軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 当選おめでとうございます!

知千佳たちに柊洋介と名乗った少年は、実際には柊洋子だった。

*****

『当選おめでとうございます! あなたは次世代型オープンワールドRPG、エンド・オブ・ワールドのモニターとして選出されました!』

それは実にうさんくさい、スパムメールのようなものから始まった。

聞いたこともない開発会社からの、突然のメールだ。

普通なら、こんな迷惑メールのごときものは無視して然るべきだが、洋子は何かのネタになるかと考えた。

洋子は無職だ。

今のところは、多少の蓄えと失業保険だけが頼りだが、作家かブロガーか動画作成者で生計を立てようなどと、実に甘いことを考えている。

なので、詐欺メールに本気で対応してみた。のようなコンテンツになるのではと思ったのだ。

ネットで調べてみれば、同じようなメールを受け取った者はそれなりにいるようだった。

大半は無視したようだが、何人かはクライアントソフトをインストールしてプレイしているらしい。

少なくとも、ゲーム自体は実在しているようだった。

プレイ動画を見てみると、オーソドックスなオープンワールドファンタジーRPGといったところだ。

見ている限りでは、地味な絵面のゲームで取り立てて面白そうではなかったが、オープンワールドのゲームは何でもできる自由度が売りだ。

やり方次第で、実況動画として人気を得られるかもしれない。

他にやることもなかった洋子は、ゲームをプレイすることにした。

洋子は、念のために余っていたPCをホームネットワークから隔離した上で、メールの案内に従ってゲームのインストールを行った。

オンラインゲームではないのだが、リソースは随時サーバーから取得する方式になっているため、ネット接続は不可欠だったのだ。

プレイを始めてすぐは、面倒なだけのゲームだと洋子は感じた。

全体的に快適性に欠けるゲームだったのだ。

まず、無駄に世界が広かった。

デフォルメは一切無く、実世界同様のスケールが実現されているのだ。

十万人が住む王都があれば、実際に十万人のNPCと、彼らが住む家と職場、それだけの人数を養う穀倉地帯に、社会インフラが用意されている。

そんな都市と都市の間は、特にイベントの発生しない長大な街道や、広大な草原、森林だ。

そこを尿意、満腹度、睡眠などの邪魔なだけのステータスを管理しながら旅をする。

そして、時間は現実時間と同様だった。現実の一時間が、ゲーム内では一日などということもなく、リアルタイムで進行しているのだ。

普通、この手のオープンワールドゲームには、要所へ転移するファストトラベル機能や、時間をスキップする機能があるものだが、このゲームにはそれもない。

確かにリアルなのかもしれないが、ゲームとしては煩雑な仕様だろう。

では、つまらないのかといえば、そうでもなかった。

妙にNPCの反応がバリエーションに富んでいるのだ。

このゲームではNPCにチャットで話しかけることができるのだが、周囲の環境や、そのキャラの人格に応じた適切な反応を返してくるのだ。

高性能なAIが使われているという話だったが、背後に人がいて操作していると言われても不思議ではないほどだった。

このような説明だと、どこまでもリアルを追求したワールドシュミレーターのようなものだと思われることだろうが、このゲームはただリアルなだけではなかった。

エンド・オブ・ワールドはあくまで娯楽作品として作られているのだ。

世界のリアルさに反して、プレイヤーキャラクターはフィクションじみていた。

プレイヤーキャラクターにはレベルがあり、ステータスがあり、スキルがある。

ちょっとしたことで、すぐにレベルがあがり、行動に応じたスキルが増えていき、超人じみた強さを発揮できた。

