまでの時間も考えると、やるならすぐだ」

「よっしゃー! 植えよう植えよう」

「私も賛成です、毎日暮らすところですから」

一瞬にして住民全員の合意が得られた。

このスピード感は小さなマンションの利点だな。

「くくっ、それじゃあこのマンションで始めてのことに挑戦しよう。皆でMPを持ち寄ってマンション全体を良くしていくってことを」

雪代が俺と楓の手を掴み寄せる。

俺たち三人は手を重ねて、初めての共同作業に向けて気合いを入れた。