軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0724 料理外交

一泊して、ピシュカン国を出港したスキーズブラズニル。

その甲板上では、水属性の魔法使いが称賛していた。

「さすがはアベルです、『奇手カラアゲ浴びせ』は僕も驚きました!」

「キシュ? からあげあびせ?」

涼は称賛しているのだが、称賛されたアベルは何のことだか分かっていない。

「昨日の、怪人さんにカラアゲを大量に食べさせた手です。まさかあんな手で圧倒するとは、僕の想像外でした」

「お、おう……」

「確かに怪人さんは 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう) 、お肉をいっぱい食べそうですもんね。実際、とても美味しそうに食べていました。もちろんそれらは、コバッチ料理長の素晴らしい料理の腕あればこそなのでしょうが」

何度も頷きながら称賛する涼。

心の底から感心したらしい。

「さっきから言ってる『怪人さん』というのは、モッツアレ殿の事だよな?」

「ええ、そうです。聞けば『怪人』という二つ名を持っているとか。ですので、そっちで呼ぶことにしました」

「そうか」

アベルはモッツアレが『怪人』という二つ名を持っていることを知らなかった。

なぜ、いつ、涼がそれを知ったのか興味はあるのだが……。

「アベルは、ああいう手があることを知っていたのですか? 昔習ったとか?」

「ああいう手?」

「料理外交です!」

「料理、外交?」

涼が答え、アベルが首を傾げる。

アベルは、料理を外交に使ったとは思っていない。

それなら、この反応は当然だろう。

「料理を外交に使うのか?」

「ええ。その反応は、知らないのに、あの奇手を編み出したということですよね。なんという天才性……」

驚く涼。

アベルはやはり首を傾げている。

だが、涼の言葉には興味がある。

「料理を外交に使うという、そういう手法があるのか?」

「僕の故郷の大使館で展開されていた外交です」

「大使館で? それは、俺が知っている……各国の首都に設置している、あの大使館か?」

アベルはさらに首を傾げる。

「それです。王都にも、いろんな国の大使館があるじゃないですか? あるいはナイトレイ王国も、外国の首都に大使館を置いてるじゃないですか?」

「ああ、ある」

「だいたいの大使館には、料理長さんがいるでしょう? それも、どこの大使館も、ものすごく腕のいい料理人なはずです」

「言われてみれば確かに……」

アベルが記憶を思い出しながら頷く。

第二王子時代、使者として中央諸国のいくつかの国を訪れたことがあった。

その際の宿泊は、王国の現地大使館。

言われてみれば、どの大使館でも料理は美味かった気がする。

「彼らは、他国の大使や現地の大臣などに料理を出します。当然腕のいい人が 派遣(はけん) されます」

「派遣される? 現地で雇うわけではなく?」

「僕の故郷では、派遣国の料理人でした。それこそが、料理外交のキモなのです!」

アベルは、正直、現地大使館でどんな人物が料理を作っていたのかは認識していなかった。

現在も……もちろん、帝国や連合にある王国大使館の料理人を含めた使用人については、細かな記録があることは知っている。

料理人は、王国の人間だったはずだとも。

しかし、他の国にある王国大使館は……はたしてどうだったか。

「現地において、我が国の料理を出して食べてもらう……場合によっては、現地の料理風にアレンジしたりして、友好を演出したりもします」

「なるほど、料理外交……」

アベルにも、涼が言わんとすることが見えてきた。

テーブルの上で展開される、自国の主張、友好の演出。

そこに出される料理が、すでに外交の一環。

当然、大使の 思惑(おもわく) を反映したメニューであるはずだから。

「あの『怪人』にカラアゲを食べさせたのも、外交の一環になったということか。確かに、外交の場だとは思ったが……料理は正直、意識していなかったな」

「そこがアベルの恐ろしいところです」

涼は頷く。

そう、涼は知っている。

アベルが天然であることを。

同時に、ある種の天才でもあることを。

感覚として、理解しているのだ。

今、その場でやるべきことを。

最も効果的であることを。

それを 躊躇(ちゅうちょ) なく行動したり、命じたりできる……。

「いつも思うのですが、アベルは 卑怯(ひきょう) です」

「なぜ俺は、突然、理不尽な非難をされているんだ?」

「みんな勉強したり経験したり、一生懸命考えて正しい答えを導き出すのに……アベルはなんとなく適当にやって答えを導き出しています!」

「そうか、俺は卑怯ではなく可哀そうなわけだな」

涼の 糾弾(きゅうだん) を、肩をすくめてかわすアベル。

「いずれ誰かが、アベルの天才性に 嫉妬(しっと) して、酷い謀略を仕掛けてくる可能性があります」

「謀略?」

「ええ。人の感情の中でも、嫉妬というものは、最も厄介で最も 醜(みにく) いものです」

「ふむ」

「嫉妬に比べれば、怒りの方がはるかにましです」

「そうか?」

「怒りは、悔しさに転化され、場合によっては自分の成長を 促(うなが) すことがあります。なにくそ! やってやるぞ! というやつです。ですが、嫉妬はそんなことはありません。人を 貶(おとし) めることしかしません。嫉妬に囚われた人間は、傍から見ていても醜いですが、周りの人にとっては有害以外の何者でもありません。気を付けてください」