洋子はすぐにこのゲームにのめりこんだ。

オープンワールドのリアルな世界で、無茶苦茶に暴れるのが痛快だったのだ。

現実の鬱憤をたたきつけるかのように、洋子は無茶なプレイを楽しんだ。

しばらくして、またもやメールが届いた。

『エンド・オブ・ワールドVRエディションのお知らせ』

特にやりこんだプレイヤーに対しての、新バージョンの案内だった。

VR版には専用の機材が必要だが、それらは全て開発会社からレンタルされる。

もう猜疑心などどこかにいっていた洋子は、新バージョンのモニタテストにも申し込んだ。

頭部に装着するゴーグルと、両手に装着するグローブでプレイするゲームにも洋子はすっかりはまりこんだ。

そして、VR版にもすっかり慣れたころ、さらなるメールが届く。

『エンド・オブ・ワールドFIVRのテストプレイに関するお知らせ』

FIVRとは 完全没入型仮想現実(フルイマージョンバーチャルリアリティ) の略で、全身の感覚を完全にゲーム内に投影する、まさにゲームの中に入ったかのような体験ができる技術のことだった。

このメールは、VR版をやりこんだ限られたプレイヤーへの案内で、かなりの額の報酬も支払われるらしい。

募集人数は極少数とのことで、洋子は少しも悩むことなく応募した。

すぐに当選のメールが返ってきたが、洋子はまるであやしいとは思わなかった。

運がよかった。迅速に最適な行動をしたのだと、自分を褒めたたえるだけだった。

さすがに、FIVRの機材ともなると一般家庭に設置できるような規模ではなく、また開発中の技術が満載されているためおいそれとは外部に貸し出すことはできないらしい。

そこで、洋子は開発会社の研究所へと招待され、様々な契約書に唯唯諾諾とサインした。

契約書の内容はよくわからなかったが、余計なことを言ってせっかくの権利を失うことを恐れたのだ。

今回のモニタテストは、数ヶ月に及ぶとのことだった。

その間、研究所から出ることはおろか、VR機器から出ることもできないらしい。

食事や排泄は適切に処理されるとのことだったが、詳しい技術的なことは洋子にはわからなかった。

実にうさんくさい話だが、宇宙関連の研究では、長期間拘束されるような実験もあるらしい。洋子は、さほど疑問には思わなかった。

洋子は身辺を整理した。

会社をやめてからはほとんど引きこもっていて親しい人間もいなかったが、それでも数ヶ月も家を空けるとなると、それなりに準備は必要となる。

準備を終え、再び研究所にやってきた洋子は、VR機器へと案内された。

それは細長いカプセル状のもので、大人一人が横になれる程度の大きさだった。

服を脱いでカプセルに横たわると、蓋が下りてきて真っ暗になり、外部の音はまったく聞こえなくなる。

そして、唐突に意識が途切れた。

*****

洋子が目覚めると、そこはベッドの上だった。

身を起こしあたりを見まわす。

見知らぬ部屋だと思ったが、すぐにそこが、エンド・オブ・ワールド内で購入した屋敷の一室だと思いいたった。

すぐにわからなかったのは、解像度の差があったためだ。

エンド・オブ・ワールドで使用していたゴーグル型端末は高性能だったが、それでもゲームはゲームだ。よく見てみればポリゴンであることがわかるし、テクスチャが粗い箇所もあった。

だが、今目の前にある光景は、現実そのものだとしか思えなかったのだ。

洋子は、少しばかり疑問を感じた。

FIVRを実現するよりも、ゲーム内の屋敷を忠実に再現するほうが遥かに簡単だろうと思ったのだ。

ゲームを開始すると思わせておいて眠らせ、よくできたセットへと運び込めばいい。

だが、その疑いはすぐに晴れた。

VR版で覚えたジェスチャーコマンドを指で描くと、システムウインドウが目の前に表示されたのだ。こんなことが現実で起こるわけがないので、ここがゲーム内なのは間違いないだろう。

