作品タイトル不明
第15話 天才ギャンブル少女知千佳ちゃん
「嬢ちゃん、ちょっと面貸しな」
知千佳はカジノでカードゲームに興じているところだった。
声をかけてきたのは、男物のスーツを着た冷たい目をした女だ。一目でカタギではないとわかる面構えをしていた。
「な、ななな、何でしょうか!?」
「壇ノ浦さん、だから言っただろ……」
後ろで見ていた夜霧が呆れたように言った。
やりすぎるなと強く言われていたのだが、知千佳は勝負に夢中でろくに聞いてはいなかったのだ。
「さすがに無視できる勝ち方じゃねぇんだ。俺とサシで勝負してもらおうか」
「ほ、ほう? この天才ギャンブル少女知千佳ちゃんに勝負をいどむですと!」
「テンパって変なテンションになってるね」
「天才少女様なら逃げねぇよな?」
シラを切って逃げるのは可能だろう。暴力に訴えてくるなら返り討ちにもできる。
だが、あまりにも後ろめたかった知千佳は、女との勝負から逃げることができなかったのだ。
女に連れられて、知千佳、夜霧、槐の三人は別室にやってきた。
テーブルが一つあるだけの簡素な部屋だった。
「そーいや、自己紹介してねえか。ここで用心棒してるデグルってもんだ。怪しげな客の相手をすんのが仕事だ」
席についたデグルが言う。
部屋にはカジノ側の人間が二人待機していた。
「勝負はカードでいいだろ。さっきまでてめぇがブイブイいわせてたやつだ」
カードを追加したり、捨てたりして手札で役をつくり、掛け金を追加したり、ゲームを降りたりするタイプのゲームだった。
知千佳はそのゲームで、先ほどまでボロ勝ちしていたのだ。
「カードはあんたが配りな。こっち側でやるのも不公平だからな」
「俺? まあいいけど」
夜霧がゲームマスターを引き受けることになった。
だがゲームマスターとは言うものの、仕事はカードを配ることだけだ。
「言うまでもないが、イカサマはなしだ」
「そ、そりゃそうですね!」
「そのゴーストを使うのもイカサマと看做す」
デグルが、槐を指さした。もこもこは槐に重なって動いているのだ。
「バレてるやん!」
知千佳のイカサマは単純だ。
もこもこが他のプレイヤーのカードを覗き見て、知千佳に伝える。それだけのことだが、実に強力で、普通ならバレるわけがないものだったのだ。
「カードは客同士の勝負だ。結果は知ったことじゃねえし、負けた奴が後からあれはイカサマだやら何やら言うのは筋が通らねえのはわかってる。けどな。あんたはやりすぎた。もちろん、儲けた分を返せとは言わねぇ。だから今度は俺と勝負だ」
そして、イカサマなしで勝負をしたなら、知千佳にはまるで勝ち目がなかった。
「ま、こんなもんでいいだろ。こっちも特等船室の客相手にあまり無茶はできねーからな」
知千佳は勝ち分をすっかり吐き出し、テーブルに突っ伏していた。
「うう……もこもこさんが、勝手に私の耳元で相手の情報をささやくから……」
『な! 我のせいにするのか! 正々堂々やるなら、そう言えばよかろうが!』
「こーゆーのはよくあるもんなの?」
夜霧が涼しい顔でデグルに聞いた。
「まあね。スキルやら魔法やら使えばそれで勝てると思ってる阿呆どもはゴロゴロいやがるよ。が、こっちはそれも想定してるってわけだ。そんなもんで勝てるほどギャンブルはあまかないね」
「そりゃそうだよね。対策がなければ、この世界でカジノなんてやれるわけがない」
「って! すっかり忘れてたけど、私たちギャンブルしにカジノに来てたんじゃないよね!」
「忘れてたのは壇ノ浦さんだけだけどね。もう行っていい?」
「ああ。今度からまっとうに遊ぶんだな」
別室を出て、カジノホールへと戻る。
そこには、港で出会い、この世界がゲームだと言ってきた柊洋介の姿があった。
ここ数日、彼がカジノに入り浸っていると知ったので、様子を見にきたのだ。
出港から三日が経っている。今のところは特に何事も起こってはいないが、彼が要注意人物であることは間違いないだろう。
「普通に遊んでるだけに見えるね」
大金を賭けるわけでもなく、勝ったり負けたりで、ごく普通の客のようにしか見えなかった。
