作品タイトル不明
0787 巣
一行は草すら生えていない荒れ地に差し掛かった。
だだっ広い荒れ地に、十数個の岩がある。
人の胸のあたりの高さの……。
「なんとなく 既視感(きしかん) が」
「リョウさん?」
「あ、いえ、あの岩が……」
その時だった。
ガツンッ。
先頭を歩くモーラから聞こえた。
「石が飛んできました!」
「しまった! <アイスウォール>」
涼が氷の壁で一行を囲んだ次の瞬間、あらゆる方向から 石礫(いしつぶて) が一行に飛んできた。
もちろん<アイスウォール>が全てを弾く。
「野生のゴーレムの巣に入ってしまったようです」
涼が顔をしかめる。
「ゴーレム?」
「え? ゴーレムって大きな人間の形のじゃ?」
「その反応も 懐(なつ) かしいです」
そう、かつての涼と同じ反応だ。
第三守備隊はゴーレムを知らないのだ。
野生のゴーレムも知らないのだ。
包囲される前に涼が気付くべきだった。
「失態です」
涼の呟きはアンジュリには聞こえたが、彼女にはその理由が分からなかったので、チラリと見ただけだ。
「できれば殴ってみたいです」
「え?」
「経験として……」
少し 俯(うつむ) き加減だが、モーラ隊長が自分から申し出る。
彼女たちは撲殺士。
殴って、蹴って、相手にダメージを与える職。
動く岩を殴ってみたいという気持ちは、分からないではない。
「氷の壁で防ぐので、一体殴ってみます?」
涼が提案する。
やってみたいとモーラが自分から言ってきたのだ。
可能なら試させてあげたい……そう思うのは、コーチ役なら当然だろう。
「いいんですか?」
「ええ。氷の壁の小さいのでモーラ隊長を囲むので、手近なやつにその状態で近付いていって、やっちゃってください! 大丈夫、あんな石程度なら僕の氷は割れませんから」
涼が右拳で胸をドンと叩く。
ドンと任せてというジェスチャーだが、多分それは伝わっていない。
まあ、大丈夫であることが伝わればいいのだ。
ちゃんと氷の壁で守れると。
「ただ、対峙するゴーレムからの攻撃はあるので……」
「はい、それはしっかり防御します」
モーラ隊長は頷く。
そして、周囲を見回した。
一体のゴーレムを指さす。
「あれを攻撃します」
「了解。<アイスウォール>」
涼が唱えると、ほんのり水色のアイスウォールがモーラを囲む。
それを確認して、モーラは対象のゴーレムに向かった。
その間も、石礫がモーラを襲うが、全て氷の壁で弾かれる。
それを確認して、モーラは<アイスウォール>への信頼を深めたようだ。
モーラが、目標のゴーレムの前に立つ。
そこに涼の声が聞こえる。
「では、カウントダウン始めます! 三、二、一、ゼロ!」
モーラの前方、目標のゴーレムとの間を仕切っていた<アイスウォール>が消える。
殴る、殴る、殴る、蹴る……。
モーラのラッシュ。
「すごい連撃」
涼は素直に驚く。
今までも、モーラを含めた五人の戦闘は見てきたが、その時とは一味も二味も違うモーラの攻撃だ。
連撃の途中、殴られているゴーレムから石が放たれた。
しかし、左の手甲で叩き落とすモーラ。
「おぉ!」
思わず声をあげる涼。
超近接戦での攻撃への反応の速さは、かなりのもの。
「モーラは、撲殺士としての実力はかなり高いのです」
アンジュリが言う。
「ただ、生来優しいし、周囲の者への 気遣(きづか) いが深いので決断に時間がかかる場合があります」
「なるほど。いろいろ考えるからですね」
涼は頷く。
だが涼は知っている。
それは決して、欠点ではないと。
即断即決が求められる場では厳しい評価を受けることもあるが、実は人生において、そんな場面は結構多くないのだ。
だいたいにおいて、少し考えることができる。
そういう場面なら、モーラの気質は逆に良いものとなるだろう。
「戦術家より戦略家向きですね」
涼は頷いて呟いた。
二分ほど経っただろうか。
モーラが大きく後方に跳んだ。
それに合わせて、涼が<アイスウォール>で、ゴーレムとモーラを切り離す。
戻ってきたモーラ。
「ダメ、全然割れない」
「あれだけの連撃でひびも入らないって……」
「やっぱり普通の岩じゃないね」
モーラが首を振りながら言い、ミニとパラスも顔をしかめる。
撲殺士三人は、野生のゴーレムの固さを知ったらしい。
だが、すぐに切り替える。
「リョウさん、あのゴーレム、殴って割ることはできませんでした。どうすれば倒せるか助言いただけませんか?」
モーラが問う。
実際、ここでこのまま釘付けになるのは良い状況とは思えない。
いずれはゴーレムも力尽きて攻撃を止める……いや、岩が力尽きるだろうか?
