軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0744 情報不足

バーダエール首長国首都ホソイナの首長府。

軍が敗北し、首長が捕虜となった。

これは、国の 存亡(そんぼう) に関わること。

善後策(ぜんごさく) に関して、連日会議が開かれていた。

軍を出すことは決まっている。

その編成作業も進んでいる。

問題は規模、率いる者、そして敵国の情報の収集……。

「ジュルバン国で、王族が追放されている? なぜそんな情報が今頃入ってくる?」

「特に布告などもなく、民の多くはそのことを知らないそうです」

「上だけすげ替わっても……民には関係のない話ということか」

報告に、寂しい表情になるゾルン皇太子。

自分たちは必死に国を回している。

民を幸せに、豊かにするために昼夜問わず国政に 邁進(まいしん) していても……日々の生活に忙しい民の心には響いていない。

やむを得ないことだと知ってはいても、やはり寂しいのは事実だ。

「それで、新たな王の名は?」

「よく分かっておりません」

「そんな情報すら得ていないで、我が国は戦場に軍を派遣したのか……しかも父上を担ぎ出して」

将軍らの情報収集の甘さに、 苦虫(にがむし) を 嚙(か) み潰したような表情になるゾルン。

だが小さく首を振る。

将軍らのせいにするのは間違いだと。

そもそも今回の戦争は、何もかもが変だ。

突然の小国による戦争……北部沿岸の二大国に対して、同時に。

しかもその前に、王族が入れ替わっていた?

極めつけは、敵の戦力は数百人だという。

その数百人に、西部諸国連邦と合わせて四万の兵が負けたというのだ。

「何が起きている?」

ゾルンの呟きに答えられる者はいない。

敵のことが分からない以上、動けないし動くべきではない。

情報の収集を徹底しなければならない。

しかし……状況は待ってくれなかった。

新たな報告が届く。

「ジュルバン国軍が北上を始めました」

「なんだと! 父上は?」

「北上する軍の中に、首長様の姿も確認された模様」

「こちらに準備をさせないつもりか」

ゾルンが苦々しげに呟く。

情報を集める時間などないということだ。

「ホソイナに到達させるわけにはいかん」

ゾルンにもそれくらいは分かる。

城壁の外に敵軍が並び、捕らわれの首長が前面に押し出される。

その姿を民が見たらどう思うか。

国への信頼などたちまち崩壊する。

敵に捕らわれた国のトップを取り返す力すら無いのだと。

城壁に 拠(よ) って敵軍を退けたとしても、一度落ちた民の信頼は、そう簡単には回復しない。

そこに付け込む者たちは必ず出てくる。

今回のジュルバン国はもちろん、西部諸国の動向だって分からない。

あるいは東部諸国の中もどう動くか……。

バーダエール首長国はあくまで、東部諸国を構成する国の一つ……現在中心となってはいるが、それは 未来永劫(みらいえいごう) 、東部諸国の中心に居続けるのを保証するものではない。