「この世界がゲームだと思ってるなら、もっと無茶なことをしでかすかと思ったけど」
人が全てNPCに見えるのなら、その人物はとても傲慢に振る舞うのだろうと知千佳は思っていたのだ。
「まあ、ゲームだと思ってても、普通にプレイし続けることはあるだろうしな」
ならば、今のところは心配する必要はないのかもしれない。
「けど、連れてる仲間が少し気になるな。あのおじいさんなんだけど」
言われて知千佳も気になった。
洋介は四人の仲間を引き連れている。三人はうら若いメイドなのだが、一人は薄汚い格好の老人なのだ。
綺麗どころのメイドを集めるのはわかるが、わざわざ老人を連れ回す意図がよくわからなかった。
「まあ、何もしてない相手をどうこう言うのもよくないか」
「まあね。今のところ、おかしなこと言ってただけだし」
油断はできないが、それほど気にする必要もないのかもしれないと、知千佳は考えた。
*****
「何か、おもしれーことないかな」
ギャンブルにも飽きた洋子は、部屋のベッドで横になっていた。
「あ、洋介様がまた何かしでかそうとしてる」
ぽつりとつぶやくと傍にいたメイドの一人が反応した。
彼女らとはVRMMO以前からの付き合いだ。
忠実な下僕であり、洋子が何をしようと咎めることもなかった。
「カジノの金を全て巻き上げるとかはどうですか?」
「それ前にやったから」
ここで同じことをしてもつまらない。
なので、洋子はごく普通にギャンブルをしていたのだ。
出航から三日。洋子は船の中で特に何もしていなかった。
洋子の目的はエントに行ってエルフの森を焼くことであって、今はただ移動しているにすぎない。
余計なことをして船が沈むようなことがあっては面倒だ。
なので、とりあえずは大人しくしていたのだが、それも段々と飽きてきた。
「そういや、海賊はどうなったんだよ。来るみたいな話じゃなかったか?」
洋子は、海賊について話していたキャラがいたことを思い出した。
こういった思わせぶりな会話が耳に入る場合、イベントの前触れであることが多いのだ。
だとすると、海賊襲撃イベントはもう始まりつつあるのかもしれないが、今のところはなんの音沙汰もない。
「海賊が来たとしても、勇者がやっつけちゃうんじゃないですかね?」
「紅蓮の絆のホーネットですね。港にいたのがそうですよ」
「そいつどれぐらい強いんだ?」
「ドラゴンの群れを一人で葬り去ったとかは聞いたことが。魔王も倒してますよ。勇者の中の勇者として評判は上々ですね。護衛として雇うにはかなりの報酬を出したのではないでしょうか」
「ドラゴン倒せりゃ強いみたいなイメージだけどよ。あいつら実際のとこかませだよなー」
「それはピンキリなんではないですかね。ドラゴンと言ってもいろいろいるでしょうし」
「まあ、そんな奴がいるなら、海賊はそいつがらみのイベントなんだろうな」
放っておいても勇者が海賊を倒すし、そこで共闘してもいい。そんなイベントなのだと洋子は推測した。
「……それ、勇者がいなかったらどうなるんだ?」
わざわざ勇者を配置するのだから、海賊の襲撃が成功してはまずいのではないかと洋子は考えた。
「防衛戦力は他にもあると思いますが」
「それも潰しといたら?」
「まさか、海賊の味方をするんですか?」
「そっちのほうが面白くないか?」
洋子はベッドから下りた。退屈を持て余していたが、やることが見えてきてやる気になってきたのだ。
「相手は勇者ですよ? 勝てますか?」
「そうだなー。無理かもしれないけど、なんとかなるだろ」
洋子は自分が最強とまではうぬぼれていなかった。
正面から戦って勝てない相手はこの世界にいくらでもいることだろう。
だが、勝たなくとも、動きを封じる方法ならいくらでも存在する。
「結果がどうなろうと、勇者と戦ってみた! だけで価値はあるよな」
万が一に備えて逃走手段だけは豊富に用意している。
劣勢になれば逃げればいいし、たまにはそんな動画も面白いだろう。
洋子は、勇者ホーネットに会いにいくことにした。