軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一番怖いのは人間の欲望

ガチャを引くために俺は自分の部屋に戻った。

俺の101号室でも、端末を操作するとさっき見たのと同じ『通販ガチャボックス! 1000MP』は追加されていた。

しれっと増えてるけど、新たに参加したならもっと自己主張しなよ。

さて、俺のMPは靴や洗濯機にサンドイッチも買ったので残り3470MP。3回できるが、さすがにそれはロックすぎるか。2回にしておこう。

ではまず一度目……購入ボタンを……タップ!

……この画面では特に何も起きないんだな。購入完了しましたって表示されるだけだ。結果は、実際に届いた箱を開けた時にということね。

早速宅配ボックスに行くと、いつもの宅配の箱とは違う、リボンのついたプレゼント箱を抱えた雪代の姿がすでにあった。

「箱もかわいいよー、ほら」

「特別仕様なんだな。俺のもだ」

「あ、2回もガチャしたの? 結構ノリノリじゃない九重さ~ん」

「ノリノリなわけではなく、期待値の結果だ」

……ニヤニヤしながら肘で俺を突くな雪代。

というわけで、せっかくだからさっきの続きで雪代の部屋に集まり全部開封してみることにした。

どんなものが出るか、情報共有しておくのはいいことだしな。

3つのプレゼント箱を並べ、俺たち3人は一斉に箱の封を解いた。

箱を開くと、中からクラッカーのようにテープと神吹雪が飛び出てきた。演出まであるとはさすが家賃を上げるほどの通販ガチャ。

そして肝心の俺の箱1の中身は。

「さくらんぼ」

桐の箱にきれいに収まったさくらんぼがガチャの中身だった。

数えると50粒ずつ3箱に、整列して入っている。いずれも艶のある赤色で、傷一つなく粒ぞろい。これ、かなり高級なタイプのさくらんぼだ。

「すごいですね、私こんなさくらんぼ食べたことないです」

「俺もだよ、普通のスーパーでプラスチックのパックに入ったさくらんぼしか食べたことない。これって……結構な当たりだよな」

円で買うなら相当高かったはずだ。ってことはこれはガチャ当たり枠なんだと思う。

しかし……いや、嬉しいんだけどさ、さくらんぼはおいしいし。

でもちょっと求めてたのとは違うというか、食べたらなくなるものより、ずっと残るものが欲しかった。

なんだこの当たりなのに喜びきれない微妙な気分。

楓もちょっといいねくらいの微笑だし。

だがまだ箱はある。もう一個の俺の箱はどうだ。

3人で開けたので、俺2は楓が開封している。

頼むぞ、楓。

「ティッシュペーパーですね。多分、というか絶対外れです」

ポケットティッシュ1ダースだった。

これ以上なく明確な外れ景品だ。

………………これだからガチャはさあ!

いや、まだ希望は残ってる。

あと一つ雪代のがある。雪代の箱だが、もし大当たりがあれば俺たちにもお裾分けしてもらえる可能性がある。一緒に開封してるのだから無視はできないだろう、そこまですでに計算済みだ、ククク……。

で、何が出たんだ、雪代?