そして、ウインドウを操作しようとして、手が妙に白くしなやかなことに気付く。

あわてて身体のあちこちを触ると、それは確信に変わった。

華奢な身体ではあるが、これは男の身体だったのだ。

「ああ、そういうことか……」

ステータスを確認してみれば、VR版でのプレイ状況がそのまま引き継がれていた。

つまり、男のキャラクターで、柊洋介としてプレイをすることになってしまったのだ。

ベッドから下り、身体を動かしてみる。違和感は特になかった。男になったからといってそう違いはないらしい。

壁の鏡を覗き込むと、フィクションの中にしか存在しないような、とんでもない美青年が洋子を見つめ返していた。

見覚えのある、キャラメイクでかなりの時間をかけて作り上げた顔だった。

「まあ、いいか。要は、男としてロールプレイしろってことだろ?」

元々キャラメイクできるゲームでは男を選ぶので、多少驚きはしたもののそれほど嫌な気分ではない。

洋子は、普段はできない体験だと割り切り、洋介になりきってプレイすることにした。

気を取り直し、洋子は確認を続行する。

身に着けている服も、VR版で入手したもので、様々な効果が付与されたものだった。

この状況が、以前の続きであることは間違いないだろう。

洋子は次に、システムウインドウからエアカッターの魔法を選択した。ここで魔法を使えばどうなるのか、本当に魔法など使えるのか。そんなことを試したくなったのだ。

指先で対象を指し示す。

すると派手な衝撃音とともに、ベッドは真っ二つになった。

「壊せるんだ、これ」

【TIPS:うっかり壊したくないオブジェクトはロックしましょう】

疑問に答えるように、そんなメッセージが視界に表示された。

VR版では建物や家具は壊せなかったが、FIVR版では何でも壊せるようだ。ただそれでは不便な場合があるので、壊せないようにもできるのだろう。

「洋介様! いかがなされましたか!」

乱暴にドアを開けて、メイド服を着た女たちが現れた。

洋子の従者たちだ。

このゲームはリアリティを重視しているためろくに荷物も持ち運べない。そこで、様々な雑事をさせるために人を雇っているのだ。

「なんか……リアルになるといまいちだな」

美女を選んだつもりだったが、よく見てみればさほどでもないように思えてくる。

吹き出物があるし、毛穴は開いてるし、歯並びもわるい。

VR版では解像度の都合でごまかされていた部分が、気になってくるのだ。

「チュートリアルとかはないのか」

VR版を踏襲しているようなので、システム面の解説は必要ない。

だが、この身体を使って戦うということはどういうことなのかは、早めに知っておくべきだろう。

「このあたりに盗賊はまだいるか?」

「はい、まだ周辺をうろついているようです」

この屋敷は山の中にあり、元々は盗賊が占拠していた。

それを奪い取ったのだが、まだそいつらはこのあたりにたむろしているらしい。

「よし。ちょっと出てくる。お前らはベッドを片付けて、新しいものを用意しろ。一人は武器を持ってついてこい」

屋敷を出て、周囲を見回す。

視界にはコンパスと呼ばれる、周辺オブジェクトまでのおおよその位置を示す表示が浮かび上がっていた。

それを確認すれば、近くに赤い人型のアイコンが、いくつか表示されていた。

赤は敵だ。人型の敵ならばおそらくは盗賊だろう。

洋子は無造作に歩きだした。

不意討ちを繰り返して無駄に上げた隠密スキルが役に立ち、気付かれずに盗賊の側までやってくることに成功する。

洋子はメイドに命じて、剣を用意させた。

特別な効果はない普通の剣だが、戦闘を試すにはちょうどいいだろう。

試しに剣を振ってみる。VR版と同様に、剣筋には剣術スキルのレベルに応じて補正がかかるようだった。

剣を適当に振れば、それが攻撃コマンドの実行とみなされて最適な攻撃が自動的に実行される。

洋子は盗賊にそっと近づき、背後から斬り付けた。

盗賊の上半身はあっさりと地面に落ちた。

血が噴き出し、内臓がこぼれ落ちる。血と臓物の臭いが充満し、洋子はたまらず吐いた。

「洋介様! いかがなさいましたか!」

メイドが心配して駆け寄ってくる。

洋子は人を殺すということをなめていたのだ。