「お、おう、気を付ける」

筆頭公爵が国王陛下を称賛し、直言している間も、スキーズブラズニルは海の上を走っている。

予定通りならば、夕方にはバンバン王国に到着するらしい。

アベルは、いつものように甲板で、氷の椅子に座り氷のテーブルで書類を読んでいる。

称賛を終えた涼が、その書類を 覗(のぞ) き見た。

「バンバン王国の情報?」

「ああ。西方諸国から来る時に、このスキーズブラズニルが寄港した際に収集した情報だそうだ」

「なるほど。……人口、結構多くないですか?」

「三十万人程度と書いてあるな。今朝出てきたピシュカン国の人口が十万人ということだったから、約三倍か。差があるな」

涼の指摘にアベルは頷く。

人口が三倍というのは、かなりの開きだ。

ピシュカン国とバンバン王国は、どちらも島国で海洋国家。

かなり昔からしのぎを削って来たらしい。

だが他国から大きく離れた状態で、二国だけが存在し人口差がこれほどある場合……たいてい、人口の少ない国は人口の多い国の属国に近い状態に置かれる。

最悪の場合、併合される。

それが、歴史上よく見られる光景だ。

しかし、この二国はライバル……。

「ピシュカン国がすごく頑張ってきたんでしょう」

「あるいは、バンバン王国が国として力を発揮できない状態なのか」

涼とアベルがあり得る状況を述べ合う。

「力を発揮できないっていうのは、分裂しているとか、地域同士で争っているとかそういう意味ですか?」

「そうだ。ピシュカン国に比べて、人口が三倍だが、国土面積も三倍程度、ピシュカン国と同じほどの面積の島が三つあり、それを中心に国の政治が行われているらしい」

「……このスキーズブラズニルの人たちの調査能力って凄いですね。ちょっと寄港しただけで、そんな情報まで仕入れてきているなんて」

「そうだよな。母国で、その辺りも鍛えられてきたのかな?」

涼の指摘に、アベルも同意する。

スキーズブラズニルの乗組員は、西方諸国ゴスロン公国民だ。

船籍はナイトレイ王国であるが、係留地はゴスロン港、整備並びに船員もゴスロン公国民で登録してある。

ゴスロン公国は、隣国のマファルダ共和国と戦争したことがなく、歴代の教皇も多数 輩出(はいしゅつ) してきた。そのため法国、共和国どちらの陣営とも友好的な関係を維持している。

しかも、西方諸国一の海洋国家であるマファルダ共和国で操船を学んだ公国民は多いらしく、多くの優秀な乗組員を輩出している。

そんな理由から、スキーズブラズニルを造船したフランツォーニ海運商会も、ゴスロン公国民を紹介してくれたのだ。

しかし彼らが、優秀な情報収集能力まで持っていたとは……。

「アベルの情報が丸裸にされて、西方諸国に流される可能性があります!」

「俺の情報? なんだそれは?」

「アベルが戦闘狂で、 暴虐(ぼうぎゃく) 権謀術数(けんぼうじゅっすう) 王で、世界征服の野望を持っている恐ろしい人物だという情報です」

「うん、すごいな、何一つ合っていない情報だ」

「ならば、この情報を流しましょう。誤った情報を流すことによって、相手をかく乱するのです!」

「……王国民が恥ずかしく感じる可能性が高いから、却下する」

涼の提案を、ため息をつきながら却下するアベル。

そう、情報を持っていかれるのはいい気持ちはしないが、間違った情報で勝手に誤解されるのもいい気持ちはしない。

いや、そもそも……。

「この船の乗組員は、敵じゃない」

「もちろんです。 一蓮托生(いちれんたくしょう) 、 呉越同舟(ごえつどうしゅう) 、むしろ味方です」

「知らん言葉がいっぱいだが、まあ味方であり仲間だ。それも、とても優秀な」

「そう、船を動かす乗組員としては百パーセント信頼しています。ただ情報を抜かれるだけで……」

「抜かれても大丈夫だ」

「え? そうなんです?」

「ゴスロン公国を味方にすればいいだけだ」

「な、なるほど……」

確かに、『敵』に情報が渡るのが困るだけだ。

味方になら問題ない。

むしろ、こちらの陣営に引き留めておく、より強い力になることすらある。

「こんな強力な存在を敵に回したら大変になる。味方でいよう」と思わせる……そんな具合に。

小手先の解決ではなく、相手国を丸ごと抱き込む。

最も大きな意味での政略的解決。

「さすがはアベル……スケールの大きな解決法です」

「そうか?」

心から感心して頷く涼、ちょっと照れているアベル。

「敵より味方を増やす……大局的見地からも素晴らしいですよね」

「できるだけ敵は作りたくないよな」

涼とアベルがそんな会話を交わしている間に、スキーズブラズニルはバンバン王国を視認した。

午後三時。

イチバン島のイチバン港に寄港するのであった。