軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0082 祭りのあと

翌日。開港祭が終了した次の日。

昨晩、神殿が運営する治癒院に入院したエトは、一晩でほとんど回復していた。

これはアベルの奔走……というよりは、『赤き剣』の神官リーヒャが、ウィットナッシュの神殿に手を回してくれたおかげであった。

ちなみに治療そのものは、最も腕のいいリーヒャが行ったのであるが、その間中ずっと気を失っていたエトは、そのことを知らなかった。

目が覚めてそのことを聞くと、感動に身を震わせていたらしい。

「リーヒャは、アベルが好きなのだが……」

報われないエトの気持ちを思いながら涼は呟いた。

「憧れと好きは、別の感情なのです」

最年少十六歳のアモンが、小さい声で囁く。

驚く涼。

わずか十六年の生涯のうちに、いったい何を経験してきたというのか……。

とにかく、エトは回復した。

元々、外傷は全くなく、血を吐いたのも<サンクチュアリ>の反動によるものであるため、神殿にはそこからの回復のノウハウが蓄積されていたことも大きかったのであろう。

(この世界の魔法とはいったい何なのか……いや、この世界というか、王国の? あるいは中央諸国の魔法というべきなのか? 僕が使う魔法とは違う……悪魔レオノールやエルフのセーラさんが使うものとも……そして昨日の『爆炎』のも違う……。いつか時間をとって調べてみたいな……)

祭りの後という、万国どころか全宇宙共通で、少し寂しい雰囲気に包まれるウィットナッシュの大通りには、それでもいくつかの露店が出ていた。

祭りのために流れて来て、祭りの間だけ露店を出すつもりだった店主たちが、居心地がいいからそのままウィットナッシュに住みつくこともままあるという話であった。

涼たちが気に入ったいくつかの露店も店を開いており、まだしばらくはウィットナッシュにとどまるようである。

ただ、残念ながら、くれぇぷ屋はすでに去ったらしい……。

そんな露店で、最後の買い食いとばかりに食べまくっている四人……いや、エトはさすがに回復したばかりということで、食べる量をセーブするように言われていたので三人+1……に、後ろから声をかける者がいた。

「俺も……露店の食い物の方がいい……」

アベルであった。

「アベル、問題は万事片付きましたか?」

「リョウに言われたくない!」

昨晩、王国と帝国の関係が、戦争一歩手前に陥ったのは、間違いなく目の前にいる水属性魔法使いが原因の一つである。

もちろん、仲間をやられて義憤に駆られて、という事情は理解できるが。

アベルが言うには、帝国皇帝魔法師団副長オスカーと、『十号室』の四人との戦闘は、双方不問ということになった。

目を覚ましたフィオナ皇女と、回復したコンラート皇子の元に、アベルが直接出向き、ニルスたちから聞いた話を説明したのである。

同じ場所で聞いていた副長オスカー自身の謝罪もあり、この件は無事解決した。

だが、園遊会への襲撃についてはそういうわけにはいかなかった。

「園遊会の方は、出席した来賓の結構な人数が被害に遭ったからな……国レベルの外交問題として、この後いろいろありそうだ。まあ間違いなくここウィットナッシュの領主家は大変なことになるだろうな……」

「風の結界の秘宝、とかで守られてたはずなんですよね?」

以前、リンとリーヒャが話していた内容を、エトは覚えていた様である。

憧れの人が口にした言葉は全て覚えている……可能性も否定できない。

「ああ。襲撃の直前に切れるように、細工をされていたそうだ。明確な失態だな」

アベルは、首を横に振った。

そこで何かを思い出したように、ハッとして顔を上げた。

「そうそう、ニルス、エト、アモン、お前たち三人に、フィオナ皇女から感謝の言葉があったぞ。地面に叩きつけられないように救い、さらに賊から身を挺して守ってくれたということで、金一封も出るそうだ。ギルドを通じて渡すと言う事だったから、ルンの街に戻る頃にはギルドの口座に振り込まれているだろうよ」

「よっしゃ~!」

「それはありがたい」

「もらっちゃっていいんですかね」

ニルス、エト、アモンは喜んだ。

もちろん、褒賞目当てに助けたわけではないが、自分たちの行動が認められて、それを形として称賛されるのであれば、嬉しいのは当然である。

「ちなみに、リョウには無い」

「ま、まあ……僕が着いたときにはすでに賊は倒されてましたしね。何か、変な火属性の魔法使いがいただけで」

「爆炎の魔法使いを、変な火属性の魔法使い呼ばわりできるお前がすげぇよ」

アベルは大きなため息をついた。

「そういえば、アベルも園遊会に出てたのでしょう? 怪我とかしなかったの?」

途端に挙動がおかしくなるアベル。

「も、もちろんさ。そそそその程度、俺にかかれば問題ないさ」

「見るからに変な……」

「ですね……」

アベルのいかにも怪しい様子に、エトとアモンも疑いの目で見ている。

ちなみにニルスはと言うと

「さすがアベルさん! やっぱすげぇよ」

全く疑っていなかった。

「アベル……ほら吐いちゃった方が楽になりますよ。全部吐いちゃいなさい」

どこかの警察の取り調べか、飲み過ぎた同僚にかける言葉か、涼はアベルに優しく声をかける。

もちろん、逃がしてやるつもりなどサラサラない。

「いや……最初は参加してたんだが……途中で、この街のギルドマスターに捕まってな。離れの部屋で個別会談する羽目に……。遮音の魔道具を使ってたから、あんな状態になってるのに気づくのが遅くなった……」

「でも会談って、ヒューさんが全部こなした後に帰ったんでしょ?」

「そうなんだが……要はルンの街がやってる冒険者の初心者講習会、あれをこのウィットナッシュでもやるんだ。で、その資料や講師の派遣は話し合って帰ったらしいんだが……その後、ウィットナッシュの講師候補たちを、ルンの街で実際にやっている初心者講習会に参加させてくれないか、というのが昨日の話でな。まあ、その希望を延々と語られた……」

偉い地位に就くと、いろいろ大変らしい。

代理ですらこれなのだから、正職ヒュー・マクグラスの苦労はいかばかりか……。

十号室の四人は、ウィットナッシュのギルドマスターとの話し合いの内容を書き留めた手紙を、ルンの街のヒューに手渡す依頼をアベルから受けた。

「本当は俺が自分で手渡したいんだが、もう少し仕事があるからな……」

涼の目から見て、嘘っぽいアベルであった。

ヒューから、いろいろ突っ込まれるのがめんどくさいだけに違いない。

どうせルンの街に戻ったら、いろいろ質問されるのだから、数日猶予が出来るだけなのに……人はなぜ、問題の先送りをしてしまうのか……。

涼は、先史からの人の業について考えるのであった。

翌日早朝。

十日ぶりに、護衛依頼を受けた商団と合流した。

連携して護衛をこなす、デロング率いる『コーヒーメーカー』の面々とも。

「よぉ。ニルス、お前さん、相当顔を売ったな」

開口一番、デロングが言ったのは例のボート競技の件であった。

コーヒーメーカーも、あの『対決』は見ていたらしく、その後もこの街の冒険者たちと興奮して語り合ったらしい。

「冒険者として名前が売れるのは悪い事じゃねえ」

デロングは大きく頷きながらニルスの肩を叩いた。

「よし、隊列は来た時と同じな。二日間、気を引き締めていくぞ」

「おぉ!」

そして二日後、来た時同様、一行は特に問題に遭遇することも無く、ルンの街に到着した。