軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0831 寄港理由

西部諸国連邦による歓迎式典が終わり、教皇グラハムらはヴォン政庁に案内された。

ヴォン政庁の大会議室で、連邦政府高官から『お願い』の内容が明かされる。

「西部諸国連邦側から、支援したいと言ってきた理由はこれか」

苦笑するグラハム。

今回の遠征が決まり、法国が暗黒大陸西岸の国、街に事前の根回しを行った際、ぜひヴォンを寄港地にしてほしい、必要な全ての物資を無償で提供する用意があると言ってきたのだ。

当然、国同士の交渉で、一方だけが利益を手にするなどということはない。

西部諸国連邦の要求は<解呪>を一度行使してほしいというものだった。

結果は問わない、ただし教皇と枢機卿が加わった解呪をお願いしたいと。

<解呪>の魔法は中央諸国と西方諸国では共通している。

さらに、加わる光属性魔法使いの『力』によって効果が変わるという点も同じだ。

つまり、教皇や枢機卿が加わった<解呪>というのは、最上級の効果を発揮するということでもある。

「それにしても……まさか、諸国連邦元首ラムン・フェスへの<解呪>とはな」

「しばらく行方不明と言われていた諸国連邦元首が……」

「眠り続けていたと」

ステファニアが驚き、グラハムが呟く。

「どうか……教皇聖下」

諸国連邦政府高官の全員が頭を下げる。

「もちろん、当初の約束通り、私とステファニア枢機卿を含めた十人の聖職者による<解呪>を試みます」

「おぉ!」

グラハムが約束し、高官たちが嬉しそうな声を出す。

「ですが……大変言いにくいのですが、それでもラムン・フェス元首の解呪が成功するかどうかは保証できません」

「承知しております」

グラハムの言葉に答えたのは、今回の高官の中でも最上位者、西部諸国連邦副宰相チゴーイ。

チゴーイは、西部諸国で内政のスペシャリストとして知られる。

すでに齢八十歳を超えている。

伸びた白髪は丁寧に束ねられ、ピンと伸びた背筋と相まって、六十歳ほどの印象を与える。

連邦元首ラムン・フェスと共に、西部諸国を安定させた 立役者(たてやくしゃ) の一人だ。

しかし立場は副宰相。

もちろん諸国連邦政府全体で見れば高位だが、彼の上には宰相、副元首、そして元首たるラムン・フェスがいる。

ラムン・フェスからの絶大な信頼があったからこそ、諸国連邦の内政に 辣腕(らつわん) を振るえたが……ラムン・フェスがいない現在、チゴーイは半分失脚したも同然となっていた。

一行は、ヴォン政庁にほど近い、広い屋敷に移動する。

その一室に、諸国連邦元首ラムン・フェスが寝かされていた。

年齢は五十五歳、まさに政治家として 脂(あぶら) ののってくる年齢だ。

多くの小国家、部族、自由都市などからなる西部諸国連邦であるが、それが分裂することなく東部諸国に対抗できているのは、ラムン・フェスの政治的手腕とそのカリスマ性が理由である。

実際、彼が出てくるまで、西部諸国は争い合っていた。

争い合っていた同士が手を組み、共に国家を成立させるに至った……それだけでも歴史上、稀有な例であるのに、そんな連邦に、自分たちから入れてくれと多くの小国家や部族がやってきたのだ。