「絶対に、敵軍をホソイナに到達させるな!」

一方、 迎賓館(げいひんかん) に 逗留(とうりゅう) を続けるナイトレイ王国一行。

「この前の戦い、負けちゃったんですね。新たに軍が出陣したそうです」

「らしいな。ジュルバン国の軍が北上してきているらしい」

「この首都を戦場にしないために打って出た、ってことですかね」

「そうなんだろうな。 籠城(ろうじょう) する場合、城壁というのは、守るのには確かに便利なものだが……街にいる民を最前線に立たせてしまうことになるからな」

「本当に、戦争というのは嫌ですね」

「まったくだな」

涼がため息をつき、アベルも同意する。

二人は筆頭公爵と国王という、国のトップ2である。

だが……いや、だからこそ、戦争は好きではない。

戦争なんかするよりも、ソファーにぬべ~っと寝転びながら本を読んで、時々ケーキとコーヒーを 食(しょく) す……その方が、何万倍も好きである。

「聞くところによると、首長のバットゥーゾン殿が敵の捕虜になっているらしい」

「え、そうなんですか? そんな話、街の人たちは多分知りませんよ?」

「当然知らんだろう。首長府の中だけの極秘情報だ」

「またいつもの、情報統制ですか。どこの国も政府というのは変わりませんね」

涼がため息をつく。

「仕方ないだろう。このバーダエール首長国の中心は、バットゥーゾン首長だと思うぞ。その人物が敵軍の捕虜になったと知らされれば、民の動揺は酷いはずだ」

「そうですか?」

「俺たちが到着した日、海上も混乱していただろう? 首長が出征しただけであれなら……」

「ああ……なるほど。そうかもしれませんね」

国には中心となる人物がいた方がよい。

明確に、そんな人物がいた方が国は安定する。

いや正確には、民の心が安定する。

政府や、あるいは国旗や国歌などというものでは、その代わりにはならない。

歴史を学べば、いくらでも明らかになる。

人は、人の元に集う時に、最も力を発揮できるのだろう。

とても単純で、分かりやすい理屈。

それを理解していない者たちが組織の中枢に就くと、その組織は崩壊する。

国家だろうが企業だろうが関係なく。

人には感情がある、という当たり前のことを本質的に捉えていないからだ。

理性、理屈だけで人を動かそうとすれば、うまくいくわけがない……。

「捕虜になった首長さん……何で捕虜になったんでしょう?」

「国家元首は捕虜にした方が、後の交渉を考えた時に色々使いやすいだろう?」

「ああ……殺してしまったら 殉教者(じゅんきょうしゃ) になりますね。殺された首長のために、国民は一致団結して敵を倒すぞ! みたいな」

「そうだな。後を継ぐ人物が決まっていないとか、明らかに力の劣る人物であるとか……そういうのがあれば、殺害して国の統治能力の低下を狙うだろうがな」

「ケースバイケースですか」

アベルの説明に頷く涼。

人一人を処刑するか捕虜にするか……それを決めるのにも、多くのことを考慮しなければならない。

それが政治であり、戦争であり、外交なのだろう。

「そう考えると、僕らは幸せです」

「間違いないな」

涼とアベルの前には、暗黒コーヒーが置かれてある。

迎賓館に滞在している間、バーダエール首長国が全て手配してくれているのだ。

もちろんそんな中でも、涼は時々街に出ていき買い食い……もとい、情報収集を怠らないようにしている。

だから、民は首長が捕虜になっていることを知らないという情報を持っていたのだ。

「そういえば、お隣の西部諸国連邦とかも、偉い人が総司令官として出征してたんでしょう?」

「諸国連邦元首な。負けた後は行方不明らしい」

「ジュルバン国と秘かに通じていたのかと思ったのですが」

「どうも、そうじゃないようだな。西部諸国連邦の方も、二万の軍勢が壊滅したようだしな」

「合計四万の軍勢を壊滅させるなんて……ジュルバン国って小さい国なんでしょう? どうやって大軍を集めたんでしょうか」

涼が首を傾げる。

「これは未確認情報らしいが、大軍ではなかったらしい」

「未確認情報?」

「スコッティーが、知り合いになった首長府の女官から聞いてきたそうだ」

「ああ……スコッティーさん、イケメンですからね。凄いですね」

アベルが肩をすくめながら説明し、涼は感心して頷く。

涼では、うまくやれなさそうな情報収集方法だ。

「千人以下だったという噂だぞ」

「は? 千人以下で四万を壊滅? しかも首長を捕虜にし、諸国連邦元首を行方不明にした?」

「ああ。とんでもないな。何か罠にかけたのだろうが……」

「全滅したわけではないんですよね? 生き残って、この首都にまで戻ってきた兵士さんとかいるんでしょう? そこからの情報とかは……」

「さすがに、そこまでの軍機にあたるような情報は得られなかったようだ」

アベルは小さくため息をついて、コーヒーを一口飲む。

つられて涼もコーヒーを一口飲む。

「まあ、どうやったにしろ、とても厄介な相手というのは確かですね」

「そうだな。次の戦い……さっき首都を出ていった軍が戦うそれが、大きなポイントになるだろう」

「勝てれば良し。でも、もしも負けてしまうと……」

「残った軍で、この首都を守ることになるだろう。二度負ければ……そこから、さらに打って出るのは無理だ」

「首都決戦……」

アベルも涼も、バーダエール首長国に勝ってほしいと思っている。

もちろんジュルバン国のことはほとんど知らない。

だが、聞く限りの情報から判断するに、バーダエール首長国の方に正義がある気がする……多分、なんとなく。

少なくとも、二人を含めた王国一行を丁重にもてなしてくれているのは確かなわけで……。

「もし……もしもですけど、僕らがいるこの首都をジュルバン国軍が囲んだ場合、どうします?」

「さてな……。バーダエール首長国側が望めば、手を貸すことになるかもしれん」

「それって、条約とかの締結をしていない状態で、ですよね? 内政干渉になるのでは?」

「正直、微妙なところだ。国王である俺が巻き込まれたから力を貸す……そう強弁できないことはない。まあ、相手国が助けてくださいと言っているのだから、内政干渉ではないんだろうが……正直分からん。そんなケースはあまりないからな」

アベルは肩をすくめる。

そう、外交上は、ギリギリそれが通る……かもしれない。

もちろん最も簡単で確実な問題回避方法は、戦場になる前にナイトレイ王国一行が出国することだ。

とはいえ……。

「今回、俺が来たのは、最終的に暗黒大陸との交易の可能性を探るためだ。北岸二大国の内の一つ、東部諸国の中心、バーダエール首長国と深い関係が築けそうな状況であることを考えると、外交的には撤退せずに残った方がいいとは思う。だが……」

「だが?」

「嫌な予感がするんだよな」

アベルは顔をしかめて言う。

それを見て、涼も顔をしかめる。

涼は知っている……アベルの 勘(かん) の良さを。

決して馬鹿にしていいものではない。

「北上してくるオアシス国家が、とても強い戦力を抱えているのは確かです。東部と西部を合わせた四万の正規軍を倒しているのですから」

「そうなんだよな。本当に、何が北上してきてるんだか」