「割るのではなくて、頭を蹴ってゴロンと地面に転がすといいかもしれません。以前、アベルがそうやって倒していました」
「アベル陛下が?」
「頭を蹴る……」
「ダメージを入れるんじゃなくて転がす……」
涼が昔話を語り、モーラが驚き、ミニとパラスがイメージする。
もちろん、外見はただの岩であるため『頭』は無いのだが、イメージは湧いたらしい。
「もう一度、いかせてください!」
モーラがそう言い、先ほどと同じように出撃した。
<アイスウォール>が無くなったら、いきなり右足で少し膝を曲げてのキック。
ダメージを与えるものというより、足で押す感じだろうか。
プロレスで言うところの、ケンカキック……。
食らったゴーレムは、狙い通りごろんと横たわる。
それに対してモーラはどうすればいいか迷い、結局そのまま一行の元に戻ってきた。
「リョウさんの言う通り倒しましたけど……」
「倒れたやつ、攻撃しなくなったでしょう?」
「ああ、言われてみれば確かに」
モーラの報告、涼の指摘、アンジュリが頷く。
そう、倒されたゴーレムは石礫を放たなくなり、全く動かなくなった。
「とりあえず、他のも同じように倒しましょう」
二十分後。
合計十八体のゴーレム……見た目は岩が、ゴロンと寝転んだ。
攻撃は終了した。
涼は<アイスウォール>を解いて、一番手近なゴーレムを調べる。
最初、地面に接していた箇所には、黄色いものが……。
「やっぱり魔石がある」
「え?」
涼の呟きが聞こえたのだろう。
モーラが覗き込む。
「ホントだ、黄色? 土の魔石ですか?」
「そう。ちょっと削り出してみましょう」
「削り出す?」
「<アブレシブジェット>」
ウォータージェットに超硬質の氷の粒を混ぜたアブレシブジェットは、岩のような固いものも切断できる。
ものの一分で拳大の黄色い魔石が切り出された。
「大きい……」
「濃さも結構深いですね」
モーラも涼も大満足。
さらに二十分ほどで、全ての魔石が切り出された。
「全部で十八個です」
「一個一個はそれほどでもないですが、十八個ともなるとけっこう重い?」
「みんなは戦うから、私が持ちます」
アンジュリが報告し、モーラが運ぶ大変さを考え、治癒師オミンが運び役を申し出る。
だが、ここには水属性の魔法使いがいる。
「運ぶのなら任せてください。<台車>」
涼が唱えると、いつもの台車が生成された。
「これは、氷の荷車?」
「リョウさんの魔法ですか?」
「ええ。僕の<台車>という魔法です。僕の後ろからただついてくるという、すごく単純な魔法なのですけど、荷物を運ぶのにはけっこう便利なんですよ」
涼は得意げだ。
回収した黄色い魔石十八個を<台車>に乗せた後。
涼の視界に、元々ゴーレムを構成していた岩が目に入った。
「そういえば、魔石以外の部分はどうなっているんでしょう」
そう呟いて、岩の破片を掴む。
どこからどう見ても岩なのだが……。
「なんか気になるんですよね。<台車>」
そう言って、もう一つの台車を生成して、そちらに一体分の岩のくずを載せた。
「研究材料ゲットです」
こうして、特に涼が満足する戦果を挙げて、一行は野生ゴーレムの巣を突破したのであった。