軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0827 剣に生きる

魔人大戦からこちら、アベルはけっこう船での移動が多くなった気がしていた。

アベルは、船での移動は気にいっている。

それは、甲板上では自由な時間が多いからだ。

だいたいは剣を振るったり、本を読んだり、コーヒーを飲んだりしているのだが。

今、アベルは日課ともいえる素振りをしている。

ある 双眸(そうぼう) を向けられながら。

「なあ、リョウ」

「何ですかアベル」

アベルが剣を振りながら、氷の板に表示された魔法式を前にあーでもない、こーでもないと言っている涼に声をかける。

「さっきから、四号君が俺をじっと見ている気がするんだが」

「え? ああ、見ていますね」

「何でだ?」

「う~ん……多分、王国騎士団の人たちがアベルを見ているからじゃないですか?」

「うん?」

「その様子を見て、四号君も真似してみようと思ったのか。あるいは、もうアベルには勝てるようになったと判断して、挑戦的な視線を向けているのかもしれません」

「うん、後半はリョウの勝手な解釈だと思うんだ。四号君は、そんな反抗的なゴーレムじゃないだろ」

アベルは四号君をチラリと見て 擁護(ようご) する。

「まあ、アベルを見てなんか学ぼうとしているのは確かです」

「そうか」

涼の言葉にアベルは一つ頷き、そのまま剣を振り続ける。

しばらくすると、四号君はアベルの元を離れ、隅の方で剣を振り始めた。

ゆっくりと。

足の動き、重心の移動、剣と腕の動き……一つ一つを確認しているかのように、ゆっくりと。

剣を振り終わったアベルは、遠目にそれを見て呟く。

「どことなく俺の剣に……というか、ヒューム流な感じがするな」

「王国騎士団に交じってやっているうちに、学んだのでしょうね。騎士の人たちって、やっぱりヒューム流を学んだ人が多いでしょう?」

「多いな。俺もだが、王族や貴族は小さい頃から剣を学ぶんだが、その基礎はほとんどがヒューム流だと思う。無駄が省かれて、洗練された剣になっているからな。学ぶ側も理解しやすいが、教える側もやりやすいらしい」

「四号君を王国騎士団に武者修行に出してよかったのかもしれません」

涼は、黙々と剣を振る四号君を見て呟く。

そしてしばらく一人で剣を振っていた四号君が王国騎士団に近付いていくと、それに気付いた騎士団員が四号君を混ぜて剣談義に興じ始めた。

「あいつら、剣談義を始めたが……四号君は喋れないだろう?」

「ええ。でも人が話している内容は理解できます」

アベルの問いに涼が答える。

「彼らは、剣に生き、剣に死す者たち同士、通じるところがあるのでしょう」

「そうか……四号君と騎士団、すげーな」

絶対自分には無理だと思っているので、アベルは小さく首を振って彼らを称賛した。

そうこうしているうちに、剣談義の輪にザックとスコッティーという、二人の中隊長も混じったようだ。

「あの二人も加わったぞ」

「王国騎士団中隊長なのですから、当然でしょう?」

むしろ驚くアベルに対して首を傾げて不思議がる涼。

「中隊長ともなれば、自分の剣だけでなく部下たちからの相談にも乗ったりする機会が多いでしょう? その時に適切に答えてあげるために、その部下が普段から剣に対してどう向き合い、どう考えているのかを把握しておかなければいけません。もしかしたら、他の団員がどう剣と向き合っているのかを知っていることまで、職務の範囲内なのかもしれませんよ」

「そ、そうか。なんかすげーな、中隊長」

涼の理路整然とした答えに、逆に納得させられるアベル。

そう、たまに涼にもあるのだ。

こういう、まともな答えを吐くことが。

さらにしばらくすると、ニルスとアモンも剣談義に加わった。

「もはや王国騎士団だけじゃなく、ニルスとアモンまで……」

「剣に生きる者同士、立場など 些事(さじ) ということでしょう」

アベルが驚き、涼がさもありなんと頷く。

「そうなのか?」

「自分たちが属する組織だけの狭い 見識(けんしき) に 凝(こ) り固まっていると、いつ足をすくわれるか分かりません。剣に生きる者にとって足をすくわれるということは、負け、場合によっては死に繋がります。積極的に組織外の、ですが目指す方向が同じ者たちと積極的に交流を図っていくのは、素晴らしいことだと僕は思います」

「そ、そうか」

やっぱりまともなことを言う涼、驚くアベル。

「彼らは、剣を通して固く結ばれた同志と言っていいのかもしれません」

「おう……」

「剣に向かう彼らを妨げることができる者など、どこにもいないのです」

涼が、頷きながらそう断言した直後だった。

「さあ、今夜はカラアゲですよ! とり肉は体にもいいから、いっぱい食べてくださいね!」

コバッチ料理長の声が甲板上に響き渡る。

次の瞬間、剣談義に花を咲かせていた剣に生きるものたちが立ち上がり、我先にと皿を手に取り山盛り唐揚げへと群がっていった。

「美味い料理だけは別らしいな」

「剣士たちの剣の心すら押し倒す唐揚げ……おそるべし」

アベルが苦笑し、涼も小さく首を振るのだった。

「暗黒大陸最初の寄港地は、ヴォンの街です」

パウリーナ船長がアベルに報告する。

「ヴォンの街……以前、寄港したことがあるよな」

「はい。教皇聖下たちが宿泊した宿が、ヴィーラ教徒に襲撃されました」

「ああ、そうだった。その街だな」

アベルが思い出し頷いた。

パウリーナが去った後、涼がアベルに話しかける。

「また襲撃される可能性があります」

「ヴォンの街でか?」

「はい」

「その理由は?」

「それこそが、王道展開だからです」

「でたな、展開」

自信満々に言い放つ涼、身構えるアベル。

「むしろ、どうしてそんな展開にならないと考えているのか。僕にはそっちの方が理解できません」

「うん、普通、そんなことはめったに起きないからだ。起きないことを知っているから、そんな展開にはならないと言うんだ」

「そんな 薄弱(はくじゃく) な根拠では、僕を突き崩すことはできませんよ!」

「そうだな。リョウの思い込みの激しさは、ある意味凄いからな」

「失敬な! 豊かな想像力と言っていただきたい!」

「あんまり変わらんだろうが」

涼が 憤慨(ふんがい) し、アベルは首を振った。