「……雪代?」

雪代はえもいわれぬ表情をしていた。

ガチャをしたのに喜びでもガッカリでもない、困惑という表情を。

「何が当たったんだ、いったい?」

「私にいったいどうしろっていうの?」

雪代の手の中にあったのは、鎖鎌、だった。

「おおおおいしい! これが本物のサクランボなんだね!」

「上品な味ですね。すごく高級感あります」

「さすがにうまいな。こんな世界で食べられるとは」

開封の儀を終えた俺たちは、サクランボを食べていた。

せっかくだし皆で食べようかというところだ。

一人一箱ずつ贅沢に。

ちょっとお裾分けってレベルじゃないんだが、これはしかたない理由がある。

うちには冷蔵庫がない。

なのでこんなに大量のさくらんぼを悪くなる前に食べるのは厳しい。それならもう皆で食べてしまおうかってことだ。

「本当においしいです……世界がこうなってから食べたなかで一番……!」

「うんうん、果物なんてないもんね! ありがとう九重さん!」

次から次へとサクランボが俺たちの腹の中に消えていく。

マンションの住民も喜んでるし、ガチャは成功ってことでいいか。

1000MPは残しておきたいと言っていたのだが、確認のために翌日も俺はガチャを一回引いてみた。

当たったのはエクストラバージンオリーブオイルや米油などちょっとお高そうな油の詰め合わせ。

景品そのものの価値としてはそう悪くはないんだろうが、しかし食料はもっぱら通販の弁当の我が家でこれをいかすのは難しい。

結局のところ、ガチャの期待値そのものは結構高そうなことは確認できた。鎖鎌だって結構な値段がするものだろうし。

ただ、今の自分達に必要なものが当たるかどうかってことまで考慮した当たり率はというと話はまた別で、確率はかなり低くなってしまうようだ。

結局、ガチャを引くのは余裕のある時にしておくのが良さそうだな。……でもせっかくの新機能だし、全然引かないのももったいない。つまり、そういうことだ。

何はともあれ、ガチャでMPを使ったので、取り戻すためにも探索に出かけよう。

俺は描いた地図を手に、あとポケットティッシュも持っていって外で鼻をかむときの準備も万全にして、魔石集めに出かけた。

朝から魔石をちまちま集めつつ、町の北を俺は攻めていた。

地図によると魔獣が少なく比較的安全だし、魔石を集めつつ、遠方まで開拓しておきたい。そして昼をまわった頃。

「あ、九重さんもこちらに来ていたんですね」

もう聞き慣れた声に顔を向けると、楓もこの辺りで魔石を回収していたようだ。

「北側は安全だからな、まったり魔石集めるにはちょうどいい」

「ええ、方角によって傾向が明らかにありますよね。こっちの方は自然公園がありますけど、関係してるんでしょうか?」

「穏やかな場所だから魔獣も少なくて穏やか……ありそうな、なさそうな。その公園を目指して活動範囲広げていくのもいいかもな。何かしら目標があった方がメリハリ出るし」

「そうですね、いずれは行きたいです。魔石を集めつつ少しずつ進んで行って」

自然と今日は残りの時間は二人で魔石集めをすることになった。

どちらが言ったというわけでもないが、珍しく合流したんだから、たまにはそういうのもいい。

ガレキにへばりついた青紫色の魔石を回収し、バックパックに入れて、また別の魔石を取りに行く――行こうとした時だった。

「待ってください、九重さん。まだ魔石、残ってますよ」

楓に呼び止められた……けど、なくないか?

近くに見えてる魔石はないが、あの特有の青紫色は。

きょろきょろと周りを見ている俺の姿に、楓は口元に手を当ててくすりと笑った。

「九重さん」

「楓、その腕は」

楓の右腕が黒く硬質なものでコーティングされていく。

あのネズミと戦っていた時に使っていた楓のマホウだ。

「私の魔石採取、見ててください」

鉄喰。

鉱石を体内に取りこんで体を強化する能力。

楓はそれを使い右腕を強化している。

しかしなんのために今? 魔獣がいるわけでもないし。

「何をするんだ?」

「こうするん……ですっ!」

楓は拳を握り、腕を思い切り振り下ろした。

バギバギッと音を立ててガレキが砕ける。

「すっご。破壊力やばいね」

「さすがにコンクリートが万全な状態なら砕けませんけど、この辺のガレキは深いヒビが入って弱くなってるので、そこを叩けばなんとかなります。もっとやっていきますね」

楓はさらにガレキを砕き、砕いたガレキを勢いよく次々に放り投げていく。それを繰り返していくと、積もったガレキがどんどん取り除かれていき――。

「……そういうことか!」

ガレキの下から、神秘的な輝きの魔石が姿を表わした。

これだったのか。

ガレキの下に埋もれてるものを、掘り出してやればまだまだ魔石があると。

楓はこうやって魔石を余すことなく回収してたんだ。

「こうすればまだまだ採れるんです。結構埋もれてるんですよ」

「うまいこと自分の能力使ってるな、俺はこんな力仕事思いもよらなかったよ」

「褒めてもらえて嬉しいです。じゃあ、もっと回収していきましょう」

それからさらにガレキを除去して、魔石を回収していった。

俺も見てるだけというわけにはいかないので、地面に伏せてガレキの隙間から漏れ出る魔石の光を探していった。

小一時間ほどすると、結構な魔石を集めることができた。

代償に俺の服は埃まみれになってしまったが、しかし。

「こんなに埋もれた魔石があるとはな」

「そうなんです、掘り出せば結構たくさん集められるんですよ」

楓が汗を拭いながら言う。表情も爽やかだ。

俺も埋もれてる魔石も回収できるようになりたいな。マンションの通販でスコップでも買ってみようか。掘るのに使えるし、噂では武器にもなるらしい。魔法の杖はあるけど近接攻撃手段がないからな、もし近寄られた時のために護身スコップ、ありかもしれない。

「それじゃあ、かなり回収したし別の場所に行きましょうか」

「ああ、そうだな。いい勉強になった」

「おい、お前らちょっと待てよ」

聞いたことのない太い声が突然俺たちに呼びかけてきた。

1,2,3……4人の男女が、崩れた建物を乗り越えて俺たちに近付いて来ていた。

「人と会えるなんて珍しい。何か用か?」

俺は返事をしながら現われた人間を観察する。

サイズの合ってない服を着ているな、世界崩壊してからどこかで拾ったものか。しかし雪代に初めてあった時のような飲み食いに困窮している感じはしない。

俺たちと同じようにうまく安定した生活を築けているようだ。

あるいは……。

「珍しいとかどうでもいいんだよ。お前らと雑談したくて声かけたわけじゃねえ。……だが用はあるんだ。水と食料、それ以外に今の世の中で使えるもん全部出せ。もちろん手持ちだけじゃなく、貯め込んでるものもだ。そうすりゃ、痛い目にはあわせないでやる。ぐちぐち言ったら――」

男の手のひらの上に炎がゴッと灯った。

一緒にいる奴らはにやにやと口を歪めながら俺と楓を見下ろしている。

「九重さん」

俺の服の端を掴む楓に、小さく頷いて答えた。

「こういう人間がいるってことも覚悟はしてた。……もちろん、素直にはい、どうぞとはいかない」

俺のマンションで集めたものを簡単にやるわけがない。

現われた四人から目を離さずに、魔道師の杖を手に取った。