ラムン・フェスは、分け隔てなく全てを受け入れた。

全員が守るべき法を定め、法の前では出自に関係なく平等である……そんな政治を行った。

ラムン・フェスは、そんな西部諸国融合の象徴だったのだ。

だが、全てはジュルバン国への遠征で変わった。

実際のところ、具体的に何が起きたのかは分かっていない。

ただ軍が壊滅し、ラムン・フェスは行方不明になった。

見つかったのは、戦闘の一週間後。

すでにその時は眠りについており……いまだに眠り続けている。

ベッドに寝かされたラムン・フェスの手を取り、何らかの魔法的な診断を行うグラハム。

いくつかの魔法を唱えて調べた後、一つ頷いた。

「明日正午、ヴォン教会にて<解呪>を行います。ラムン・フェス殿を、明日の午前中に移しておいてください」

「ありがとうございます」

グラハムの言葉を受けて、チゴーイ以下、全員が頭を下げた。

グラハムら一行は、ヴォン教会に向かう。

「聖下、ラムン・フェス元首の状況というのは、もしや……」

「ああ、ステファニアも知っているのか。教会の聖職者でも知らない者が多いと思うけど……」

「ニュー様の辿られた道に関しては、異端審問官はかなり詳しく研究しますので」

「確かにそうだな」

ステファニアの答えに、微笑みながら返すグラハム。

ニューとは、西方教会の開祖である。

教会の聖職者たちの中でも、異端審問官は特にニューの辿った道、奇跡、 秘蹟(ひせき) などを深く研究する。

ステファニアも異端審問官であったため、深く研究した。

グラハムに至っては、西方教会全体の中でも、最も深くニューの秘蹟を研究する聖職者の一人と認識されているほどだ。

そんな二人は、ニューが経験したことについて知っていた。

「ニュー様が六カ月の間、眠り続けた……あの話だ」

「はい。教会を開いた後であったため、直弟子たちが<解呪>を試みたと……」

「そう、だが失敗した。だから<解呪>でどうにもならないことは分かっている」

「はい」

グラハムもステファニアも表情を変えずに会話をする。

開祖ニュー自らが認めた直弟子たちですら解呪できなかったのだ。

恐らく、自分たちでも無理であろうと理解している。

「起きて、ニュー様はこうおっしゃった。『あれは、空の民の呪いだった』と」

「はい。ですが今に至るまで、ニュー様が受けられたその『眠り』が何だったのかは分かっておりません。空の民に関しては……」

「そう、今となっては伝承でしか伝わっていない……浮遊大陸だろう。眠りに関しては、仮説はいくつも出てきた。しかし、どれも決定的なものとはならなかった。理由は簡単だ。それ以後、同じ様な眠りについた例がないから。検証のしようがないからだ」

「それが、今回……」

「西部諸国連邦も調べたのだろう。ニュー様に関する話の中でも、別に秘密にされているわけではない。一般の信徒は聞くことはないだろうし、聖職者たちも特別に研究でもしない限り聞かないだろうというだけだしな」

グラハムは肩をすくめた。

「ヴォン教会のミキタ司教からも、アドルフィト枢機卿からの報告にも、載ってはいなかったよな」

「はい。恐らくは、連邦政府の高官たちが街に入ってくる時に、眠ったままの連邦元首を運び込んだのでしょう。一週間前だったと聞いています」

「チゴーイ副宰相辺りが差配したか」

グラハムは小さく頷く。

グラハムも、チゴーイ副宰相がラムン・フェス元首の右腕だったことは知っている。

特に内政におけるその手腕は他の 追随(ついずい) を許さないというのも。

「ラムン・フェス殿失踪後は、副元首と宰相が実権を握り、チゴーイ殿は各地の視察に出されたと報告されておりましたが……」

「そうだな。だがそれは、わざとそう仕向けたのかもしれんな」

「わざとですか?」

「今回の動きのためにだ」

「なるほど」

グラハムの推測に、ステファニアも頷く。

つまりラムン・フェス元首が眠ったままの状態にあることは、副元首や宰相が知らない可能性があるということ。

もし知れば……。

「権力を手に入れるのが目的の人間は、手に入れた権力を保持するためなら何でもするからな。ラムン・フェス殿の命を奪うことを 躊躇(ちゅうちょ) しないかもしれん」

グラハムは断言する。

今でこそ落ち着いたが、かつての教皇庁はそんな場だった。

全員ではないが、枢機卿や大司教には権力を欲する者が多かったのだ。

それが現在では落ち着いている理由が、ヴァンパイアの襲撃で多くの枢機卿が死んだから……というのは皮肉だと言わざるを得ない。

「しかし、内部で争っているうちに……」

「ああ。東部諸国が西部諸国を飲み込む動きを再開し始めたようだな」

ステファニアもグラハムも、教皇庁にいる間にそんな報告書を読んだ。

「聖下が交渉して、東部諸国の動きを止めていらっしゃいましたが……」

「まあ制限が、シオンカ侯爵を討ち滅ぼすまでだったからな。滅ぼしたと公表した以上、東部諸国としては当然動きを再開するということだろう。これ以上は、我々が動くのはよくない。暗黒大陸の者たちが決めることだと言っていいだろう」

「戦争、でしょうか」

「そうなるだろうな」

ステファニアもグラハムも、それほど表情は変えない。

だが、戦争など起きてほしくはないのだ、

暗黒大陸にも、西方教会を信仰する者たちはいる。

そんな信者たちも巻き込まれるだろう。

当然、喜ばしいことではない。

「それを防ぐためにも、ラムン・フェス元首に起きてほしい……チゴーイ殿らはそう考えての行動だろう」

「はい」

そうして二人は、ヴォン教会に到着し、明日の予定を話し合うのだった。